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「…落ち着くまで待つ的なこと言ったばっかりなのに。」
「今のはイミテが煽ったのが悪い。」
「煽ってない。思ったこと言ったまでだし!」
「…だから、な。そういうのが煽ってるんだって。」
困ったように苦笑した彼は、再び私を抱き寄せた。
壊れ物にでも触れるときのように優しく抱きしめられる。
「俺、イミテの髪の匂い好き。」
「え、やだ、変態っぽいこと言わないでよ!」
「変態ってなんだよその言い方ー。イミテが使ってるシャンプーの匂いだよな、これ。いい匂い。」
レッドは私の耳元に顔を寄せて、言う。
「ちょ…やだ、」
恥ずかしくなって身をよじる。…優しく抱きしめられているはずなのに全く逃げられない。
どうなってんの、これ。
「やっぱりちゃんとイミテの分のお風呂道具買ってきて正解だったな。」
「まあ…ね。」
レッドは呑気にそんなことをつぶやいた。
実は。レッドの家に泊まるのは今日が初めてで。
しかも今日のパーティーの帰りに、「今日さ、泊まってけば?」なんて爽やかな笑顔で言われて、何の前触れもなく決まったことだから、私は当然お泊まりセットなんて何も準備していなくて。
近くのコンビニでとりあえず化粧落としとか最低限の衣類とかを買ったついでに、シャンプーとコンディショナー、そしてトリートメントも買っといた。
理由は私がいつも使ってるやつじゃないと嫌だからという妙なこだわりがあったから。
最初は小さな旅行用の大きさのヤツを買おうとしたんだけど、レッドが「どうせなら大きいの買って、イミテ用にウチに置いとけよ。」なんて言うから、普通のボトルサイズのやつを買ったんだ。
「おかげでこれからはいつレッドの家に泊まっても、お風呂の面では困らないね。」
「はは。俺は毎日でも歓迎するけど?」
そう言ってまた、首筋にキスが落とされる。
「…レッド、今日はやけに積極的だね。もう私、心臓破裂寸前なんだけど。」
冷静を装って本音を言えば、彼はとても楽しそうに笑う。
「そりゃあ俺、今日は何しても許される日だし?有効活用しないとな!」
「誕生日ってそんな日だっけ!?あ、レッド。ほら、見てみなさい!」
私はビシッと、部屋の時計を指差す。
パーティーをしたりいろいろしていたからもう時計の針は23:53をさしていた。
8月8日がもうすぐ終わる。
「レッドが好き勝手出来るのもあと少しね!」
「…じゃあ時間までこのままでいよ。」
ギュッと、今度は強く抱きしめられた。
「苦しいっ!」
「あー、やっぱこの匂い好きだな。」
「会話が成り立ってないよ、レッド。」
聞いてないふりをしつつも少し腕の力を緩める彼。
やっぱり、ね。
大好きだよ。そういう優しいところも、全部ぜんぶ。
「…レッドの誕生日が終わるの、名残惜しいなあ。」
「え?」
「誕生日なら、レッドのことこうして独り占めしてられるんだもん。いつもいつも修行とかでいないし、こんな機会滅多にない。」
「もしかして、さびしかった?」
「んー、少しね。」
そう言って軽く笑って見せる。
次いで、彼の胸に顔を埋めた。
レッドのこと変態とか言っておきながら、なんだかんだで私も彼の匂いが好きだ。…安心する。
「私、8月8日って一番好きかも。」
大好きな彼が生まれた日だから。
とてもとても、大切な日だから。
彼と知り合ってなかったら、きっとこの日はいつもと何ら変わらない、普通の1日だった。
不思議、だなあ。
「(また可愛いことを…)」
「あ。そんなこと言ってる間にあと1分で今日が終わるよ。」
「あーあ。早かったなー。」
「ねえレッド。誕生日最後に私にしてほしいこと、何かない?」
彼に向かって笑う。
「そういうの、煽ってるって言うんだぜ?」
「知ってる。今のはわざと。」
「…へー。さっきとは打って変わって、余裕だな。」
レッドも私に向かってニッと笑った。
そして、続ける。
「してほしいことなんて、決まってるだろ。」
「…あ。あと5秒で終わ、」
気恥ずかしくなって話をそらそうとした私の唇は、彼の唇でふさがれた。
秒針は進む
(私の一番大切な日は)
(大好きな彼が生まれた日)
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