15 裏切りの傷跡
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ゴールドはその後ろ姿を見送り、ポツリと呟く。
「ハヤトさん、薬のことだって言ってたけど…。そんなん直接言えばいいのに……。」
ゴールドの母が使用している薬は手に入れるのがむずかしく軍関係の組織から取りよせている為、よく伝達役としてハヤトが内容を知らせにくるのだ。
しかしこうした封筒による情報伝達はこれが初めて。
「直接言いに行く暇もないくらい忙しいのか…?」
ゴールドはそんなことを思いながら、何気なくその中身を取り出した。
そこに入っていたのは1枚の紙。
「ん~…?…請……支……、銘……。あー!字が難しすぎてまったく読めねえ!」
『ゴールドくんにはまだ難しいから見ても分からないだろう。』と言う先ほどのハヤトの言葉を思い出し、ゴールドはさらに不機嫌になる。
むしゃくしゃした気持ちのまま、ハヤトに言われた通り、その手紙を母親に渡すため部屋まで行った。
バタンとドアを開け、荒々しく母のベッドの脇に座る。
「どうしたの?ゴールド?なんだか機嫌悪そうねえ…。」
「別に!」
ゴールドはそう言いながら、彼女に封筒を渡した。
「なに、これ?」
「ハヤトさんが母さんに渡してくれってさ!」
「……!」
“ハヤト”という名前を聞き、彼女の表情が、一瞬にして変わった。
いつもは彼の名前をだせば穏やかに微笑むのに。
「どうかした、母さん…?」
「何でもないわ。」
貼り付けたような笑顔を見せるが、額には冷や汗をかいている。
ゴールドが少し不安そうに見守る中、彼女は封筒に入っていた紙にゆっくり目を通す。
しだいに彼女の顔は青くなっていき、
「っ!う……ごほっ、ごほ!」
「母さん!」
突然咳き込んだ。
ゴールドは慌てて彼女の背中をさする。
「大丈夫よ…。」
そうは言いながらも母はハア、ハア…と肩で息をしていた。
「何が書いてあっ「ゴールドが気にすることじゃないわ。」
言葉を遮られてしまい、挙げ句の果てには「疲れたから寝るわ。1人にしてくれる?」と言われてしまった。
ゴールドはやむを得ず部屋の外に出る。
……おかしい。
母の態度からして、明らかに薬のことが書かれていたとは思えない。
「くそ…っ!」
母親が苦しんでいる。
でも、何も分からない。
どうすることもできない。
……自分が子供であることを、ひどくもどかしく感じた。
数日後。
カキン、と金属がぶつかり合う音が辺りに響く。
「まだまだっ!」
威勢のいい声でそう言って剣を構えなおしたのはゴールド。
「はは、気合いはいってるな。」
ゴールドは約束通り、近くの武道館でハヤトに剣術の修行をみてもらっていたのだ。
「あたりまえッスよ!俺は早く強くなりたいんス。」
強くなれば、そのぶん大人になれる。
ゴールドは心のどこかでそう思っていたのかもしれない。
「すごい意気込みだね。でも今日はここまでだ。剣術は、1日で上達するもんじゃない。毎日コツコツ…」
「だー!その言葉、何回も聞いたッスよ!分かってますって!」
「だったらそろそろ帰ったほうがいいな。……きっと、お母さんも心配してる。」
「…たしかにそうッスね。じゃあ帰ります。」
本音を言うともっと修行をしたかったが、母のことが気になるのも事実。
ここは素直に、ハヤトの言葉に従うことにした。
「あ、この前の母さんの検査結果、少しよくなってたんスよ!薬を変えたおかげだって医者が言って…」
振り返ったゴールドは、深刻そうな顔をしているハヤトに気がついた。
「どうかしたんスか?ハヤトさん、顔色悪いッスよ?」
「…たいしたことじゃないから気にしなくていいよ。さ、行こうか。」
そう言ってハヤトは歩きだす。
「(あれ……?)」
いつもならたくましく凛とした彼の後ろ姿。
その時ばかりはどこか頼りなく思えた気がした。
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