これ以上彼を苦しめないで・・・
「黒崎・・・すまない・・・」
「雛森副隊長は・・・お優しい方だ」
「そうか・・・僕は、頼られていたんですね」
.
「冬獅郎・・・」
それぞれが、それぞれの過去、苦しみ、痛みを聞き終えた同時刻。一護は日番谷を助けようと必死に考えていた。日番谷は相変わらず苦しい表情で一護に攻撃を仕掛けてくる。
(クソッ!!どうすれば冬獅郎を助けられるんだ!?)
さっきの日番谷の涙が、頭から離れない。
『たすけて・・・黒崎・・・』
(もう、あんな顔、させたく無えんだ!!)
一護は心に、魂に誓う。
必ず日番谷を護る!!!と。
そこで一護は気づいた。日番谷の首元に微かに痣が残っていることに。
(ありゃ、なんだ?)
それは、虚につけられたような、鬼道が当たった後のようなそんなような傷だった。
「黒崎!!」
日番谷の声が近くに聞こえた。それはもう耳のそばで言われているような。
突然目の前に赤が見えた。何だこれ?そう考えながら必死に起きている状況を把握する。日番谷が絶望的な瞳で一護を見ている。
―――そうか、斬られたのか。
そう理解するのにそう時間は掛からなかった。
ただ一護の体が倒れるまで二人にとっては時間が長く感じただけのこと。一護はそのまま後ろに倒れた。日番谷は一護に駆け寄る。
「くっ・・・!!」
だが体が言うことを利かない。一護に駆け寄りたいのに、逆に刀を構えて一護を殺そうとする。
―――もう嫌だ!!これ以上誰かを傷つけたくねぇんだ!!
日番谷は氷輪丸の切っ先を自分の傷の付いた首元に持っていく。
(冬獅郎・・・?)
一護は飛びそうになる意識を必死で保ちながら日番谷のその様子を見ている。
(何をするつもりだ?)
日番谷は氷輪丸を首元にあてている。
(やめろ!!冬獅郎!!)
日番谷はそれを思いっきり前に引いた。
(やめろーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)
日番谷の首元から血ではなく、黒い液体が飛び散る。それは地面に付いてからもぞもぞと動いている。日番谷は首から血を流しながら一護の元へ歩いてくると、その傷に手をかざし、治療を始める。自分だって致命傷なのに。
「と・・・冬獅郎・・・?」
「黒崎・・・すまない・・・」
一護の傷は、日番谷の治療のおかげでずいぶん良くなった。だが日番谷は霊力の使いすぎで、一護の上に覆いかぶさるように倒れる。
「冬獅郎!!」
一護はあわてて起き上がりその体を揺する。
「しっかりしろ!!」
「くろ・・・さき・・・」
微かだが、日番谷がかえす。
「大丈夫か!?」
「くろさき・・・かい・・・かいあん・・・を・・・たおせ・・・」
「丯闇!?」
「あいつが・・・このせかいを・・・つくっ・・・た・・・」
「!?」
「たのむ・・・くろさ・・・き・・・」
そう言って日番谷は意識を失った。
一護は日番谷の体を両腕で抱え、そのまま衝撃を与えないよう、走った。
「では今までの行為は・・・っ!!」
「そうだ!!日番谷をこの世界に陥れようとすることが俺たちの目的さ!!」
ルキアは怤璽火の発言に怒りが出てくる。
「ふざけるな!!貴様のせいで日番谷隊長がどれだけ傷づいたのかわかっておるのか!!」
「それはこっちのセリフだ!!俺たちはあいつのせいでどれだけ傷ついたかわかってんのか!!」
「単なる嫉妬であろう!!そんなことで、日番谷隊長を巻き込むな!!!!」
「そんなことだと・・・!!!!」
怤璽火は怒りに拳を振るわせる。
「てめぇに俺たちの何がわかる!!!!!」
「わからん!!!だが貴様の話では単に貴様が鬼道がうまくなかっただけの話であろう!!!」
「簡単に鬼道を使いこなせるお前が、わかった風な言い方をするんじゃねえ!!!!!!!」
そう言うと同時に、怤璽火から草水のときと同じように、ものすごい霊圧が溢れ出す。
「くっ・・・!」
ルキアはそれを飛ばされないように必死に保つ。その状況でもルキアは怤璽火に怒りをぶつけた。
「日番谷隊長が羨ましかったのならばっ・・・日番谷隊長に負けないように強くなればいいっ・・・!!!何故貴様はそれをしようとしないっ!!!!」
「黙れ!!!俺には鬼道なんて永遠に出来ないんだ!!!」
「鬼道が出来なければっ、雛森副隊長は貴様と話してはくれんのかっ!!!!!」
「っ!!!」
怤璽火は、ハッとルキアを見る。
「鬼道が出来ないからって、日番谷隊長が居るからって、雛森副隊長は貴様と話してはくれんのか!!!違うだろ!!!貴様の知っている雛森副隊長はどんなお方だ!!!?」
「・・・」
ルキアの言葉に怤璽火は俯く。怤璽火の心の変化で霊圧が徐々に弱まっていく。
「・・・雛森副隊長は、優しいお方だ」
通常以下の霊圧になっていく。
「だから俺は、憧れたんだ。雛森副隊長に」
怤璽火の体が、霊子に分解されていく。
「ありがとな、ルキア。もう一回、やりなおしてみるよ」
「ああ、そうしてくれ」
そして、「怤璽火」という立帯愁時は、消えた。
「今行きます。日番谷隊長」
ルキアは顔を引き締め、ひたすら続く暗闇の向こうへ走って行った。
恋次は風浪仝のこころの叫びを聞いて、呆れていた。
「・・・お前、馬鹿じゃねえの?」
「何だと!!」
「日番谷隊長のその行動は、お前を信用してたからじゃねえのか?お前ならできると思ったから、お前に虚を任せた。「できたじゃねえか」って言ったときの、日番谷隊長の顔を思い出してみろ!」
「っ!?」
『護れたじゃねえか』
その言葉に僕は怒りしか感じなかった。怒りのせいでその後のことは全く頭に入っていなかった。でも、よくよく思い出してみると、
『隊長に頼ってもらったくせに!!』
『頼られて逆に怒るなんてありかよ!!』
『信じられない!!』
なんて声が聞こえていたような気がする。そうだ、僕は隊長に頼られていたんだ。この人のために命を賭けようと思ったまでに、憧れたこの人に。なんて馬鹿なんだ僕は。「護れたじゃねえか」というのは、僕を信用してたから言ったものだったんだ・・・
「そうか・・・僕は、頼られていたんですね」
風浪仝は穏やかな表情で言う。それは、これから起こることを知っていながら言っているようだ。
「質問してもいいでしょうか?」
「なんだ?」
「日番谷隊長は僕のこと、覚えていないのでしょうか?」
「ああ」
恋次のはっきりした答えに、風浪仝は落ち込むこともなくただ「そうですか」と言っただけだった。
「『風浪仝』のことは、覚えていないんじゃない。知らないんだ」
恋次の言葉に、風浪仝はきょとんとする。
「お前はこれから、『風浪仝』じゃなくて、前のお前に戻って、日番谷隊長に謝って来い!」
「・・・!」
風浪仝は一瞬驚いたが、笑顔になり言う。
「僕の名前は・・・」
風浪仝の体が、怤璽火のときのように消え始める。
「前川和樹です」
それだけ言い残して、風浪仝は塵のように消えていった。
恋次はそれをじっと見ていた。
刺のついた茎が渦巻く波が、遅いかかる寸前で白哉はそれを飛んでかわす。
だが背後には草水が居る。
「死んで?おじさん」
さばざまな方向から波が白哉に向かって襲い掛かる。だが白哉はそれを全てかわす。
なかなか当たらない波に草水はだんだんストレスがたまってきた。
「なんでだ!?なんで当たらねえんだよ!!!」
「教えてやろうか?」
白哉は疲れた様子も見せずただじっと草水を見据えていた。
「何!?」
「兄の方が私より劣っているからだ」
「っ!!そんなはずはない!!僕はお前より強い!!」
草水はもう精神的に限界が来ていた。无双旱。それは最も強い感情をさらに強く表す場所。
そんな世界で、荒れまくっている草水はもう、永くは無い。
「当たれ!!当たれ!!!当たれ!!!!当たれ!!!!!当たれぇぇええええええ!!!!!!!」
ドーム状に波が白哉に襲い掛かる。白哉は動かない。
もう少しで波が白哉を捕らえようとしたとき、波がいっせいに消えた。
草水はそれを呆然と見ている。白哉はそれを静かに見ている。
辺りは台風が来た跡のように、水浸しになっていた。
草水はゆっくりと、絶望的に膝を付いた。それはもう、完全に白哉の勝ちだった。
草水の体が消え始める。
「僕の負けだね・・・」
白哉は何も言わない。
「最初から・・・生まれたときから・・・僕はお父さんに見てはもらえないんだ・・・」
「・・・」
白哉はそれを静かに見ている。
「おじさん、一つ聞いていい?」
「・・・なんだ?」
「おじさんの名前、なんていうの?」
白哉は一泊おいてから答えた。
「・・・朽木白哉だ」
「・・・ありがと」
そして草水は音も立てずに消えていった。
彼らはそして、現世で新しく人間として生まれ変わるだろう。