これ以上彼を苦しめないで・・・
「冬獅郎・・・絶対助けるからな・・・!」
「どうした?事実に怯えているのか?」
「誰が行くかよ。お前のところになんか」
.
彼らが闇から光に変わった同時刻。
一護は日番谷を抱いて安全な場所はないかと探していた。
「くそ!早く冬獅郎を安全な場所に連れてかねえと!!」
一護は日番谷の顔を見る。それは首の切り傷は何故か治っていたが、精神的に疲れきっていて、あまりにも辛そうだった。
「冬獅郎・・・絶対助けるからな・・・!」
一護の走るスピードが加速する。
せめてルキアたちに出会えればいいのだが・・・
「このまま逃げるってわけにもいかねぇし・・・」
この世界を破壊しなければ、日番谷がいつ狙われるかわからない。
『そのまま逃げれば良いものを・・・』
突然聞こえてきた声に一護は立ち止まる。その声の主は・・・
「出て来い!!」
一護の声が反響する。
そして、気配も無く現れたのは、
「俺を覚えているのか。たいしたもんだ」
丯闇。
この世界の主であり、この世界を創った張本人。
「忘れるわけねぇだろ。冬獅郎はお前のせいで傷ついてんだぞ」
「俺のせい?違うな。お前のせいだ」
丯闇は一護を指差す。
「前にも言っただろ?お前が余計なことをしなければ、こいつは永遠に幸せなのだ。それを「黙れ!!!」
一護は俯いたまま丯闇の言葉を遮る。
「どうした?事実に脅えているのか?」
「違う。俺が余計なことをした?ふざけてんじゃねえよ。お前たちがこんなことをしなければ、冬獅郎は少しずつ過去と戦っていくはずだった。現実から逃げちゃいけねえ。だから、草冠のときも、決着をつけようとした。処刑されることになっても・・・。でも、お前らが、冬獅郎を強引に「逃げる」という道に引き込んだ。だから冬獅郎は戦いたくても戦えねぇ。それが逆に冬獅郎を傷つけてんだよ!お前らは言ってることとやってることが違う!!」
今までとは冷静に言う一護の話を聞いて、丯闇はため息をつく。
「馬鹿だな。当たり前だろう。それが本当の目的なんだから」
「なんだと!?」
丯闇の体が光に包まれる。
「うっ・・・!」
光の強さが増す。この状況は恋次のときと同じ・・・
「日番谷は俺と共に歩む、邪魔はさせない」
「なっ・・・!」
―――この声は・・・!いや、そんなはずはない!
聞いたことのあるセリフ。聞いたことのある声。
「草冠宗次郎!!」
そこに居たのは、日番谷が処刑命令まで出されても決着をつけようとした相手、そして大切な親友の草冠宗次郎が立っていた。
(どういうことだ!?いや、待てよ・・・?)
恋次のあの言葉・・・
『あいつは相手の記憶にある人物を真似することが出来るらしい』
ということは・・・!
「う・・・ぅ・・・」
「冬獅郎!?」
そこで日番谷が起きてしまった。偽者といえど、草冠宗次郎の前で。
「くろ・・・さき・・・?」
「大丈夫か!?」
「ああ・・・ここは・・・?」
「駄目だ!!見・・・」
一護の言葉はもう遅く、日番谷と丯闇の化けた偽草冠の目が合ってしまった。
「冬獅郎」
丯闇は日番谷の心を崩そうと、草冠を演じる。
「く・・・さか・・・?」
声が震えている。
「ああ、そうだよ。冬獅郎」
「なんで・・・おまえが・・・」
「違う!冬獅郎!あいつは草冠じゃねえ!丯闇が化けただけだ!!」
一護は日番谷がこれ以上心を乱さないためにも、真実を伝える。
日番谷はハッとして一護を見る。その顔は真剣だった。
日番谷は知っている。一護は決して嘘はつかない。
「無駄だ、丯闇。黒崎は嘘はつかねぇ。俺は黒崎を信じる」
「冬獅郎・・・!」
一護は信じてくれた日番谷をうれしく思った。
「信じる・・・ね」
草冠の姿をした丯闇が、考え込むように下を向く。
だがすぐに上げたその顔は、ニヤリと笑っていた。
「そいつが偽者だったらどうするつもりだ?」
「は・・・?」
一瞬日番谷と一護はきょとんとする。
「お前はさっきまで気を失っていた。その間に本物と入れ替わっていたらどうする?それでもそいつを信じるのか?」
「違う!冬獅郎!俺は本物だ!!」
一護は日番谷が疑わないよう、弁解をする。
日番谷は下を向いていて表情が読み取れない。
「さぁ、信じるのか?」
「・・・」
「冬獅郎!!」
しばらくの沈黙が訪れる。そして・・・
「そうだな」
そう言って、日番谷が一護の腕から降りる。
「冬獅・・・郎?」
一護は信じてもらえなかったのかと思い、呆然とする。
日番谷は相変わらず下を向いたまま。
「さぁ、俺のところに来い。そうすれば楽にしてやる」
「・・・そうだな」
日番谷はそのまま丯闇のもとへ歩き出す。
「駄目だ!!行くな!!冬獅郎!!」
一護は必死に日番谷を止めようとするが、その声は聞こえていないかの様に、日番谷は歩みを止めない。
「日番谷早くこっちへ「誰が行くかよ。お前のところになんか」
丯闇の言葉を遮って日番谷が言う。
そのときには日番谷の姿は丯闇にも一護にも、映っていなかった。
二人がどこに行ったかと探していると、丯闇の後ろから声が聞こえた。
「誰が行くかよ。草冠の姿を勝手に借りたお前のところになんかな!!」
後ろからの不意打ちで、丯闇の体は吹っ飛ばされ、草冠の姿からもとの「モノ」の姿に戻る。
「黒崎を信じるか信じないか、だって?信じるに決まってんだろ!眼を見ればわかる。この眼をしているのは黒崎だけだ。お前にはわからないだろうな、早足弱伍(そうそくじゃくご)!」
「・・・!」
丯闇はハッとして日番谷を見る。
「・・・わかっていた。認めたくなかっただけで。怤璽火「立帯愁時」鬼道は全くといっていいほど駄目だが斬術は天才的で、院生時代、俺より三回上の先輩だった。風浪仝「前川和樹」俺の部下だった、あいつは随分信用していた、だから新米隊士を護らせるという試練を与えた、それがあいつの心に傷をつけた。草水「早足翔勝」お前の息子で、俺の同期だった、ずいぶん努力したんだろ、成績は優秀、全てお前のためにな。そして丯闇「早足弱伍」俺が六回生のときに担任だった、しつこいと言って良いほど「一緒に鍛錬しよう」といってきた奴、息子の気持ちも考えないで、家族の気持ちも考えないで、ただ強い奴だけを求めてきた。そうだろ?」
「・・・なぜわかった?」
丯闇は悔しそうに日番谷を見ながら言う。
「この世界はある物を持っていると、この世界で今何が起こっているかわかるらしい。まさか気づいていなかったのか?あの黒い液体だ」
「あれが!?」
一護は日番谷の首もとから出てきた、動く黒い液体を思い出した。
「お前の仲間たちから全て聞いた。あいつらは無事、現世に転生することが出来たらしい。残るはお前だけ」
「・・・」
丯闇は無表情で日番谷を見ている。仲間の死に、息子の死に、全く何も感じていないかのように。だが、しばらくしてクックックッと笑い出した。
「仲間?違うな。あいつらはただの駒だ」
「何?」
一護が「駒」という、なんとも仲間のように生きてきた草水たちを、下に見るような言い方に反応する。
「王から言えば奴隷だ!俺に息子なんて居ない!それにあの液体のことも判っていた!お前の頭の中に、仲間が無様にやられる姿を送り込むためにな!!わかっていないのはお前のほうだ!あの液体は体から出しただけでは意味が無い!!もう終わりだ!!」
「「!!??」」
当然日番谷の首の傷から大量の血が溢れ出す。
それは抑えても止まらないぐらいの出血だった。
「くそっ!!」
日番谷は自分の首を締め付けるぐらいその血を押さえようとする。
だが出血の量は止まらない。
「無駄だ!それは押さえようが鬼道で治そうが出血は止まらぬ!それがあの液体の効果さ!あの液体は体を支配する効果。仲間に何が起こっているかを知る効果。そして、どこかに傷があればそこから大量に出血して死ぬ効果がある!俺はずっとお前を殺すことだけを考えてきた。それはもうずっと昔からな!お前に復讐するためにこの世界を創り、お前の心を傷つけ、その後殺すためにずっと時を待った。そして、その復讐もこれで終わりだ!!」
丯闇の姿が、消える。
気配を感じて、振り返る。
目の前は、闇だった。
思わず目を瞑る。
しかし、いつまでたっても衝撃が来ない。
「させるかよ」
すぐ近くから、声。
「復讐だぁ?」
何かに、抱えられているような感触。
「そんなことで冬獅郎を傷つけたのか」
ゆっくりと目を開ける。
「わかってんのか?こいつがどれだけ傷ついたか」
見えたのは、鮮やかな橙。
「今まで一度も泣かなかったこいつが、苦しんで、傷ついて、俺に助けを求めたんだぞ」
俺が初めて頼った。
「これほどまで、こいつを傷つけたてめぇを、俺は絶対に許さねぇ!!」
黒崎一護の顔がそこにあった。
「「絶対に許さない」か・・・。ほざくな!小僧!!」
丯闇は速攻で一護に向かってくる。
一護は逃げようとも、向かっていこうともせず、ただ、日番谷を護るように、丯闇を見据えているだけだった。
復讐の闇、傷ついた光、護る守護者。最後の戦いが、始まる。