19 ひと時の幻想を
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彼らの姿が見えなくなり、クリスはようやくふぅ…と息をはく。
そして、男が置いていった罰則金の金額が書かれた紙に目をやる。
「払えるわけない、こんなの…。」
その金額はクリスがもらっている給料一生分でも足りないほどの大金。
おそらく政府は初めからこの塾の子供達を回収し、国の施設にいれるのが目的だったのだろう。
わざわざ猶予を与えたのは、クリス達があがく様子を見て楽しむため。
何とも悪趣味な奴らだ。
「どうしよう……」
今ここにジョバンニはいない。
しばらく孤児をあずかってくれる場所はないか、隣町に探しに行っている。
そう…罰則金抜きにしても、この塾でこれ以上身よりのない孤児達を扶養するのはむずかしいのだ。
むしろ塾としても危ういほど、経営難におちいっていた。
相談できる相手もなく、クリスは頭をかかえた。
すると……
「きゃ…!?」
突然、体の真っ正面に勢いよく何かが飛びついてきて、クリスは小さく声をあげる。
「クリスおねーちゃん!聞いて聞いて!」
それは女の子。
塾の生徒だ。
目をキラキラと輝かせながら、クリスを見上げている。
「ごめんね。今ちょっと忙しいの。後で聞くから。」
「えー!ダメだよ!今じゃなきゃ!早くしないと終わっちゃう!」
「終わっちゃう?なにが?」
今日は子ども達が喜ぶようなイベントは何もなかったはずだけど…、とクリスは首をかしげた。
「えっとね、えっと……リック?あれ…ミック?」
「?」
「むずかしい名前だったから覚えてないー!なんかね、ぶわーってなってキラキラーってなるの!」
「へ、へー。」
女の子は身振り手振りをまじえて一生懸命説明するが、残念ながらクリスにはまったく伝わらない。
「とにかく行こうよ!クリスおねえちゃん!」
「んー…でも、まだやることが残ってるから。ごめんね?」
「えー!!」
ぷくーっと可愛らしく頬をふくらませる女の子。
すると……
「おやおや、そんなに顔すると可愛い顔がだいなしだぞ。」
クリス達のところに1人の男の人が近づいてきた。
その男は王家の人間が着る正装のような服を着ていて、クリスは思わず少し身構える。
「どなたですか?ここの関係者でないなら、出て行っ「しー!見てごらん。」
男の人はクリスの言葉をさえぎり、右手を差し出す。
ポン!!
「え?」
勢いのいい音が聞こえたかと思うと、何もなかったはずの彼の手には色とりどりの花束があった。
「わー!お兄ちゃんすごーい!」
女の子はさっきとうってかわって、とびきりの笑顔をみせる。
「フハハハ!マジックだよ!」
「あー!それだ!マジックだ!私ね、クリスお姉ちゃんにもこのお兄ちゃんのマジック見てほしかったの。」
女の子は少し恥ずかしそうにうつむき、様子をうかがうようにしてクリスの顔を見上げる。
「クリスお姉ちゃん、最近疲れてるみたいだったから…元気になってほしくて。」
クリスはドキッとした。
実は最近、塾の経営難のためクリスは今まで以上に頑張って働いていたのだ。
心配してくれたのは嬉しいけど、こんな小さな子どもに心配かけちゃうなんて…、とクリスは複雑な気持ちになった。
「大丈夫。今の手品見たら、元気がでたから。」
クリスはニコッと笑う。
「ほんと?よかったー!」
それを見て女の子も笑顔になった。
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