彼女はシンデレラ
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それは、ある日のトキワの森だった。
いつもイミテが通るその道に、彼女はいた。
木にもたれかかって、眠っていた。
なんでこんなところに、と、イミテがまず感じたのは嫌悪感。
だって見たくもなかった。イエローの顔なんて。
自分が勝手に憎んでいる少女の顔なんて。
幸い眠っているようだし、通り過ぎてしまおうと。そう思い足を早める。
でも早く立ち去りたいと思いつつ、やっぱりつい、視線は彼女のほうに向いてしまって。
「(え…?)」
異変に気づいたのたのは、彼女の顔がやけに青白かったから。
何かがおかしい。
そう、全身が叫んでいて、いくら一方的に妬んでいた子だとしても見過ごせなくて。
「あの…」と声をかけながら肩を少しゆする。
すると、パタン、と、まるで電池のきれた人形みたいにイエローは倒れた。
「え、ちょ…」
慌てながらもイミテはイエローに触れて、…違和感を覚える。
冷たい。身体が。
異常なほどに、冷たい。
そして、気づいた。
彼女の首にある、くっきりとした手形。
首を絞められた、痕。
「……!?」
驚きすぎて、声もでなかった。
同時に恐怖が押し寄せる。
殺されたの、この子…?
誰に、誰に…?
いつ?どうして?
………“誰に”?
ふと、背後に感じた気配。
恐怖が、身体を支配する。
今は早朝。
ただでさえめったに人なんて通らないこの道に、この時間帯に人がいるなんておかしい。
なんで…?だれ…?
そんなの決まってる。いるとしたら、ただ1人。
「(彼女を、殺した、ひと…!?)」
イミテの中で答えがでたとたん、逃げなきゃと、彼女の心の中はその想いでいっぱいになる。
逃げなきゃ、とにかく。
でも怖くて、身体が震える。動かない。
逃げなきゃいけないのに、全く動かない。
どうしよう、このままじゃ、私もーー…
「…大丈夫?」
動けないでいるイミテに後ろからかけられた言葉は、なぜか自分を心配するものだった。
なんで?と考える前に、聞き覚えのある声に、え…?と彼女の思考は一瞬停止する。
反射的に、後ろを向いた。
立っていたのは、赤が特徴の、その人。
ポケモンリーグ優勝者の、レッドだった。
イミテがレッドの声に聞き覚えがあったのは、グリーンのことを調べるうちに必然的に彼の情報も入ってきたからだ。
インタビューの様子などで聞いたレッドの声が耳に残っていた。
こんなところで、この状況で、リーグ優勝者に会えるなんて運がいいと、イミテは思った。
とにかくレッドといれば安全だろう。
イミテはほっと息をついて、そしてすぐにこの事態を思いだして、すがるようにレッドに説明した。
「この子、が…、私、今通りかかったんですけど、つ、冷たくて、…触ったら、倒れて…、どうすれば…」
声は完全に震えていた。
そんなの当たり前だ。
だってこんな状況、初めてなのだから。
人の、死、なんて。
ポンとレッドはイミテの頭に手を置く。
「とりあえず落ち着いて。」
「は、い…」
ギュッと胸の前で拳をつくるイミテを見て、もう一度慰めるように頭を撫でると、レッドは…倒れて死んでいるイエローの前にしゃがみこんで、ジッとそれを見ていた。
イミテはまだ恐怖で震えている身体をおさえながら、レッドの後ろ姿を見ながら、ぼんやりと考える。
レッドとイエローは、共にカントーを救った人、だったはずだ。と。
知り合い…なんだ。と。
テレビで得た知識を必死に思い出す。
自分なんかより、全然ショックだろう…と彼を悼んだ。
知り合いの死なんて、そんな…。
現に今だってレッドの後ろ姿はピクリとも動かない。
「(私が…しっかりしないと…。)」
イミテは必死に自分を奮い立たせる。
まずは、救急車?いや…もう手遅れなのは明らかだ。警察に、連絡して…、彼女が何者かに襲われて死んでしまったことと、その何者かはまだ捕まっていないことを言わないと。
そして、トキワシティの皆と、彼女の家族にも、伝えないと…。
胸が…痛んだ。
皆、彼女の死を悲しむだろう。泣くだろう。…もちろん、トキワジムにいる、あの人も。
「あ、の…」
やっぱりショックが相当大きいのか動かないレッドに、イミテは声をかけた。
「まだ、犯人、捕まってない、し…彼女、このままにしとく、の、かわいそうだから…警察、に…、」
なるべくレッドの傷つけないような言葉を選んで、言う。
でも返事はない。
「あの…」
緊張と恐怖で未だにうまく動かない足を動かして、レッドの顔をのぞき込むようにもう一度、声をかけた。
そして、その顔に…息をのむ。
口元が、弧を、描いていた。
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