Short Novel
もうすぐクリスマスで、町中イルミネーションで眩しいほどに輝く中、なるべくその光が届かない場所を探している人物が一人。
もうすぐ自分にとって特別な日であるはずなのに、それをすっかり忘れ、溜まった仕事をし続けている人物が一人。
それは、数日前の出来事であった。
12月20日。
ますます寒くなってきたこの時期に、冬だなと実感する。
急激な気温の変化に、現世の人々は皆マフラーや手袋をして外に出ていた。
まだ雪が降らないことが大人たちにとっては幸いだが、子供たちは早く雪が降らないかと楽しみにしていた。
子供にとっては遊べるし、綺麗な雪が降るのはうれしいことだが、大人にとっては交通が不便になり、雪かきや雪下ろしなど、苦労することばかりで全く嬉しくない。
しかし、子供といっても小学生までで、中学高校になると正直寒いから嫌だと考える者もいるが、ここに、降ってほしいと願う高校生が一人。
「あ~、今日だけでいいから降らねえかな・・・」
窓の外は雲ひとつ見えない快晴。雪など降る様子など皆無だった。
「はぁ・・・」
予定していた計画が無駄になる可能性が・・・。そう思ってため息を吐く。
(とりあえず、待つか・・・)
願っても天気はどうしようもない。
勉強でもするか、と立ち上がり、机に向かった。
(乱菊さん・・・頼んだぜ・・・)
黒崎一護は、計画を事前に話していた乱菊にある頼みごとをしていた。
・・・ものすごく嫌な顔をされたが。
同時刻。十番隊執務室。
(あたしだって、隊長と一緒に居たいのに・・・、一護の奴・・・!)
珍しく真面目に仕事をやっている乱菊は、一護を恨めしく思いながら隊主机で黙々と仕事をやっている自分の上司に目を向ける。
(どうすればいいってのよ・・・)
乱菊の視線にも気付かず、恐るべき速さで仕事を減らしていく日番谷に乱菊はため息を吐く。
(無理やり現世に行かせるなんて・・・)
それは、数日前。
乱菊が非番をとって現世に赴いた時、偶然出会った一護に頼まれたのだ。
『冬獅郎を現世に向かわせてくれ』
ただでさえ今日が何の日か忘れている人に、無理やり仕事を中断させて現世に向かわせるなど、いつもサボって怒られる乱菊にも恐怖はある。
仕事をサボったことはあるが、邪魔したことはないのだから。
だからこうして自分が頑張って仕事を少しでも減らそうとしているのだが、一向に減らない。
だから無理やりにでも現世に贈るしかないのだ。
そして、何故こうまでして乱菊が頑張っているのかというと・・・
『はあ?なんであたしがあんたのためにそんなことしなきゃならないのよ』
『そこをなんとか・・・!』
『嫌よ。あたしだって隊長と一緒に居たいんだから。それに、あいつらの目を盗んで隊長を現世に送るなんて出来ると思う?』
『そ、それは・・・』
『それに、隊長の仕事を無理やり止めさせて現世に送るなんてことしたら、隊長、ものすごく不機嫌になるわよ?』
『うっ・・・!』
『はぁ・・・。じゃあ、あたしが怒られないようにするってんならいいけどね』
『え!?』
『あと、あたしに今日の分の買い物奢りなさい』
『いや、そんなに金もってないんスけど・・・』
『次の日はあたしが隊長と一緒に過ごすから』
『ど、どうぞ・・・』
『それから~・・・―――』
と、条件を付けまくって乱菊はここまでしているのである。
(どうしようかしら・・・)
ただでさえ、今日、日番谷に会いに来る者は多いはず。
送るといってもいつ送りだせばいいのか・・・
「松本」
「はい?」
考えに耽っていた乱菊は、呼ばれて我にかえる。
すると仕事に集中していたはずの日番谷が顔をあげてこちらを見つめている。・・・眉間に皺を寄せて。
「サボってないで、さっさと仕事しろ」
「・・・は~い」
乱菊は渋々返事をすると、机に向かった。
日番谷もそれを確認すると、仕事を再開する。
その姿に、乱菊はため息をついた。
(全く・・・)
一護にも日番谷にも苦労するわ、そう思って乱菊は仕事を再開した。
「何だと!?」
「ああ、一護の奴、確かにそう言っておったぞ」
「一護のヤロウ・・・!!」
と騒がしい会話をしていたのは、恋次とルキア。
一護はルキアがいるといろいろと面倒なので、尸魂界に返していたのであった。
しかし、乱菊と会っているところは偶然ルキアが見ていて・・・
それを恋次に報告中だった。
「俺は日番谷隊長に用があったのに・・・!」
「わたしも日番谷隊長に渡そうと思っていたものがあったのに、一護の奴め・・・」
だが隊舎が違うためなかなか会えないし、仕事中にそれをするのは流石に怒られそうなので、仕事が終わってからと思っていたのだが、乱菊により仕事が終わり次第、日番谷は現世に送られてしまうだろう。
「恋次!こうなったら一護を抹殺に・・・!」
「よぉし!!仕事が終わったら直に現世に向かうぞルキア!!」
「おう!!」
危ないことを企む二人であった。
夜。
結局送りだす機会が出来なかった乱菊は、本来なら仕事終了時間の今にしようと決めた。
「隊長!」
「何だ?松本」
いきなり叫んで目の前に来た乱菊に、日番谷は驚いて目を見開く。
乱菊は机をバンっと叩いて、
「今から問答無用で現世に行ってもらいます!」
「はぁ!?」
乱菊の言葉に、予想通り納得のいかない表情をした日番谷だが、乱菊は強引に日番谷の腕を掴むと、あらかじめ開けておいた穿開門に日番谷を連れて行く。
「おい!何で俺が現世なんか行かなきゃならねえんだ!!」
「問答無用と言ったでしょ?!」
「とにかく放せ・・・ッ!!」
振りほどこうとしたが時すでに遅く、無理やり穿開門に押し込まれた。
「てめぇ、松本!!!」
「楽しんで来てくださいねーたいちょー!」
手を振る乱菊を最後に、穿開門は閉まった。
「くそ・・・!松本の野郎・・・!!」
日番谷は眉間に皺をよせながら空座町を歩く。
どうすればいいのかもわからずただそうして乱菊の悪態をついていると、
「冬獅郎!!」
「?・・・黒崎?」
突然後から声をかけられ振り返ると、死魄装姿の一護がこちらに駆け寄ってきた。
「こっち来てくれ!」
「って、おい!!何処行く気だ!?」
そのままの勢いで腕を掴まれ引っ張られる。
先程の乱菊といい、日番谷がそう怒鳴ると一護は「いいから!」といって走り出す。
振り回されてばっかりで、ますます不機嫌になる日番谷だが、怒りを通り越し呆れてため息をついた。
しばらく走っていると、小高い丘の上に来た。
一護は漸く足を止めて日番谷に振り返った。
「ほら、見てみろよ」
「?」
そう言われて指差された方向を見てみると、
「―――」
思わず目を見張った。
そこは、イルミネーションや建物の明かりで輝く空座町の姿があった。
「綺麗だろ?」
「あ、ああ・・・」
あまりこういうものを見る機会がなかった日番谷にとって、心からそう思い素直に頷く。
そんな日番谷に一護は微笑しながら、
「本当は雪でも降ってほしかったんだけどよ。やっぱりうまくいかなくてさ・・・」
「雪?」
「ああ」と頷いた一護は、日番谷に向き直って、
「誕生日、おめでとう」
「・・・!」
「今日だろ?」
言われて頷いた日番谷は「何故そのことを?」と不思議そうにしている。
それに気付いた一護は説明する。
「乱菊さんに随分前に聞いてさ。今日この日に、お前にこの景色を見せたくてさ」
「・・・」
日番谷はもう一度夜景に視線を移す。
夜に輝く光。
前にも一度、こんなような誕生日があった。
そして言われた。
『ほんとは雪でも降ってればもっと最高だったんですけど』
日番谷は斬魄刀を抜刀した。
「冬獅郎?」
「霜天に坐せ、『氷輪丸』」
解放すると同時に、夜の空は雲に雲が現れ次第に雪が降ってくる。
日番谷は氷輪丸を鞘に納めると、一護を見た。
「積もらない程度にな」
「サンキュ」
一護は笑って空座町に目を向ける。
日番谷もいつもより穏やかな顔で、その景色を見つめていた。
「・・・あの様子を見ては、何もできんな」
「そうだな・・・」
急いできた恋次とルキアだが、既に遅く、こっそりと様子を窺っていたのだが、日番谷のあの様子を見ては何もできない。
二人は諦めて、踵を返した。
<END>