22 痛みを知る者
夢小説お名前変換こちらから
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
少年は、幸せでした。
なぜならその日、ずっと憎んでいた魔王に勝ったのですから。
少年は数年前、その魔王に村を襲われて大切なものを全て失いました。
父も、
母も、
村人達も、
そして、大好きだった少女(ヒト)も。
少年はあの日から、魔王への復讐心だけを胸に刻んで生きてきました。
それが今日ついに報われたのです。
高い空の上で
父と母が笑っている気がしました。
村人達が喜んでいる気がしました。
少女が『ありがとう』と言ってくれた気がしました。
少年は、とても幸せでした。
しかし、ふと気がつくとそこは暗い森の中でした。
月もでていない、暗い夜でした。
そう…それは全て夢だったのです。
幸せだったときはしょせん幻想。
さっきまでの幸福感は一気に消え、虚しくなった少年は呟きました。
『叶わない夢なら、見たくなかった。』
夢を見たことを嘆きました。
魔王を憎みました。
憎んで、憎んで、憎みました。
その夢を見る度に魔王への憎しみは増していきます。
すると、どうでしょう。
前より強くなった気がしました。
憎しみが増すにつれて、
どんどん、どんどん
強くなります。
自信をつけた少年に、
ついに、魔王との決戦のときがおとずれました。
ずっと、憎んでいた相手が目の前にいるのです。
魔王を倒せばあの夢のように、幸せが訪れるのです。
少年はいきり立って、その剣を勢いよく振り上げました。
しかし、それより先に魔王の手が少年を弾き飛ばしました。
少年の身体は、空高く飛び上がりました。
地面に叩きつけられ、
少年はそのまま死んでしまいました。
目を覚ますとそこは、光が満ちた明るい場所でした。
あの魔王との対決は夢だったでしょうか?
いいえ、違います。
ここは高い空の上…
天国です。
あまりに綺麗なその場所に見とれていると、1人の可愛らしい少女が近づいてきました。
そう、少年が大好きだった少女です。
彼女は優しく微笑み、涙を流して言いました。
『ごめんね。アナタを止めてあげられなくて。』
少年に足りなかったものは
一体なんだったのでしょうか。
「子供に聞かせるにしては残酷な話だな。」
「そうかもね。私、小さい時はこの話聞いて何度も泣いたし。」
イミテは昔を思いだす。
そういえば一度だけ、この話をレッドも一緒に聞いていたことがある。
彼はいつものように泣いているイミテの頭を撫でて『作り話だって!』と笑っていた。
泣いてこそいなかったけど、その瞳は何かを深く考えているようだった。
「少し似てるよね、シルバーに。」
「は?」
「シルバーもそうだったんじゃないの?」
「なにが、」
「何度も夢見たんじゃないの?仮面の男を倒す夢。」
全くその通りで、シルバーは黙り込む。
仮面の男に捕らえられたあの日から何度も何度も夢を見た。
仮面の男を倒し、ブルーと2人、自由になる夢。
イミテにそう言われたシルバーは、一瞬、自分と少年の姿を重ねあわせてしまった。
「でもシルバーとは違うところがある。」
イミテはしっかりと彼の目を見て言った。
「シルバーには仲間がいる。」
イミテはずっと思っていた。
少年に足りないものは“仲間”だったのではないかと。
昔は“力”とか“冷静さ”とかいろいろ考えていたのだが、やがてその答えにいき着いたのだ。
仲間がいれば力も冷静さも補える。
少女が言ったように“止めてあげる”こともできたかもしれない。
きっと、信頼できる仲間が少年には足りなかった。
.