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暗い並木道を、
俺は自転車を転がして、
先輩はちょこちょことした可愛らしい足取りで、
並んで歩いていた。
毎日、毎日。
【こじつけ】
俺は部員で、先輩はマネージャー。
そして先輩は俺より1つ年上。
彼女は皆から慕われてるし、優しいし気が利くし頼りになる。
まかせられた仕事はテキパキと、文句のつけどころがないくらいキチンと仕上げるけど、たまに天然っぷりをはっきする先輩の行動はいちいち可愛い。
だからウチの部活には彼女に惚れてる人は多い。
まあ俺もそのうちの1人っつーわけで…。
でも俺は他の奴らより明らかに優位にいるって、自信をもって断言できる。
だって先輩と毎日一緒に帰ってるから。
ウチの部活は大会で何回も優勝してるくらい強いから、自然と学校も設備とかに投資するようになって、練習も毎日遅くまでやる。
先輩の帰る方向が俺と同じだって気づいた時は、飛び上がるほど嬉しかった。
「夜は危ないから送ってきますよ、先輩!」なんて、もっともらしい理由を言ったら、彼女はふわりと笑って「ありがとう。よろしく。」と言ってくれた。
それからは帰るときはいつも、先輩の隣は俺の場所になった。
たわいない話しをして、先輩の笑った顔が見れるのが、嬉しかった。
先輩が俺の目を見て話してくれるのが、嬉しかった。
先輩の家に着くまでのわずかな時間、少しでも長くいられるようにと、なるべくゆっくり歩いたりもした。
でも、そんな日々も今日で終わる。
「先輩、転ばないでくださいよ?」
辺りはもう真っ暗で、空が曇っているのか星1つ見えない。
俺達が歩いている道は少しくたびれた電灯がポツポツと立っているだけ。
そんな夜道を歩いている最中、先輩に向かってそんな冗談を言ってみた。
「あはは、転ばない転ばない。ゴールドこそ、足元気をつけなよー?」
先輩はいつも通りの笑顔で返す。
「俺は余裕に決まってるじゃないッスか!」
「どーかなー?今日の練習でも、足もつれて転びそうになってたでしょ?」
「見てたんスか!?ずっりぃ。」
先輩が俺を見ててくれた嬉しさと、情けないところを見られた恥ずかしさが一気におしよせた。
「俺、めちゃくちゃカッコ悪いじゃないッスか。」
「そう?ゴールドらしくていいんじゃない?私は最後におもしろいもの見れて嬉しかったけど。」
先輩がイタズラをした後の子供みたいに、クスクスと笑う。
でも俺はそんなことより、先輩の“最後”と言う言葉を聞いて胸をしめつけられる感じになっていた。
「最後ッスか…。先輩も、もう引退なんスよね…。」
口に出して、余計切なくなる。
最高年の先輩は今日で部活を引退する。
もう部活にはこない。
だから、必然的に俺と先輩が並んでこの帰り道を通ることも、もう二度となくなる。
本当に、今日で最後。
「うん。早かったなー、引退まで。」
「俺、先輩が引退するの嫌ッス。もう1年いてくれればいいのに…。」
こんなこと何度思ったか。
先輩がもう1年、遅く生まれてくれればなあ…。
「もう1年って…私、留年しなきゃいけなくなるじゃん!それは無理。」
ふふ、と笑う先輩。
俺もそれを見て、一瞬だけ何だか穏やかな気持ちになった。
「でも、ゴールドみたいな可愛い後輩に、そんなこと言ってもらえると嬉しいな。」
「俺だけじゃなくて、他の奴らもきっとそう思ってるッスよ。」
「え、そう?」
「はい、絶対。だって先輩、面倒見いいッスもん。」
怪我した人がいればすぐに手当てしてやって、悩んでる人がいればそれが部活関係じゃなくても1から聞いて、アドバイスしてやって。
ずっと先輩のこと見てたから知ってる。
でもって、先輩が優しくする相手、全員に嫉妬してた。
「先輩って、典型的なお人好しッスよね。」
「えー、別に普通だと思うけどな。」
まあそこに惚れたんだけど。
「私はゴールドのがお人好しだと思うよ。」
「俺ッスか…?」
「うん。だって毎日毎日私のこと送ってくれたもん。……わざわざ遠回りまでして。」
「先輩、知ってたんスか!?」
「クリスちゃんに聞いちゃった。まあ最近のことだけど。」
帰る方向は一緒だけど、実は俺の家は先輩の家に行く途中にある。
でも少しでも長く一緒にいたかったから、俺はいつも先輩を家に送ってから、元来た道を引き返して家に帰ってた。
ちくしょー、クリスめ。ばらしやがって。
「今までありがとね。ゴールド。」
「……。」
先輩が言った言葉は、まるで俺達の関係がここで断ち切れるような、永遠の別れに聞こえて……。
俺は何も言わず黙りこんだ。
カラカラと自転車を転がした時の独特の音が、夜の静けさを引き立てる。
「なーにしょぼくれてんの!ほら、元気だして!」
パシンと小さく背中を叩かれる。
「……先輩と帰れるの今日で最後なんスよ?」
「まあ、ね。それは私も…さみしくなるな。」
「俺、たまに部活さぼって先輩と帰ろうかな。」
「だめ。部活はでなさい。サボるような子とは帰りたくないし。」
「……ちぇ。ちゃんとでますよ!」
「ふふ、よろしい。」
先輩は時々お姉さんぶる。
俺はそれがたまらなく嫌で、いつもふてくされる。
俺が同い年だったら先輩もこんな態度とらないのに。
1つしか違わないはずの年の差が、ひどく大きく、俺と先輩との間に壁をつくっていた。
ああ、家に着くまで後少し。
先輩、俺が「好き」って言ったら、どんな顔すっかなー……。
「私も、気合いいれて受験勉強しないと!」
先輩は胸の前で小さくガッツポーズをつくって見せる。
俺はさっきまで考えていたことを、必死でなかったことにした。
だって俺が今告白したって、先輩の邪魔になっちまうだけだ。
だから告白はしない。
―……いや、できない。
迷惑になりたくないから。
ぼんやりと、見慣れた家の明かりが目に飛び込んできた。
先輩の家だ。
「あ、着いちゃった。なんか名残おしいね。」
「そうッスね。」
「ほんとうにありがとね、ゴールド。今まで私が変出者に出会わなかったのは、ゴールドが一緒に帰ってくれたおかげだよ。」
先輩はやっぱりいつも通りに、優しく笑ってた。
明日から会えないなるっていうのに、……いつも通りに。
「俺も、先輩と帰れて楽しかったッス。すごく……すごく。」
「えへ、嬉しいな。……ありがとう。」
じゃあ、おつかれさま。
そう言って、先輩は家に入るため、足を進めた。
「……おつかれさまッス。」
俺もそうつぶやいて、ただただ、先輩が家に入るのを見ていた。
まず門を開けて、
中に入って、
門を閉めて。
次に玄関を開けて、
足を一歩進めて、
でも、ふと立ち止まって、
振り返って、
俺に向けて2、3度ひらひらと手を振って、
家の中に入って、
…………パタン。
ドアが閉まった。
俺は静かに自転車を転がす。
最後まで気持ちは言わなかったけど、これで良かったんだ。
先輩のためにも、このほうがよかったんだ。
「………らしくねぇ。」
ポツリと声がもれた。
いつもの俺なら、はっきり言うのに。
好きだ、って。
迷惑になるから言わない、なんて、こじつけだ。
「くそ……!」
ぎゅっと握りしめた拳。
手のひらに軽く爪がくいこんだ。
こじつけ
(自信がないから、)
(逃げたんだ)
俺は自転車を転がして、
先輩はちょこちょことした可愛らしい足取りで、
並んで歩いていた。
毎日、毎日。
【こじつけ】
俺は部員で、先輩はマネージャー。
そして先輩は俺より1つ年上。
彼女は皆から慕われてるし、優しいし気が利くし頼りになる。
まかせられた仕事はテキパキと、文句のつけどころがないくらいキチンと仕上げるけど、たまに天然っぷりをはっきする先輩の行動はいちいち可愛い。
だからウチの部活には彼女に惚れてる人は多い。
まあ俺もそのうちの1人っつーわけで…。
でも俺は他の奴らより明らかに優位にいるって、自信をもって断言できる。
だって先輩と毎日一緒に帰ってるから。
ウチの部活は大会で何回も優勝してるくらい強いから、自然と学校も設備とかに投資するようになって、練習も毎日遅くまでやる。
先輩の帰る方向が俺と同じだって気づいた時は、飛び上がるほど嬉しかった。
「夜は危ないから送ってきますよ、先輩!」なんて、もっともらしい理由を言ったら、彼女はふわりと笑って「ありがとう。よろしく。」と言ってくれた。
それからは帰るときはいつも、先輩の隣は俺の場所になった。
たわいない話しをして、先輩の笑った顔が見れるのが、嬉しかった。
先輩が俺の目を見て話してくれるのが、嬉しかった。
先輩の家に着くまでのわずかな時間、少しでも長くいられるようにと、なるべくゆっくり歩いたりもした。
でも、そんな日々も今日で終わる。
「先輩、転ばないでくださいよ?」
辺りはもう真っ暗で、空が曇っているのか星1つ見えない。
俺達が歩いている道は少しくたびれた電灯がポツポツと立っているだけ。
そんな夜道を歩いている最中、先輩に向かってそんな冗談を言ってみた。
「あはは、転ばない転ばない。ゴールドこそ、足元気をつけなよー?」
先輩はいつも通りの笑顔で返す。
「俺は余裕に決まってるじゃないッスか!」
「どーかなー?今日の練習でも、足もつれて転びそうになってたでしょ?」
「見てたんスか!?ずっりぃ。」
先輩が俺を見ててくれた嬉しさと、情けないところを見られた恥ずかしさが一気におしよせた。
「俺、めちゃくちゃカッコ悪いじゃないッスか。」
「そう?ゴールドらしくていいんじゃない?私は最後におもしろいもの見れて嬉しかったけど。」
先輩がイタズラをした後の子供みたいに、クスクスと笑う。
でも俺はそんなことより、先輩の“最後”と言う言葉を聞いて胸をしめつけられる感じになっていた。
「最後ッスか…。先輩も、もう引退なんスよね…。」
口に出して、余計切なくなる。
最高年の先輩は今日で部活を引退する。
もう部活にはこない。
だから、必然的に俺と先輩が並んでこの帰り道を通ることも、もう二度となくなる。
本当に、今日で最後。
「うん。早かったなー、引退まで。」
「俺、先輩が引退するの嫌ッス。もう1年いてくれればいいのに…。」
こんなこと何度思ったか。
先輩がもう1年、遅く生まれてくれればなあ…。
「もう1年って…私、留年しなきゃいけなくなるじゃん!それは無理。」
ふふ、と笑う先輩。
俺もそれを見て、一瞬だけ何だか穏やかな気持ちになった。
「でも、ゴールドみたいな可愛い後輩に、そんなこと言ってもらえると嬉しいな。」
「俺だけじゃなくて、他の奴らもきっとそう思ってるッスよ。」
「え、そう?」
「はい、絶対。だって先輩、面倒見いいッスもん。」
怪我した人がいればすぐに手当てしてやって、悩んでる人がいればそれが部活関係じゃなくても1から聞いて、アドバイスしてやって。
ずっと先輩のこと見てたから知ってる。
でもって、先輩が優しくする相手、全員に嫉妬してた。
「先輩って、典型的なお人好しッスよね。」
「えー、別に普通だと思うけどな。」
まあそこに惚れたんだけど。
「私はゴールドのがお人好しだと思うよ。」
「俺ッスか…?」
「うん。だって毎日毎日私のこと送ってくれたもん。……わざわざ遠回りまでして。」
「先輩、知ってたんスか!?」
「クリスちゃんに聞いちゃった。まあ最近のことだけど。」
帰る方向は一緒だけど、実は俺の家は先輩の家に行く途中にある。
でも少しでも長く一緒にいたかったから、俺はいつも先輩を家に送ってから、元来た道を引き返して家に帰ってた。
ちくしょー、クリスめ。ばらしやがって。
「今までありがとね。ゴールド。」
「……。」
先輩が言った言葉は、まるで俺達の関係がここで断ち切れるような、永遠の別れに聞こえて……。
俺は何も言わず黙りこんだ。
カラカラと自転車を転がした時の独特の音が、夜の静けさを引き立てる。
「なーにしょぼくれてんの!ほら、元気だして!」
パシンと小さく背中を叩かれる。
「……先輩と帰れるの今日で最後なんスよ?」
「まあ、ね。それは私も…さみしくなるな。」
「俺、たまに部活さぼって先輩と帰ろうかな。」
「だめ。部活はでなさい。サボるような子とは帰りたくないし。」
「……ちぇ。ちゃんとでますよ!」
「ふふ、よろしい。」
先輩は時々お姉さんぶる。
俺はそれがたまらなく嫌で、いつもふてくされる。
俺が同い年だったら先輩もこんな態度とらないのに。
1つしか違わないはずの年の差が、ひどく大きく、俺と先輩との間に壁をつくっていた。
ああ、家に着くまで後少し。
先輩、俺が「好き」って言ったら、どんな顔すっかなー……。
「私も、気合いいれて受験勉強しないと!」
先輩は胸の前で小さくガッツポーズをつくって見せる。
俺はさっきまで考えていたことを、必死でなかったことにした。
だって俺が今告白したって、先輩の邪魔になっちまうだけだ。
だから告白はしない。
―……いや、できない。
迷惑になりたくないから。
ぼんやりと、見慣れた家の明かりが目に飛び込んできた。
先輩の家だ。
「あ、着いちゃった。なんか名残おしいね。」
「そうッスね。」
「ほんとうにありがとね、ゴールド。今まで私が変出者に出会わなかったのは、ゴールドが一緒に帰ってくれたおかげだよ。」
先輩はやっぱりいつも通りに、優しく笑ってた。
明日から会えないなるっていうのに、……いつも通りに。
「俺も、先輩と帰れて楽しかったッス。すごく……すごく。」
「えへ、嬉しいな。……ありがとう。」
じゃあ、おつかれさま。
そう言って、先輩は家に入るため、足を進めた。
「……おつかれさまッス。」
俺もそうつぶやいて、ただただ、先輩が家に入るのを見ていた。
まず門を開けて、
中に入って、
門を閉めて。
次に玄関を開けて、
足を一歩進めて、
でも、ふと立ち止まって、
振り返って、
俺に向けて2、3度ひらひらと手を振って、
家の中に入って、
…………パタン。
ドアが閉まった。
俺は静かに自転車を転がす。
最後まで気持ちは言わなかったけど、これで良かったんだ。
先輩のためにも、このほうがよかったんだ。
「………らしくねぇ。」
ポツリと声がもれた。
いつもの俺なら、はっきり言うのに。
好きだ、って。
迷惑になるから言わない、なんて、こじつけだ。
「くそ……!」
ぎゅっと握りしめた拳。
手のひらに軽く爪がくいこんだ。
こじつけ
(自信がないから、)
(逃げたんだ)