これ以上彼を苦しめないで・・・ 





「あの時からずっと、こいつを護るって、俺の魂に誓ったんだ!!!」

「どうした?それがお前の限界か?」

「日番谷隊長!!!」



.

「これで、終わりだ!!!!!」
丯闇の攻撃が、一護に触れるか触れないかのところで、一護の姿が丯闇の視界から消える。
「なに!?」
体勢を立て直しつつ、丯闇は一護を探す。
後ろから気配を感じて振り返るが、居ない。
「どこだ!!出て来い!!」
歩きながら一護を探す。
呼びかけても出てくる気配は無い。
「それとも逃げたか・・・」
軽く挑発をしてみる。それでも出てくる気配は無い。
「確かに。あんな者を護りながら俺と戦うのは、さすがに出来ないか。黒崎一護」
「できるさ」
後ろから、声。
振り向くと、一護が卍解をして立っている。
その後ろには、日番谷が首を押さえながら、片膝を突いている。
「俺は、こいつを・・・」

 『頼む・・・!』

 『草冠ぁぁああああ!!!!』

 『礼を言う、黒崎』

 『たすけて・・・黒崎・・・!』



.




「あの時からずっと、こいつを護るって、俺の魂に誓ったんだ!!!!」
一護の霊圧がドーン、と上がる。

「っ!!この霊圧は、一護!」
ルキアはそのころ、怤璽火、本名立帯愁時との戦いを終え、仲間の霊圧を探っていた。
「・・・こっちか!!」
一護の霊圧を頼りに走り出す。
「ルキア!」
「恋次!兄様!」
ルキアが走り出したと同時に、恋次と白哉がルキアの隣に瞬歩で来る。
「大丈夫か!?」
「わたしは大丈夫だ。それより・・・」
「ああ、一護が戦ってる。急ぐぜ」
「おう」
三人は一護の加勢と共に、日番谷救出のため走り出した。

「くっ・・・!」
一護の霊圧に丯闇が一瞬怯む。だがすぐに体勢を立て直し、にやりと笑う。
「どうした?それがお前の限界か?」
「てめえこそ、強がってねえで降参したらどうだ?そうしたら、少しは許してやるよ」
「降参?それはこちらのセリフだ!!」



丯闇の霊圧も急上昇する。その霊圧は隊長格ほどある強さを持っていた。
「っ・・・!」
日番谷がその霊圧の重さに耐え切れず、両手を地面につく。
「冬獅郎!!」
一護が日番谷を心配して振り向く。だがそれは、丯闇にとっては絶好のチャンス。
「油断は禁物だぞ!黒崎一護!」
「っ!!」
一護の体が、日番谷より後ろに吹っ飛ばされる。
「っ黒崎!!」
「動くな」
巨大な霊圧のせいで動かない体で、必死に起き上がろうとする日番谷の首筋に、暗黒色の刀が押し付けられる。それは丯闇の技だ。丯闇は、闇を作り出し、それをどんな形にでも出来る。本物の刀と同じように。
「お前のせいで、あいつはあんなに怪我をしている。それをなんとも思わないのか?」
「思っている。だが俺には、今戦う術は無い。氷輪丸は尸魂界にあるからな」
「そうだ。今のお前はただの餓鬼。今ここで俺に殺されれば、あいつは生かしておいてやる」
日番谷は一護の方を向く。一護は気を失っているのか、ピクリとも動かない。


日番谷の心に、ある決心が生まれる。
「覚悟は出来たか?」
「ああ」
間をおかずに、覚悟を決めたようにうなずく日番谷。
「これで俺は楽になれる」
「それはよかったな」
丯闇は暗黒剣を上に持ち上げ、日番谷に狙いを定める。
「じゃあな。日番谷冬獅郎!」
そう言って思い切り暗黒剣を振りかざす。
途中、日番谷が何か言っていたような気がした。

「一護!!」
ルキアと恋次と白哉は、下を向いて蹲っている一護に近づく。
一護は下を向いたまま何も言わない。
「一護、大丈夫か!!」
恋次が言う。それでも何も言わない。
「何とか言え・・・っ!?」
そう言って肩を掴み、無理やり一護を振り向かせた恋次は固まった。
一護の抱きかかえている、日番谷を見て。
「日番谷隊長!!」
ルキアが慌てて駆け寄る。そして口元に手を翳してみる。
小さいが、ちゃんと息はしていた。その様子に、少なからずルキアは安堵する。




一護に何を言っても何も語らないときは、何か彼にあったときなのだから。
「大丈夫だ。傷もそう深くはない。早く尸魂界に帰って治療し「何が「大丈夫」だよ」
今まで喋らなかった一護が、ごく小さな声で言う。聞きなれた声だ。見逃すはずが無い。
「一護?」
「何が「傷は深くない」だよ・・・!」
そう言う一護の肩は、震えている。
「どうし「こいつの心は重症なんだぞ!!」
ルキアの言葉を遮って、顔を上げながら言った一護の顔は、今まで見たことの無い、後悔と、苦しみと、言葉では言い表せない表情をしていた。
「一護!?」
「日番谷隊長に何があったんだ?」
そう恋次が訊くと、一護は再び俯き、終結を話した。
「覚悟は出来たか?」
(覚悟・・・?)
「ああ」
(この声は・・・冬獅郎?)
「これで俺は楽になれる」
(楽・・・?)
「それはよかったな」
(まさか・・・!)


「じゃあな。日番谷冬獅郎!」
(やめろ!!!!)
―――何も聞こえない。どうなった!?どうなった!?冬獅郎は!?死んでねぇだろ!!死ぬはずがねぇ!!冬獅郎・・・!!
「なに・・・?」
丯闇の驚愕の声。
一護は動かない体を無理やり起こしてその状況を見る。
体を起こした一護の見たものは、日番谷に届くはずの暗黒剣は折れ、日番谷は傷ひとつも付いていなく、斬りつけた丯闇の体から、黒い液体が出ていたことだった。
そして日番谷は右手を丯闇の腹に翳し、
「破道の七十三、双蓮蒼火墜」
静かに言った日番谷の言葉とは裏腹に、その威力は以前ルキアが使った同じ鬼道とは思えないほどだった。
それをまともに喰らった丯闇の体は下半身が全て消えていた。
「ぐわぁぁああああ!!!!!!!!!!」
そして残りの上半身は地面に倒れる。
日番谷をそれを静かに見ている。
「はぁっ!はぁっ!はぁっ!」
倒れた丯闇は荒い息を繰り返す。
「これで・・・楽になれそうか?」
「き、貴様・・・!!」
日番谷は座り込んだまま言う。先ほどの技で、霊力を消耗しすぎたようだ。


「俺の覚悟は・・・黒崎を・・・命を懸けて・・・護ることだ・・・!」
「っ!!」
その言葉を聞いて一護は目を見開く。
「護る・・・だとっ・・・!」
「ああ・・・」
「ハハッ!・・・ゲホッ、ゲホッ!・・・護るだとっ・・・?ほざくなっ・・・貴様ごときが・・・あの餓鬼を護る・・・?・・・笑わせるな!!!!」
丯闇は最後の力を振りしぼって、日番谷を攻撃する。日番谷は大量の霊力消耗と今までの負傷により、動くことさえも出来ない。
日番谷に丯闇の攻撃が当たる直前に、一護が虚化し、立ちはだかる。
そして、一護の月牙天衝にぶつかり、それは相殺される。
「くろ・・・さき・・・?」
日番谷は途切れそうになる意識を必死で繋ぎとめ、一護を見る。
「悪い冬獅郎。俺がもっと強かったら・・・」
「何言ってんだ・・・だったら「助けて」なんて・・・死んでも言わねぇょ・・・」
そう言うと日番谷はそのまま意識を失った。
「冬獅郎!!」
一護は日番谷を抱きかかえる。自分の放った技を相殺され、そのまま相殺された技に全てを消された丯闇が居た場所を背にして。



.

「・・・そうか」
ルキア達は、一護の話を聞いて、間に合わなかったことを実感する。
ピチャッ
「ん?」
恋次の頭の上に何か落ちてきた。それは粘りがあって、水っぽい。
「黒い・・・液体・・・?」
「この世界は黒い液体で出来ている」
今まで一言も喋らなかった白哉が言う。それを聞いて一護たちはハッと気づく。
「やべぇ!崩れるぞ!!」
「け、剣八は!?」
「ほっとけ!!」
ルキア達は一斉に出口へと走り出した。一護も日番谷を抱え直し、
「もう大丈夫だからな・・・冬獅郎・・・!」
と呟いて、それに続いた。

闇の世界は、光を光に保つ、光の架け橋たちによって消滅した。

そして、架け橋たちの祈りは、光が無事、回復すること・・・




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イイネ!