12 朱色のマントをひるがえし
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「ふう、これで一安心だね。」
笑顔になったイエローを
イエローがいる近くの木に身を潜めている、その男。
オレンジ色の髪の毛に、朱色のマントを羽織っていた。
「(やはりチャンスは今しかないか…。)」
その男が足を進めようとした瞬間、遠くから足音が聞こえた。
「チッ……」
男は軽く舌打ちをすると、薄暗い夜明けの森へと姿を消した。
「イエロー!」
自分を呼ぶ声に振り返ったイエロー。
そこにはずっと心配していた人の元気に歩いてくる姿があり、イエローの顔はみるみるうちに明るくなった。
「イミテさんっ!」
イエローは急いで彼女の元に駆け寄る。
「体は平気なんですか!?」
「うん。もうすっかり。」
笑い合う2人。
「あ……」
しかしレッドの姿を見つけたイエローは、途端に顔をしかめた。
レッドはイエローの前で足を止め、真剣な表情で彼女と向き合う。
「…イエロー、ごめん。」
「えっ…」
「さっきは言い過ぎた。いろいろうまくいかないのが悔しくて…イエローにあたっちまって…。」
「いえ…、」
「昨日のこと、本心じゃないから…!イエローはちゃんと皆の傷、治してくれて、イエローにできることやってくれてるし、」
「レッドさん。もう、気にしないでください。」
イエローはレッドの言葉を遮って、にっこりと笑顔をつくった。
「いいんです。僕が戦えないのは事実ですから。旅をしている中で自分でも皆さんの重荷になっているなあ…って感じることが、何度もあったんです。」
それはもちろん作り笑顔で、笑っているがなんとも悲しい表情をしていた。
「イエロー。レッドは本当に、」
「僕、ここに残ります。」
「えっ…?」
「残ってエリカさんの手伝いをします。ここなら、闇の能力で壊された町の修復のお手伝いとかもできますし。」
「だからイエロー!あの時はつい勢いで言っちまっただけで「いいんです!」
イエローの目からポロ…っと一筋涙がこぼれ落ちる。
「いいんです。もう…何も言わないでください。自分で決めたことですから。」
その表情から、彼女がどれだけ悩んで出した結論なのかが伝わってくる。
一緒にいたい。
でも、迷惑をかけてしまう。
短い間一緒にいただけだったけど、イミテ達が大好きになってしまったから、
だから、身を引く。
「………。」
これは自分のせいだと思うと、レッドは何と声をかければいいか分からなくて、その場に立ち尽くしていた。
そんな中、イミテがそっとイエローに歩みよる。
「イエロー。私はこれからもイエローと旅がしたい。」
「……。」
「イエローがいなくなったら、誰が傷を治してくれるの?それに私はイエロー自身がいてくれるだけで、すごく嬉しい。」
「…!僕がいたら、また今回みたいなことがおこります…!」
イエローの言葉にイミテはふるふると首を横に振る。
「そんなこともう二度とおきないようにするから。それにイエローが責任感じることじゃないよ。」
「え…」
「言ったでしょ?『イエローのことは私が守るから』って。今回のことは私が勝手にやったことだから。怪我だって、私が力不足だっただけ。」
「そんなことないです…!僕がいなければ、」
引き下がらないイエローに、イミテははあとため息をついた。
「なんでイエローがいないことを仮定しなきゃいけないの?」
「へ…?」
「イエローはあのとき、あの場にいた。それなのに、いなかったときのこと考えるのっておかしくない?」
「そんな、言葉遊びみたいなこと」
「私達は、これからもイエローがいること前提で考えるよ。だって、一緒にいたいから。」
「っ…!」
「そのためには何が最善の行動なのか考えてから行動すればいい話しでしょ?」
優しく笑うイミテ。
イエローはギュッと拳を握りしめる。
「だけど、僕は、」
「レッドの言葉が本心じゃないことぐらい、お前も分かってるだろう?つまらない意地は捨てて、今まで通り一緒にくればいい。」
やや離れた場所にいるグリーン。
木にもたれかかりながらそう言った。
「一緒に行こう。イエロー。」
レッドが手を差し出す。
いつもの明るい笑顔とともに。
「…はいっ!」
イエローは涙をぬぐい、その手をつかんだ。
.見て、イミテはほっと息を吐く。
「一時はどうなることかと思ったけどな。」
グリーンはまさに疲れたといった感じで眉間にシワをよせた。
「本当に、お騒がせしました…!」
ペコリとイエローが頭を下げて、可愛らしくポニーテールが揺れた。
するとふいに、風が吹いてきて彼らの頬をなでる。
「くしゅんっ!」
「イミテ、大丈夫か?」
「冷えてきたな。戻るか。」
「うーん…。私、汗かいたまま出てきたからよけい寒いんだと思う…。先に城に戻ってお風呂借りてくる。」
「待て。一緒に行く。」
「平気。すぐ近くだし。イエローのことお願い。」
イミテは笑みをうかべて軽く手をふり、その場を後にした。
「(やっぱりグリーンと一緒にくればよかった…。)」
歩きだして数十分。
イミテは1人できたことをさっそく後悔していた。
再び頭がズキンズキンと痛みだしたのだ。
今から戻ろうかとも考えたが、ここまで来たなら引きかえすより城に直行したほうが早い。
「(とにかく進もう…。)」
そう思い再び歩き出したイミテ。
その瞬間、軽い立ちくらみが彼女を襲った。
「(…っ、)」
周りの風景が歪んで見え、イミテの体は後ろへと傾く。
でも、彼女が感じたのは固い土の感触ではなく、柔らかい人のぬくもり。
「(え…?)」
今だ焦点が合わないぼやける瞳がとらえたのは、オレンジ色の瞳と髪、そして朱色のマント。
「大丈夫か?」
「……。」
「おい?」
「…あ、うん。ありがとう…。」
二度目の問いかけで我に返ったイミテは、その人に向かい合い軽く頭を下げた。
よくよくその人の顔を見れば、自分より少し大人びていて…たぶん年上なのだろう。
イミテは敬語を使わなかったことを軽く後悔した。
気にしてないみたいだし…まあいいか、とすぐに開き直ったが。
「顔色が悪いな…。なにか持病でもかかえているのか?」
「ううん。少し立ちくらみがしただけ。もう大丈夫。」
「…お前、名前は?」
「え…。」
イミテは一瞬戸惑った。
そう簡単に他人に名前を教えていいものではない。
しかもイミテは軍人から追われてる身だから尚更だ。
しかし助けてもらったのに名乗らないのは失礼にもほどがある。
「……イミテ。」
迷ったあげく、イミテは名乗った。
「イミテ、か…。お前はこの近くにすんでいるのか?」
「ううん。私は旅してて、たまたまここに立ち寄っただけ。」
「そうか。いろいろと尋ねたいことがあったんだが…。」
「何か知りたいことでも?この町の諸事情とか…少しなら答えられるかもしれないけど。」
イミテがそう言うと、男は一瞬驚き、次いでフッと笑って言った。
「そうだな…。なら…、お前は能力者についてどう思う?」
能力者、と聞き、イミテがぴくりと反応する。
「(この人…)」
自分が能力者だということを知っててこんなことを聞いてきたのだろうか?
……いや、でもこの男、初めて見た。間違いなく初対面だ。
だとしたら、どこかで力を使うところを見られていた?
「…。」
返答に困っているイミテを見て、男はまた笑う。
「いや…いい。愚問だったな、これは。」
別に気にしていないみたいだ。
特に深い意味はなくただ聞いただけだったのだろうか…?
男はバサッとマントをひるがえし歩き出した。
「あの…!アナタの名前は…?」
イミテはあわてて男を呼び止め、聞く。
「ワタルだ。」
ワタルと名乗った男は振り向きもせず、マントをひるがえしたかと思えば…
「あれ…?」
一瞬でいなくなった。
「(ワタル…)」
イミテはしばらく、彼が消えた方向を見つめていた。
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