Short Novel





「では、日番谷隊長。挨拶を」
「はい」

総隊長に促され、返事をして一歩前へ出た日番谷は、真っ直ぐ前を向いて、

「十番隊隊長に就任した、日番谷冬獅郎です。よろしくお願いします」

そう言って頭を下げた。
それと同時に周りがざわついたので、何か間違えたかと思って顔を上げると、

「!?」

目の前には、鮮やかな橙が視界いっぱいに広がっていた。
そのことに驚いた日番谷は、目を見開く。

橙は目の前にいる人物の髪の色で、その人物は日番谷は見てニコニコ笑っている。
未だに固まっている日番谷に変わって、浮竹が口を開いた。

「君は、誰だい?」

すると目の前の人物は、浮竹に振り返ってこう言った。

「冬獅郎の彼氏です」


・・・・・・は?


その場がシーンと静まり返る。


その空気を気にすることもせず、その青年は日番谷を振り返ると、

「可愛いなぁ!冬獅郎!」

と言いながら日番谷の頭に手を置いて、撫で始めた。
ずっと呆けていた日番谷もようやく我に返り、そのことに驚きながらその青年を見上げる。

「ちょっ・・・!何して・・・!」
「何って、頭撫でてるんだけど」
「だから何で撫でてんだよ!」
「それは・・・可愛いから!」
「はぁ!?」

そう言いながら青年は撫でることをやめない。
どうすればいいか困惑していると、青年は更に・・・

「ああ!やっぱりこの頃の冬獅郎は、本っ当に可愛いな!」
「うわっ!!」

思い切り抱きついた。
これには流石に日番谷は抵抗し始める。

「な、何すんだよ!離せ!///」
「何?照れてんのか?照れるとーしろーもかわいー♪」
「さっきから何なんだよ!可愛い可愛いって!///」
「そりゃもちろん冬獅郎のこ「黒崎ーーーー!!!!!!」

青年の言葉を遮って現れたのは―――

「え・・・!?お・・・れ・・・?」

―――日番谷冬獅郎だった。

「と、冬獅郎!!なんでここに!?」
「いきなりお前が居なくなったから、浦原を脅し・・・いや、頼んで迎えに来てやったんだろうが!!」

さり気に「脅して」と言っていたが、それはあえて聞かなかったことにしよう。
二人の日番谷が居るということに、驚愕している隊長達は、ついていけていない。
過去日番谷の方に至っては、気絶寸前だった。

「それよりお前、何をやっている・・・?」

現在日番谷が一護を睨みながら問う。
周りの過去隊長達は眼に入っていないらしい。
すると一護は顔を引きつらせながら、現在日番谷から目を逸らして、

「いや・・・アレだ!その・・・」

と口ごもっていた。
日番谷はそんな一護を睨み続けながら、

「過去の俺なんかに何の用だよ?」

全て見抜かれている・・・!

そう一護は確信した。

「悪かったな。現在(いま)は可愛げなくてよ」

一護はバッと過去日番谷から離れる。

「ち、違うって!そんなんじゃねぇよ!!」
「・・・」
「今も昔もお前はお前だろ!俺は『日番谷冬獅郎』の全てが好きなんだよ!」

周りを気にせず(日番谷もだが)恥ずかしいことを大声で言う一護に、現在日番谷は顔を赤くして一護に怒鳴る。

「・・・!///何恥ずかしいこと大声で言ってんだ!!///]
「俺は本当のことを言ったまでだ!!」
「っ~~!!!///もういい!!!///」
「あっ!待てよ冬獅郎!!」

そういってサクサクとどっかいってしまう現在日番谷を、一護は慌てて追いかけた。


・・・


・・・


・・・


沈黙・・・



「俺、未来あんな風になっちまうのか・・・?」

と、過去日番谷が呆然と呟いた声が、やけにその場に響き渡った。

結局、過去からすれば旅禍の二人を捕まえることなどすっかり忘れ、数分唖然としていた一同だった。




<END>


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イイネ!