19 ひと時の幻想を
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「私が、その金をたてかえよう。」
「え…!?」
予想していなかったミナキの発言に、クリスはこれでもかというほど目を見開いて驚いた表情をした。
それもそのはず、政府に提示された罰則金はとてつもない額だからだ。
たしかにミナキは王族のような身なりをしているが、そんな大金を持っているとは考えられない。
現に今だって、塾の柵の修理代を集めるために、こうして住み込みでお金をかせいでいるのだから。
「そんな大金、どこにあるって言うんですか!?人をだましてお金を作ろうって言うのなら、私は大反対、」
「ハハハ。そんなことはしないさ。……実は、私は政府のものとほんの少し、なじみがあってね。」
そう言った時のミナキの顔は、普段とは全く違う、真剣なものだった。
「ミナキさん…アナタは一体……?」
「残念だけど、今は教えられないな。」
「どうして…っ!?」
「………言うと、君にも危険が及ぶかもしれないんだ。分かってくれ。とにかく金のことは心配しなくていい。私が何とかしよう。」
「………。」
クリスは口を閉じた。
この数日間ミナキと一緒にいて、彼の性格はなんとなくだけど分かっていたから。
「(ミナキさんは人を傷つけるようなウソを、平気でつく人じゃない…。絶対に…。でも…)」
「政府は明後日また来ると言ったんだろう?それならじゅうふん間に合う。明日、金を用意してくるから、クリスはいつものように子供達のめんどうを「ダメです!」
今度はクリスがミナキの言葉をさえぎった。
「たとえ今回乗り越えたとしても、塾の経営が苦しいことには変わりないし…、」
「だったらこれ以上は孤児を増やさないで…あとは子供達にも手伝ってもらえばいいんじゃないのか?新聞配達とか、簡単なことなら彼らにもできるさ。」
「なんなら私がマジックを教えてやってもいいぞ。」と、ミナキはフフンと鼻を鳴らして言った。
「そ、それに立て替えてもらったとしてもそんな大金、いつお返しできるか分かりません…!」
「とにかく罰則金をはらえば政府の奴らは出だしできなくなるだろう?金を返すのは10年でも20年でも、いつになっても別にいいさ。君達のペースでいい。」
「………っ、」
反論する要素がなくなって、クリスは口を閉じた。
ミナキが言うとおり、彼がお金をたてかえてくれれば、政府はもうこれ以上クリス達に関われなくなる。
今この塾にいる孤児達がもう少し成長すれば、まともな職につけるようになり、お金も皆で協力して少しずつかえせるだろう。
「どうだい?いい案だろう?」
たしかにいい案だ。
……クリス達にとっては。
「ミナキさんは…」
「ん?」
「どうしてそこまで、私達の力になってくれるんですか…?」
そう、クリス達にとってはこれ以上好都合な条件はないのだが、この案はミナキにとっては何の利益もないのだ。
どうしてたった数日一緒に過ごしただけの自分達にこんなに優しくしてくれるのかが、クリスには全く分からなかった。
「うーん、それは難しい質問だな。そうだな…しいて言えば…、」
ミナキは月が輝く夜空を背にマントをなびかせ、笑って言った。
「ここで過ごすうちに、久々に人の温かさにふれて、嬉しくなったから…だろうな。」
ほのかな月明かりが2人を照らし、その瞳を光らせた。
キラキラ、と。
不安定な現状の中
真っ暗な闇を照らすのは
一筋の月明かり
それがひと時の幻であることには
まだ、だれも気づかない
.