君に贈る呪いの歌



戌の刻。

すっかりこんな時間になってしまった。
そろそろ本気でここから抜け出さないと本気でマズイと考えた三人は、しばらくどうしようかと思案していた。
そんな三人の耳に、再びあの曲が聞こえてきた。


「この曲は・・・!」

「間違いねえ。先刻聞こえた曲だ」

「どうすんだ?」

「とりあえず、様子をみる」


そう会話して耳を澄ました三人の耳に、更に別方向から同じ曲が聞こえてきた。


「日番谷隊長・・・」

「ああ・・・」

「どうなってんだよ・・・!」


更に別方向。また更に別方向から同じ曲が聞こえてくる。
音量が少しずつ大きくなってきていた。

それはまるでお経のように、辺りに響き渡っていた。


「このままじゃマズイんじゃねえのか!?」

「どうしましょう!?」

「とりあえず、ここを離れるぞ!」


瞬歩で移動した日番谷に続き、二人も移動する。

しかし、音は大きくなるばかりで全く小さくならなかった。


「どういうことだよ!?」

「知らん!!」

「クソッ・・・!」


舌打ちした日番谷はある方向に掌を向け、


「破道の六十三、雷吼咆!!」


日番谷の掌から、稲妻が放たれた。









日番谷が雷吼咆を放った方向―――瀞霊廷に驚いて、一護は驚愕の声を上げる。


「冬獅郎!!何やってんだよ!!」

「いいから見てろ!!」


逆に怒鳴り返してきた日番谷に、一護は口を閉じる。

日番谷が放った雷吼咆は、瀞霊廷に当たる直前に何か見えない壁にぶち当たり、砕ける音がした。


「な、何だ・・・!?」


驚く一護とルキア、そして日番谷の視界がぼやけ始める。
眩暈のような感覚に、吐きそうになった一護だが、しばらくするとその気持ち悪い感覚も収まった。

辺りを見ると、森に入る前、乱菊を待っていた場所に居た。


「ど、どういうことだよ?」

「わからぬ」


隣に居たルキアに聞き、ルキアも首を横に振る。

二人は同時に日番谷に視線をよこした。


「冬獅郎。どういうことだよ?」

「おそらく、結界か何かだったんだな。俺たちはそれに閉じ込められていた・・・それだけの話だ」

「それだけって・・・」


日番谷は一護に背を向け、瀞霊廷へと歩き出した。
ルキアもそれを追う。

一護は何か納得のいかないような顔をしていたが、やがて二人を追った。




「たいちょーーー!!」

「!?」


横からものすごいスピードで走ってきたのは、


「たいちょぉおおお!!!」


眼元に涙を浮かべた乱菊。
普通に見れば、男共は綺麗な女性に見えるのだろうが、日番谷から見れば、それは恐怖の塊にしか見えなくて、


「うわっ!」


顔をひきつらせ、瞬歩で逃げる有様だった。

走ってきた勢いで日番谷に抱きつこうとしていた乱菊は、日番谷に避けられこけそうになる。


「ちょ、ちょ、ちょ!隊長!!何で避けるんですか!?」

「危ねぇからに決まってんだろ!!というか、無事だったんだな。松本」


安堵の息をついた日番谷に、乱菊は首をかしげる。


「あたしの心配してたんですか?ただ、肝試し大会やってただけなのに?」

「お前、全く気付いてないのか?」


乱菊の言葉に日番谷は驚愕して目を見開く。


「何をです?」

「あの森全体に、何かの結界が張られていたんです」

「結界?」


ルキアの説明にも、乱菊は首をかしげるばかりだった。






乱菊の様子から、結界の中に居たのは自分達だけだということに気付いた日番谷は、今までのことを乱菊に説明しようと口を開くが、


「まさか、怖かったんですか?」

「・・・は?」

「も~う!一護と恋次、まぁ朽木は大丈夫そうだと思ってたけど、隊長まで~」

「・・・」

「結界なんて、霊圧も何も感じなかったし、そんなのあるわけないじゃないですか~☆」


乱菊の態度に、こめかみをひくつかせていた日番谷だが、やがて諦めたようにため息をつくと、ルキアを振り返る。


「朽木。阿散井の霊圧を探っておいてくれ」

「は、はい!」

「あ!隊長~図星ですか~?」


無視した日番谷に乱菊はからかい、そう言うが、


「そうだな・・・だったらお前にもその恐怖を味あわせてやるよ・・・」

「た、たいちょ?」


乱菊が普段見せる怒りオーラより、遙かにどす黒いオーラを纏う日番谷に、乱菊は本当に恐怖を感じる。


「ちょ、ちょっと隊長!やですね~。そ、そんなの冗談に決まってるじゃないですかぁ~」


と慌てて言うも、時すでに遅し。


「まつもとぉおおおお!!!!!」


日番谷の怒鳴り声は、森周辺に響き渡った。





その頃の恋次。


「まつもとぉおお!!!」

「っ!?」


日番谷の声にビクッと肩を上げて驚く。


「ひ、日番谷隊長・・・?」


恋次は動くに動けず、うずくまっていた。



「・・・だ・・・い・・・」


フラフラと森の中を彷徨う男。

顔色は蒼白で、今にも倒れそうだ。


「い・・・だ・・・わ・・・た・・・い・・・」


小さくぶつぶつと呟いている。

それは、次第に大きくなっていく。


「嫌だ・・・別れたくない・・・」


男はそう呟くと、立ち止り、鼻歌を歌い始める。

それは、日番谷達が聞いた曲だった。


「君に会いたい・・・会いたいよ・・・」


男は再び歩き始めた。


「聞こえてる?この歌・・・」


男はそう呟いて、鼻歌を歌いだした。









「・・・もう、止めて・・・」


女の声が、どこからか聞こえた気がした。










「それにしても、あの結界は一体何だったんだよ?」

「さぁな。だが、何かあることは間違いねえよ」


シュゥゥと音を出して気絶している乱菊を背に、一護と日番谷は眉間に皺を寄せる。ちなみに、乱菊は日番谷の怒鳴り声とオーラのみで気絶した。


「それから、あの曲も気になりますね・・・」


乱菊を気にしていたルキアが、口をはさむ。

頷いた日番谷はルキアに尋ねる。


「阿散井の霊圧はどうなっている?」

「それが、近くにいることは居るのですが・・・」


ルキアは口ごもりながら言う。

その様子に二人は首をかしげる。


「霊圧が、少し移動したかと思うと極端に大きく揺れて、止まるのです」

「「・・・」」


間違いなく怖がってるな、と同時に思った二人だった。


「日番谷隊長。どうされますか?」

「・・・しょうがない。俺が行く」

「え!?」


日番谷の言葉に驚いたのは一護で、


「何か問題あるか?」

「いや、また結界に閉じ込められるとかあるんじゃねえのか?」


一護の仮定に、日番谷は平然とした表情で、


「そしたら、また鬼道ぶっ放しゃいいだけだ」

「・・・」


一護は何も言えなくなった。

日番谷は恋次の霊圧を確認すると、瞬歩で姿を消した。

・・・

・・・

・・・

・・・


「うっ!!」


ゴツッっと言い音がしたかと思うと、そこには地面に頭をぶつけた恋次の姿が。


「この程度でビビるお前が悪い」


腕を組んだ日番谷が言う。

どうやら、乱暴に担いで瞬歩で帰ってきたあと、乱暴に地面に落としたらしい。


「流石に今回は何も言えないぜ」

「全くだ」


一護とルキアは冷めた目で恋次を見下ろした。





「少しは何か言えよ!!」

「うるさい、黙れ」

「うっ・・・!」


ルキアの突き放すような態度に、恋次は唸る。


「とにかく、阿散井のことはどうでもいい。とりあえず、隊舎に戻るぞ」

「ど、どうでもいいって・・・!」


酷い扱いを日番谷にもされ、恋次のダメージは大きい。
だが、その恋次の言葉を遮って、


「はい」

「ああ」


ルキアと一護は頷いて、歩き出した日番谷の後を追った。


「ちょ、ちょ!テメエら待・・・っぶ!!」

「たいちょう~!!待ってくださ~い!!!」


追いかけようとした恋次の頭を踏みつけ、駆けて行った乱菊。


「・・・」


阿散井恋次。檜佐木修兵の如く可愛そうな男。








瀞霊廷。


「ようやく戻れたな」

「そうですね」


日番谷とルキアはため息をつく。

時刻は亥の刻。

あれから数時間もあの森を彷徨い続けていたのかと、改めて気付く。


「日番谷隊長!」


呼ばれて振り返ると、隊士が一名走り寄ってきた。


「どうした?」

「総隊長からの伝令です。直に一番隊の隊首会室に来るように、と」

「俺だけか?」


そう問うと、隊士は「はい」と頷く。
日番谷は訝しげに眉根を寄せて「わかった」と隊士に言うと、隊士は「でわ」と踵を返した。


「隊長だけ呼ばれるなんて、珍しいですね」

「ああ・・・」


乱菊の言葉に日番谷は頷く。


「いつもはそんなことねえのか?」


一護の問いに、日番谷は「いや・・・」と首を横に振り、


「何かあった時、極秘任務のときは個人で呼ばれることがある」

「じゃあ・・・」

「ああ、何かあるんだろうな」


一護の言葉を遮って言うと、日番谷は皆に背を向け「先戻ってろ」とだけ言うと、瞬歩で姿を消した。




「あ!と、冬獅郎!」

「それにしても、日番谷隊長だけ、というのが気になるな・・・」

「そうね・・・」


ルキアの言葉に頷いた乱菊は、瀞霊廷の空を仰ぐ。

雲ひとつ無く、星達が瞬くこの空に、何か嫌な予感がする気がした。





一番隊隊舎・隊主会室前。

日番谷が扉の目の前に来ると同時に扉が開く。

日番谷は扉が完全に開くと同時に、中に足を踏み入れた。


「お呼びですか?総隊長」

「うむ。夜遅くにすまんな、日番谷隊長」

「いえ・・・」


椅子に腰かけている元柳斎の前に立つと、日番谷は「それで、用は?」と問う。

元柳斎は「実はな・・・」と前置きしてから口を開く。


「日番谷隊長にはあるところへ調査に行ってもらいたい」

「調査、とは?」

「うむ。場所は流魂街なのじゃが、そこへは一人で言ってもらいたい」


元柳斎の言葉に、日番谷は僅かに目を見開く。







「何故、俺一人何ですか?」

「集団で行動すると、目立つのでな」


日番谷は納得したように頷く。


「それで、調査する場所とは?」

「流魂街の外れにある森じゃ」

「っ・・・!」


元柳斎の言葉に日番谷はハッとする。


「そこはまさか・・・!」

「なんじゃ?行ったことがあるのか?」

「いえ・・・」


日番谷は元柳斎から目を逸らす。

元柳斎は日番谷の様子に片目を開く。
しかし何も問わず「そうか・・・」と言うと、立ちあがる。


「とりあえず、詳しい書類は後ほど渡す」

「わかりました・・・」



頷いた日番谷は踵を返して、隊首会室から出て行った。


「・・・」


その背中を見つめている元柳斎の表情は、複雑だった。






「・・・」


日番谷は無言のまま十番隊への道を歩いていた。

あの森には何かある。そう考えながら。


「ぐぁああああ!!!!」

「っ!?」


突如聞こえた悲鳴に、日番谷は慌てて声の聞こえた方へ走り出す。

そこで見たものは、胸を押さえながらもがき苦しむ隊士の姿。
日番谷は駆け寄るとその体を抱き起こす。


「おい!大丈夫か!?」

「た、助けて・・・くだ、さい・・・」


その言葉を最後に、ガクッと息絶えた。


「・・・!」


突然のことに日番谷は目を見開き、苦しげに眉根をよせると、四番隊へ地獄蝶を飛ばした。


しばらくして来た四番隊の隊士に、その隊士を任せると、日番谷はその隊士が運ばれていく様を見届ける。

もう助からないとわかっていても、せめて・・・

日番谷は目を伏せ、踵を返して十番隊を目指した。





十番隊執務室。


「隊長、遅いわね・・・」


壁にかかった時計を見ながら乱菊は呟く。

一護とルキア、恋次は何も言わずただジッとソファに座って日番谷を待っていた。










ガラっと音を立てて扉が開く。

四人はバッと振り返った。


「日番谷隊長!」


そこには、日番谷の姿があった。

日番谷は何も言わずに室内に入ると、隊主机に向かい、任務のための準備をし始める。


「冬獅郎!どうだった?」

「隊長、何かあったんですか?」


二人の問いに答えず、日番谷は準備を進める。


「冬獅郎?」

「隊長?」


いつもと様子が違う日番谷に、二人は首を傾げる。

日番谷は準備を終えると、顔を上げた。


「総隊長から、あの森の調査へ行けと言われた」

「「「「!!」」」」


日番谷の言葉に四人は驚愕して目を居開く。


「ど、どういうことだよ!!」

「極秘任務だ。本当は言わないつもりだったが、お前らだけには、と思ってな」

「何故、日番谷隊長だけ?」


ルキアの問いに日番谷は「集団では動けないそうだ」と答える。


「隊長、しかしあの森は何かあるんじゃないんですか?」


「私は知りませんけど」と付け足した乱菊に日番谷は頷く。


「だがな、仕方ねえだろ。任務だ」

「しかし・・・!」

「冬獅郎!!」






怒鳴った一護に、日番谷は静かにそちらに顔を向ける。


「なんでもかんでも一人でやろうとすんじゃねえよ!!俺もついてくからな!!」

「だから、命令だっつんてんだろ。ダメだ」

「いーや、絶対行くからな!!」

「・・・」


もう何を言っても駄目だと感じた日番谷は、ため息をつくと「わかったよ・・・」と諦めたように言った。


「隊長、あたしも・・・!」

「お前は仕事してろ」

「え~!」


仕事を免れるためについてこようとする乱菊をピシャリと切り捨てると、日番谷は「行くぞ、黒崎」と言って執務室を出て行く。


「たいちょ~う!」

「待てよ!冬獅郎!」


嘘泣きをする乱菊を無視して歩みを進める日番谷の後を、一護は追った。




「いいのか?乱菊さん」

「いいんだ。だいたい、肝試し大会やるぞとか言ってた時でもサボリやがったんだ」

「そ、そういえばそうだったな・・・」


本当にいつもサボっている乱菊のサボリ魔を、改めて知った一護であった。


「それより黒崎」

「ん?」


日番谷が足を止めて振り返る。


「俺は少し用がある。先に行っててくれ」

「用って何だよ?」











「この任務についての詳しい書類を取りに行くんだ。だから先に行ってろ」


命令口調なのが少しムカついたが、一護はため息をつくと、

「・・・わかったよ。どこで待ってりゃいい?」

「まぁ、白道門前辺りか」

「じゃあな」

「ああ」


日番谷は踵を返して歩き出す。
それを見送った後、一護も踵を返した。

ピタッと足を止めた日番谷は振り返り、一護の背中を見つめる。


(馬鹿な奴だ・・・)


鼻で笑うと、瞬歩で姿を消した。



(なんか、嫌な予感がすんだよな・・・)


一護はそう思いながら歩みを進める。


(・・・・・・・・・・・・・・・・・・駄目だ、わかんねぇ)


何かを忘れているような、何かモヤモヤする。

一護は眉間の皺をいつも以上に深くしながら歩いていた。
あまりにも目つきの悪いその様に、すれ違った死神が少し怯えるほどだった。





白道門前。


「・・・」


十分経過。
まだ来ないだろうな、と思いもうしばらく待つ。


「・・・」


二十分経過。
そろそろ来てもいいんじゃねえか?、と思いながらもうしばらく待つ。


「・・・」


三十分経過。
書類受け取るのにそんなに時間かかんのか?、と思いながら待つ。


「・・・」


四十分経過。
流石に異変を感じる。


「・・・」


五十分経過。
一護は気付いた。


(だ、騙しやがったな!あの野郎ーーーー!!!!!)


馬鹿だった。





「さて・・・」


一方、別の門から流魂街に出ていた日番谷は、瞬歩で移動中。

多少一護に罪悪感はあったが(ほんとに少し)、どうしても連れては行けなかった。

元柳斎に命令されたのもあるが、何か嫌な予感がする。

日番谷は受け取った書類に目を通す。


(突如聞こえてくる歌を聞いた者は、数日のうちに死んでいる、か・・・)


馬鹿ばかしい、と書類を懐にしまう。

歌を聞いただけで死ぬ。
そんなことが信じられるか。

日番谷は重いため息を吐くと、前方に森が見えたのと同時に走る速度を上げた。





一方一護は、騙されたことに怒り、眉間の皺を深くして流魂街に出ていた。

只今一護が居る場所は西流魂街第一地区・潤林安。
荒れた者などいないこの場所で、住民たちは一護を見て怯えていた。


(冬獅郎の奴・・・絶対許さねぇ・・・!!)


騙された一護も悪いのだが、そんなことなど頭にない一護はズンズンと歩く。






そんな中、ある会話が聞こえてくる。


「呪いかぁ・・・お前そんな話本当に信じてんのかよ?」

「けど、本当に人が死んでるんだって。最近じゃ死神も死んでる奴がいるらしいぞ」

「死神も!?けどよ、信じられねぇよ。―――歌を聞いただけで数日ごには死ぬなんて話」


その会話を聞いた一護は、思わず足を止める。


(歌・・・?)


「しかも内容が恋愛もんなんだろ?なんで愛を語る歌に呪いなんてあるんだよ?」

「それは、わからないけど・・・。とにかく危ないから気をつけないとな」


二人はそう語りながらどこかへ立ち去って行った。


(呪い・・・)


一護は森で死んでいった男の叫び声を思い出す。


(あれが、もし呪いの所為だったら・・・!)


――冬獅郎が危ない!!






その頃、日番谷は森の前に来ていた。

時刻は子の刻。

この時間に何故来なければいけないのかと今更ながらに日番谷は思う。


(あの爺・・・!!)


と内心毒づきながら日番谷は霊圧を探る。


(特に異常な霊圧はなし、か・・・)


日番谷はそれを確認すると、森に入ろうとするが、


「いけない」

「っ!?」


突如聞こえた声に足を止める。


「何者だ!?」


氷輪丸の柄に手を添えながら、日番谷は辺りを警戒する。

しかし、人の姿は全く見えない。


「行っては・・・いけない」

「何故だ?」


それでも聞こえる女の声に、日番谷は静かに問う。


「あなたに、呪いがかかる」

「呪い?生憎、そんなものは信じない性質でな」


日番谷がそう言うと、女は一泊間をあけて、


「本当は、こんなこと望んでないのに・・・」

「?なんのことだ?」


日番谷はそう聞いたが、女の声は聞こえなくなった。




日番谷は「今のは何だ?」と呆然としていると、「冬獅郎!!」と自分を呼ぶ声が聞こえ、振り返る。


「・・・黒崎」

「大丈夫か!?」

「・・・何がだ?」


いきなり「大丈夫か!?」と聞かれ、日番谷は多少返答に詰まる。
来た途端に怒鳴られると思っていたから。


「無事なんだな!」

「だから、何がだ?」

「よかった~!」

「話を聞け!!」


一人で勝手に安心している一護に、日番谷は怒鳴る。
しかし効果はなく、「あ、思いだした!」と叫ぶと日番谷に向き直る。


「!?」

「お前、俺を騙しただろ!!」

「・・・今更かよ」


「俺がどれだけ待ったと思ってんだよ!」と叫んでいる一護など無視し、日番谷は踵を返して瀞霊廷に向かう。
呆れて何も言えなかった。


「あ!人の話聞けよ!!」

(それは、俺がさっき言っただろうが・・・)


無茶苦茶な一護に、日番谷は深いため息をついた。

一護は慌てて日番谷を追う。


(それにしても、先程のあれは一体・・・?)


後で「待てって!」と慌ててついてくる一護を無視し、日番谷は思案する。

先刻の女の声。
なにかノイズがかかっているかのように聞き取りづらかったが、はっきりときこえた。


『あの森には近づいてはならない』と。






「冬獅郎?どうしたんだよ?」


黙っている日番谷を心配してか、一護がそう訊く。

日番谷は一護を一瞬見たあと、「いや、何でもない・・・」と答えた。

怪訝そうだったが、納得した一護は「そうか・・・」と言って黙って隣を歩く。


(もう少し・・・調べる必要があるな・・・)


日番谷はそう考えると、星空の瞬く空を仰いだ。






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イイネ!