すり替わったヒロイン
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『ねえ、アナタ!』
思い返せば。
あの子よりも、私の方が先に、話しかけられたのに。
『この辺で傷だらけのピカチュウ見なかった!?』
『あ…はい、さっき向こうに走っていきましたけど…』
『!困ってるの!一緒に探してくれない!?』
『え、』
『お願い!』
『…は、はい、』
そのまま行けばなんの問題もなかったのに。
でも。
偶然、そこにいたあの子に。
偶然、出くわしてしまったから。
『!イエロー!』
『あれ?どうしたの?なんだかあわててる?』
『うん!緊急事態で、この辺で傷ついたピカチュウ、見てない!?』
『え、ちょっと待って。ラッちゃんに聞いてみる!……見てないって。』
『ちょっと待って!アンタ今、何したの!?』
『ええと、ポケモンの気持ちを読みとったんです。』
『え…!?』
『“トキワの力”っていうのがあって…』
同じ、トキワシティ出身なのに。
同じ、年齢なのに。
同じ、性別なのに。
『じゃあアンタ達2人とも、レッドに助けられたことがあるの!?』
『はい。ミニリュウに襲われそうになったところをフシギダネで…』
『彼に、何かあったんですか!?』
私もあの子も、ピンチの時に助けてくれたヒーローみたいな彼に、同じように憧れていたのに。
『イエロー、って言ったかしら?ちょっとだけ協力してくれない?実はアイツは今、』
同じ、なのに。
トキワの力を持っているあの子ばかりが、いつも私の先をいく。
『…前、助けてくれたあの人が、危機に…』
『協力してくれないかしら!?』
『ダメだよ!イエローはバトル苦手だし、そんな危険なこと…!ダメ!危ない!』
『そうだけど、でも…。あの人が危険な目にあっているのなら…少しでも、力になれるのなら…。』
『イエロー!!』
『平気よ。危険なことはさせないわ。ただ情報を集めてくれればいいだけだから。…そうだ、そんなに心配なら、アンタも一緒に旅してあげてよ。』
もしも私が最初に頼まれていたのなら、もちろん、と2つ返事で頷いただろう。
でもプライドが邪魔をして、私は、このとき意地をはってしまったんだ。
『絶対に行きません!!いいの、イエロー!?1人で旅することになるんだよ!?』
『…うん。それでも、“僕”が行かなきゃ。』
『…っ、』
意志の強い瞳に、一瞬ひるんだ。
本当は私だって彼の助けになりたかった。
だけど、そのときにはもう手遅れで。
『やっぱり…』なんて言いだす勇気、私にはなくて。
『じゃあ勝手にすれば!?』
結局、彼を救う自信が、私にはなくて。
「よ!」
「!レッド、さん、」
「悪い、驚かせた?」
そんなことないです、という意味をこめて首を横にぶんぶんとふる。
今日会えるなんて思ってなかったから、嬉しすぎて心臓がバクバクいってる。
そんな私の行動がおもしろかったのか、レッドさんはハハッ!と笑って、そして告げる。
「今日さ、イエロー見かけたりしてない?」
「え?」
「いやあ…待ち合わせしてたんだけど、一向に来なくてさ。アイツのことだから、またどっかでうたた寝でもしてんのかなあって思って。」
そう話す彼の表情はひどく優しい。
なんだか見ていられなくって。
顔を背けて私は言った。
「見てない、です。ごめんなさい。」
「そっか。こっちこそごめんな。もう少し探してみるよ。」
爽やかな笑顔を見せて、彼は早々に背を向ける。
「っ、」
彼女のところに行かないでください
私も、アナタが好きなんです
そんな言葉をいう権利、私にはこれっぽっちもないだろう。
あの日、ヒロインを放棄した私には。
すり替わったヒロイン
(あの子にあって、私にはないもの)
(残念なことに、)
(私には今も、それがない)
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