人魚姫の投影
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だからさあ、クリス―…、
「アナタがいなくなればゴールドはあたしをみてくれると思わない?」
あたしがそう言うと目の前に座り込んでいる彼女はびくりと肩を奮わせた。
そして水晶玉のような澄んだ瞳であたしを恐る恐る見あげてる。
今は夜。
明かりも何もないこの部屋は暗い。
ほんの少し開いていてカーテンから、月明かりが差し込んでくる程度。
キラリ、とほのかに彼女の瞳が光っているのが分かった。
「何で泣いてんの?泣きたいのはこっちなのに。あたし、ずっと苦しい思いしてきたんだよ?」
影でたくさん泣いた。
誰も見てないとこでたくさん泣いた。
でも次の日には笑った。
この想いはバレちゃいけないから。
―……辛かった。
何もしらないで笑ってるクリスが憎かった。
ああ、憎い憎い、
あたしの右手にある果物ナイフが月明かりを浴びてギラリと光る。
刃先からはポタポタと赤い液体が流れおちる。
これはクリスの血。
さっき彼女の腕を切った時にあふれでてついたもの。
あまりに勢いよくでたから、私の服まで赤く汚れちゃった。
手にまでついて、少し生臭い。ぬるぬるする。
ああ、早く終わらせて洗いたい。
「ど、うして…?イミテ……。」
喉から懸命にしぼりだしたようなクリスのかすれた声。
「どうして?さっき言ったじゃない。邪魔なの、クリス。」
すぐにでも私の目の前から消えて欲しい。
クリスを見てるだけで、今までのこと思い出して胃がムカムカする。
「あたし、クリスのこと大嫌い。嘘つきなんだもの。」
「嘘なんてついてない…!」
噛みつくようにそう言ったクリス。
でも自分の声が傷口に響いたのか、彼女は「うっ…」と顔をしかめる。
いい気味だ。
クリスなんて精一杯苦しめばいい。
あたしのがアナタの何十倍も辛い思いしてきたんだもの。
ここにはあたしとクリスの2人だけしかいない。
アナタに手を差し伸べてくれる人はいないよ?
額に汗うかべちゃって…、そんなに痛いの?
どうせまた、被害者ぶって誰かに心配してほしいだけじゃないの?
いっそ、もう一度きりつけてやろうか。
あたしがナイフを手にしたまま一歩足を進めると、クリスは必死に手足を動かして後ずさる。
後ろは壁だからそれ以上は下がれないっていうのに。
「お願い、やめて…。お願い…。」
すがるようにあたしに助けを求める彼女。
「じゃあさ、約束して?」
あたしだってそこまでひどい人じゃないの。
今ならまだ、許してあげる。
「誰にも見つからないような、場所に行って。」
「え……。」
私はクリスに言う。
「そして一生あたしの前に姿を見せないで。ゴールドにも近づかないで、話さないで、“ゴールド”って名前を呼ばないで。一生。」
言う。
「今なら、それで許してあげるよ。」
クリスの眉がピクリと動いた。
彼女はそれを受け入れる。
あたしはそう確信していた。
この状況で、これを断る人なんていないだろう。
自ら消えるか殺されるかの2択。
もちろん彼女も前者を選ぶ。
「………い、や。」
………クリスってこんなにバカだったっけ。
頭いいと思ってたんだけどな。
「……どうして?」
とりあえず、聞いてみた。
また一歩彼女に近づいて、ナイフの柄を握り直して。
彼女はそれを見て、ゴクリと唾をのんでいた。
そして意を決したようにあたしを見つめ直す。
「ごめんなさい…、ごめんなさい、イミテ……。」
彼女の口からもれたのは謝罪の言葉。
「私は、……ゴールドが、好き。」
一番聞きたくなかった言葉が聞こえた
ああ、やっぱり
王子様はだまされてるの
王子様を救ったのは、
本当に愛してるのは、
人魚姫だったのに
お姫様はうそをついてる
うそつきなの
王子様をだましてる