Desperate Future 孤独の中で生きる二人







十番隊隊舎・地下。

「黒崎・・・おい、黒崎。起きろ」
「うぅ・・・」

一護は日番谷に起こされて、目を擦りながらゆっくりと起きる。

「おはよ・・・冬獅郎・・・」
「ああ、おはよう」

日番谷は既に布団を畳んでおり、戦闘の準備をしていた。

「冬獅郎・・・今、何時?」
「朝の7時」

時計がないのに何故わかったのだろう?と思う一護。
それを見透かしたかのように、日番谷が言う。

「体に染み込んでんだよ。この時間に起きることが」

そう言って日番谷は自嘲気味に笑う。
一護はそれを見ているのが辛くて、「っし!!」と勢いよく立ち上がると、軽い準備運動を始める。

「じゃあ、早速行くとしますか!」

と、一護が出口に向かおうとするが・・・

「ぶっ!!!」

枕が顔面に当たり、それを阻まれてしまった。
もちろんそれを投げた日番谷は、怒りマークを露にし、

「布団を畳んでからにしろ」

と一言言った。

そんな状況ではないのだが、日番谷は許さないらしく、無言で一護を見つめている。
一護は観念して「ハイ・・・」と言いながら布団を畳み始めた。





ようやく二人の準備が整い外に出ると、今起きている状況が嘘のように快晴だった。
一護は軽く伸びをすると、日番谷を振り返る。

「とりあえず、何をするんだ?」
「まずは、囚われている皆の居場所を探す。それだけは欠かさず行うことだ」
「そっか」

そう言うと、一護は辺りをキョロキョロと見渡す。
そこは相変わらずの光景で、枯れた植物や石ころやらが転がっている、荒地だった。
一護は何度見ても襲い掛かってくる現実に、「うえぇ・・・」とげんなり呟くと、再び日番谷を振り返る。

「でぇ?どこから行くんだよ・・・」
「知るか」

そうスパッと切り捨てると「とうしろ~(泣)」と言っている情けない一護を無視して、歩き出す。




日番谷も一護と同じ気持ちだった。

何度見ても変わらぬ荒野に、心が痛まないわけが無い。

だから、取り戻すと決めた。

この尸魂界を。

あの風景を。

仲間を。

自分の居場所を―――。




「冬獅郎?」

いつの間に隣に来ていた一護が、心配そうに自分の顔を覗き込む。
コイツが来てから、自分は少し落ち着いたかもな。

「―――なんでもねぇ。行くぞ」
「お、おう!」

そう言って歩き出したその瞬間―――

「―――!!」

『アレ』の霊圧をすぐ近くで感じた。

「来るぞ黒崎!!」

そう日番谷が言うのと同時に、二人の目の前に現れたのは―――

「う、浮竹さん!」

十三番隊隊長・浮竹十四郎だった。

浮竹もまた、先日の恋次のように瞳に光はなく、無表情でこちらを見据えている。
一護は視界に入った日番谷の顔を見て、息を呑む。
それは、殺気の篭った目だけでも殺せるかと思うくらいの、鋭い視線を浮竹に向けていたから。

「今度は浮竹か―――」

そう日番谷は呟くと、手に持っていた氷輪丸を鞘から抜き取り、鞘をそこらへ捨てて刀を構える。
一護も慌てて斬月を構えた。
浮竹は既に始解しており、開放された双魚理が太陽の光を浴びて、反射している。
一瞬その光が眼に当たり、眩しくて瞬きをした一護は、次に眼を開けた瞬間に日番谷が既に居なくなっている事に気づき、その姿を探す。
日番谷は瞬歩で浮竹と距離をつめ、刀を振り下ろしているところだった。
浮竹はそれを両方の刃で塞いだ。
しかし日番谷は止まることを知らないかのように、今度は浮竹の腹に蹴りを食らわした。
何も言わずに吹っ飛んだ浮竹は、ドサッと地面に倒れる。
その隙に日番谷は刀の切っ先から出した氷の竜を浮竹に向けて放つ。
しかし、浮竹は間一髪でそれを防ぎ、防いだその刀から荒波を日番谷に向けて出す。
日番谷はそれを瞬歩で避け、浮竹の背後に回った。

「っ―――!」

そしてそのまま、浮竹の首めがけて刀を振り下ろした。

「結局!何もしなかったな」
「わ、悪ぃ・・・」

日番谷は仁王立ちして、一護は正座をしている。
何も出来なかった一護を説教中だった。

「お前、昨晩なんと言った?」
「『皆を助け出す』って・・・」
「なら、その皆を助け出す内に入る「アレを殺す」ことを何故しなかった?」
「だって冬獅郎が・・・」
「俺が?」
「うっ・・・!」

その説教は10分ほど続いた。

「はぁ・・・たくっ!やる気がねぇならやんなくていいんだぞ?」

日番谷はため息を吐きながら言う。
だが、一護はそれに納得しなかった。

「ふざけんな!逃げてたまるか!」
「なら、次あいつらが来たときは・・・」
「ちゃんとやるさ!」

今一不満気な顔をしている日番谷だが、いきなり真剣な顔になった一護に、呆れて折れた。

「わかった。だが、次は本当に頼むぞ」
「おう!」

そうして勢いよく立ち上がる。だが・・・

「うっ・・・!」

しばらく正座していた所為で、足がしびれて動けなくなった。

「・・・」

これには日番谷も呆れて何も言えない。
一護はしびれた足を何とか動かそうとしたが、

「いっ・・・!」

やはり無理だった。
しびれに苦しみながら、一護は考えていた。
日番谷のあの言葉・・・

「次は本当に頼むぞ」

その言葉を聞いたとき、やはり日番谷も「アレ」と戦うのは相当きついんだと、確信した。
浮竹のクローンの首を落とす前―――

 『っ―――!』

一護は息を呑んだ。
一瞬、日番谷がものすごく辛そうな顔をしたから。
―――あの表情を見てから、今度こそは何があっても「アレ」を倒さなくては、殺さなくてはならないと思った。
あんな顔、二度と見たくなかったから。


ようやく痺れが取れてきて、足を動かせるようになった頃。
ずっと思っていた疑問を口にする。

「なぁ。昨日言ってた『子供は寝る時間だ』。アレ、どういう意味だ?」

すると日番谷は「ああ、そのことか」と呟いたあと、一護に向き直る。

「実は一度、首謀者直々に襲われたことが会ってな」
「何!?」

日番谷の告白に一護は驚愕で目を見開く。

「その時は他の隊長に助けてもらったんだが、その時見たのが俺より幼い子供でな」
「子供!?じゃ、じゃあ!死神は、その子供に負けたってのか!?」
「負けたって言うんじゃねぇよ。俺はまだここに居る」

「わ、悪ぃ・・・」と謝ってから、一護は再び口を開く。

「その子供の狙いは、一体・・・」

日番谷はそう呟く一護を視線から外し、天を仰いで口を開く。

「・・・氷輪丸だ」
「え・・・?」

一護は突然の日番谷の呟きに驚いて、バッと振り返る。
日番谷は自身の斬魄刀・氷輪丸を見つめていた。
そして顔を上げて一護を真っ直ぐ見つめて、

「あいつの狙いは、この氷輪丸なんだ」

無表情のまま言った。
一護は驚いて固まっている。
その場に沈黙が流れる。

サァァ―――・・・

風が吹いた、その瞬間―――氷の塊が、一護に向かって一直線に飛んできた。
間一髪でそれを避けた一護は、攻撃してきた人物、いや、「クローン」の顔を見て驚愕に目を見開いた。

「る・・・ルキア・・・!」

純白の斬魄刀を一護に向けていたのは、一護の運命を変えた、朽木ルキアの「クローン」だった。
ルキアの「クローン」は、無表情で掌を一護に向けると、そこから白い炎が一護に向かって飛び出す。
詠唱も何も言ってないものの、日番谷が見ればすぐにわかった。それが、蒼火墜だということに。
それを避ける一護だが、ルキアは立て続けに打ち続ける。

日番谷はそれに手を貸そうとするが、サラサラという砂の音に敏感に反応して、瞬歩でその場を離れた。
先程日番谷の居た地面は、地震があったかのようにところどころ皹が入っていた。
日番谷はバッと前方を見ると、蜂蜜色の長い髪に、影が出来るほどの大きな胸。
それを見た途端、日番谷は苦々しく呟いた。

「―――松本・・・」

手に持った斬魄刀が、灰から刀に戻っていく。
日番谷を攻撃した人物―――松本乱菊は、本物のような美貌は持ち合わせておらず、濁っている瞳を日番谷に向け、無表情のまま再び灰猫を構えた。

日番谷は何かを考えるように目を伏せ、やがて覚悟が決まったのか、パッと目を開けると、氷輪丸を構えて乱菊に瞬歩で距離をつめ、斬りかかった。

「ッ・・・!!」

一護の腕に、ルキアの打った赤火砲が掠る。
一護は傷口を押さえながら、ルキアと距離をとった。

「はあっ・・・はあっ・・・!」

いくら覚悟を決めたとしても、やはり仲間であるルキアに攻撃するのは躊躇う一護は、攻撃を避け続けていたために、体力が低下してきていた。

一護は斬月を構えなおすと、再びルキアに向かっていく。
しかし、ルキアの顔を見るとどうしても躊躇ってしまい、振り下ろす力が弱くなり、簡単に防がれてしまった。

刀を持っていないほうの手で、ルキアは再び指先を一護に向けて鬼道を放った。

一護をそれを避けることが出来ず、地面に倒れる。
しかしそれは破道ではなく、縛道のほうだったので痛みはなかったが、

「クソッ・・・!」

六杖光牢は、一護には簡単に破ることが出来ず、しかも破こうとすれば体にものすごく負担がかかり、体力が低下している一護にはとても苦痛だった。

「―――っ!!」

暴れていると、もう一方で戦っている日番谷に気づく。
日番谷は副官の、死神に導いてくれた乱菊と戦っていた。
それを見て一護は目を見開く。

―――日番谷が苦戦していたから。

恋次のときも、浮竹のときも、苦しそうに戦ってはいたが、苦戦しているのは見たことが無かった。
しかも、浮竹なら同じ隊長格・先輩であるから苦戦するというのはわかる。しかし、乱菊は副隊長。確かに乱菊が強いことはわかっている一護だが、副隊長の乱菊に隊長の日番谷が苦戦することに、驚愕した。
しかし、一瞬見えた日番谷の顔を見て瞬時にわかった。

―――辛いんだ。

いくらサボって怒鳴るという正反対な性格だとしても、乱菊は日番谷の副官だ。

「死神になれ」と乱菊に言われなかったら、日番谷は今頃大切な家族を殺していた。
つまり、乱菊は恩人なのだ。
その乱菊、いくら「クローン」」だとしても、その顔を見て躊躇う。
今の一護のように。

そして一護は、辛そうな日番谷を見て思い出した。

―――次は必ずあいつらを殺す。

そう覚悟したのがつい先程だということに。

一護の顔が引き締まる。

突如、一護からとてつもない霊圧が溢れ出し、近くに来ていたルキアが吹っ飛ばされる。
遠くで戦っていた日番谷と乱菊にも突風くらいの勢いが来た。
日番谷が驚いて振り返ると、一護は既に六杖光牢を破って立ちあがっていた。

「悪いな。いくらルキアの顔だからって、手加減できねぇんだ。あいつを護るために」

倒れているルキアの前に立って言う。
一護は斬月を頭上に構えると、

「じゃあな」

そのまま振り下ろした。











「―――っ!?」

自分が毎日のように聞いてきた嫌な音が、一護のほうから聞こえてきたことに驚いた日番谷は、乱菊のことも忘れてその聞こえてきた方角をバッと振り返った。

一護の斬魄刀に、大量の血が付いている。
その足元には、首がない黒髪の少女の体。
その少女の首は、その体から少し離れた位置に転がっている。
少女の黒い髪は、その切れ口から止まらず出ている血に浸っている。

一護は俯いていてその表情は見えないが、日番谷は何より、「一護が『仲間の顔をしたモノ』を殺した」という事実に驚いた。

本当に一護には殺せないと思っていたから。

しかも今回は、一護にとって命の恩人ともいえる「朽木ルキア」の顔をした『クローン』。本人ではないとはいえ、やはり殺すには日番谷でも躊躇する。
実際、今乱菊に手間取っているのがその証拠だ。
しかし一護は、初めてで、しかもあんなグロテスクな殺し方で、自分より早くやり遂げたということに、日番谷は驚愕していた。

しかし、その一瞬の隙に―――瞬歩で距離を詰めた乱菊が斬りかかっていた。

「―――!」

それに気づいたのは、乱菊の振り下ろした刀が、日番谷の頭に当たる寸前だった。

「ルキア・・・」

一護は、ルキアの顔の首が取れた『クローン』の体を見る。
中から出ている血は、どうやら本物ではなさそうだが、その光景は本物のルキアを想像してしまう。
いくら『クローン』とはいえ、人型のそれを殺したことのない一護にとって、吐きそうなくらいこの光景が、この感触が気持ち悪かった。

人間を殺したことはない。
しかし、この肉や骨を斬った感触が、人間と同じように感じる。
気持ち悪い―――

ふと顔を上げて日番谷の方を見ると―――乱菊の刀が、日番谷の頭めがけて振り下ろされていたところだった。

「と―――」

冬獅郎!と叫ぶ前に、赤いモノが日番谷の体から飛び散っていた。

大量の血を出しながら、日番谷は倒れていく。

「と・・・しろ・・・?」

赤い血が、日番谷の汚れない銀髪を染めていく。
日番谷はピクリとも動かない。
そんな日番谷に止めをさそうと、乱菊が頭上に刀を構えた。

「冬獅郎!!!!」

それを見た一護は瞬歩で日番谷の所に行こうと、足に力を込めるが、

「止めろ!!!!!」

という日番谷の掠れた怒鳴り声で、一護は驚いて足の力を抜いた。
乱菊もそれに驚いたのか、刀を構えたまま止まっている。
日番谷は片手を地面について震えながらゆっくりと体を起こした。
その際、鬼道の詠唱を言っていたことは、一護にはわからなかった。
ただ、日番谷からとめどなく出ている血が、気になって仕方がなかった。

日番谷は立ち上がることはせず、震える腕を掌を乱菊に向けながら真っ直ぐ伸ばすと、

「破道の七十三、双連蒼火墜!!」

その威力は、重傷人とは思えないほどで、乱菊の姿を全て消し去った。

「はぁっ・・・!はぁっ・・・!はぁっ・・・!」

荒い息の中、日番谷は乱菊に向けていた手を下ろす。
一護はそれを呆然と見ていた。

日番谷は一護に首だけ振り返ると同時に、地面にドサッと倒れた。
大量の血を流しながら。
一護は我に返り、急いで駆け寄りその体を抱き起こした。

「おい!冬獅郎!!」

日番谷の顔は大量の出血により血の気がどんどん失われていく。
一護は軽く舌打ちをすると、両腕で日番谷を抱え、自分達が居た十番隊の地下へ急いだ。



***




双殛の丘の地下の上。

地下では無様に捕まっている死神がいる。
少年は複雑な機械の前で、足を組んで椅子に座っていた。
その機械には大小様々なモニターがあり、尸魂界の様子の全てを映し出していた。

少年はキィ・・・と回転椅子を鳴らして、大きいモニターに移っている一護に抱かれた日番谷を無表情で見据えている。

「・・・困るよ。君が死んじゃったら僕の望みが叶わないじゃないか」

そう言って少年は立ち上がり、機械にあるスイッチの一つを、カチッとを押した。
すると、機械がウィーンを動き出し、隣にある人型の入れ物の蓋が開いた。
それは、身長的に日番谷のサイズにピッタリのものだった。
少年はその入れ物に斬魄刀の最初の段階・浅打を入れて蓋を閉める。

蓋を閉めると同時にその入れ物がカタカタと動き出し、その入れ物に繋がっているパイプから赤い液体が流れ出した。
その液体が入れ物いっぱいに入ると、浅打も見えなくなる。

数秒ほどして、入れ物の動きが止まると、少年はその蓋を開けた。
中から出てきたのは、氷輪丸を持った日番谷の顔をしている『クローン』だった。
その『日番谷』は入れ物から出てくると、瞬きもせずジッと立ち止まっている。

少年は自分と同じくらいの背の『日番谷』の氷輪丸を見る。
氷輪丸は始解状態のそれとほぼ同じものだが、その刀に光はない。

そのことが気に食わなかったのか、その場に人がいれば反応するほどの大きい舌打ちをして、少年は懐から袋を取り出し、その中から黒い粉のようなものを『日番谷』に降り掛ける。
すると『日番谷』はその粉の降りかかったところからドロドロと溶けていった。

それが最後まで溶けるところを見届けずに、少年は既に十番隊舎の地下に入ったと思われる、一護と日番谷のいる方向が映っているモニターを見た。

「逃がさない・・・絶対に・・・!」

その瞳は、どす黒い血のような色に染まっていた。





***





十番隊隊舎地下。

重傷の日番谷を急いで布団に寝かせた一護は、色々あさって包帯をようやく探し出した。

「はぁっ・・・はぁっ・・・」

苦しそうに息をする日番谷の体に、やさしく、丁寧に包帯を巻いていった。

あのとき、当たる寸前で乱菊の刀をかわした日番谷は、首を切られることはなかったものの、腹部を貫通してしまい、急所は外したが重傷を負ってしまったのだ。
その怪我で鬼道、しかも七十番台の破道を使ったのだ。体力・霊力の消耗は大きい。

一護はそっと日番谷を寝かすと、その髪を優しく撫でる。
日番谷の呼吸は落ち着きだしていた。

「・・・」

一護は苦痛に顔を歪めながら、日番谷を見つめる。

―――何故こんなことになってしまったんだろう・・・

日番谷が言ったことが事実なのであれば、ここは一護が知る世界より十年後ということになる。
しかし、穿界門になにかするだけでそんなことが可能なのだろうか?
藍染を倒し、再び平和が戻ってきたと思ったら、次は尸魂界を壊滅に陥れる敵。

そして自分は死んでしまった。
何故自分は死んでしまったんだろう。
敵が今も存在しているということは、これではただの無駄死にではないか。
敵を倒すことも出来ず、仲間を護る事も出来ず、死んでしまった・・・

人間のままならば、魂魄になって再び尸魂界に来るとこが出来る。
しかし、自分は死神のまま、魂魄のまま死んでしまった。
もう現世の人間に転生して、新しい―――死神のことも知らない、ただの子供としてのうのうと生きているかもしれない。

それが悔しい。
何故記憶がないのだ。
何故また人間をやっているのだ。
仲間を―――冬獅郎を護らなきゃいけないのに。

自分は何も知らなかった。
未来が、こんなことになってるなんて。
仲間の姿をしたモノを殺すことが出来ず、逆に日番谷を危険な目にあわせてしまった。
いざ殺してみれば、殺してしまったことに怯え、すぐに日番谷に加勢することが出来ず、重傷を負わせてしまった。

情けない。

自分はこんなにも弱いのだと、思い知らされる。

許せない。

この全ての元凶が。

許せない。

仲間を護れない、自分が。

―――許せない・・・!





地下の暗い一室で、少年は重い瞼をゆっくりと開ける。

「くろ・・・さき・・・?」

居るだろう人の名を呼んだが、返事は―――なかった。




***




サァ―――・・・と大地の砂が風に吹かれて舞っていく。
身の丈ほどの刀を手に持った青年は険しい表情で、ザッザッと足音を立てながら歩いている。
その黒い着物、刀には、大量の血があちこちにこびり付いていた。

彼のものではない。

彼が今までに来た道のりで、同じ黒い着物を着た者を殺したときに付いた血だ。

青年は、ひたすら真っ直ぐ歩いている。
まるで何かに導かれているかのように。

不意に青年は立ち止まる。
目の前に現れた人物を見て。

「・・・お前か。首謀者は」






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イイネ!