19 ひと時の幻想を
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「タロットカードだよ。」
「タロットカード?これ、月?」
「そう。月は不安と疑惑を表す。クリス、君は今、不安や疑念に付きまとわれて答えを出すことができない状況にいるようだな。」
「!」
ギクリとクリスの肩が跳ねた。
「大切なのは誰かに相談して、その不安や疑念を取り除くことだ。…私でよければいつでも話しを聞くよ。」
「……。」
彼の優しい笑みに、クリスの心は一瞬揺らいだが、すぐに笑顔を見せた。
「大丈夫です。でも、何かあったら相談しますね。」
「…ああ。」
ミナキもこれ以上は無意味だと判断し、この話題を追求するのは止めた。
「それじゃあ私は町に行くとするか。」
「あれ…?ミナキさん、何か落ちてきましたけど。」
ミナキがマントを翻したひょうしにヒラリと何かが落ち、クリスがそれを拾い上げる。
「札…?」
それは1枚の札だった。
手品の道具なのだろうか?
「!」
ミナキはやけに慌てた様子で、クリスの手からそれをバッと掴みとる。
「いやあ、すまない。ありがとう。」
「………。」
いつもと違う彼の様子に、クリスは首を傾げた。
「クリス姉ちゃん!」
気まずい空気をかき消すように、1人の生徒がクリス達の元に走ってきた。
「なあに?何か嬉しいことでもあった?」
「うん!あのね、ジョバンニ先生が帰ってきたの!」
「え!ホント!?」
「うん!行こう!」
生徒はクリスの手を走り出した。
「あ、ミナキさんのこと紹介したいから一緒にきてください!」
「ああ。」
クリスに言われ、ミナキもその後に続く。
……札を、大事そうに胸ポケットにしまってから。
庭に出れば、生徒の言うとおりジョバンニがいた。
「ジョバンニ先生!」
「クリスさん。留守中は生徒達の面倒を見てくれて助かったアルよ。」
「いえ。それより、子供達の受け入れ先は…」
クリスの問いにジョバンニはふるふると首を横に振る。
「どこも断られたアル。やはり孤児を無償で扶養するというのは難しいみたいデース。」
「そう…ですか。」
クリスはがっくりと肩を落とす。
「そう肩を落とさずに。きっと他にもできることがあるはずデース。…そちらの方は誰デスか?」
「あ、彼は…」
「ミナキと申します。お会いできて光栄です、ジョバンニさん。ちょっとした事情があって…今ここに泊まり込みで生活させていただいてます。」
ズイとミナキが1歩前にでて名乗る。
「泊まり込み…アルか?」
「……あの、ジョバンニ先生。少しお話があるんですが。ミナキさんのこともその時に話します。」
真剣な顔のクリスに、ジョバンニはふむ、と頷いた。
「それでは、中で話しマスか。」
「えー!ジョバンニ先生今帰ってきたばっかりじゃんか!」
「遊ぼうよー!」
すると、子供達がいっせいに文句を言い始める。
それを見たミナキが、「静かに!」と子供達をなだめた。
「じゃあジョバンニさんとクリスの話しが終わるまで、この私が遊んであげよう!」
「えー…ミナキお兄ちゃん大人げないんだもん…」
「フフフ…。獅子は兎を狩るにも全力をつくすっていうだろ?」
「それ、どういう意味?」
「私に勝ったら教えてやろう!さあ!かくれんぼでもしようじゃないか!」
ミナキが「いーち……」と数え出すと、子供達はわー!といっせいに駆け出した。
「クリス。ここは私にまかせて行きたまえ。」
「いいんですか?ミナキさん。これから町に行くって言ってたのに…。」
「別に明日でもいいさ。」
フッと笑ったミナキに、クリスは「お願いします」とおじぎしてジョバンニと塾の中に入っていった。
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