いつか、きれいな思い出になるの
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目があっただけで意識。
物をひろってくれただけで好きになってしまったり。
クラスで一番かっこいい子のことをクラスの女子の大半が好きだったり。
人生一度しかない青春時代は、
勘違いと、思いあがりと、自意識過剰で成り立っている。
『ちょっとした変化を特別だと錯覚する、バカな奴らばかりだ。』
ふと、幼なじみのそんな言葉を思い出して「やばい」と思った。
だって私、今まさにそれだ。
【いつか、きれいな思い出になるの】
最近、つい目で追ってしまう人がいます。
隣の席の、レッドくん。
隣の席といっても2か月前の席替えで隣になったばかり
否、2ヶ月もあったのに、
「宿題やってきた?」とか「先生くるの遅いね」とか「あ、ペンかして。」とか。
その程度の会話しか交わしたことはなくて。特に親しいわけじゃない。
それなのにどうしてこんなに気になるのかは私自身もよく分からない。
気がつくといつも彼の姿を探していて。
すぐ隣にいる彼の存在に、妙にドキドキしてしまって。
なんとなく気恥ずかしくて目を見れなくて。
ただ隣の席になっただけの人が気になるなんて。
「(ああ、だめだ…。やっぱりこれはグリーンの言葉を思い出しちゃう。)」
グリーンというのは私の幼なじみ。
彼がその言い放った、
冒頭のセリフや『青春時代の好きという感情は、今だけの感情だ。』なんてセリフが、私の中にやけにくっきりはっきりと残っている。
そのセリフを言ったときの、すごーく冷めきった彼の表情がなかなか忘れられるものではなくて。
まさに青春をしているって感じの人達をみるたびに、そのセリフが彼のそのときの表情つきで脳内で再生されてしまう。
こんなに思い返していると、いつか自分でも気づかないうちに、彼のような表情をしてしまいそうで…怖い。
いい迷惑だ……。
「グリーン様ー!!」
「かっこいいー!」
「よかったら、これ、」
「あんた抜け駆けよ!私が一番最初に渡そうと待ってたんだから!」
廊下がわいわいガヤガヤと一気に騒がしくなって視線をむければ、今まさに思い返していた幼なじみがそこにいた。
これ以上ないくらいの速さで廊下を歩きさっていく。
あまりに早すぎてもうこの席から彼の姿は見えない。
「(毎年毎年……忙しいなあ。)」
まるで他人事のように心の中でつぶやいた。
グリーンはファンクラブができるほど、容姿端麗、成績優秀な人。
まさに少女漫画にでてくるような完璧なキャラだ。(…まあ欠点といえばちょっとシスコンなところかな!)
毎年この日は…バレンタインデーは、ファンクラブの子達がいつにもましてうるさい。
その女の子達の手には、甘い香りのする可愛らしい柄の紙袋。
グリーン、甘いもの苦手だった気がするんだけどな…。なんて、私はいつも遠目にその光景をみている。
私には無縁の光景だ。
だってグリーンは甘いもの嫌いだから作る必要もないし、女友達とはバレンタイン前に皆でお菓子の試作~とかやったからまあそのときに気持ち悪くなるぐらい甘いものを食べあったし。(私は特に本番とかないから、試作でもなんでもないんだけれど。)
まあそんなわけで、気にはなっているものの、わざわざレッドくんのためだけにチョコを作るのも…ってなって。
「(…義理チョコにしたって、手の込んだ手作りチョコを渡せるほどの仲でも、ない…し。)」
それにたぶん、彼に対する気持ちははっきりとした恋愛感情じゃない。
ただ"気になっている"だけなんだ。
「(こんな変な気持ちになるの、きっと今だけだもん。)」
また席が離れれば彼のことはなんとも思わなくなる。
身近にいる存在をすぐに特別だって錯覚してしまう。
青春時代ってきっとそんなものだから。
「おはよ。」
「!お、はよう。」
もろにレッドくんのことを考えていたところに本人がやってきたから、驚いて声が少し途切れた。
変に思われなかったかな、なんて彼のことを見つめれば、彼もきょとんとした様子で私を見返す。
「…?なに?」
「え、なんでもない!」
「はーい、皆席についてー」
ガラガラガラとドアが空いて先生が入ってくる。
さっきまで騒がしかった教室は 、ぽつりぽつりと声がなくなっていって、皆が席についたころには話し声はなくなった。
「はい。では出席をとります。」
ああ、いつもの教室の風景だ。
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