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「…できた。」
粉砂糖をまぶした、まんまるのトリュフチョコ。
私はそれを、真っ白い箱にいれて、真っ赤なリボンで飾りつける。
あの人に貰った、真っ赤なリボンで。
【甘くて甘くて切なくて】
あの人は、とっても優しい。
優しくて、強くて、かっこよくて、
みんなの憧れのまと。
私はほんの数回しか話したことがないけど、それだけであふれんばかりの優しさが伝わってきて。
気がついたら、いつも視線はあの人を追ってた。
それからは、いつもあの人が修行をしている場所に行って、いつもより大きめな足音をたてて歩いてみたり、時には軽く咳き込んでみたり。
するとアナタは私の存在に気づいて「おっ、久しぶり!」って、いつもの笑顔で言うんだ。
そして私がペコッと頭を下げたのを見届けると、ニコッと笑って、また修行を始める。
それ以上話したりはしないけど、それだけでとっても嬉しくて。
そんなある日。
あの人からリボンを貰ったの。
いつもと同じように、お辞儀をして立ち去ろうとした時のことだった。
あの人が近づいてきたんだ。
「これ、友達に貰ったんだけどさ、あげるよ。俺が持ってても使いみちねえし。」
いつもの爽やかな笑顔とともに、はい、と手渡されたそれ。
「え…」と戸惑ていると、彼は私の首にそのリボンを引っ掛けて。
じゃあな、と言ってあっという間に走り去っていった。
「………っ//」
首に触れている、まだぬくもりが残るリボン。
その暖かさを一つも逃さないように、私はリボンを頬にあてて、ぼう…と彼の姿を見つめてしまった。
(本格的に、恋に落ちた瞬間)
私は、幸せ。
それだけで、すごく心が満たされる。
アナタを見てるだけで、幸せ。
(そう、始めはそれだけでよかったんだ)
でもいつからか、金髪の麦藁帽子をかぶった女の子が彼の隣にいた。
それからは私の存在にはちっとも気がついてくれなくって、あの子とばかり笑うの、彼は。
なんだかみていられなくて、
あの麦藁帽子の子みたいに、私も笑顔でお喋りしてみたい、と。
叶わぬ希望を抱くようになった。
(叶わぬ、希望…?)
(違う、私の勇気しだいだ、)
そんなふうにいつもの私にはないぐらい強気になれたのも、今日のこの日、バレンタインという口実のおかげなのかもしれない。
バレンタインを口実に。
甘いチョコレートにたくさんの想いをこめて。
(大好き、大好き)
「(届くと…いいな。)」
チョコレートの入った箱を持っていつもの場所に行けば、いつもと変わらないアナタの姿があった。
ただ1つ違うのは、私の気持ち。
私は木の陰に隠れて、高鳴る気持ちを落ち着かせる。
そんなとき、無情にも現れたのは、あの子だった。
「今日はいつもの人、来ませんね。」
ドキリ、と胸が跳ねる。
私のことえを言っているんだろうとすぐに分かった。
「そうだなー。バレンタインだから、誰かに気持ちを伝えにいってるんじゃないか?」
「!だとしたら、すごく素敵ですね。」
「だなー。」
私が思ってるのは、アナタなのに。
どうしてそんな、
「そういえば、お名前はなんていうんですか?」
名前…?
「あっ、そういえば聞いたことなかったな。」
…ううん、あるよ。
前に一度だけ。
『君、名前は?』
『ふーん、いい名前だな!』
その時のアナタの表情も、周りの情景も、私の胸の鼓動も、熱い、体温も。
私はこんなにも鮮やかに、全てはっきりと覚えてるのに、
アナタの中ではもう、色あせて、それ自体忘れてるんだ。
(そうやって私の存在も忘れられちゃうの?)
私にとってアナタは大きな大きな存在。
私の全てで。毎日に楽しみを与えてくれた人で。
だけど。
アナタにとって私は、ちっぽけな存在。
私は、名前すら覚えてもらえていなかった。
「…。」
ゆっくりと、その場を立ち去った。
近くの小川までやって来た私。
おもむろにシュルル…、とラッピングのリボンをほどく。
それはあの時アナタにもらった真っ赤なリボン。
あの日からずっと大事にしてた。
でも…。
私は意を決して、それを川に投げ入れる。
リボンは音もたてずに水の上に落ちて、
ゆっくりと水を染みこませている。
みるみるうちに赤が深い色に変わっていって、
やがて、音もなく沈んだ。
「うっ…、」
涙が止まらない。
きっとこうして私も、アナタの中から消えていくんだろう。
ふと、チョコがはいっていた箱を開ける。
これも捨ててしまおう。
そう思ったけど、なかなか箱から手が離せない。
「………」
私は無造作にチョコを1つつかみ、口の中に放りこんだ。
……私、このチョコをつくっているとき、楽しかった。
アナタの顔がずっと頭にうかんでいて、すごく楽しかった。
誰かのために何かをするって、こんなにも嬉しくて優しくて楽しいことなんだって気づけたのに。
「(何もしないでこの気持ちをなくすのは嫌だ…!)」
そう思ったときにはもう同時に、体が動いていて。
川の中に入っていた。
まるで狂ったみたいに、必死に水をかき分けて、もがいて。つかんだのは、赤。
それをギュッと握りしめ、行き着く間もなく今度は走り出した。
アナタがいる、いつもの場所へ。
滴る水なんて気にする間もなく、水を吸って重たい体を必死で動かす。
あの場所に着いて、
ザッと立ち止まると、アナタとあのこがこっちを見た。
そして、私に気づき、
「!?どうしたんだ!?」
声をかけてくれた。
(よかった)
(まだアナタの瞳に私は映っている)
(消えて、なかった)
「びしょ濡れじゃないですか!大丈夫ですか!?」
「というか、え…、泣いてるのか?」
その言葉に私はぐっと涙ぬぐい、にっこりと笑顔をつくってみせた。
ほんとはすぐに涙が溢れそうになったけど、さっきのチョコが勇気をくれた気がした。
今もまだ、口の中にのこるその味は、
甘くて甘くて切なくて
(それでも笑顔で言うんだ)
(君の記憶の中で、生きていたいから)
(私の名前は………、)
.