6話. 湯気と、光と、温度と
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後悔がないなら
騙されてみてもいいんじゃない?
休憩中。
右の腰にあるホルダーが、カタカタと微かに揺れた。
「あ。動いた。」
思わず声をだすと、レッドが「ん?」と反応した。
「タマゴの入ったモンスターボール。最近よく動くんだよね。」
ボールをとりだし、ボール越しにタマゴを見る。
見てるときは動かないくせに、ホルダーにしまうと動くんだよね。
恥ずかしがりやなのか。
サンみたいにツンデレなのか。
「もうすぐ産まれんのかな。」
レッドがわくわくとした表情になる。
あー…きっと新種ポケモンのこと想像してるんだろうなあ。前話してたし。
「産まれるの見過ごさないようにしないと。まさかボールの中で孵っちゃったりしないよね?」
「うーん、普通のポケモンの進化はボールの中ではありえないけど、タマゴが孵るとなると…どうなんだろうな。」
進化はレベルアップのタイミングでするもので、レベルアップはバトル後だから、
ポケモンがボールの外にでてるときに進化するのは必然だけど…
「タマゴが孵る要素がなんだか、分かってないもんね。」
「ああ…ナナミさんも、賑やかなときに反応するって言ってたな。」
「うん。早く秘湯につけば、ずっと出しっぱなしでいられるんだけど、今は夜しかだせてないから。」
「?夜だしてたっけ?」
「え?うん、毎晩…、私の手持ちポケモンの母性が目覚めたみたいで、毎晩かわりばんこで温めてくれてるんだよ。」
レッドが気づいてないの意外だったな。
あ、レッドがお風呂入るタイミングでタマゴを外に出して、あとはずっとポケモン達の身体の下にあったから分かんなかったのか。
「母性って…イミテの手持ちたち、皆オスだろ。」
「あ、そうか。じゃあ父性?」
手持ちのポケモンのオスメスって普段あんまり意識しないから関係なくなっちゃうんだよね。
手持ちが全部男の子だから女の子との違いが分からなくて、余計そう感じるのかわからないけど。
「ああ。」と、レッドが納得したようにつぶやく。
「だからウインとかあんまり動かなかったのか。いつもイミテにべったりなのに。」
「あははー。いつもは私のこと温めてくれてるのに、最近はタマゴのことばっかり温めて…。」
ちょっとタマゴに嫉妬しちゃうぐらい一生懸命なんだもん。
「ゴロとかは…温めたりしてないよな。タマゴ、つぶれちまいそう…」
「Σ怖い想像させないでよ!ゴロは性格的にタマゴにあんまり関心がないみたい。メタもそうだね。サンは…むしろ毛嫌いしてる。」
「はは、なんとなく想像つくな。イミテがタマゴばっかりかまってるからだろ?」
「やっぱり?私はそんなタマゴのこと気にしてないんだけどなあ。むしろ私よりもウインと、ラプとピジョの3匹が献身的なぐらいに面倒見てくれてて。」
面倒もなにも、今はまだタマゴだから温めてるだけだけど。
産まれたら相当な親バカになりそうだ。特にピジョ。面倒見のいい、しっかりものだからなあ。
「複雑なんだよね。ずっと可愛がってた娘が子供を産んで、それをすっごく可愛がってる感じで。子どもの成長は嬉しいけど、さびしい…みたいな。」
「だから娘じゃなくて…まあいいか。イミテ、初孫ができたおばあちゃんみたいな考え方だな。」
「な…!」
おばあちゃんって失礼だ!
「でも俺も自分のポケモンが子ども作ってそうやって面倒見てたらさ、そんな気持ちになるのかな、なんて。ちょっと考えちまうなあ。」
「…このタマゴ、私のポケモンたちの子どもじゃないけどね。レッドが持ってれば、手持ちポケモンたちが育て始めるかもよ。持ってみる?」
「俺の手持ちはそんな献身的なやつは…。ニョロがすごい面倒見そうだ。」
「あはは!ニョロ、男の子だけどお母さんって感じするもんね。」
私の言葉にレッドのベルトについているボールがカタカタと揺れた。
絶対ニョロだ。反論したいことがあるんだろう。
私はニョロに「ごめんごめん」と軽く謝って、それを見たレッドはクスリと笑っていた。
「あ。」
タイミングよく、バサッバサッと羽音が聞こえる。
「ピジョ!おかえり!」
実はピジョにはこの付近の様子を見に行ってもらっていて。
「この上、どうなっていた?」と聞くと、ピジョはゆっくりと翼を羽ばたかせながら頷いた。
「そっか!よし、行こう、レッド!」
「ん?今のなんのジェスチャー?」
「えーっと、この急斜面登ったら休めるところがあるよっていうジェスチャー。2人が座れるスペースがあるかどうか見てきてって、あらかじめ頼んでたの。」
「へー…、?」
「ほ、ほら!せっかく登りきったのに休めるところがなかったら困るじゃん?」
「うーん、まあ、そうだけど…。今日は結構休んでるし、痺れとか全然平気なんだけどなあ。」
「もう!油断大敵だよ!いつなにが起こるかわからないんだから、慎重にいかないと。」
「…。」
「ま、とりあえず行くか。」と、レッドは立ち上がって荷物を手にする。
ふう…危なかった。ばれちゃったらだいなしだもんね。
「さて、じゃあピジョは1回ボールに戻ってね。ありがとう。」
ピジョを戻して、メタをボールからだす。
ボン!という音と、ポケモンをボールからだしたとき特有の煙が少しでて…
「痛っ…!」
「え!?どうした!?」
「ちょっと、ボール投げるとき勢いあまって手首変なふうにひねっちゃったみたい…」
「!?モンスターボール投げるのなんて何百回とやってきただろ!?」
「そうだけど…なんか今回ははりきりすぎた、みたいな…?」
あはは、と笑ってごまかせば、レッドは訝しげな表情になった。
まあそりゃあそうか。
「とりあえず手首みせて。」
「え?なんで?」
「なんでって…どのくらい捻ったのかみたいから。ひどいようなら冷やさないと。あとから腫れたりしたら困るだろ?」
「そんな…全然平気だから!ちょっとグキッてなっただけで、時間たてば直るくらいの軽いものだから!」
「さっきイミテ自分で言ってたじゃんか。“油断大敵”って。」
「(う…。)あ!じゃあ今回はレッドがメタと一緒に先に登ってよ。上までついたら私はメタで崖上まで引っ張りあげてもらうからさあ。」
「いつもの逆パターンってことか?」
「そうそう。」
「いつも『登ってる最中に野生ポケモンが攻撃してきたら危ないから私が先に行く!』って言ってきかなかったのに。それに登ってる最中に俺の手足の痺れがでたら危ないからって…、」
「まあ今回だけってことでいいじゃん。今日は途中の休憩いっぱいとったから、レッド、調子いいんでしょ?」
「まあ、な。」
「あ、でも途中で万が一のことがあったら不安だからリザードンをボールからだして、側をとんでてもらって…」
着々と話を進めようとする私に、レッドは相変わらず怪しんでいる様子。
うーん、それなら…
「ってことで、いつもの逆パターンだから野生ポケモンがでてきたらレッド、かわりに戦ってね。」
「まじで!?」
レッドは一気に嬉しそうな表情に変わって、よーし!とやる気を示すように腕をぐるぐるまわす。
今まで疑ってたのに、…単純だ。
ま、さっきピジョにこの辺りに野生ポケモンがいないかも見てもらったから、バトルにはならないだろうけど。
念のためメタに「少しでも異変を感じたらすぐにレッドのこと降ろしてね。」と指示してその背中を見送った。
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