いつか、きれいな思い出になるの
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「……、」
「……あのさ。」
「は、はい!」
私が何も言えずにいると、レッドくんが口をひらいた。
どうしよう。用もないのに呼び止めるな、とか?
言われるよね、普通。
「…イミテはチョコ、もらったのか。」
「……へ?」
予想もしていなかった質問に、気の抜けた声がでてしまった。
チョコをあげたのか、じゃなくて、もらったのか?
「バレンタインだろ。今日。だからチョコもらったのかなあ、って。」
「まあ…友チョコをなんこか。」
「え、それだけ?」
「え、うん。え?それだけって、なに?どういうこと?」
「いや、別に…」
「……私、女の子なんだけど……」
「?知ってるけど?」
「いや、ほら、なにが言いたいかっていうともらう立場じゃなくてあげる立場…」
「?」
私はレッドくんの質問の主旨が分かっていなくて。レッドくんは私の言いたいことが分かっていなくて。
バレンタインチョコについて話しているのは同じなのに、全く会話がかみあっていない。
「ああ!そういうことか!悪い、分かりづらくて。放課後のやつが、ちょっと気になっててさ。」
「放課後?なにかあったっけ…?」
「グリーンに、呼び出されたろ?」
「あ。あれ?呼び出されたってほどでもないけどね。」
「そうなのか?それ見てずっと、逆チョコかなあって思ってて。」
「え……!違う違う!あれは、グリーンのお姉さんが作ったチョコをもらってただけだよ。」
「お姉さん?ナナミさんか!なんだ、そういうことか。」
はー、っとレッドくんは安心したかのようにため息をついた。
「というかレッドくん、グリーンのことはともかく、ナナミさんのことも知ってるんだ。グリーンと仲いいの?」
「んーまあそれなりに?俺とグリーン入学してからずっとクラス一緒だったんだぜ。違うのは今年だけで。」
「そうなの!?知らなかった!私は一度も同じクラスになったことないからなあ。」
「イミテはグリーンといつ知り合ったんだ?」
「ずーっと前!昔ナナミさんと習い事が同じで。ちょこちょこ家に遊びに行ってたから、グリーンとも仲良くなったの。幼なじみってやつかな。」
「ふーん…。……じゃあ。チョコ、グリーンにあげたのか?むしろ毎年あげてるてきな?」
「まさか!グリーンは甘いもの嫌いだからわざわざあげたら嫌がらせに近いよ。」
「はは!嫌がらせって、おもしろいこと言うな。」
半ば冗談、半ば本気なんだけどね。
毎年毎年必死で逃げてチョコをもらうことを避けてるもん、グリーン。
「…そもそも私今年は誰にも作ってなくて。」
「え?義理チョコとかも?」
「うん。もらった人にはホワイトデーに返せばいいかなーなんて…。」
あ、しまった。
グリーンにもブルーにも、それって女としてどうなの?って顔されたんだった。
レッドくんだって……、
「…なんだ、そういうことか。」
「え?」
レッドくんは何故か嬉しそうに笑っていた。
「隣の席のよしみでもらえるかも、なんてドキドキしてたんだけどな。残念。」
続けて、冗談っぽく笑う。
「あはは、そんなこといって。レッドくん、いっぱいもらったでしょ?」
「そんなもらえてないけど…。というかさ、数じゃなくて、誰からもらえるかじゃねえ?イミテからもらえてたら俺すげえ喜んでたと思う。きっと。」
「…う、うそだあ!!」
「ホントだって!」
レッドくんは相変わらずニコニコしてて、 冗談の延長だかなんなんだか、よめない。
「…………。」
でも…冗談でもそんなこと言われたら、あげればよかった、なんて。
手作りの気合いがこもったものだって、彼が言ってたように隣の席だからって理由で特に気にすることもなく受け取ってくれたかもしれない。
「……じゃ、じゃあ……これあげる。」
ポケットに入っていたお菓子を1つ、レッドくんに差し出す。
「え?チョコ?」
「ううん、アメ…」
「アメ?」
つまむようにして受けとると、レッドくんはきょとんとした様子でそれを見つめた。
「なにかあげたいな、と思ったんだけど、今、これしかもってなくて…。」
「……。」
「こ、こんなしょぼいもの、もらってもこまるよね!せめてチョコならまだましだったんだろうけど…
「返して」と、レッドくんがつまんでいるアメをとろうとすると、ひょいっと彼は手を上にあげてそれをかわした。
「すげえ嬉しい、ありがとな!」
「……ほ、ほんとによろこんだ!」
「なんだよ、喜ぶっていったじゃん。」
ケラケラと楽しげに笑う、レッドくん。
おかしくなって、私も思わず笑ってしまった。
思い返せばこんなに長い時間話したのは初めてだ。
長い時間といっても、たった数十分程度なんだけれど。
(それでも、特別。)
「やっぱり、作ればよかったなあ…。」
気づけば、つぶやいていた。
「え?」
「な、なんでもない!」
あわてて隠すけどレッドにはばっちり聞こえてたみたいで。
「……じゃあ。これ、やるよ。」
はい、とレッドくんが握り拳をつくって、私の目の前につきだす。
両手を広げると、ニンフィアが描かれた可愛らしい包み紙の、1粒大のチョコレートがころがった。(ニンフィアの柄の部分以外は透明だったからチョコだって分かった。)
「わ。チョコだ。」
「俺も今こんなのしかもってなくて悪いけど…。」
「全然!ありがとう。私、ニンフィアが一番好きなんだ。」
「知ってる。」
「え?」と聞き返したけど、レッドくんは相変わらずにっこりと笑っていて、それをかわした。
「よし!受け取ったな!」
「え!?なに!?急に!?」
「ホワイトデー、楽しみにしてる!」
「ええ!?」
「バレンタインうけとったらお返ししなきゃだろ?」
「そうだけど……!」
「……そのときに手作りしてくれよ。楽しみにしてるからさ!」
「(あ。)」
もしかして、私のこと気遣ってくれたのかな。
胸がじんわりと温かくなって、なんだかすごく嬉しくて。
「……うん。」
レッドくんからもらったチョコをぎゅっとにぎりしめて、しっかりと頷いた。
レッドくんもそれを見て、「よし。」なんて少し頬を赤くして笑って。
「じゃ!俺、そろそろいくから。」
「あ!うん!部活、がんばって……」
私がその言葉をいい終えるかいい終えないかのうちに、早足で教室から出ていった。
「……嘘みたい。」
つぶやいて、椅子にドサッと座る。
今までの緊張が一気にとけてしまった。
ああ、もう。
まだドキドキしてるや、私。
冷めた目をして味気ない毎日を過ごしている幼なじみに、声を大にして言ってやりたい。
"今だけ"って、"今しかない"ってことで。
そんな時期をなにもせずに過ごすのはもったいなくて。
今この瞬間、私はすごく幸せで、楽しくて。
(青春は、甘酸っぱい?)
(いいえ、こんなにも甘すぎて、幸せで、溶けてしまいそうなんです)
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