Desperate Future 孤独の中で生きる二人




居ない。

居ない。

居ない。

居ない・・・!

居ない!

居ない!!

どこにも居ない!


外に出て辺りを見渡してみたが、やはり居ない。


目が覚めて、ぼうっとする頭で、周りを見てみたらあいつが居なかった。

慌てて飛び起きたものの、傷口が塞がっていなかったのか、血が包帯に染み込んでいた。しかし、あいつが居ない事のほうが重要で、ボロボロの体を引きずりながら地下の全てを探したが、やはり居なかった。

少し危険だが、外に出てもみた。
しかし、あの目立つ橙色が見つかることがなかった。

どこに行ったんだ・・・!

そう思って自分の斬魄刀を取りに戻って、再び外に出ようとしたが、足がふらついてまともに歩けない。
ほとんど地面を這うようにしてやっと外に出たが、今の自分では何も出来ないのが事実だった。

それでも、心配だったから。

―――また、自分の前から仲間が姿を消してしまうのかと。

どこにっ・・・どこにいるんだ・・・!

黒崎・・・!!




***




「正~解♪よくわかったね!そうだよ。僕が全ての元凶♪」

一護の目の前にいる人物―――少年は、ニコッと笑いながら言う。
それでも一護は少年を睨んだままだ。
一護のその態度に、少年は首をかしげる。

「なんでそんなに怒ってんの?せっかくわざわざ君の目の前に姿を現したってのに」
「・・・」
「これがどんなに危険なことかわかってんの?敵だよ!?敵!しかも君のような危険人物の前に丸腰で挑んでんだよ!?ちょっとは遠慮というか、気を使ってくれてもいいじゃないか!」

少年はそう言いながら一護の目の前に立つ。

「さぁ、その大きな刀で僕の首を斬ればいい。それが目的で来たんだろ?」

一護の刀を持つ手に、力が篭る。

「丸腰なんだ。『アレ』を殺したことぐらいでびびる様な君でも、簡単に出来ることだ」

刀を少年の首に持っていく。

「これであの子も、もう傷つかなくて済むね」

ドスッ

鈍い音がその場に響き渡る。
斬月が、地面に刺さった音だった。
少年は横目でチラッとそれを見ると、怪訝そうに一護を見つめる。

「・・・何してんの?」
「あいつらの・・・居場所を言え」

今まで口を開かなかった一護が、静かに言う。

「あいつらって・・・あの無様な死神たちのこと?」
「・・・どこだ?」

それ以上、無駄口を叩くなとでも言うように、一護は先程より声を低くして言う。
少年は、そんな一護に一瞬呆気に取られたが、フッと鼻で笑う。

「そんなの自分で探しなよ。僕はこれから君に殺されるんだから、気持ちの準備中にそんなこと言ってる場合じゃないよ」
「・・・」
「さぁ!その刀を持って!僕の首を切り落とせば良いだけなんだから!あのときのように」

ルキアの顔をした、『クローン』の首から流れ出す、大量の血。

「早くしないと仲間(みんな)が死んじゃうよ?」

「彼も・・・」と少年は囁くように付け足す。
一護は、手を伸ばした。

「っ―――!!!?」

少年は驚いて一護を見た。
一護が伸ばした腕が掴んだのは、少年の胸倉だったから。

「ざけんなよ!てめぇを殺す?仲間の居場所も聞き出してねぇのに、そんなことするかよ!」
「・・・君って面倒くさがりやなの?それくらい自分でしなよって言ったんだけど。僕が居なくなってからのほうが、あの人たちを探しやすいでしょ?」
「何企んでやがる?」
「何も?ただ、君に最後のチャンスをあげようと思っただけ。でも、それももう無駄か・・・」

少年はそう言うと一護の腕を払い、隠し持っていた刀を鞘から抜く。
一護はその刀を見て驚いた。

「その刀・・・!」
「うん、そうだよ。これが僕の斬魄刀「蒲黄花(ガマキバナ)。僕はこの斬魄刀が嫌いだった・・・でも!」

瞬歩で一気に距離を詰め、一護に斬りかかる。
一護はそれを何とか防いだが、その力は子供とは思えないほど強く、押されてしまう。

「この蒲黄花(かたな)のおかげで僕の望みが叶う!!」

そう叫ぶと、少年は一護といったん距離をとり、霊圧をあげていく。

「開け、蒲黄花!!」

少年が蒲黄花を解放させると、あたり一面に黄金の花が芽を出し、つぼみを膨らませ、開花した。

その花の中心部から、なにやら赤い液体のようなものが流れ始めた。
それは、その花一つだけではなく、その大地に咲いた全ての黄金の花から流れ出す。
気味が悪くて、一護は無意識にあとずさる。

少年は足元に咲いている花を一輪抜き取り、それを自身の斬魄刀・蒲黄花に赤い液体を垂らした。
すると、刀の切っ先からなにやら人の肌の色をした物体が出てきた。
それは、重さに耐え切れず刀から落ちると、地面にぶつかると同時に弾けて、そこにいたのは・・・

「お・・・俺・・・!?」

―――黒崎一護だった。

「どう?すごいでしょ、この刀」

少年はクスクスと笑いながら言う。

「この刀は戦闘にはまったく向かないけど、使いようによっては随分良い刀なんだ。さすが僕の魂から出来たものだよ。感謝してる」
「・・・」
「でも、僕はどうしても欲しい刀があるんだ。この刀よりも、輝いていて、この大地全てに光を与える刀・・・」

一護は少年の言葉を聞いて思い出す。
日番谷のあの言葉・・・

「それが、氷輪丸だっていうのかよ」
「よく知ってるね!そうだよ。あの刀は素晴らしい・・・!とても虚と戦ったり、魂魄を魂送するためだけの刀なんて信じられないよ!」

少年は氷輪丸を語って興奮している。

「流石氷雪系最強の斬魄刀・氷輪丸。僕は一度でも良いからその輝きが見たくて、ある人物を利用しようとした・・・」
「ある人物・・・?」
「そう・・・。僕が、日番谷冬獅郎が氷輪丸の持ち主だって気づく前に、氷輪丸を持っている人物を既に知っていたんだ。その名は―――草冠宗次郎」
「―――っ!!」

少年の口から、その名が出たことに、一護は驚愕する。

「奴を利用しようとした。氷輪丸を手に入れるために・・・。けど!奴は死んだ!!!」
「・・・」

一護は口を噤んだ。
草冠の死んだ場面に、自分が居たから。

「わかるか!?いくら二人いるとはいえ、あいつは確かに氷輪丸の持ち主だった!!けど奴は死んだ!!当然持ち主の斬魄刀も消える!!僕が欲しくて欲しくてたまらなかった氷輪丸が消えたんだ!!僕はどうしようもなくてどうしようもなくて・・・」

そこで一回口を閉ざす。
しかし、クックックと笑い始め、にやりと笑って一護を見る。

「どうしようもなかった。でも僕は気づいたんだ。奴が死んだ理由に」
「・・・!」

草冠が死んだ理由・・・それは―――

「氷輪丸が二本存在してしまったから、だろう?」

―――日番谷と草冠の持つ斬魄刀が、どっちも氷輪丸だったから。

「そして僕はある結論に至った。二振りの斬魄刀・・・ならもう一本はどこにある?」

少年は、既に枯れてしまっている黄金の花を踏み分けて、一護の顔をしている『クローン』のもとへ歩み寄る。

「そしてたどり着いたのが―――日番谷冬獅郎」

少年が『一護』の背中を軽く叩くと、『一護』は突然瞬歩で一護に襲い掛かってきた。

「っ・・・!」

なんとか斬月でそれを塞ぐものの、やはり自分と戦い方も同じなのか、隙をついてくる。

「彼の氷輪丸は奴のよりも最高だということに気づいた!だから僕はある計画を立てた」

少年が話している間も、『一護』は一護に立て続けに攻撃してくる。

「『彼を追い詰めて追い詰めて―――卍解を出させる』」
「何だと・・・!!?」

その言葉に一護は驚いて少年を振り返るが、『一護』によりそれは阻まれた。

「知らなかった?彼はこの戦いで、一度も卍解・・・いや、始解すらしてないんだよ」

少年に言われて気がつく。
日番谷は、恋次の時も、浮竹の時も、乱菊の時も―――始解すらしていなかった。
大方鬼道で倒していたことに、一護は改めて疑問を抱いた。
―――何故始解すらしない?

「何故彼が始解すらしないのかは知らないけど、それじゃあ僕が困るんだよ。僕は彼の卍解が見たくて彼を追い詰め続けてるんだから」
「・・・!」
「だから彼の仲間達を拉致して、その仲間に攻撃させてるってのに・・・逆にやられるなんてね。何のための卍解なんだか」

一瞬、頭の中が真っ白になった。
―――冬獅郎を追い詰めるために・・・?

「これじゃあ、今までの計画が全て水の泡・・・―――!!」

突然急激に上がった一護の霊圧に、少年は驚いて話すのを止める。

「・・・ねぇ」

一護が何かを呟いた。

「え・・・?」
「テメェだけは・・・許さねぇ!!!!!」

一護の強い霊圧にものすごい風が吹き、砂嵐に少年は自分の顔の前に手を翳す。
慌てて外したときに少年が見たものは、死魄装と斬魄刀の姿が変わっている、一護の姿だった。

「卍解・天鎖斬月」
「ばん・・・かい・・・!?」

卍解というものは、霊圧が大きいためにその姿かたちも大きくなるとは知っていたが、一護のそれは明らかに違うことに少年は驚いた。

一護は瞬歩以上の速さで少年の背後に回りこむと、その背中を切りつけようと刀を振り下ろしたが、自分と似ている黒い影によってそれは阻まれた。

「忘れたの・・・?僕の斬魄刀の能力は―――」

一護の目の前にいたのは、一護と同じ衣装を身に纏い、その手に持っている一護と同じ斬魄刀を持った―――

「―――ある対象を増殖させる」

―――『黒崎一護』。

「君の血はあの女の子との戦いで採取させてもらった。だから、今君の目の前に居る『君』には、君の血が流れているんだよ」
「―――っ!!!」

少年の言葉に、一護は驚愕して目を見開いた。

「つまり・・・どういうことかわかる?今まで君たちが戦ってきて、落とした首から流れていたものは―――本物の血だ」

恋次の体から流れ出ている血・・・
浮竹の体から流れ出ている血・・・
ルキアの首から流れ出ている血・・・

今までの光景がフラッシュバックして蘇ってくる。
あの血は全て―――仲間の物・・・?

「君に忠告しておくよ・・・―――彼は僕の物だ。どんなことをしても、あの輝きを手に入れてやる」

「その前に、『ソレ』を倒すことが出来ればの話だけどね」と付け足してから、少年はフッと姿を消した。

「待ちやがれ!!」

一護は慌ててその後を追おうとするが、再び『一護』によってそれは阻まれてしまった。

「くっ・・・!」

少年言葉が蘇る。

 『今君の目の前に居る『君』には、君の血が流れているんだよ』

つまり、自分の攻撃は―――読まれてしまうということ。

(厄介な物をつくりやがって・・・!)

そう思いながら、『一護』の攻撃をかわし続ける。
『一護』の攻撃を読むために。
自分と同じということは、この状況で自分ならどうするかを考えれば良いということ。

―――自分ならこの状況で、空いている左側を斬りつけ・・・

『一護』は一護の左脇腹を狙ってきたが、それを避けた一護は『一護』の頭を狙って斬りかかる。

―――ここでカウンターをするのは当たり前。そしてその斬りかかる場所が頭なら・・・

『一護』はそれを膝を折って避け、一護に足払いをかけてくる。
一護はそれを見切って、それを飛んで避けた後、

「月牙天衝!!」

『一護』の頭めがけて斬撃を飛ばした。





「・・・」

一護は自分と全く同じ髪をした首を、地面の中に埋めた。

あの後、見事に『一護』の頭を切り落とした一護は、自分の首が転がっているのが気持ち悪くて、埋めることにしたのだった。

「よしっ・・・!」

土で汚れた手をパンパンと叩き落とすと、地面に置いておいた斬月を手にして、十番隊舎の地下に向かって歩き始めた。

一護が居なくなったその場所の地面は、急にボコッと凹が出来た。
そこは、一護が『一護』の首を埋めた場所だった―――








「俺はこんなに遠くまで行ってたのか・・・」

戦闘の所為でもあるのだが、随分足が疲れてしまった。瞬歩使えばよかった、と今更ながらに後悔。

ようやく見えてきた地下入り口に、一護はホッと息を吐く。しかし、何か白い物が視界に入って、「なんだ?」と思ってそれに近づいていくと、近づくに連れてその正体がわかり、慌てて駆け寄った。

「と、冬獅郎!!!」

その白い物は、倒れていた日番谷だった。
一護は急いでその体を抱き起こすと、呼吸が浅くなっている事に気づいて、これ以上負担をかけないように、優しくそっと地下へ運んだ。






日番谷を地下へ運んだ一護は、急いでその体を布団に寝かせる。
どうやらまた傷口が開いたらしい。
一護はそのことに顔を苦痛に歪ませると、その血が滲んだ包帯を取り替えようと手を伸ばすが、日番谷の手がバッとそれを捕まえた。

「と、冬獅郎?」

一護は日番谷の行動に困惑する。
日番谷は閉じていた眼をゆっくりと開き、視線を一護に移す。
するとバッと起き上がってその胸倉を掴んだ。

「てめぇ!!!今までどこ行ってた!!?」
「ど、どこって・・・!」

日番谷が何を怒っているのかわからない一護は、その行動に驚く。

「お前一人で『あいつら』が殺れると思ってるのか!!?勝手に行動しやがって!!!」
「わ、悪かったって!けど、お前を傷つけたあいつがどうしても許せなくて・・・!」
「あいつ・・・?」

一護の言葉に日番谷がピクリと反応する。

「あいつって誰だ?」

先程よりも、低くなったその声、鋭くなった眼光に、一護は少しだけ恐怖を感じる。

「まだ子供で・・・お前の氷輪丸を狙って・・・」
「あいつに会ったのか!!!!?」

一護の言葉を遮って、声が枯れてしまうのではないかというぐらいで、日番谷は怒鳴った。
だがそれの所為か、傷口が再び開いてしまい、腹を押さえて蹲る。

一護は慌ててその体を支えて「大丈夫か?」と訊くが、日番谷は痛みに耐えながら一護を見上げた。

「なんで・・・!そんな危ねぇことしたんだよ・・・!」
「それは・・・」

日番谷の傷を見て、怒りが抑えられなくなった。


自分に―――

あいつに―――

何で護ってやれなかったんだ・・・

何でコイツがこんな目にあわなきゃ行けねぇんだ・・・

何で、自分はこんなにも弱いんだ・・・


一護が黙っていると、日番谷が震える手で一護の死魄装を掴む。

「また・・・居なくなっちまうのかって・・・怖かった・・・!」
「・・・!」
「また俺から、仲間が居なくなっちまうのかって・・・!」
「冬獅郎・・・」


仲間が居なくなっていく・・・

一人・・・また一人と・・・

独りになって気づいた・・・

「独りとは、こんなに辛く寂しいものなんだ」と・・・


「もう・・・!俺の前から勝手に居なくなったりしないでくれ・・・!心配で・・・怖くて・・・頭がどうかしちまう・・・!!」
「―――わかった」

一護が頷くと同時に、日番谷は深い眠りにつく。
一護はその体を、そっと抱きしめた。





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イイネ!