24 君が生きた証
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ギイッと扉が開いてハヤトが中に入ってきた。
イミテはチラリと彼の反応を盗み見る。
「ああ…確かに仮面の男だな。縄で縛っているだけだよね?」
「…はい。」
「じゃあまずは手錠をかけるところから始めようか。」
「…。」
人違いならともかく、まるでゴールドの存在自体を無視するような反応を不思議に思い、イミテはゴールドの方を振り返る。
すると、ゴールドはさっきまでいたはずの場所には立っていなかった。
「(ああ…)」
探してみれば天井にはってある骨組みの木に彼は座っていて、柱にもたれかかるようにして身体を預けていた。
ハヤトという名を聞いて、すぐにそこに登ったのだろう。
降りてこないことから推測して、ハヤトはゴールドの知っているハヤトで間違いない。
「(憎しみよりも、関わりたくないっていう気持ちが大きいのか…)」
「イミテちゃん。手錠をかけるために1回縄をときたいんだけど、手伝ってくれるかい?」
「はい。」
イミテが仮面の男の手を押さえ、ハヤトが縄をとき、手を前で合わせると手錠をかける。
ハヤトがテキパキと手際良くこなしたため、仮面の男、カリン、シャム、カーツの計三人分手錠をかけたのにそれほど時間はかからなかった。
「ハヤトさん、手錠かけるの慣れてますね。」
「そうかい?相手が気絶してて、やりやすいからそう見えるんじゃないかな。」
「…あれ?軍人だから慣れてるんじゃないんですか?」
「!」
予想外のイミテの言葉に、ハヤトはバッと彼女のほうを見てしまった。
「当たりですか。」
「…カツラさんに聞いていたのか?」
「いいえ。手つきを見てて思っただけです。私も元軍人ですから。」
これは微妙に嘘だ。
ゴールドの反応から、ハヤトが元軍人だとほぼ確信をもっていたから言っただけ。
「そういえば、そうだったな…君はニビに雇われていた緑の能力者か…。」
「なぜ軍服を着ていないんですか?」
「…簡単なことさ。今は軍人じゃないからだよ。」
「!…軍人を辞めた理由、聞いてもいいですか?」
「なぜだい?君には何の興味もわかない話だと思うが…」
ハヤトの言葉に、イミテはどこか儚く微笑む。
「…アナタが悲しそうに笑うから、なんだかとても気になってしまったんです。」
それを聞いて、ハヤトは一瞬驚いた顔をしてすぐに笑った。
「悲しそう、か…」
「ハヤトさんが嫌でなければ、聞かせてもらえませんか?」
「…君には協力してもらったし、軽くでいいなら聞いてもらおうかな。」
ハヤトは観念したように苦笑して言った。
「暗い話しになるけど大丈夫かい?」
「はい。」
ハヤトはふう、と一息おくと、
「……俺はある女の人とその子供である少年を見殺しにしたんだ。」
暗い口調で話し始めた。
ハヤトの話しはやはり、ゴールドが話した内容とほとんどが同じだった。
ただ彼の視点で話しているため、ところどころに後悔の念や、やりきれない思いが見え隠れしていたが。
「…そして、彼は自分の家に火を放ち、どこかに消えてしまったんだ。焼け跡から彼が誇らしげにもっていた父親の片見の剣も見つかった。」
「その子は…思い出を全て捨てていったんですね。」
「ああ…。俺は彼がいなくなってから、はげしく後悔した。そして初めて、自分は何て残虐なことをしたんだろうって思った。」
「……。」
「もっと他の手段があったはずなんだ。母親も男の子も助かる方法が。それなのに俺は、仕方がないことなんだと決めつけて、彼らのためになるようなことは何もできなかった…!」
ギリッと奥歯を噛み締める音がした。
「あの時の俺は、所詮自分が一番かわいかった…!上司に楯突いて、自分の地位が危うくなるほうが怖かった…!!」
思い出してやりきれなくなったのか、ハヤトはダンッと壁をたたいて怒りをぶつける。
「…彼の父親はもっと勇敢な人だった。地位なんて気にせず、間違ったことは間違ったとはっきり言える人だった。」
「……。」
「俺には到底無理だと思ったよ。彼の父親のように、上にたてる器なんてない。俺は…弱すぎる…。…だから、軍を辞めた。こんな奴に、軍人である資格はないと思ったから。」
そう言ったところでハヤトは、イミテが苦しそうな顔をしていることに気がつき、思わず笑った。
「ごめん。こんな話し聞かせちゃって。」
「いえ、聞きたいって言ったのは私ですから。」
「……まあ、軍を辞めた理由はこんなところかな。」
「その後はどうしてたんですか?」
「今もだけど普通に貨物関係の仕事をしているよ。軍で鍛えて、力には自信があったから。…それにいつも決まった場所にいるのは少し危ないから、こうして常に不定期に移動している仕事のほうがいいんだ。」
「決まった場所にいられないって…もしかして追われいるんですか?軍を辞めるのは罰せられるようなことじゃないですよね。」
「まあ、ね。…軍を辞める前に、せめて…少しでも罪滅ぼしになればいいと思って、追われるようなことをしてしまったんだよ。」
「……。」
イミテはジッと彼の次の言葉を待つ。
ハヤトは苦笑いを浮かべ、続けた。
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