マルガリータに捧ぐ
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※読み終わったあと気持ちが沈むかもしれないので注意
「……、」
すぅっと、ひんやりとした空気が肌に触れて、ゆるゆると目を開ける。
風でカーテンが揺れて、空気と共に外の明かりも部屋のなかに入ってきていた。
……まぶしい。
率直な感想を心の中でつぶやいて、
明るさから逃げるために身じろぎをして、布団の中に隠れる。
――――と、
「(……あ)」
すぐ隣に温かさを感じた。
重たい目をまた開いて少し顔をあげてみれば、規則正しい静かな寝息をたてて、レッドが眠っていた。
いつもはあんなに元気で、ポケモンバトルだとか、修行だとか、常に動き回ってるのに、……変なの。
普段とは対照的な今の光景に思わずくすりと笑ってしまって。
そして、なんだかそのことに幸せを感じていて。
かみしめるかのように、起こさない程度に彼にそっと寄り添う。
「(……あたたかい。)」
季節は秋に入りかけていて、心地よい、でもなんとなく肌寒いと感じるこのぐらいの気温が、私は一番好きだ。
温かさを身にしみて感じられる。
もう少しだけ、とぎゅっと軽く抱きついてみれば、「ん……」とレッドから小さく声がもれて。
…でも起きることはなかった。
壁にかかっている時計に目をやれば時計の針はお昼近くをさしていて。
いつも遅くても9時前には起きて行動し始める彼にしては珍しい。
疲れてるんだなあ、と率直な感想をまた心の中で呟く。
今日は一日このままずうっと寝ているのもいいのかもしれない。
温かいし。気持ちいいし。…なによりレッドの隣は安心する。
「(さっきまで、すごく怖い夢、見てた気がするんだけどなあ。)」
なんの夢だっけ、と、思い出そうとして途中でやめた。
「(なんとなく、思い出したくないや)」
すうっと息を吸い込めば、レッドの匂いがした。
……ああ、やっぱり安心する。
ふと、
窓の外から小さくポケモンの鳴き声が聞こえて。
なんのポケモンだろう、と耳をすます。
数年前はポケモンの鳴き声だけでなんのポケモンか分かるなんて、考えもしなかった。
レッドに出会って。
彼の影響でどんどんポケモンのこと、詳しくなって。
好きな人の好きなものを好きになっていくって、本当だったんだなあ、って。ほんの少し、気恥ずかしい。
「(あ、)」
少しだけ大きくなったポケモンの鳴き声。
これは……ニドキングだ。
途端に嫌悪感が身体中を駆け巡る。
嫌な、声。耳障りな音。
思わず連想してしまうものは、赤い色。
決して彼のトレードマークじゃない。嫌な赤。血の色の、赤。
怖い、怖い。
こわいこわいこわい。
もう聞きたくない。窓を閉めなくちゃ、と思い、身体を起こそうとするけれど、動かない。
「(こわい、よ。)」
身体を起こすほどの力ははいらなかったけれど、指を動かすぐらいの力は残っていた。
レッドの腕をぎゅっと掴む。
案の定彼は、目を覚まさない。
足音が、近くなる。
「(……そうだ、私は、)」
さっきまで見ていた夢を思い出した。
私はレッドと一緒にカントーを旅していて。
オツキミ山でカスミと一緒にロケット団と戦ったり、
シオンタワーでの幽霊騒動にまきこまれたり、
ブルーにインチキ商品をうりつけられそうになったり、
タマムシでグリーンのポケモンと私達のポケモンが入れ替わっちゃったり、
エリカに頼まれてイーブイを捕まえたり、
シルフカンパニーで皆でロケット団を倒したり。
いろんなことがあって。
いろんな人と出会って。
どんどん、どんどん、レッドのこと、好きになっていて。
好きなのに、好きだって言っているくせに。私は弱いから、なにもできなくて。
いつだって彼の重荷になっていて。
トキワジムジムリーダーのサカキと戦った、
あの日、あの瞬間でさえも。
『イミテ!』
サカキのニドキングの雄叫びが空気を揺らすなか、私の足元の地面が真っ二つに割れていくなか、レッドが口にした私の名前だけがやけにはっきりと聞こえて。
『レッ―――』
私も彼の名を口にしようとして、止まった。
彼の向こう側に、腕をふりあげるニドキングの姿を見て、
そして―――、
溢れた、赤は、
「!イミテ!」
一番最初に目にはいったのは、ブルーの顔だった。
目元は赤く、瞼ははれていて、泣き腫らした顔。
じわりじわりと彼女の瞳が濡れていく。
その大きな瞳から涙がこぼれおちそうで、手を伸ばそうとして、動かないことに気づいた。同時に感じる温もり。……あ、ブルーが手を握ってくれていたんだ。
「目が覚めたのか。」
低い声。グリーンだ。
目の下にうっすらとくまができている。
せっかくの美形が台無しだよと、声を出そうとしたけれど、くぐもった吐息にしかならなかった。
ピッ、ピッ、ピッと規則正しい電子音が聞こえる。
ブルーとグリーンの向こう側に見える背景はひたすら白。
ここは病院なのだろうか。
「よかった……本当によかった……。」
「ここがどこか、分かるか?いままであったこと覚えているか?」
ついにブルーは泣いてしまって、グリーンがいつにもましてやわらかい、優しい口調で私にたずねる。
そのことに違和感を感じて、私はただ、彼を見つめ返した。
なんでそんなにいつもと違う様子なの?
なんでそんな、いたわるような、哀れむような、そんな調子なの?
「……、」
「あ、待って。」
喋ろうとした私に気づいて、ブルーが私の口元をごそごそといじる。
なにかが取り外されて、瞬間、ずんと空気が重くなった気がした。
ゆっくりと息をすいこみ、
声をだす。
「……夢、を……」
喉がひどく重かった。
声が出しづらい。
まるで長いこと声をだしていなかった、そんな感覚。
「え?」
「…夢を、見たの」
そう、夢。
全部全部、夢。
温かい幸せな時間も。
二度と思い出したくない恐怖の時間も。
どこからどこまでかは分からない。
そんな、優しい夢を見た気がする。
「 ……レッド…は?」
「イミテ、」
「レッドは……?」
夢にはレッドもでてきていたはずだから。ひどく不安になる。
どうしてここにいないの?
彼なら私が目を覚ましたとき、一番に気づいてくれるはずなのに。
一番に、優しい顔を見せてくれるはずなのに。
夢は……夢の中では。たしか。
(私は彼のとなりで)
(眠っていたんだったっけ。)
「イミテ。」
目線をそらしたブルーとは対照的に、グリーンは私をじっとみる。
「レッドは、」
グリーンの口が動いて、それが、音になる前に、私はすうっと目を閉じた。
そのまま導かれるように、意識が遠退いていく。
「!イミテ!?イミテ……!」
慌てたブルーの声がどんどんどんどん小さくなる。
「あ、れ……」
目を開けると、また元の世界だった。
少し肌寒い風がまとわりついて、隣では変わらずレッドが眠っていて、触れている部分は温かくて。
「変な夢……」
温かさに。匂いに。心地よさに。
どっちが夢で、どっちが現実か分からなくなる。
こっちが現実ならどれほど幸せなのだろう。
「あ……。」
思い出して、もそもそ、と布団を抜け出して、窓に手をかける。
カラカラ、と小さな音をたてて、窓は閉まった。
これで大丈夫。
もう外の音は聞こえない。
もう、悪夢は思い出さない。
また布団に戻り、目を覚まさない彼に強く抱きついた。
マルガリータに捧ぐ
(強くなくても、いいと言ってくれたのは彼だから)
(その言葉通り、二人だけの、)
(夢見の世界を作ろうか)
マルガリータ
※亡き人に捧げるカクテル
.
「……、」
すぅっと、ひんやりとした空気が肌に触れて、ゆるゆると目を開ける。
風でカーテンが揺れて、空気と共に外の明かりも部屋のなかに入ってきていた。
……まぶしい。
率直な感想を心の中でつぶやいて、
明るさから逃げるために身じろぎをして、布団の中に隠れる。
――――と、
「(……あ)」
すぐ隣に温かさを感じた。
重たい目をまた開いて少し顔をあげてみれば、規則正しい静かな寝息をたてて、レッドが眠っていた。
いつもはあんなに元気で、ポケモンバトルだとか、修行だとか、常に動き回ってるのに、……変なの。
普段とは対照的な今の光景に思わずくすりと笑ってしまって。
そして、なんだかそのことに幸せを感じていて。
かみしめるかのように、起こさない程度に彼にそっと寄り添う。
「(……あたたかい。)」
季節は秋に入りかけていて、心地よい、でもなんとなく肌寒いと感じるこのぐらいの気温が、私は一番好きだ。
温かさを身にしみて感じられる。
もう少しだけ、とぎゅっと軽く抱きついてみれば、「ん……」とレッドから小さく声がもれて。
…でも起きることはなかった。
壁にかかっている時計に目をやれば時計の針はお昼近くをさしていて。
いつも遅くても9時前には起きて行動し始める彼にしては珍しい。
疲れてるんだなあ、と率直な感想をまた心の中で呟く。
今日は一日このままずうっと寝ているのもいいのかもしれない。
温かいし。気持ちいいし。…なによりレッドの隣は安心する。
「(さっきまで、すごく怖い夢、見てた気がするんだけどなあ。)」
なんの夢だっけ、と、思い出そうとして途中でやめた。
「(なんとなく、思い出したくないや)」
すうっと息を吸い込めば、レッドの匂いがした。
……ああ、やっぱり安心する。
ふと、
窓の外から小さくポケモンの鳴き声が聞こえて。
なんのポケモンだろう、と耳をすます。
数年前はポケモンの鳴き声だけでなんのポケモンか分かるなんて、考えもしなかった。
レッドに出会って。
彼の影響でどんどんポケモンのこと、詳しくなって。
好きな人の好きなものを好きになっていくって、本当だったんだなあ、って。ほんの少し、気恥ずかしい。
「(あ、)」
少しだけ大きくなったポケモンの鳴き声。
これは……ニドキングだ。
途端に嫌悪感が身体中を駆け巡る。
嫌な、声。耳障りな音。
思わず連想してしまうものは、赤い色。
決して彼のトレードマークじゃない。嫌な赤。血の色の、赤。
怖い、怖い。
こわいこわいこわい。
もう聞きたくない。窓を閉めなくちゃ、と思い、身体を起こそうとするけれど、動かない。
「(こわい、よ。)」
身体を起こすほどの力ははいらなかったけれど、指を動かすぐらいの力は残っていた。
レッドの腕をぎゅっと掴む。
案の定彼は、目を覚まさない。
足音が、近くなる。
「(……そうだ、私は、)」
さっきまで見ていた夢を思い出した。
私はレッドと一緒にカントーを旅していて。
オツキミ山でカスミと一緒にロケット団と戦ったり、
シオンタワーでの幽霊騒動にまきこまれたり、
ブルーにインチキ商品をうりつけられそうになったり、
タマムシでグリーンのポケモンと私達のポケモンが入れ替わっちゃったり、
エリカに頼まれてイーブイを捕まえたり、
シルフカンパニーで皆でロケット団を倒したり。
いろんなことがあって。
いろんな人と出会って。
どんどん、どんどん、レッドのこと、好きになっていて。
好きなのに、好きだって言っているくせに。私は弱いから、なにもできなくて。
いつだって彼の重荷になっていて。
トキワジムジムリーダーのサカキと戦った、
あの日、あの瞬間でさえも。
『イミテ!』
サカキのニドキングの雄叫びが空気を揺らすなか、私の足元の地面が真っ二つに割れていくなか、レッドが口にした私の名前だけがやけにはっきりと聞こえて。
『レッ―――』
私も彼の名を口にしようとして、止まった。
彼の向こう側に、腕をふりあげるニドキングの姿を見て、
そして―――、
溢れた、赤は、
「!イミテ!」
一番最初に目にはいったのは、ブルーの顔だった。
目元は赤く、瞼ははれていて、泣き腫らした顔。
じわりじわりと彼女の瞳が濡れていく。
その大きな瞳から涙がこぼれおちそうで、手を伸ばそうとして、動かないことに気づいた。同時に感じる温もり。……あ、ブルーが手を握ってくれていたんだ。
「目が覚めたのか。」
低い声。グリーンだ。
目の下にうっすらとくまができている。
せっかくの美形が台無しだよと、声を出そうとしたけれど、くぐもった吐息にしかならなかった。
ピッ、ピッ、ピッと規則正しい電子音が聞こえる。
ブルーとグリーンの向こう側に見える背景はひたすら白。
ここは病院なのだろうか。
「よかった……本当によかった……。」
「ここがどこか、分かるか?いままであったこと覚えているか?」
ついにブルーは泣いてしまって、グリーンがいつにもましてやわらかい、優しい口調で私にたずねる。
そのことに違和感を感じて、私はただ、彼を見つめ返した。
なんでそんなにいつもと違う様子なの?
なんでそんな、いたわるような、哀れむような、そんな調子なの?
「……、」
「あ、待って。」
喋ろうとした私に気づいて、ブルーが私の口元をごそごそといじる。
なにかが取り外されて、瞬間、ずんと空気が重くなった気がした。
ゆっくりと息をすいこみ、
声をだす。
「……夢、を……」
喉がひどく重かった。
声が出しづらい。
まるで長いこと声をだしていなかった、そんな感覚。
「え?」
「…夢を、見たの」
そう、夢。
全部全部、夢。
温かい幸せな時間も。
二度と思い出したくない恐怖の時間も。
どこからどこまでかは分からない。
そんな、優しい夢を見た気がする。
「 ……レッド…は?」
「イミテ、」
「レッドは……?」
夢にはレッドもでてきていたはずだから。ひどく不安になる。
どうしてここにいないの?
彼なら私が目を覚ましたとき、一番に気づいてくれるはずなのに。
一番に、優しい顔を見せてくれるはずなのに。
夢は……夢の中では。たしか。
(私は彼のとなりで)
(眠っていたんだったっけ。)
「イミテ。」
目線をそらしたブルーとは対照的に、グリーンは私をじっとみる。
「レッドは、」
グリーンの口が動いて、それが、音になる前に、私はすうっと目を閉じた。
そのまま導かれるように、意識が遠退いていく。
「!イミテ!?イミテ……!」
慌てたブルーの声がどんどんどんどん小さくなる。
「あ、れ……」
目を開けると、また元の世界だった。
少し肌寒い風がまとわりついて、隣では変わらずレッドが眠っていて、触れている部分は温かくて。
「変な夢……」
温かさに。匂いに。心地よさに。
どっちが夢で、どっちが現実か分からなくなる。
こっちが現実ならどれほど幸せなのだろう。
「あ……。」
思い出して、もそもそ、と布団を抜け出して、窓に手をかける。
カラカラ、と小さな音をたてて、窓は閉まった。
これで大丈夫。
もう外の音は聞こえない。
もう、悪夢は思い出さない。
また布団に戻り、目を覚まさない彼に強く抱きついた。
マルガリータに捧ぐ
(強くなくても、いいと言ってくれたのは彼だから)
(その言葉通り、二人だけの、)
(夢見の世界を作ろうか)
マルガリータ
※亡き人に捧げるカクテル
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