これ以上彼を苦しめないで・・・
「シロちゃん!ほら見て見て!」
「皆日番谷に恨みを持った奴だからだ!!」
「・・・ほっといてください」
.
「嫉妬?」
日番谷の心の叫びを一護が聞いている同時刻、ルキアも怤璽火の過去を聞いていた。
「ああ」
「何に嫉妬していたのだ?」
「・・・同期の奴」
怤璽火はそう言うと過去を語り始める。
「俺も、お前のような死神を目指していたんだ」
「とりゃああああ!!!!」
ガンッ
「一本!」
俺の名前は、立帯愁時(たちおびしゅうじ)
「さすがだな!立帯!」
「こんなの朝飯前だぜ!」
俺は、斬拳走鬼の斬術は学年で一位をとるほどうまかった。天才だといわれた。
だが、鬼道だけはどうしても駄目だったんだ。
「これで鬼道も完璧だったら、隊長も夢じゃねえな!」
級友にそう言われるたびに、辛かった。どれだけがんばっても鬼道だけはできないんだ。
ほかの奴には出来るのに・・・
「まあ、がんばれよ!俺も修行に付き合ってやるから!」
奴らは親切で言ってくれてるのだろうけど、俺には「しょうがねえな。コツを教えてやるよ」としか聞こえない。
「・・・いいよ」
そう言って俺は全力で走って、いつも修行している場所に逃げ込んでいた。
「破道の三十一、赤火砲!」
俺の手から出たのは、小さな蝋燭の灯のような、小さな小さな赤い光。
どんなにやっても、俺から出るのは、小さな光。
「破道の四、白雷!」
破道の四という、基礎の基礎でさえその威力は並以下。
「くそ!どうしてなんだ!どうして・・・!!」
そして、俺を苦しめるには十分すぎる光景が、待ち構えていた。
「シロちゃん!ほら見て見て!」
(あれは・・・憧れの雛森先輩・・・!)
憧れの鬼道の達人、雛森先輩が俺の修行場所に来たんだ。
(俺・・・雛森先輩に鬼道、教わりてえな)
そう思って声をかけようとしたら、雛森先輩だけじゃなったんだ。そこに居たのは。
「シロちゃん言うなっつってんだろ!」
(あれは誰だ?)
雛森先輩と一緒に居たのは、銀髪の子供だった。だが霊術院の制服を着ている。
「シロちゃんはシロちゃんなんだからいいでしょ!それより、ほら!!」
雛森先輩が何かを指している。
「なんだそりゃ?」
「もうシロちゃん、ちゃんと見てよ!ほら!やっと的に当たったんだよ!」
的?・・・ああ本当だ。的は原形をとどめていないほど、真ん中になにかしらの鬼道が当たった跡が残されていた。すごいな、雛森先輩が当てたのか。
「ほう、良かったな」
「これでシロちゃんを抜かせた!次はシロちゃんの番だよ!」
「わかったよ」
何の勝負か知らないが、鬼道で競っていることは間違いないんだろう。あの子供、鬼道打てんのか?
「今度は何を使うの?」
「そうだな・・・雷吼砲あたりか?」
あの子供、何言ってやがる!!六十番台だと!?ふざけてんのか!?
「すごいすごーい!!さすがシロちゃんだね!!」
ものすごい爆発音と雛森先輩の歓声が聞こえた。まさか・・・!
俺が見た光景は、そこに的があったのかもわからないほど、跡形もなく消えていた景色だった。
.
「そうさ。俺は日番谷冬獅郎に嫉妬していた!雛森先輩の幼馴染であり、何でも出来る天才児をな!!」
怤璽火は今までのふざけた感じは消えうせ、嫉妬と憎悪の塊となっていた。
「貴様らは日番谷隊長を幸せにすると言っていたではないか!!」
「ハッ!!そんなわけねえだろ!!俺たちが何故集まったか知ってんのか!!?皆日番谷に恨みを持ったやつだからだ!!」
「何だと!?」
ルキアは驚愕して怤璽火を見つめた。
そのころ、草水と白哉は激しい死闘を繰り広げていた。
「散れ、千本桜」
「水海波川!」
白哉の千本桜が草水の放った水とぶつかり、二つとも相殺される。
「・・・」
「やるね、おじさん」
構えを崩さず、相手を見据える。
「おじさんはいいよね。大して努力もしてないのにそんなに強いんでしょ?僕なんて・・・」
そういう草水の顔はとても悲しそうだった。
「・・・僕の父親、丯闇なんだ」
「何?」
白哉はわずかに目を見開く。
「憧れてた。親父に。でも親父は、気の弱い僕なんてちっとも相手にしてくれなかった。親父は強さだけを求めていた人だから。だから、僕は必死に鍛錬した!親父に相手をされるように!親父に褒めてもらうために!・・・でも、親父の目は、彼しか見ていなかった・・・」
「ほら!翔勝、お食べ」
「ありがとう!お母さん!」
僕の名前は早足翔勝(そうそくしょうか)。戦いなんてまったく出来ない、ただの平凡な、お母さんに甘ったれの子供。でもお父さんは、丯闇は、死神学校の先生。自慢できるけど、自慢できない。お父さんにはほっとかれていたからだ。お父さんは第六回生の一組を担当していた。強さだけを求めた、強い人しか相手にしない。そんな父に、僕が相手されるはずがない。『息子だから』。関係ない。あの人には、強い人にしか特別扱いをしない。家族なんてどうでもいいと思っているくらいに。
「あらあなた、おはようございます」
「ああ」
「お父さんおはよう!」
なんで?どうして?どうして僕には何も返してくれないの?横目でチラッと見て、「話しかけんな、くそ餓鬼」と言っているような顔をするの?辛いよ・・・悲しいよ・・・ん僕はただお父さんと話がしたいだけなのに・・・
「先生!」
そのとき、窓の外から声がした。振り返って見てみると、そこには死神学校の制服をまとった、一人の生徒が手を振っていた。
「おう!どうした?」
お父さんはそのまま、その生徒のほうへ行ってしまった。
「いろいろ教わりたいことがあるんで、一緒に行ってもかまいませんか?」
「ああ。いいだろう」
「ありがとうございます!」
楽しそう。お父さんはあの生徒と話しているときは必ずそうだ。彼はお父さんのとこの生徒。成績は一位。お父さん一番のお気に入り。
「じゃあ行ってくる」
「あ!お父さん!」
僕の声に耳も貸さず、お父さんは行ってしまった。それから僕は決めたんだ。死神の学校に入って、お父さんのクラスに入って、一位をとってやるって。
それから僕は、真央霊術院に入り、毎日のように鍛錬をし、確実に強くなった。
そんな僕にお父さんも少しずつだけど、相手してくれるようになった。
「お父さん、おはよう!」
「ああ」
こんな些細な一言でもうれしく思ってしまう。
なんたって僕のクラスは一組なんだから。
そしてついに、お父さんのクラスに入ることが出来たんだ。
そして成績発表の日、僕の順位は・・・
「うそ・・・」
相変わらず四位。だが問題はそこじゃない。
一位の下には「日番谷冬獅郎」と書かれていた。
彼は一回生のころからずっと一位の天才少年。
年は僕より下なんだ。身長は僕のが小さいけどね。
そこも問題じゃない。問題はお父さんと、天才少年が、一緒に修行していること。
お父さんは今まで、成績のいい生徒を気に入っていたが、一緒に修行はしたこと無かった。
そのお父さんが、今、天才少年に熱心に指導している?いや、その実力を見ている。
「さすがだな、日番谷」
「・・・別に」
「相変わらず冷たいな」
「・・・ほっといてください」
あの天才!お父さんに修行をつけてもらえるなんてめったに無いことなのに、冷めている!だったらそのポジション僕と変われよ!!
「もういいですか?少し疲れたんで」
「ああ、いい「ふざけるな!!」
僕は、お父さんのことを邪険に扱うそいつが許せなくて、怒鳴った。
「お父さんの指導なんてめったに受けられない物なんだぞ!!それを「黙れ!!」
お父さんはすごい形相で僕を睨んでいる。なんで?
「俺が好きでやっていることだ!!お前なんぞが口を挟むな!!!」
「っ!!」
なんで?僕は、お父さんを庇ったのに、何でお父さんに怒られているの?そんなに僕が嫌いなの?どんなに強くなっても僕は認められないの?悲しいよ・・・
「僕は・・・だめなんだ・・・」
「・・・」
草水は俯いていた顔を上げた。
「でも、ここでおじさんを倒せたら、お父さんも認めてくれるかな?」
その顔は、希望に満ち溢れていた。白哉を倒せば、丯闇に、父親に、認めてもらえるかもしれないという希望に。
「そういうわけだから、死んで。おじさん」
四方八方から刺のついた茎が渦巻く波が、白哉に襲い掛かる。
.
「見捨てられた?」
「はい」
そのころ恋次も、風浪仝の過去話を聞いていた。
「あれは、虚退治の時です。一人の隊士が怪我をして戦闘不能になってしまったんです。
ドォオオオオン!!!!
虚が傷ついた隊士を襲う。
「クッ・・・・!」
それを慌てて風浪仝が自身の斬魄刀で防ぐ。
しかし、背後にはもう一体虚が居た。
「ひ、日番谷隊長!も、もう限界です!!」
しかし、日番谷はある方向を向いたまま、
「大虚が現れた」
と静かに言った。
風浪仝はその言葉に目を見開き、絶望を感じる。
次の日番谷の一言にも。
「ここはお前に任せる。そいつを頼んだぞ」
そう言って、日番谷は瞬歩で消えてしまった。
―――見捨てられた。
その言葉だけが、頭の中に渦巻いている。
その時の記憶はない。ただ、命がけで隊士を護った後、日番谷に詰め寄ったのは覚えている。
「なんで、僕らを見捨てたんですか!?僕一人では、あの隊士を護れなかったかもしれないのに!!」
すると日番谷は傷ついた隊士をチラリと見やり、
「護れてんじゃねぇか」
その言葉の意味は、私やあの隊士などどうでもいいということだ!!それが許せなかった・・・私は、日番谷冬獅郎を許さない!!!!!!!!」
それは、日番谷同様、彼らの心の叫びだった。