いつか、きれいな思い出になるの
夢小説お名前変換こちらから
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ちょっとイミテ!聞いてる!?」
「き、聞いてる聞いてる。それにしても、ブルー自分からあげるのはいいのに、もらうのは嫌なんだね。」
ブルーはいつもバレンタインには小さいチョコがたくさんつまっていて、1つあたりにすると20円程度になるお買い得なチョコを、男子たちに配り歩いている。
てっきりホワイトデーのお返し目当てかと思っていたけど…。
「もらうのが嫌なわけじゃないわよ。手作りとか、心のこもったものとか、そういういかにも青春臭いものをもらうのが嫌なだけ。重いだけだもの。」
「……。」
「アクセサリーとか、高級デパートで売ってるようなスイーツとか、ブランドもののバックとかなら大歓迎♪ホワイトデーのお返し、今年はどんなものに化けて返ってくるか楽しみだわ。」
「そ、そう……」
こんなこじらせた考え方(え?ひどいって?)してても、男の子からしたらブルーはチョコを恵んでくれる女神様に見えるんだろうなあ。うーん…哀れ。
「ブルーって小悪魔とおりこして悪魔だよね!あはは。」
「そうかもね。うふふふふ。」
「ごめんなさい!言い過ぎました!」
ブルー、目が笑ってない…!怖いよう…!!
「イミテは今年は誰にもあげないんだっけ?義理も、友チョコも。」
「うん。なーんか、こういうイベント事のノリ、つかれちゃって。やる気おきなかった。」
「女子高生がいうセリフじゃないわね、それ。女子高生どころか、女を捨てたようなセリフね。」
「お返し目当てでチョコを配りあるくブルーに言われたくないですー!もー!女を捨てたのかって、グリーンにも言われた。」
「グリーン?…ああ、あの少し顔が整ってるからって調子にのってる、目付き悪いやつね。」
「どうしてブルーの中でそんな嫌な印象がついてるの!?グリーンは…本当はいい人だよ。」
女の子からの愛情のこもったチョコ受け取ってくれないけど、と心の中で一言たしといた。
「まあ…ちょっといろいろあってね。それにしても…そういうことね。アイツもちょっとだけかわいそうだわ。」
「?なに?」
「アンタは気にしなくていい話。さーて!また恵まれない男の子たちにチョコ配りに行こうかしらね。じゃあね。」
「…あんまり犠牲者を増やさないようにね。バイバイ。」
ブルーは相変わらず例の逆チョコを汚いものを持つように持って、去っていった。
「(まるで嵐がきたかのようだった…)」
なんとなく気だるさを感じて、机に突っ伏してみる。
ちょっと休憩してから帰ろう…。
窓は閉まっているのに、わいわいがやがやと校庭は少しだけ騒がしい音。
廊下からもちらほらと話し声がきこえる。
いつもはこの時間になると皆部活にいくから廊下は案外静かなのに。
これも、バレンタインのせいかな。
「やっぱり、変なの。」
グリーンみたいにチョコをもらいたくなくて女の子から逃げてる人がいたり、ブルーみたいにお返し目当てで義理チョコをばらまいてる人がいたり、そのチョコを喜んで受け取ってる人がいたり、逆チョコに思いをこめる男の子がいたり。
私みたいに何のやる気もない人がいたり…。
皆、それぞれ違う考え方をして、違う過ごし方をしてる。
「(それも今だけ、なんでしょう?)」
大人になったらきっと、こんな気持ち忘れちゃうんだよ。
だったら…
(だったら?…ううん……、だから……?)
ああ、そっか…
「今しか、ないんだ……」
ポツリと、つぶやく。
「なにが……?」
「え!?」
私以外の声が聞こえて反射的に顔をあげると、レッドくんがきょとんとした表情でこっちを見ていた。
「「……。」」
二人してしばらく沈黙したあと、「えーっと……まだいたんだな。」とレッドくんは少しだけ気まずそうに口をひらいた。
「あ、うん…ちょっと話し込んじゃって。」
「話し込むって……」
「え?」
「……いや、なんでもない。」
なにが言いたかったんだろう、と首を傾げると、レッドくんはうっすらと笑った。
「レッドくん、は?なんでここに?」
「俺は忘れ物とりに。もう誰もいないと思ってたからびっくりしたー。」
「こっちのセリフだよ。急にレッドくんの声が聞こえたんだもん。」
「ははっ。寝てんのかと思って声かけなかったんだ。そしたら急につぶやくから…。」
「さ、さすがにこんなとこで寝ないよ!」
焦る私に、レッドくんはははっと笑って、机の横にひっかけていた紙袋を手に取る。
忘れ物ってそれか。意外と大きい忘れ物だな。
「じゃ。イミテも早く帰れよ。」
「あー……うん。」
あ、もう行っちゃうんだ。
そりゃあそうだよね。もう用はすんだんだもん。
ああ、でも。レッドくんとこんなに長く話したの久々だな。
会話らしい会話はしなかったけど。
「レッドくん、」
「ん?」
この時間が終わるのがもったいない。もう少しだけ、話していたかったな。
そんな思いだけで思わず呼び止めてしまったけど、特に話すことがあるわけでもなくて。
「えっと……、」
「?」
ああ、もう。どうしよう。
もう少しでいいからここにいてほしいなんて。
.