愛しい時間
夢小説お名前変換こちらから
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「レッド。」
「な、なんだ?」
「こぼれてるよ、ミルク。」
私の言葉に、彼は「うお!?」と声をあげてコーヒーに注いでいたミルクの容器をあたふたとしながら持ち直した。
次いで、紙ナプキンでこぼれたミルクをこれまたあたふたとふく。
…おもしろい。
だってポケモンバトルのときはあんなに堂々としている彼が、ここまでしどろもどろになるなんて。
レッドがコーヒーを飲むってこと自体も珍しいから何だが新鮮。
ぷぷっと軽く笑いながら、私もティーカップに入っている紅茶を口に運んでその味を楽しむ。
そしてデザートに運ばれてきたミルフィーユをサクッとナイフで切って、一口。
「ん。おいしい。」
思わずもれた言葉に、レッドも少しほっとしたように笑った。
「イミテ、慣れてるな。」
「なにが?」
「こーゆー店。食べ物の食べ方とか、食器の使い方とか、普通にこなしてるし。」
レッドは少々ふてくされたように言う。
そう、ここは高級とまではいかないけれど料理が一品一品運ばれてくるような、いわゆるちゃんとしたお店。
「ぷ…なんで誘った本人がすねてんの。」
「別にすねちゃいないけど…」
そう言ってそっぽを向く彼の心情は一目瞭然だ。
「まあ、こんな感じのよく来るから。」
「へ!?」
「あれ?言ったことなかったっけ?ブルーがね、レストランのオーナーさんとかの知り合いがいて、その人から優待券みたいなのもらってるみたいでさ。期限切れるともったいないからってよく私も誘ってくれるの。」
「ああ、なるほど…」
ほっとしたように息をはくレッド。
そりゃあ自腹でこーゆーお店にそう何度も来れないよ。
「レッドは?こういうとよく来るの?長年一緒にいたのに初めて知ったー。」
「…おい。それ、今までの俺のふるまい見といて聞くか?普通。」
「あはは、冗談。ちょっとからかってみようかと思って。」
「ったく…」
いつものこの穏やかな雰囲気に、2人してくすりと笑う。
「ねえ、なんでめったに来ないのに、今日誘ったの?」
それを聞いた瞬間、まさにギクリという効果音がぴったりなぐらい目の前の彼は固まった。
そして、目を泳がせる。
「え、いや…その、」
「ま、いいけどさ。」
なんだかふびんに思えたからそう言って、何事もなかったかのようにまた紅茶を口に運んだ。
「…もしかして、嫌だったか?」
「ううん。料理もおいしかったし、お店の雰囲気もいいし、私は楽しいけど。」
「!」
ぱあっとレッドの表情が明るくなる。
分かりやすいんだから、全く。
「唐突だとは思うんだけどさあ、」
「うん?」
「俺達が初めて会ったのって、もうずいぶん前だよな。」
「まあ、思い返せば長い付き合いだよね。」
くるくる、くるくる。
まるで螺旋みたいに回ってる。
「初めて会ったのはシロガネ山で、俺が修行してたときで、」
「私もあの時はびっくりしたなあ。可愛いピカチュウがいたからつい追いかけたら、ポケモンリーグ優勝者がいたんだもん。」
「はは!イミテ、あのときピカのこと捕まえようと思ってたんだろ?」
「ふふ。あわよくばね。」
こちらの様子をうかがうように
くるくる、くるくる。
「でもそれがきっかけで「ねえ。言いたいこと、あるんでしょ?」
遮った。
だって、そんなのアナタには似合わない。
いつだって、
真っ直ぐなアナタには。
「…っ!//」
レッドは驚いたように、そして何か言い返そうと思ったのかコイキングみたいに口をパクパクさせていたけど、やがてあきらめてため息をついていた。
背伸びなんてしなくていい。
そうだよ。
わざわざこんないつもより高いレストランでランチなんかしなくったって、そこらへんのファミレスでも良かったのに。
別にお店に入らなくても、公園でも、シロガネ山でも、草原でも、いっそ、道端でも。
…あ、やっぱり道端はさすがに嫌かなあ…。
でもね。
私はね、
自分がアナタ以外の人の隣にいるなんて想像がつかなくて。
そんなの考えられなくて。
考えたこともなくて。
ずっとずっと
アナタだけしか見ていなくて。
ま、レッドは鈍感だから
どーせ私の気持ちの大きさには気づいてないんだろうけど。
こんなに
こんなに、こんなに、
大切に思ってるのに
「レッド。なに?」
だから、さ
どんなシチュエーションだって、答えは変わらないのに。
バカだなあ。
それをこんなに頑張っちゃって。
鈍感だからこーゆーことになるんだよ。
今だって緊張しまくりじゃない。
「…っ、」
決意したかのように、レッドが改めて私を見る。
さあ、螺旋が終わったら、
あとは一直線
「俺と、結婚してください。」
ずっと欲しかった言葉に、私は思わず笑ってしまった。
ティーカップ螺旋
(ねえ、どれだけ待ったと思ってるの?)