Short Novel



―――隊長就任。

先日、総隊長に聞かされた言葉だ。
隊長になるための必須条件・卍解を会得して、隊首試験にも合格。

とまぁ、隊長になったわけだが・・・
相変わらず、俺に向けられる視線は変わらなかった。

―――『天才』

―――『神童』

死神になる前、霊術院のころから言われてきた言葉。
それは、死神になって、隊長になった今でも言われ続けている。

正直、慣れるものじゃない。
だが、あの頃は―――あいつが居たから・・・

『お前が先に隊長になったら、俺はお前んとこの副隊長になる!けど、俺が先に隊長になったら、お前は俺の副隊長になるんだ!』

『俺とお前が組めば、最強の隊がつくれる!!』

―――草冠。

俺は、お前の夢だった隊長になった。
お前の代わりに・・・
もし、お前が生きていたのなら―――





ギィィ・・・

一番隊隊舎の門がゆっくりと開いていく。
完全に門が開き終わると同時に、日番谷は足を踏み入れた。

日番谷から見て右側には奇数隊の隊長、左側には偶数隊の隊長が、一番隊隊長・山本元柳斎重國を挟むように、ズラリと並んでいる。

十二番隊隊長と十三番隊隊長の少し手前辺りに立ち止まった日番谷は、隊長の後ろに副隊長も並んでいることがわかった。
そのとき、自分の隊の副官を見て少しだけ目を見開く。

「日番谷隊長、挨拶を」

元柳斎の言葉に、日番谷は姿勢を正して、

「十番隊隊長に就任した、日番谷冬獅郎です」

と言って、頭を下げた。
もともと驚いていた隊長たちは、少しだけざわつく。

―――慣れるものじゃない。

だが、その苦しみはあるものの慣れてしまった日番谷は、無表情で下げていた頭を上げた。
すると、目の前に人がいるのに気がついて、驚いて更に顔を上げる。

白髪の長い髪の男が、日番谷を見下ろしていた。

何故、自分の目の前にいるのかわからない日番谷は、男が口を開くのを待つ。
すると男はニコッと笑って手を差し出してきた。

「十三番隊隊長の浮竹十四郎だ。よろしく」

一瞬キョトンとなった日番谷は、すぐに我に返り、その手を握り帰した。

「日番谷冬獅郎です。よろしくおねがいします」
「冬獅郎かぁ~。なんだか俺と名前の響きが似てるな!」
「は?」

いきなりそんなことを言われた日番谷は、無意識に間抜けな声を出してしまう。
そんなことも気にせず、浮竹は日番谷の手を握り締めたまま、嬉しそうに語りだす。

「『冬獅郎』と『十四郎』。ほら!似てるだろ?」
「え、ええ、まぁ・・・」
「そうだ!お菓子、いるかい?」
「はぁ?」
「たくさんあるんだ!なんなら、あとで十三番隊に来てくれ!まだまだあるぞ!」
「いや、あの・・・」
「止さないか浮竹。日番谷くん困ってるじゃないか」

そう言いながら来たのは、女物の着物を隊首羽織の上に着て、笠をかぶっている男だった。
そのあまりに派手な格好に、呆然としていると、いつの間にかその男に手を取られ、握手をしていた。

「八番隊隊長の京楽春水だよ」
「あ・・・日番谷冬獅郎です」

そう言って軽く会釈をする。
そんな日番谷に京楽は微笑むと、袂からお菓子をじゃんじゃん出している浮竹に「誰だってそんなに要らないでしょ」と注意(?)していた。

隊長というのはもっとキビキビしているものかと思っていた日番谷は、二人の様子に少しだけ緊張がほぐれた。

すると、後ろからなにやら柔らかいものが頭に押し付けられる。

―――この感覚は・・・!

そう思って逃げようとしたが時既に遅く、あの胸に捕まってしまった。

「まさかあの時の坊やがあたしの隊長になるなんて☆すごーい!」

―――やはりそうか・・・!

必死に逃れようとしても、この女の力はとても強く、日番谷は窒息死寸前だった。
すると、近くに来た誰かが何か言ったのか、女は抱きしめている腕の力を抜いた。
途端、日番谷は崩れるように床に手をつき、必死に酸素を求めた。

「あれじゃあ本当に殺すところでしたよ!」
「そんな、殺すわけないじゃない☆」

という、女と男の会話も、死にかけた日番谷の耳には入っていなかった。

ようやく息を整えたところで、女が日番谷の顔を覗き込むようにして、膝を折る。

「あたしは松本乱菊!久しぶりね、坊や☆」

その軽い調子に、日番谷は怒りの感情しか出てこなかった。
今が、隊首会だということも忘れるくらいに。

「『坊や』っていうな。大体俺はお前に殺されかけたんだぞ。まず謝れ」
「殺そうとはしてないんだからいいでしょ。それにスキンシップよ!スキンシップ!」
「なにがスキンシップだ!!」

笑っている乱菊とは正反対に、怒っている日番谷。

その二人の様子を見て、辺りがシーン・・・と静まり返る。

それに逸早く気づいた日番谷は慌てて立ち上がり、すぐさま謝った。

「し、失礼しました!」

だが、すぐ近くに居た浮竹と京楽は、そんな日番谷の様子を見て、プッと噴出すと、笑いながら言う。

「別に気にしなくていいよ!面白いね、日番谷くん」
「あの・・・?」
「二人は知り合いだったのかい?」

なにが面白いのかわからなかった日番谷だが、京楽に訊かれて「まぁ・・・」と返事をする。
そこに乱菊が割り込んできて、

「あたしが隊長に『死神になりなさい』って言ったんですよ!」

そう言って日番谷に再び抱きつが、日番谷はきれいにそれを避け、「まぁ、そんなかんじです」と二人に言った。

「そうか。でもすごいな。『死神になれ』って言った人のところで、隊長になってしまうなんて」

浮竹が笑いながら言う。
「そうっすか?」と言う日番谷に「そうだよ」と言って京楽が近づいてくる。

「運命みたい素敵じゃないか」

京楽のその言葉に日番谷は「あまり嬉しくないっすけど」と呟く。
その呟きが聞こえた地獄耳の乱菊は、「酷いですよ!」と不満の声を上げていたが、日番谷はそれを完全に無視した。

そう会話をしていると、しばらくそれを見ていた元柳斎が軽く咳払いをする。
それはその一室に大きく響き渡り、気づいた皆は慌てて自分の場所へと戻っていった。
皆が戻ったことを確認すると、元柳斎は日番谷を見据えて、

「そういうわけで、これからよろしく頼むぞ。日番谷隊長」

元柳斎の言葉に、日番谷が「はい」と返事をしたところで、隊首会は終わった。





それぞれ自隊に戻っていく隊長格もいれば、日番谷に自己紹介をしに来る隊長格もいた。

日番谷はそれで大体の隊長たちを覚え、礼をすると乱菊と共に隊首会の場から出て行った。

十番隊に着くと、まず自分の自己紹介をし、とりあえず執務室に向かった。
執務室に着いて、改めて乱菊は日番谷に手を差し出し、

「よろしくお願いしますね☆日番谷隊長!」
「ああ、よろしく

と握手をした。

もし、お前が生きていたのなら、お前は松本を必ず抜いて、副隊長の座に着くんだろうな―――草冠。





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イイネ!