これ以上彼を苦しめないで・・・ 






俺の名は早足弱伍。
何でこんな名前になってしまったのかは知らない。
こんな「弱」なんて字、クソくらえだ!
俺はこんな名前になってしまったがために、周りから「あいつは弱い」「いかにも弱そう」なんて言われる羽目になった。
強くなってやる!そうして周りの奴らを見返してやるんだ!

俺は名前の通り、弱虫で、喧嘩も出来ない、ついには泣き虫だ。
そうして周りからは「弱い」という称号を与えられた。
そんな自分にイラついた。
なんで自分はこんなにも弱いのか?何で自分は何も優れてはいないんだ?
―――こんな自分はいらない。
そう思い初めてからは、必死に鍛錬を続けた。毎日毎日、自分に地獄を与えるように。
そうしたらやっと気づいた。自分には霊力がある!
必死に鍛錬を続けていくうちに、無性に腹が減ってきたのだ!
腹の空かないこの世界で腹が空く。普通は戸惑うだろう。
だが俺は、今までで一番うれしかった出来事だった。



―――俺はやはり強いのだ!
それからは、死神になることだけを考えて鍛錬した。
俺に勝る者などいない。そう思い込んだまま。

幾年か立ち、俺は真央霊術院に入ることが出来た。
俺の組は一組。当然だ。
俺は教室に入り実感した。
こいつらは俺より弱い。
確信だ。
霊圧が無さ過ぎる。
だが俺は奇妙なものを感じた。
俺が教室に入った瞬間、周りの奴らが俺を見て何かひそひそと喋っている。
俺のすさまじい霊力に怖気づいたか?
そう思い、何事も無いかのように席に座る。
すると周りの奴の声が聞こえてきた。
「なんなのあいつ・・・」
あいつはないだろ。俺は少なくともお前より強いんだぞ。
「良くあんなのが一組に入れたよね」
なに?
「あんな霊力垂れ流し、そうそういないわよ」
垂れ流しだと!お前らは霊力無さ過ぎて垂れ流せねぇんだろうが!




「珍しいからじゃない?霊力を少しも抑えることができない奴なんて」
霊力を抑える?
「そりゃぁ、生まれつき霊力が高くて、抑えきれないならわかるけど」
生まれつき・・・
「あいつの霊力。まだ霊圧探査能力を教わっていない俺たちにさえ、わかるぐらい垂れ流しとは・・・」
霊圧探査能力・・・
「それぐらい単純なんじゃねぇの?でも、これで予習が出来そうじゃね?」
単純・・・予習・・・?
「確かに。感謝しとこうぜ」
ふざけるな・・・!

それからというもの、俺に友はいない。まるで昔のように。
でもこれでいい。どうせ「友情」なんて表面上のもの。
そんな気を使う面倒くさいことなど今の俺には邪魔なだけだ。
俺は今まで、こんな名前に屈しないよう努力してきた。
それは今も変わらない。
ただ・・・
強くなればなるほど、限界が近づいてきているかもしれないという不安に、体がついていかない。




俺が全てだ!山本元柳斎重國にだって負けはしねぇ!
そう思えば、強くなっていく気がした。
だけどそれは、「気がした」だけだった。
事実、俺の成績は50位にも入っていない。
周りからは「二組に行け!」だの、「お前本当に一組か?」だの。
聞き飽きたんだよ!そういうのは!
昔からそうだ。俺はこんな名前のせいで「弱い者」に見られた。
そんな俺は要らないという覚悟はすでに出来ているのに。
生まれつき・・・
生まれつきなのか・・・?
この俺の体は、生まれつき弱いというのか・・・?
どんなに鍛錬しても、
どんなに勉強しても、
どんなに貶されても、
俺のこの体の弱さは生まれつき・・・?
なんだよ、生まれつきって・・・
生まれつきの才能だの、
生まれつきの弱さだの、
自分の人生は全部生まれつきで決まってしまう物なのか!?
認めねぇ・・・
認めねぇぞ・・・




俺はそんな運命もぶち破ってやることの出来る強さを持った者なんだぞ!
周りが出来ないなら俺がやってやる!
そしてこの尸魂界に名を轟かせてやる!!
初めて決められた運命をぶち破った男として!

それからは全てを完璧にこなした。
授業の内容全てを覚え、
苦手なものは全て克服した。
俺の中で苦手なものは何一つ無い。
完璧だ。
成績は一位。
当たり前だ。
俺は完璧なんだから。
昔に貶された霊圧も、きちんと抑えている。
それはもう、普通の魂魄並みに。
俺に勝る者など無い。
俺が一番だ。
何が天才だ!
俺のほうが天才だ!
だが俺は、本当の天才というものを、初めて目にすることとなる。
それから俺は真央霊術院を卒業し、そしてその真央霊術院の教員になった。
俺と同じような強いやつを造るために。
それからというもの、俺は強いやつ以外に興味を持たなくなった。



弱いやつは一組(うちのクラス)に来るんじゃねえ。
やはりさすが一組だ。多少は出来るようだ。
そして俺は結婚した。生まれたってのはおかしいが、子供が出来た。
そいつは昔の俺のようだ。
母親母親って、泣きながらすがり付いてやがる。
そんな弱いやつは俺の息子じゃねぇ。
俺はそいつを無視し続けた。
何年かして、俺は天才に出会った。
その名は日番谷冬獅郎。
最初はふざけてんのかこいつ、と思った。
見た目はまだ幼い。こんなやつが一組だと!?
だが見てみるだけ見てみよう。
するとありえない結果が俺を待っていた。
そいつの成績は一位。全てが一位だった。
こんなありえないことが・・・!
そして俺は、俺の全てをそいつに捧げた。
息子のことなどどうでも良かった。
とにかくそいつのことだけが、頭の中に渦巻いていた。
何故かは知らない。
たぶん、縛り付けておきたかったんだ。俺という柱に。
どこにも行かれないように。


俺は本当の息子のように可愛がった。
息子のほうもそれを見てか、成績もだんだん上がってきた。
まぁまぁいいだろう。
だが俺の心は決まっている。
「こいつは最高だ!」
息子がどんなに頑張ろうと、俺は日番谷冬獅郎のほうが息子と思っている。
こんなに強いやつなんだ。当たり前だ。
こいつは永遠に、俺のものだ。
だが、「永遠」になんて絶対に無理なことはわかっている。
だが、このままでは・・・!
そこで俺は思いついた。
この強い感情に全て身を任せてしまえばいい。
そうすれば必ずあいつは手に入る。

俺は断界に侵入し、无双旱という世界を創った。
ありったけの欲望という強い感情を込めて。
見事、護廷十三隊にはバレずに澄んだ。
当たり前だ。この完璧な俺が創ったんだから。
だがこの世界に慣れてしまうと、だんだんその感情しか残らなくなってきた。
それは最初から望んでいたことだ。




だが・・・
フッ・・・まぁいい。
後は時を待つだけだ。
だが、機会を待てば待つほど、昔持っていた「欲望」という感情の意味がわかってきた。
そう、俺は、日番谷冬獅郎が欲しかったんじゃない。
俺は、日番谷冬獅郎に苛立ちを感じていたんだ。
俺より完璧な、天才児。日番谷冬獅郎に。
それから俺の目的は変わった。
日番谷冬獅郎を傷つけ、その心をズタズタにしたあと、この无双旱に連れ出し、体をも壊していく。
そう、殺すんだ。
日番谷冬獅郎を、殺す。
そしたら変な餓鬼が出てきた。
「冬獅郎を護る」などほざきおって。
だが、俺はそのときからうすうす感づいていたのかもしれない。
その言葉を聞いたとき、友や仲間の居なかった俺は、
嫉妬していたことを。
これから俺は、日番谷冬獅郎を殺す。
あの餓鬼も一緒に。
あいつらはもう、死んだか・・・
これが、全ての始まりだった。



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イイネ!