アナタにとっての、あたし
夢小説お名前変換こちらから
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ジム戦の後、グリーンは「やる気があるなら明日からジムに来い」と言ってくれた。
その日からトキワジムに通うのが日課になったあたし。
悔しいけど彼はかなりの実力者で、教え方も上手い。
おかげであたしは少しは成長できた気がする。
唐突なあたしの頼みを聞いてくれて、いつも文句も言わずに修業につき合ってくれるグリーン……。
(たまに眉間にシワをよせたり、ため息はついてるけど)
グリーンはいい奴なのかもしれない。
この日もいつもの通り、ギイッと試合場の扉を開ける。
すると、まさに目の前でサイドンとニドキングががっしりとつかみ合っていた。
「う、わぁ…!」
間近で見る凄まじい押し合いに、思わず感嘆の声がもれる。
「『じしん』だ!」
あ、グリーンの声。
迷いがない、その凛とした声に反応してサイドンは大きく地面を踏んだ。
途端にジムがグラグラと揺れる。
「ニドキング、よけ―……」
グリーンの向かい側にたっている……たぶん挑戦者である少年は、指示の途中で言葉を失った。
ニドキングが大きな音を立てて倒れたから。
どうやらサイドンに肩を掴まれて、避けるに避けられなかったらしい。
「ニドキング、戦闘不能だ。その程度で俺に挑もうなんて身の程知らずだな。もっとレベルを上げてから挑戦しに来い。」
「……っ!」
グリーンがそう淡々と言うと、ショックを受けたのか少年は何も言わずにあたしが今さっき開けたドアから出て行った。
こんなんだからトキワジムリーダーは容赦がない、冷酷だ、とかいう噂がたつのも無理はない。
でも、あたし、しばらくグリーンと一緒にいて気づいたんだ。
グリーン、あの子が強くなれるようにわざと冷たくしたてるんだろ?
わざと自分が悪者になってるんだろ?
だってほら、男の子が出て行った扉の方を見て、優しい表情になってる。
(やっぱりグリーンはいい奴だ)
「グリーン、もう少し気のきいた言葉かけてやれないのか?」
「……いたのか。」
「今さっき来たんだ。あの男の子、泣きそうな顔してたぞ。」
「知るか。アイツが本当に強いなら、修行してまた挑戦しにくるだろ。」
「厳しいなあ、グリーンは。」
はは、と笑えばあからさまに嫌そうな顔をされた。
「なあ、グリーン!甘いもの嫌いだったよな?」
「何だ、急に。」
「今日はみやげがあるんだ!」
あたしは持っていた紙袋から箱をとりだし、グリーンに無理矢理おしつけた。
「?」
「ケーキだよ!グリーン、甘いもの嫌いだろ!」
「それさっきも言ったろ。知ってるなら持ってくるな。いやがらせか。」
「何言ってんだ。だからこそケーキなんだろ!グリーンに甘いものの素晴らしさを伝えるために買ってきたんだよ!」
「……いらん。」
ため息とともに、箱ごと突き返される。
「日頃のお礼の気持ちもこめられてんのに!」
「バトルの腕をあげることが一番の礼だと思うが?」
「もっと目に見えるものでお礼したかったんだ!」
あたしは箱からケーキをだして、そばにあった少し小さめのテーブルに置く。
「人気店のだから高かったのになー。」
「……。」
「グリーンの為にコーヒー風味の奴にしたのになー。」
「……。」
「食べてくれないなんて、テンション下が…「うるさい。」
さすがにやりすぎた?と思い顔を上げたら、
「あ、」
グリーンがケーキをパクリと一口、口に運んだ。
口元についたクリームを、その長くて綺麗な指で拭うと一言、「甘い…」と。
そんな彼の様子に、自然と笑顔になってしまった。
「グリーンが、ケーキ食べた…!」
「食べないとお前、一向に修行始めないだろ?」
「はは!ごもっとも。ついでにもう一口いっとく?」
「殺す気か。残りはお前が食べろ。」
グリーンはくるりと背を向け歩き出す。
たぶんコーヒーをいれるため、お湯を沸かしに行くんだろう。
「グリーン、あたしは紅茶で。砂糖とミルクたっぷりね。」
笑いながらそう言ったら、返事の変わりにはあ、と言うため息が聞こえた。
でもきっと彼はしばらくしたら、自分の分の苦いコーヒーと、あたしの分の甘い紅茶を持って戻ってくるだろう。
正反対の好み
(でも不思議と居心地はいい)