彼女はシンデレラ
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私は…
シンデレラに、なりたかった
【彼女はシンデレラ】
始まりは、ポケモンリーグの表彰式。
第9回ポケモンリーグ。
僅差で負けて、惜しくも2位になったマサラタウンの男の子。
風のうわさで、彼に勝った1位の男の子とは仲が良くて、かつライバルだったと聞いた。
それ、複雑だよね…
仲がいい子に負けるなんてさ。
私だったら本当に心から祝福はできないし、悔しい気持ちでいっぱいだろうし、…気まずくなっちゃうなあ。
一体彼は、どんな顔をして2位という栄光を手にするんだろう?
恨み?妬み?劣等感?焦燥?
それとも…
白熱した決勝戦が終わり、残すは表彰式のみ。
ポツリポツリと人が帰り始める中、私はそんな変わった好奇心から表彰式まで見届けようと椅子に座ったままでいた。
本来なら表彰式は決勝戦が終わってしばらくすると始まるけど、すでに決勝戦が終わってからだいぶ時間がたっている。
理由はきっと、1位の子と2位の子が目を覚まさないのだろう。
決勝戦が終わった後、どっちも倒れちゃってたし。
このぶんだとまだまだ長引きそうだ。
でもここまで待ってしまったぶん、今から帰るのはなんだかもったいない気がして…。
飲み物でも買ってこよう、と。私は上着で席をとり立ち上がった。
そして、会場の扉に手をかけようとした瞬間、ギイッと扉が開いて、私はその勢いのまま少し前にバランスを崩した。
そのとき、ソッと肩に触れた手。
私はおかけで転ばずにすんだ。…まあ、少しバランスを崩しただけだから、自分1人でも転びはしなかっだろうけど。
それを分かってたように、支えてくれた人も掴んだんじゃなくて手をそえた程度だった。
『…悪い。大丈夫か?』
別にタイミングが悪かっただけでその人は悪くないのに謝ってくれた。
『いえ、平気です。』
顔を上げてそう言って、…思わず心の中で「あ…」と声をあげる。
…2位の子だ。
『そうか。』と一言穏やかな表情を見せると、何もなかったようにつぶやいて、彼は足を進める。
するとすぐに黄色い歓声が上がった。
『グリーン様!』
『おしかったですね…!あと一息だったのに!』
『2位でも…でも、すごくすごく、かっこよかったです!!』
女の子達が2位の人…を囲んできゃあきゃあと騒ぐ。
耳についた、女の子達が口にする“慰めの言葉”。
『…。』
彼は彼女たちを無視して、ステージへともう一度歩き始めた。
『(…やっぱり、悔しかったんだろうな。)』
2位、だもんね。
彼の後ろ姿を見ながら…考える。
『君、』
『え?』
するともう一度今度は前から声がかけられる。
『わるい、通してくれるか?』
その言葉で自分が道をふさいでしまっていたことに気づく。
『あ…すいません!どうぞ。…あ。』
今度は普通に声が出てしまった。
1位の人だ…。
彼は私の反応に照れくさそうに苦笑いをうかべ、『ありがとな。』と言って私の横を通っていった。
そして『グリーン!』と2位の人のあとを追う。
するとそれに気づいた周りの人が、『レッドさんだ!』『あ!優勝者の!』『握手してください!!』などと言って、わいわいと彼の周りに集まった。
…2位の子より多くの人が。
『(彼は…)』
ふいっと、2位の子の方に改めて目をやると…
『!』
悔しさも妬みも何もない、すがすがしい表情で、温かい表情で、1位の子をみていた。
ああ、そっか…。
そうだったんだ…。
さっき彼が女の子達に囲まれたとき、嫌そうな表情をうかべて、ただ無言だったのは…悔しいなんて、思っていなかったからだ。
それを勝手に決めつけられて、それに対して嫌に思ってただけなんだ。
そっか…
彼は、あの試合に、満足してたんだ。
その結果をちゃんと受け止めてたんだ。
『グリーン。』
観客たちを何とか振り払ったらしい1位の人は、2位の人の隣に追いついて隣を歩く。
『遅い。観客に道をふさがれてどうする。』
『だってよー』
すごく穏やかな雰囲気の中、何事もないかのように会話が進む。
すごいと思った。
正直言って、すごく…尊敬した。
その結果を堂々と受け止められる強さをもった彼は…すごいと、そう思った。
私が彼に憧れをいだいたのは、そのときからだった。
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