君に贈る呪いの歌
ココハ・・・何処ダ・・・?
オレハ・・・一体、何ヲ・・・?
ワカラナイ・・・!
ワカラナイ!!
・・・会イタイ・・・!
誰ニ・・・?
ワカラナイ・・・
デモ、モノスゴク愛オシイ・・・!
会イタイ・・・!!
彼女ニ・・・!!!
会イタイ!!!
虚の咆哮が、流魂街に響き渡る。
それと同時に、無数の虚が現れる。
「な、何だ・・・!?」
「ば、バケモノが・・・!!!」
流魂街の者達は、うろたえ逃げ始めるが、虚の数は増え続ける。
「ぐぁあああ!!!」
―――会いたい・・・!
『ずっと一緒に居ようね。――』
『ああ。約束だ、――』
「―――!!」
突如頭に流れてきた映像に、虚は戸惑う。
その隙に逃げる流魂街の魂魄達にも気付かないほどに。
(ナンダ、今ノハ・・・!?)
――わからない・・・
十番隊執務室。
「何だと・・・!?」
先刻戻ってきた日番谷と一護は、乱菊にくどくど言われながら過ごしていたが、窓から入ってきた地獄蝶からの伝令を聞いて目を見開く。
「流魂街に、虚だと・・・!?」
「何っ・・・!?」
日番谷の呟きに一護も驚いて立ち上がる。
「どういうことだよ!?」
「わからない。だが、このままにもしておけない。行くぞ、黒崎、松本!!」
「おう!!」
「はい!!」
三人は斬魄刀を携え、流魂街へ向かった。
「これは・・・!」
日番谷達が来た時には、流魂街は荒れ果て住人は姿を消していた。
「ひでぇな・・・」
「どうなってるの?虚は?」
乱菊の言葉に、日番谷は首を振る。
「わからない。だが、油断はできねぇからな」
「はい!」
「冬獅郎、アレ!!」
一護が指差す方向には、一直線に建物が破壊されている痕跡があった。
「あれは・・・」
「おそらく、あっちへ虚の黒幕が向かったんだろうな」
「隊長、どうします?」
「とりあえず、行ってみるぞ」
日番谷はそう言うと走り出す。
一護と乱菊もそのあとに続いた。
―――
「――?」
不意に、日番谷は足を止めた。
「どうしたんだ?冬獅郎」
「隊長?」
日番谷が足を止めたことに気付き、二人も足を止めて振り返る。
「いや、何か聞こえたような気がしたんだが・・・」
「そうか?」
三人は耳を澄ますが、辺りは静まり返ったまま。
「気の所為じゃないんですか?」
「・・・そうだな」
「とにかく、行こうぜ!」
一護と乱菊は再び足を進める。
「・・・」
日番谷はしばらく立ち止っていたが、踵を返して一護と乱菊を追った。
『まさか・・・!』
洞窟の中で、女がハッと気づいて顔を上げる。
「っ!?」
それと同時に、日番谷も何かに気付きバッと振り返る。
「会イタイ!!!」
「なっ・・・!!」
振り返ったそこには、咆哮を上げる大虚の姿。
日番谷は反射で氷輪丸を抜き、振り下ろされた大虚の腕を受け止める。
「グォォオオオ!!!」
「ぐぁあ!!」
振り払われた日番谷の体を吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「くっ・・・!」
「約束ヲ・・・!」
突然、起き上る日番谷の耳にある音が入ってくる。
ハッと顔を上げる。
「まさか・・・これは・・・!」
「アノ人トノ・・・約束・・・」
日番谷の眼が次第に見開かれていく。
――これは・・・歌・・・?
――歌
――その歌を聴くと一週間以内に死ぬ。
――呪いの歌。
「っ!!」
日番谷は咄嗟に身を起こし、虚を見遣る。
「グォオオオ!!!!」
「まさか・・・お前・・・!」
『あの人を、止めないと・・・!』
洞窟に居た女の言葉が蘇る。
「お前が言う、『会いたい奴』って・・・――っ!!」
呟いた刹那、虚の腕が日番谷に迫る。
斬魄刀を構えるが、虚の腕は既に眼前にあり、
(間に合わな・・・っ!!)
目を瞑るが、しばらくしても痛みはなく、聞こえてきたのは何かが斬られる音。
「・・・?」
日番谷はゆっくりと目を開くと、目の前は黒一色。
見上げれば日の光よりも眩しい橙。
「黒崎・・・?」
「大丈夫か、冬獅郎!!」
振り返って心配そうな表情でそう言う一護に、日番谷はゆっくりと頷く。
「隊長!」
「松本・・・」
斬月を構えている一護に、駆け寄ってくる乱菊。
日番谷はゆっくりと立ち上がるが、
「っ・・・!!」
ガクンと両膝をついてしまう。
「隊長!!大丈夫ですか!?」
「あ、ああ・・・」
日番谷自信も戸惑いながら頷く。
虚からの大した攻撃は受けていないはずなのに、力が入らない。
(あの曲・・・まさか・・・)
――聞くと呪われる歌。
――呪われた者は一週間以内に死ぬ。
先程まで聞こえていた歌も、一護が来てから聞こえなくなっている。
呪いなど、死神である自分が信じるわけないが、やはり体に異常が起きているのは事実だった。
(くそっ・・・!)
「隊長、とりあえず移動しましょう」
「ああ・・・」
一護と虚が戦っている今、この場所は危険だった。
日番谷は、乱菊に手を貸してもらいながらゆっくりと立ち上がった。
一方一護は、虚との戦いに苦戦していた。
(こいつ・・・いくら大虚とは言え、強くねぇか・・・?)
そう考ええていると、突然咆哮をあげる虚。
「彼女ニ会イタイ!!」
「なっ・・・!?」
咆哮をとともに急激に上がった虚の霊圧に、一護は目を見開く。
(大虚の霊圧が、こんなに大きくなるのか・・・!?)
そこでふと、あることに気づく。
(?・・・こいつの霊圧・・・)
虚の霊圧の中に、もうひとつの霊圧を感じる。
(どういうことだよ・・・!?)
「グォオオオオ!!」
「くっ・・・!!」
油断をした一護に虚が腕を振り下ろす。
なんとか斬月で受け止めるも、足が地面に沈む。
「どうすりゃ・・・」
「黒崎!!」
不意に聞こえた声に振り向くと、今にも倒れそうな日番谷がこちらを見つめている。
「冬獅郎・・・?」
「そいつを絶対に殺すんじゃねぇ!!」
「なっ・・・!?」
一護は日番谷の言葉を信じられず、目を見開く。
それは、隣にいた乱菊も同じことだった。
「隊長、どういうことですか!?」
「冬獅郎!お前、何言ってんだよ!?」
「――・・・」
二人の問いかけに、日番谷は口を開こうとしない。
ただ黙って一護を見つめている。
そんな日番谷に、二人は戸惑うばかりだった。
『日番谷、冬獅郎・・・』
女の声が、洞窟に響く。
「ぐぁあああ!!」
「黒崎!!」
日番谷の言葉に驚き、油断していた一護は後ろに迫っていた虚の腕に吹っ飛ばされる。
「隊長!さっきのはどういうことですか!?」
「・・・」
「黙ってちゃわかりません!ちゃんと説明してください!!」
乱菊はそう言いながら日番谷に詰め寄る。
日番谷は乱菊から目を逸らしながら、小さく呟く。
「あいつはある奴に会わなきゃいけない・・・」
「ある奴・・・?」
乱菊は聞き返すも、日番谷はもう何も答えないというように背を向けていた。
『私は、あの人とある約束をした・・・』
(あの虚はきっと、あの女が言っていた奴が虚に取り込まれた姿・・・)
『しかし、私はそれを破ってしまった・・・!』
(見る限りでは、あいつはまだ人の意識を完全には失ってはいない・・・)
『あの人に恨まれるのは私だけでいい・・・!!』
(なら、まだ助けられるはず・・・!!)
『他の人を巻き込んでほしくない!!』
(だから、まだ殺せない・・・)
『どうすれば、あの人を止められるの・・・!?』
「くそっ・・・!!」
一護は肩で息をしながらゆっくりと立ち上がる。
(冬獅郎が何考えてるかわかんねぇけど、俺はあいつを信じる・・・!)
一護は斬月を構えると、虚に向かって飛び出す。
(とりあえず、動きだけでも止める!!)
「・・・」
突然、虚は動きを止めてジッとある一点を見つめている。
一護は突然のことに戸惑い、足を止める。
(何だ・・・?)
「・・・?」
それを見ていた日番谷も、怪訝そうに眉を顰めている。
突然、虚の体が消えはじめる。
昇華されたわけではないのに消えていく虚。
その光景に驚愕する三人。
そのあっという間に、虚の体は消えていった。
「・・・」
「どういうこと・・・!?」
乱菊は呆然と呟く。
一護と日番谷もあまりの突然の出来事に、驚きを隠しきれていない。
しかし、
「っ・・・!」
「隊長!?」
まるで虚が消えたからと言っていいほどのタイミングに、日番谷は両膝から崩れ落ちた。
「冬獅郎!?」
「隊長!!しっかりしてください!!・・・隊長!!」
しかし、そんな二人の呼びかけも虚しく、日番谷の瞳が開かれることはなかった。
「乱菊さん・・・」
「とりあえず、一旦隊舎へ運ぶわよ」
「わかった」
不意に頭の中に流れた映像。
「いつも思うけど、本当に素敵な曲よね」
「そうか?あんま自信がないんだけどな・・・」
「何言ってんの。このあたしが認めてるんだから、自信持ちなさいよね!」
「なんだよ、それ」
「ねぇ!歌詞とかつけないの!?」
「そうだなぁ・・・」
「ねぇ、どうなのよ!?」
「う~、俺はまだ歌詞とか付けたことないから・・・」
「それが何よ!やってみたことないんなら、やってみればいいじゃない」
「だから、言われてすぐに出来るようなもんじゃ・・・」
「誰が直って言ったのよ」
「わ、わかったよ!・・・やってみる」
「ほんと!?じゃあ、楽しみに待ってるね!」
「う、うん・・・」
(な、んだ・・・?これ・・・)
「うぅ・・・」
ゆっくりと目を開けると、そこは見慣れた天井。
「ここは・・・」
「あ!隊長、目が覚めましたか!」
「冬獅郎!大丈夫か!?」
安堵した表情で、乱菊と一護が視界に入ってくる。
「松本・・・黒崎・・・」
「いきなり倒れて、びっくりしたんですからね!」
「何があったんだよ、冬獅郎」
真剣な表情の一護に視線を移し、
「いや、俺にもよくわからねぇ・・・」
「そうか・・・」
「隊長・・・」
『日番谷冬獅郎・・・お願い、来て・・・』
「・・・!?」
突如聞こえた女の声に、日番谷は驚いてバッと立ち上がる。
「どうした、冬獅郎!?」
「隊長?」
「・・・!」
二人の問いかけには答えず、日番谷はそのまま執務室を飛び出す。
「おい、冬獅郎!!」
「隊長、何処行くんですか!?」
二人も慌てて日番谷を追おうとするが、
「うおっ!?何だ!?」
「一護!?松本副隊長!?どうされたのですか?」
扉を開けるとそこには恋次とルキアが書類を抱えて、今にも扉を開けようとしていた姿だった。
「ちょっと退いて!!」
「痛っ!!ちょ、ちょっと乱菊さん!?」
恋次の肩を押しのけて乱菊は日番谷を追う。
「一護、どうしたのだ?」
「説明は後だ!」
そう言うと、一護は乱菊の後を追う。
一護の背中を見つめながら呆然としていた二人は、ハッと我に返る。
「恋次、わたしたちも後を追うぞ!」
「あ、ああ!」
二人は同時に一護と乱菊の後を追うため、駆けだした。
流魂街。
「はぁ・・・!はぁ・・・!」
洞窟前、日番谷は息を整える。
あのとき確かに聞こえた女の声。
日番谷は洞窟に入ろうと足を踏み出すが、
「隊長!!」
「ゔっ!!」
突如、強力な抱擁に日番谷は首が折れたかと思うほどの痛みを受ける。
もちろん、わぜとではないその強烈な攻撃を仕掛けてきたのは自分の副官で、
「松本!!てめぇ、何しやがる・・・!!」
「何処行くんですか!!さっきまで倒れて気絶してたのに・・・」
ほぼ羽交い絞め状態になり、日番谷は流石に苦しくなってくる。
「ま、まつもと・・・!!いい加減、放せ・・・!!」
「嫌です!!」
更にきつく抱きしめてくる乱菊に、日番谷は気を失いそうになる。
「ら、乱菊さん!!」
「何すんのよ、一護!!」
救世主が来た。
今の日番谷にはそれしか感じられなかった。
(日番谷曰く)乱菊の攻撃を止めさせた一護は、日番谷に駆け寄る。
「だ、大丈夫か!?」
「す、すまない・・・」
怒られる以前に殺されかけた日番谷は、素直に礼を言う。
「隊長!!いい加減にあたしを頼ってください!!」
「・・・」
乱菊の言葉に、日番谷は目を逸らす。
しかし、乱菊がそれを許さない。
「隊長、こっちを向いてください!!」
「なっ・・・!」
日番谷の両肩をガシッと掴むと、前後に激しく揺らす。
「うっ・・・!!!」
「さぁ、隊長!!白状してください!!」
日番谷は生と死の狭間を見た気がした。
(冬獅郎・・・哀れすぎる・・・)
「わかった・・・!話すから退け!!」
怒鳴りながら、日番谷は乱菊を退かす。
乱菊は拗ねた顔で日番谷を睨んでいる。
(いいよな・・・?)
『・・・仕方がないわ』
日番谷は顔を洞窟に向けて問いかける。
女は視線を少し落として言う。
「・・・」
日番谷は目を伏せ、ゆっくりと開いてから口を開いた。
「・・・あの虚は、ここにいる女の大切な人だ」
「ど、どういうことですか!?」
日番谷の言葉に乱菊と一護は目を見開く。
「つまり、魂魄に虚が乗っ取ったということだ」
「そんなことってあるのかよ!?」
一護は肩を掴むような勢いで日番谷に問う。
「だから、それを確認しにここへ来たんだ」
「隊長・・・」
日番谷は二人に背を向ける。
「ついて来い」
「待てよ!冬獅郎!」
「隊長!待ってください!」
スタスタと歩き出す日番谷を、慌てて乱菊と一護は追った。