19 ひと時の幻想を
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「子供達のことは大好きだけど……でも、私…自分のしていることが正しいかどうか分かりません。」
「?」
「…前に話したことがあると思いますけど、この塾は孤児もあずかっているんです。彼らにたくさんの幸せを教えてあげようって、ジョバンニ先生が言ったから。もちろん、私も大賛成して今までやってきました。」
たとえ利益にならなくても子供達のために何かがしたい。
クリスもジョバンニも、そう思っていた。
「でも経営がどんどん苦しくなって、近いうちに彼らを孤児施設に預けることになって…。」
「……。」
「きっと、彼らは施設での生活をすごく苦しく感じてしまう…!…だって、たった1度でも幸せな生活を経験してしまえば、不幸がよけいつらく感じる…。人って、そういうものだから……。」
言いかえれば、人は幸せを知らなければ不幸を不幸と感じない。
やはり10から0になるのと、0から0になるのでは感じ方が違うのだ。
「だったら、この塾で過ごさずにそのまま施設にいれられてたほうが、ずっとずっと幸せなんじゃないかと思って…。…だから、私達がしていることは、子供達を不幸にしてるのかもしれない…。」
クリスはそこまで言うとまたうつむいた。
ミナキはそれを見てフッと笑い、優しい口調で話し始める。
「……私は君がしていることは正しいと思うよ。」
「え…。」
「ここの子供達はとても幸せそうだ。もしそのまま施設にいれられていたら得られなかったものも、たくさんあるはずだ。」
「でも幸せだからこそ、つらい別れも経験しなきゃいけないし、その後の生活だって耐えられるものじゃないですよ…。」
「………本音を言っていいかい?」
「…ええ。」
「最初ここに来たとき、こんなとこに人が住んでるのかって思うくらい、オンボロだった。むしろ人が住めるのかって思った。」
「な……!」
「でもしばらく君達と過ごしてみて、とても温かいところだと肌で感じたよ。子供達の笑顔であふれている。……そして、その笑顔の中心にいたのはクリス……君だった。」
「私……?」
聞き返したクリスに、ミナキは優しく笑った。
「そうだ。クリス、君は彼らに生きる希望を与えた。それは将来、彼らの大きな財産となる。どんなに辛い現実に直面しても、幸せな思い出が彼らを支えてくれるだろう。クリスは、彼らにとって生きる道しるべなんだよ。」
「私、が…?」
幸せだからこそ辛いものもあるが、その幸せな思い出が勇気をくれることもある。
クリスのしたことは、決して子供達を不幸にするばかりではない。
ミナキはそう伝えたかったのだ。
「…そっか。私が…。」
そして、その思いは真っ直ぐクリスに届いた。
彼女はこの不安定な現状の中、ほのかに笑ったのだ。
「そうだ、クリス。昼間のタロットカードを持っているかい?」
「ええ。はい。」
クリスはポケットからタロットカードをとりだし、ミナキに手渡した。
ミナキはそれを人差し指と中指の2本の指でつかみ、「見ててごらん。」と言った。
彼がバッと素早くカードを持っていないほうの手をかざすと……、
「あ…!」
カードに描かれている月の向きが逆になった。
「すまない。クリス。実はジョバンニさんと君の話し、聞いてしまった。」
「え…!?」
「政府のものに、圧力をかけられているみたいだね。」
「……ええ。だからもう、どうすることも…。」
落ち込むクリスと対照的に、ミナキは穏やかな表情をしていた。
「このカードがでたからにはもう大丈夫さ。」
「え…?」
「昼間の月のタロットカードの意味を覚えているかい?」
「ええ、たしか…不安とか迷いとか言ってた気が…。」
「そう。そしてその解決策は、相談すること。クリスは私に不安や迷いを打ち明けた。だからこそ、このカードがでたんだ。」
「え…昼間と同じ、月のカードじゃないですか。」
「違う違う。これは月の逆位置さ。」
ミナキは得意げになって言う。
「向き1つで意味が全く違う者になるんだ。月の逆位置は、混乱の終結。クリスの不安もなくなるはずだ。」
「不安がなくなるって…政府相手じゃどうしようも…「1つ、策がある。」
ミナキはクリスの言葉をさえぎって、言った。
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