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カチャカチャと、さっきから泡立て器とボウルのぶつかる音が部屋に響いていた。
その中にあるのはクリーミーな色のチョコレート。
生クリームや牛乳やらが混ぜられて、どんどんなめらかになっていく。
【焦げくさい愛をあげる】
「………」
いつもは「すごい」とか「きれい」とかいろいろ騒ぐ私もこの日ばかりは黙りこくっていた。
たぶん今私、ものすごく嫌そうな顔してる。
だって実際嫌だし。
「……何でそんなに不満そうな顔してるんだい?」
その空気に耐えられなくなったのか、ついにルビーが口を開いた。
でも私は無視。
誰が口聞いてやるもんか。
「そんな態度とってると……、襲うよ?」
「んな……!?」
慌てて立ち上がってルビーの方を見ると、彼は「あ、やっとこっち見た。」と言った。
作戦だったのか…!
「ひ、卑怯もの!」
「理由も話さないので黙りこんでるほうがよっぽど卑怯だと思うけど。」
「う……。」
ダメだ!
このままだと完全にルビーのペースになっちゃう!
「それ、」
「え?」
「だから、それ!」
あえて主語は言わず、私はルビーがさっきまでかき混ぜてたボウルを指差す。
「何?チョコレート?」
今度は無言でポケギアを取り出しカレンダー画面を開くと、彼の目の前に突きつけてやった。
「2月14日…」
「………。」
「……これがなに?」
「………!後は自分の胸に手をあててよ~く考えてください!」
そう言って、私はぷい、とそっぽを向いた。
「分かんないから聞いたのに。」と言ってルビーはまた手を動かす。
小指でチョコを少しつけて絡めとり、「delicious!」とも言っていた。
気づけ、バカ。
………その行動にイラついてるのに。
ポケモンとバトルが大好きな私には、料理なんて無縁なものだってずっと思ってた。
でも今日はバレンタインデーだから…頑張って人生初、お菓子作りに挑戦することにしたんだ。
とりあえず料理本買ってきて、初心者向けって書いてあったクッキーを作ることに。
出来は……はじっこがちょっと焦げたけど、まあ食べられるっちゃ食べられる…と思う。
初めて作った手料理を早く誰かに食べてほしくなって思って…、思いうかんだのはルビーの顔。
びっくりした顔するだろうな
そう思ったらいてもたってもいられなくなって、クッキーを袋につめて家に行くことにした。
………なのにっ!
目の前でそんなに完璧なお菓子づくり見せつけられたら、渡しにくいに決まってんじゃん!
あーあ、料理上手な人に料理のプレゼントしようなんて、失敗したな。
ゴールドさんとかにあげに行けばよかった。
お菓子作りしなそうだし。
………それにしても何で私、ルビーのところに来たんだろう?
いつもバカにされてて、見返したかったから?
違う、
………ただ、ルビーに渡したくて。
「ありがとう。」その一言がほしくて。
今も尚、ルビーの手は休むことなく手際よく動いている。
甘い甘い香りが漂ってくる。
やっぱり、無理だよ
きっと私の作ったお菓子は焦げ臭い
甘い香りなんてない
まるで、所詮私なんかに女の子らしいことは似合わないって、思い知らされたよう
苦しくなった
「ルビー。私帰る。」
「ん?お菓子、もうすぐできるけど。」
「そんな気分じゃないし。」
「……何で怒ってるんだい?」
「怒ってないよ。…じゃあね。」
そう言って、逃げるようにドアを開けた、
………つもりなのに開かない?
上を見上げれば、ルビーの腕がドアを押さえていた。
「ちょ……開かないじゃん!離してっ!」
「……僕、まだバレンタインのお菓子もらってないんだけど?」
私の言葉を無視してルビーが呟いた。
「は……?」
「僕に渡すために家まで来たんだろ?」
「そ、そんなわけないじゃない!それにお菓子、用意してないし!」
私の言葉に、ルビーは見下すような怪しい笑みをうかべる。
「さっきからバッグばっかり見てたけど何かあるんだろう?」
「え!?」
「やっぱり。その様子じゃちゃんと用意してるみたいだね。」
「あ……!」
私は慌てて口をふさいだけどそんなのもう遅い。
「くれるかい?」
そう、澄んだ紅色の瞳で見つめられれば、断るなんてできる訳がなくて。
「…笑わないでね?」
「もちろん。」
私はしぶしぶだけどお菓子を差し出した。
ルビーは嬉しそうな様子でそれを受け取り、すぐに袋を開けて……固まった!?
「これはまた個性的な……」
「わ、笑わないって言ったじゃん!」
「別に笑ってないじゃないか。いや、形が、さ。」
「ちょっといびつなだけでしょ!もー、文句言うなら返して!」
取り返そうとルビーにとびかかるけど、ひょいっとかわされる。
「誰が返すもんか。君が心をこめて作ってくれたものなのに。」
「でも料理は見た目が肝心なんでしょ?ルビー、いつも言ってたじゃん。」
「見た目…まあ確かにね。でも、ほら。こんなにおいしそうじゃないか。」
「は?さっきそれ見て個性的って……」
あれ……?
さっきまで少し歪んで焦げ目もついていたクッキー。
それが今は、綺麗にチョコレートでコーティングされていて、真ん中にはナッツものっている。
「お、おいしそうになってる…!」
「cuteだろ?ちょっと手をくわえさせてもらったよ。」
「魔法みたいだねっ!」
私が笑うとルビーもにっこりと笑った。
そして彼はスッとクッキーを口にはこぶ。
サクッという音がした。
なんか緊張するなー…。
いくら見た目がよくなったって、クッキーそのものの味は変わらない訳だし…。
「あ…おいしい!」
驚いたようなルビーの声が聞こえて、私は思わず顔をあげた。
「え?ほんとに!?こげて苦くなってない!?」
「ほんとだよ。」
クスッと笑ったルビーは、食べかけのクッキーを私の口に放りこんだ。
「…~っ!//」
赤くなった私を見て、「ね?」と笑うルビーは絶対確信犯っ!
でも、
「ありがとう。」
一番聞きたい言葉が聞けたから、今日だけは許してもいいかな。
焦げ臭い愛をあげる
(アナタの魔法でおいしくしてね?)