いつか、きれいな思い出になるの
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放課後。
朝の挨拶以降、その日1日、特にレッドくんと話すことはなかったし、特に目もあわなかった。
パラパラと人が帰り出す。
レッドくんも黙々と帰り支度をしている。
「(レッドくんは、)」
チョコレート、誰かからもらったのかな。
気になりながらも、聞く勇気も、知る勇気もなくて。
まあ聞いたところで私がチョコを渡すこともないんだけれど。
それでも、誰かからもらっていたら………ちょっとだけ嫌だな、なんて。
(そんな、妙な独占欲)
のろのろと帰り支度をしていると「イミテ。」と私の名前が呼ばれた。
声がしたほうに目をやれば、教室のドアに不機嫌そうな顔をしているグリーンの姿があって。
「なに、どうしたの?」
私が駆け寄ると、彼は私ではなく廊下の方をちらちらと気にしながらいつもよりも小声で話し始める。
「ひとまず巻いたか…」
「え?…ああ、またファンの子におわれてたの?ふふ…モテ男は大変ですねえ。」
「おい、人の不幸を楽しむな。」
「えー?だって所詮他人事だしー。というかグリーンもひどいなあ、女の子がたくさんチョコをくれようとしてるのに、それを不幸とか言っちゃうんだから。」
世の中のモテない男子の敵だね!と指差していえば、不機嫌そうな顔をしながら指をはらわれる。
「見ず知らずのやつにチョコをもらったところで、嬉しくもなんともない。」
「私が男だったら見ず知らずの人からでも嬉しいけどなあ。」
「…他に好きなヤツがいても、か?」
「え?その渡してきた人にってこと?それって義理チョコじゃん。まあ義理チョコでももらえたら嬉しいけどさ!」
「…はあ。」
私の考えにたいしてなのか分からないけれど(いやきっと十中八九そうだろう。)グリーンは呆れたようにため息をつく。
「なに?喧嘩うりにきたの?」
「…。ほら。」
グリーンは相変わらず不機嫌そうに、私にむかって小さな紙袋を差し出した。
ピンクのストライプの柄の入った白い紙袋に、グリーンがそれを持っていることに対して笑っちゃうような、とても可愛らしい真っ赤なリボンがちょこんと飾り付けられている。
「なに、これ…」
「バレンタインのチョコレートだ。姉さんからの。」
「え!うそ!やったー!!」
ナナミさんから!?
ナナミさんからと分かったとたん、一際輝いて見えるその紙袋を両手で大事に受けとった。
だってあの美人で性格も申し分ない、皆の憧れのナナミさんから、まさかバレンタインチョコがもらえるなんて…!
「私、絶対大事にする!」
「中身食べ物だからな。」
「もったいなくて絶対食べれないよ~!」
「……。お前は作らなかったのか?姉さんに。」
有頂天の私を一気に谷底へとつきおとすかのような、グリーンの言葉が容赦なく突き刺さる。
「今年は…誰にも、なにも作ってないよ。」
感情を隠すためにへらっと笑って言えば、グリーンの眉間にはシワがよった。
「女を捨てたのか。」
「うわ!なにそのデリカシーのない言葉!大体ねえ、グリーン、兄弟ならナナミさんがチョコ作ってるの知ってたはずでしょ!どうして知った瞬間に私に教えてくれないの!?」
「悪い。女なら皆作るものかと思ってな。」
ニヤリ、と意地悪く笑うグリーン。
「…。キャー!!!!グリーンさまー!!!!」
「ばか…!おま…!」
精一杯の甲高い声をあげると、すぐにあちこちから足音がきこえてきた。
「チッ…!」
「私と違ってバレンタインにちゃーんとチョコを作ってきた女の子たちとの鬼ごっこをせいぜい楽しみなさい!」
って、もう結構遠くまで逃げちゃってるから聞こえてないか。
グリーンが逃げて数十秒後、ドタドタとなだれ込むように女の子たちが走ってきた。
グリーン女の子の足音に敏感になったなあ…。
「グリーン様ー!もういないわ!」
「どこいったのー!?」
「グリーンなら、突き当たりの階段あがってったよ。」
本当は階段おりていったんだけどね。さすがにかわいそうだから。
「ほんと!ありがとう!」
目をキラキラさせながら再び追いかけ始める女の子たち。
まさに恋する乙女って感じだ。
彼女達は真剣なのに、こっちもかわいそうだったかな。
一生懸命作ったものなんだから、グリーン、形だけでも受け取ってあげればいいのに。
「……。(私、へんなの。)」
グリーンには女の子がかわいそうだからチョコもらってあげればいいのにって思ってるくせに。
レッドくんにはたとえ義理でも他の人からはもらってほしくないって思ってる。
「あ、」
そういえばレッドくんは…、と思って教室の方をふりかえれば、レッドくんどころか教室にはもう誰もいなかった。
「(……今だけ、だよ。)」
ほんの少しだけ痛む気がする胸をおさえて、思う。
あーあ。これ、思いっきりグリーンの考え方がうつっちゃったのかも。
「あー!よかった!!イミテ、まだいた!!」
「…ブルー。」
次から次へと…と、少し厄介に感じながら、なにやら不機嫌そうな顔をしている彼女へと目を向けた。
「ちょっと聞いてよ!ありえない!ブ男に逆チョコ渡されたんだけど!」
「え?よかったじゃん。」
「よくない!好きでもない男から、しかもブ男からチョコもらっても、1つもいいことなんてないわよ!自分の身の程をわきまえろっつーの!」
「ブ、ブルーさん、もう少しオブラートにつつもうね。」
そんな言い方、相手の男の子に同情しちゃうよ!と言っても、ブルーはブ男にブ男っていってなにが悪いのよと少しも気に止める様子はない。
ブルーも、容姿端麗、頭脳明晰な、たぶんこの学校1の美女だ。
あ、頭脳明晰といっても成績はずば抜けていいわけではないんだけどね。(それでもこの学校の中では上の上だけど。)
なんていうか……生き方というか考え方?がとても賢い。
「しかも見て!これ手作りよ!手作り!想像しただけで気持ち悪くて鳥肌がとまらないわ……!」
人差し指と親指の先でつかんで、まるで汚いものを持つような持ち方をしているブルー。
モテる人達って見ず知らずの人からチョコもらいたくないものなのかなあ…。と、ぼんやりと考える。
そうだとしたら、レッドくんもそうだ。
レッドくんは、いつも明るくて、優しくて、そして誰に対しても壁がない人だから、彼の周りはいつも人であふれている。
憧れる人がでてこないわけなくて。
現に最近、クラスの女子数人が集まってレッドくんの方を見てこそこそとしていたのを見たばかりだし。
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