ロマンチストはいない
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「レッドくんに、バレンタインに、それもらったの。」
「は?こんな、」
「グリーンはそんなちっぽけなものもらったぐらいでって思うかもしれないけど、私にはそれが特別なの!バレンタイン、なにも作らなくて後悔してた私に、ホワイトデーを渡すための口実に、なんとかして、くれたものなんだから!!」
「……。」
「たしかに、それまでは隣の席になっただけっていう理由でレッドくんが気になってて、本当に青春時代特有の、その場の雰囲気に流された理由だった。」
「でも…!」と、ほんの少し涙目になってイミテは必死に続ける。
「たった1つ、そのチョコをくれたってだけだけど、そこに彼の気遣いとか優しさとか、全部全部つまってて…!だから、きっと…、彼のこと好きになるって、思って…」
「イミテ。」
「この気持ちは流されたものじゃない!今だけなんかじゃ…ない!」
「イミテ。」
なんとか堪えようとしたけれど、堪えきれなかったのだろう。
ポロポロと涙を流しながら訴えるイミテに近づき、彼女にとって大切なものらしいチョコを差し出す。
「大切なものなら…投げるな。」
「…っ、うるさい!」
バッと奪い取るようにして俺の手からチョコを取ったイミテ。
ごしごしと手の甲で涙をふいている。
「…おい。お前今手に小麦粉ついて…」
「~っ……」
イミテはふい、と俺に背を向ける。
もうこの件で余計なことを言われるのは嫌なのだろう。
ここから立ち去りたいと思っているはずだ。
(ちょうどリビングの扉への通り道に俺が立っているから、それもできないのだろう)
……彼女の気持ちは分かる。
俺も…気が立っていて、つい思ってもないことを言った。
イミテが好きになったのなら、その好きという感情は周りの空気に流されたものでも、一瞬の気の迷いでもなくて、本当に好きになった、という感情に決まっているのに。
(そういう奴だから。)
「……悪かった。」
後ろを向いたままの、イミテの背中に投げかける。
「今のは…ほぼ八つ当たりだ。悪い。」
「……。」
「……。ああ、でも、お前とレッドは似合わない、と言ったのは本当だから、謝らない。」
「は……!?な、」
くるり、とこっちを振り返ったイミテの腕をひいて、そのまま抱き寄せる。
暴れるかと思ったけれど、突然の出来事に思考がついていかなかったのか、ぴくりとも抵抗はなかった。
「俺なら…そのままのお前のことを知ってる。知ったうえで、お前が好きなんだ。」
こんな、相手を怒らせたタイミングでの告白なんて。
我ながら、ムードもなにもないと思う。
……まあ、それでいい。
何度もハプニングを乗りこえて、徐々にお互いひかれあって、まさに好きという感情があふれそうな読者が待ち望んだタイミングと、最高のシチュエーションでの、恋愛漫画のような告白なんて、望んでない。
「……なに…、言って、」
「好きだ。」
「な、なんで……!?」
「なんでって、お前……。愛の言葉でも述べられたいのか?」
「!?いいいいいい!」
コイツ、完全に動揺してる。
「お前は全然気づいてなかったが、俺は、」
鈍感なコイツに説明しようと抱きしめていたのをゆるめて、身体を離す、と、イミテは顔を真っ赤にしていて。
いや、それ依然に……
「ぷ……!」
「!?なんでそこで笑うの!?は?まさか冗談、今の……!」
「いや、お前……小麦粉で目の回りが、白く……!くく…!」
「!あ、さっき目こすったから…!」
「ムードもなにもないのは、お互い様だな。」
「!」
服の袖でゴシゴシとイミテの顔をこすれば、完全におちたとはいえないが、まあ少しはましになった。
「……おかしいな。グリーンがそんな優しい笑みをうかべるとこ、生まれて初めてみた。」
「…」
「それに、こんなキザな行動するなんて、思ってもみなかった。」
「あのなあ…。」
「グリーンが、変だ。…バカだ。」
頬に手を当てて、ずるずるとイミテはその場にしゃがみこむ。
また小麦粉が顔に…まあいいか。
混乱してるせいで、即答で断られなかったことが唯一の救い、か?
「…………好きだ。」
もう一度言えば、イミテの頬はやはり赤く染まって。
でも。ためらいがちにうつむいて、顔を手でおおう。
「だから、小麦粉がつくって……」
そう言ってるだろ、と、何も気づいていないふりしてさらりと言ってみるが、
今彼女がどんな表情をしているか、
どんな思いでいるのかは、
よほどのロマンチストでなければ、分かる。
(そして俺は、)
(ロマンチストではない)
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