Short Novel


7月15日。

その日、誕生日の者が一人居た。

周りの女は、こういう行事になるとすぐに盛り上がるもの。
男は誕生日(他人の)などというものに興味はないが、盛り上がるならそれでいい。
本人はそこまで喜ばしいものとは思っていないようだが、更にどうでもいいと思っている者が一人居た。





「一護、貴様今日誕生日らしいな?」


そう言ってルキアは読んでいた雑誌から視線をはずして、顔を上げる。


「ん?ああ、そういえばそうだったな」


ベッドに寝転がっていた一護は、思い出したかのようにそう言うと、「よっ」っと起き上がる。


「そういえば、朝から遊子たちがやけに騒いでると思ったぜ」

「貴様はうれしくないのか?」


「まったく」と頭を掻いている一護にそうたずねる。


「別に。昔は喜んでたかもしれねぇけど、今はもうどーでもよくなってきたからな」

「そうか・・・」


そう呟くルキアの顔は、落ち込んでいるわけでもなく、どちらかというと何かを企んでいるようだった。


「・・・なんだよ?」


「絶対何か企んでやがる」と確信している一護は、呆れた表情でそう尋ねた。


「・・・よし!喜べ、一護!今夜ここで貴様の誕生祭を開いてやる!」

「は・・・?」


なんとなく予想がついていた言葉に、たいして驚きはしなかったが、一護が納得のいかなかったのは、その開く場所。






「どこでやるって・・・?」

「貴様の部屋、つまりここだといっただろう?」


・・・なんで俺の部屋なんだよ!!
どっか別の人の家に招くとか、普通そうだろ!?
なんで俺の部屋なんだよ!!


「では、さっそく部屋を飾り付けなければな!」

「お、おい!何勝手に決めて・・・!」

「うるさい!邪魔だ!貴様はそこら辺でもうろついていろ!」

「ここ俺の部屋だぞ!!・・・って、どわぁあああああ!!!!!!」


ルキアに片手で窓から放り出された一護は、うまく受身も取れず地面に全身を強く打った。


「っ~~~~~!!!!!!」


声にならない叫びを上げて、一護は数分間倒れていた。幸い、そのとき人は一人も通らなかった。







「くっそ~~!ルキアの奴、俺じゃなかったら死んでるぞ!」


無事復活した一護は、言われた通りその辺をうろついていた。


「にしても、やることねぇな・・・」


そう言ってため息を吐いたとき、


「あ!黒崎く~ん!」


声をかけられ振り向くと、スーパーの袋を手に持った織姫が大きく手を振りながら、こちらに駆け寄ってきていた。


「井上、どうしたんだ?」

「うん。実は、朽木さんにあることに必要な買い物頼まれちゃってて」


ルキアの奴、井上にまで・・・
と一護が呆れていると、織姫が「あ!」と叫ぶ。



「なんだよ?」

「あることについては、黒崎君には秘密だからね!」

「・・・」


井上・・・俺、知ってるから・・・
そもそも、それが事の始まりだし・・・


「じゃ!またあとでね、黒崎君!」


そう言うと織姫は、駆け足で一護の家に向かっていった。


「たくっ・・・ルキアの奴、これ以上無駄に広げんじゃ・・・ん?」


不意に肩を叩かれる。
振り向くとそこにはでかい壁―――


「ム・・・」


―――のように立っていたチャドが居た。


「チャド!お前、なんでここに?」


そう一護が問うと、チャドは持っていた明らかに誕生パーティーなどで使う数々の飾り付けを一護に見せる。


「朽木に・・・頼まれた」

「・・・お前もか」


広げてほしくなかったのに、まるでウィルス感染のように広がっている誕生祭のこと。
一護は肩をガクッと落とした。


「ム・・・どうした、一護?」


チャドはそう心配するが、一護は「いや・・・なんでもねぇ」と言ってフラフラと立ち去って行った。


「・・・」


チャドは踵を返して一護の家に向かった。




「あ~あ、もう嫌だ。別に誕生日なんてどーでもい「黒崎?」


一人でブツブツとつぶやいていると、後ろから声をかけられる。

振り返るとそこには変な人形をもった眼鏡―――


「・・・石田?」


―――石田雨竜が立っていた。


「こんなところで何をブツブツ言ってんだ?君は」

「お前こそ、なんでこんなところにいるんだよ?ていうかなんだその変な物体は?」


変な物体とは、石田の持っている明らかにルキアに頼まれたであろうぬいぐるみのこと。


「ああ、朽木さんに頼まれてね」


ということは・・・


(こいつもか・・・!)


一護は足元から力が抜けていくのを感じた。


「全く迷惑な話だ。僕はこんなことよりも新しいマントのデザインを考えなくてはならないというのに」

「・・・同じじゃねぇか」


何がこんなことだ・・・と思ってた一護を通り越して、石田は一護の家に向かっていった。







石田と別れた後、一護は先ほどよりも頭を垂れてまるで餓死寸前のように死にそうな顔で、フラフラと歩いていた。


(まさか石田まで呼ぶなんてな・・・)


ルキアの奴・・・!と思いながらふと思い付く。


「このままじゃ、尸魂界の死神達も来そうな予感が「一護ーーーー!!!!!」


その呟きを、言った本人さえ聞こえなくする大声で一護の名前を呼んだのは・・・


「なっ・・・!」


振り向くとそこに居たのは、いつも着ている黒い着物ではなく、現世の服を着た―――


「久しぶり!一護!」

「よ!しょうがねぇから来てやったぜ!」

「酒飲むぞー!一護!」

「醜い姿は見せないでくれよ、一角」

「・・・」


日番谷先遣隊だった。


「ん?どうした、一護?」


俯いて何かを我慢するように拳を握りしめ、肩を震わせている一護の異変に気付いた恋次は、そう問う。


「・・・か」

「?」





「お前らもかぁああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」









「なによ、一護。大声出して」

「「なによ」じゃないだろ!!何しに来た!?」

「何って、ルキアがお前の誕生祭をやるから来いって言うもんだからよ」

「だからってなんでこんなに大人数なんだよ!?」

「いや、それは・・・まず、俺がルキアに誘われて、誰か連れて来いってあいつが言うから俺は一角さんを誘って、それで弓親さんが「一角が行くなら僕も行く」とか言い出して、またまた騒ぎを聞きつけた乱菊さんが「私ももちろんついてくわよ☆」とか勝手に言い出して、「黒崎に迷惑をかけるわけにもいかないから」って日番谷隊長が仕方なく・・・って感じだな」

「・・・もういい;;」


前と同じような説明を受けて一護はガクッと肩を落とした。


「悪かったな、黒崎」

「え?」


向こうで「酒飲むわよーー!!」「てめぇ、松本!!一人で全部飲むんじゃねぇぞ!!」「うるさいツルッパゲ!」「ぐはっ!!」「一角!!」「乱菊さん、少しは手加減というものを・・・;;」と騒いでいる部下たちを放っといて、日番谷は一護にそう言った。


「松本だけはどうしても止めたかったんだが、あいつがああなるともう誰にも止められなくてな」

「いや、別にもういいって」


そう言って一護は苦笑いする。


「何人増えようが、「俺の誕生日を祝う」ことには変わらねぇみてぇだしな」

「・・・嫌なのか?」

「いや、別に嫌ってわけじゃねぇんだけどよ。それに毎年妹が勝手に盛り上がってるから、こういうのにも慣れてるしな」

「そうか・・・」


一護の言葉を聞いて少し安心したのか、遠慮気味だった日番谷の表情は少し軽くなった。






「・・・にしても面倒くせぇな」

「・・・え?」


日番谷の呟きに一瞬キョトンとなる。


「俺はこういう騒がしいのは本当に嫌なんだよ。たとえ何かの祝祭でもな。クソッ、他に誰か松本を止められる奴はいねぇのか?」

「ちょ、ちょっと、冬獅郎さん?」

「だいたい、それがよりによってなんで現世なんだよ。一々此処に来るのが面倒くさかったじゃねぇか。・・・そういうわけで黒崎、俺は適当にお前の家の屋根の上にでも居るから、松本が暴れだしたら呼びに来い」

「え?・・・え!?」

「よし、着いたな」


恋次を先頭にして歩き始めた乱菊達についていっていたら、いつの間にか一護の家の前に居た。

日番谷はそういうと、「あ!たいちょー!」と叫んでいる乱菊を無視して屋根の上に姿を消した。


「・・・」


 『・・・にしても面倒くせぇな』


日番谷の呟きが頭の中に響く。

正直、誕生日なんてどーでもいいと思っていたが、ここまでどーでもいいと思われると、さすがにショックを受ける。

「一護、早く入りなさーい!」とまるで自分の家であるかのように手招きしている乱菊に、まるで催眠術で動かされているかのように一護はフラフラと家に入って行った。








「一護(黒崎君)!誕生日おめでとう!!」

「あ、ありがとう・・・」


まるで小学生のお誕生日会のように飾り付けられた部屋の真ん中で、一護はお礼を言った。


「しかし、半日でここまでやったのは我ながらすごいな!」

「朽木さん!ケーキ作ってきたんだけど、どうやって切ろうか?」

「い、井上。それはなんだ・・・?」

「え?ケーキだけど?」

「キャー!!流石織姫!!おいしそー!」

「本当ですか!?」

「もちろん!」

「・・・おい、松本の目はどうかしてるんじゃねぇのか;;」

「ですよね;;」

「ぼ、僕に醜いものを見せないでくれ!」


結局、一護を祝うのは最初だけ。
もちろんわかっていた一護であった。


(だから嫌だったんだよ;;)


茶渡と石田も来ていたはずだが、茶渡は「用事がある」と、石田は「忙しい」とだけ言って帰ってしまった。

しかし、来ていたのは事実だった。その証拠に、部屋に飾ってあるものは茶渡の持っていたもので、石田の持っていたものは・・・


「朽木さん、それ可愛いね!」

「わかるか、井上!!」

「うん!それから・・・それは?」

「これか?これは兄様がデザインされたワカメ大使だ!!」

「わ、ワカメ・・・?」

「そうだ!素晴らしいだろう?」

「?」



ルキアの手にはウサギのチャッピーが、織姫の手にはワカメ大使があった。
石田の持っていたのはチャッピーだけだったが、どうやら再びルキアに作らされたらしい。


「!?」


突如、目の前に現れた酒瓶に一護は驚く。


「さ、一護!!飲みなさ~い!!」

「ら、乱菊さん・・・」


もうすでに3本も飲んでいる乱菊は、まだまだ余裕そうだが完全に酔っぱらっていた。


「いや、俺まだ未成年ッスから;;」

「何いってんの!今日の主役はあんたじゃない!」

(こんなときだけ主役かよ)


と、一護は心の中で突っ込んだ。

周りを見てみると、未だワカメ大使を見て「?」を浮かべている織姫と、チャッピーとワカメ大使に目を輝かせているルキア、ツキツキの舞を踊って恋次に呆れられている一角、それを見ている弓親。
皆好き放題に騒いでいた。

このうるさい中にずっといるのも疲れるわけで、一護は外の空気を吸おうと、「あ!逃げたわね!一護!」と叫ぶ乱菊を無視し、窓を開け、腰かけた。


(そういえば、冬獅郎はどうしてんのかな?)


この暑い中外にずっと出しておくというのもなんか悪いので、一護は屋根の上に上った。


「うわっ!」


そこで見たものに驚く。
日番谷は、綺麗に氷を操って屋根を造り、その下で涼んでいた。


(流石、氷雪系最強の斬魄刀の持ち主・・・)


と一護は感心しながら、屈んで日番谷を覗いた。




「とーしろー?」

「・・・なんだ?松本がなにかやらかしたか?」

「いや、そうじゃねえんだけど・・・まぁ、当たってるといえば当たってるな」

「・・・うるさくて逃げてきたのか?」

「ああ・・・」


そう頷くと、一護は氷の屋根の下で寝転がっている日番谷の隣に腰かけた。


「ったくあいつらは・・・。ここで十分うfるせぇのに、よく今まで耐えてたな」

「まぁ、な」


一護は苦笑いをする。
日番谷は一護に向けていた首を元に戻すと、氷でさらに青くなっている空を見上げた。


「・・・黒崎、一応言っておく」

「ん?」

「・・・誕生日、おめでとう」


日番谷の口から出るとは思っていなかった一護は、少し目を見開くが、ニッと笑って、


「サンキュー!」

「ああ・・・」


耳を塞ぎたくなるほど煩い誕生日になったけど、たまにはこういうのも悪くない。

―――たまには、だけど。


「うるせぇけど、部屋、行こうぜ。お前暑いのダメなんだろ?」

「・・・そうだな。あいつらを叱りに行くか」





数秒後、一護の部屋が南極のように寒くなり、氷像が二つほどできたらしい。(乱菊。恋次←巻き添え)












「寒い・・・!」












一護は次の日、極端すぎる気温の変化に体を壊し、熱を出した・・・らしい。




<END>


8/10ページ
イイネ!