これ以上彼を苦しめないで・・・
「破道の三十三 蒼火堕!!」
「そんなもん訊いてどうすんだよ?」
「もう日番谷隊長は貴方たちのところには戻りませんよ」
.
「お前どうしたんだ!?」
一護はわけが分からずとにかく日番谷に訊く。
「体がいうことを聞かないんだ!」
「なんだと!?」
「早く逃げろ!!!!」
日番谷は怒鳴って一護にひたすら「逃げろ!」というだけだった。
「・・・」
逃げろとしか言わない日番谷に一護は黙る。
「くろさ「逃げねぇ!!!」
日番谷がまた逃げろと言おうとした言葉を遮って一護が言う。
「逃げてたまるか!!俺はお前を助けに来たんだ!!今更引き返せるかよ!!」
「体の制御が利かないんだ!!お前に何をするか分からない・・・早く俺から逃げてくれよ!!!!!!!」
日番谷の声がその場に響いた。
そのころルキアは怤璽火に押され気味で戦っていた。
「っく・・・!」
「どうしたぁルキアぁ!お前の斬魄刀は俺の炎より強いんじゃなかったのか!?」
「うるさい!」
言いながら怤璽火の出した炎を袖白雪で弾く。
そしてそのまま袖白雪を構える。
「次の舞、白漣!!」
身を低くして構えたルキアの袖白雪から大きな氷の塊が飛び出る。
怤璽火は自分の炎でそれを止め、そのまま氷はどんどん溶けていく。
「おいおいルキア!もうこの技は効かないぜ!」
怤璽火の言葉を無視して、ルキアは破道の詠唱を始める。
「君臨者よ 血肉の仮面 万象・羽搏き ヒトの名を冠す者よ 真理と節制 罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよ」
「何!?」
「破道の三十三 蒼火堕!!」
ルキアの手から、爆炎が怤璽火目掛けて飛んでいく。
怤璽火はそれを目を見開いたまま見ている。そしてそのまま怤璽火の体を貫通する。
ルキアは「やったか!?」と思い、煙の中に目を凝らす。
煙の中にゆらりと立ち上がる人影が見えた。ルキアはそれを見て眼を見開く。
――――確かに当たったはずだ・・・っ!
そう思うのも無理はなかった。本当に直撃したのだ。
次第に煙が晴れていき、そこに居たのはやはり怤璽火だった。
「鬼道か・・・お前うまいんだな。席官クラスだろう?」
にやりと笑いながら言う。
だが、その笑いは嫉妬しているような目だった。
「貴様らは、憎悪の塊といったな。それは何故だ?」
刀を構えながら言う。
「そんなもん訊いてどうすんだよ?」
「なぜ憎悪なのかと訊いている。たまたま貴様らの一番高い感情が憎悪なのか?」
そう訊くと、怤璽火は俯く。
だがすぐに顔を上げた。その顔は、いつものふざけた顔ではなく、真剣だった。
「ちがう。俺たちの一番高い感情は必ず憎悪になる、と言いたいだけだ」
「必ず?」
「ああ。全ての感情は、最終的には憎悪になるだろ」
無表情で言う。
「幸せは?自分の一番高い感情が幸せだったらどうなるのだ?」
「そういう奴はこの世界に呼ばれない。当たり前だ。この世界はマイナスの感情しか受け入れない」
「貴様の一番高い感情は、何だったのだ?」
「・・・嫉妬さ」
そのころ、恋次、白哉は草水、風浪仝と戦っていた。
「おじさんの名前なんていうの?」
「貴様には関係ない」
「貴方みたいな熱血タイプとは本当にうるさいですね。怤璽火に似て」
「あいつと同じにすんな!」
それぞれがそれぞれの敵に武器を向けながら言う。
草水と白哉が先に動き出す。
「もう、僕から自己紹介すればいいんでしょう?僕の名前は流水草切(りゅうすいそうせつ)の草水だよ」
またにこやかに言う。
「貴様の名など訊いてはおらぬ」
「もう!つれないおじさんだなあ!」
腰に手を当て言う。
怒っていますという意思表現なのだろう。
「まあいいや。おじさんやあの赤髪がここで倒されれば何も問題はないし、おじさんはうるさく質問してくる馬鹿でもなさそうだし」
言いながら構える。
「そうだ!僕の能力教えてあげる!おじさんには特別だよ!」
そう言うと草水は手と手を、何かを集めるように胸の前に出す。
「僕の能力は、名前のまんま!水と植物!おじさんに僕の能力を敗れるかな?」
そう言っている草水の手と手の間には水が球の形でどんどん大きくなっている。
白哉はそれをただ見ている。
「おじさんの刀の能力も教えてよ!お相子でよくない?たまには僕の言うことも聞いてよ」
甘えるように子供のように言う。白哉は千本桜を顔の前に翳した。
「よかろう。そんなに見たいのなら見せてやろう。我が千本桜の能力を」
「ありがと!もうわかった!桜ねぇ・・・。殺傷能力あるの?」
「それをこれから見せてやろうといっているのだ」
白哉の刀身が桜のように消えていく。草水の手の中にある水も、水球の中に刺のついた茎が渦巻いている。
「散れ、千本桜」
「水球連刺(すいきゅうれんし)」
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一方恋次VS風浪仝戦。
「咆えろ!蛇尾丸!」
「甘いですよ!」
伸びた蛇尾丸を風浪仝の手から出た風が押し返す。
「ッチ!」
「そんなんで僕を倒そうだなんて、本当に貴方副隊長ですか?」
「うるせぇ!」
そう言ってまた蛇尾丸を振るう。風浪仝はそれの気道を変える。
「本当に芸が無い」
だが恋次はこの芸が無い戦い方で、敵の能力や攻撃の仕方を見ていたのだった。
(敵の能力は風、それだけはわかった。あとは弱点や隙・・・)
「それと忠告しておきますが、もう日番谷隊長は貴方たちのところには戻りませんよ」
「何!?」
恋次は攻撃の手を止めて風浪仝を見る。風浪仝も恋次が攻撃をしなければ、攻撃をしないようだ。時間稼ぎが出来れば。
「どういうことだ!」
「どういうこともこういうことも何もありませんよ。そのまんまの意味です。彼は我々の手に堕ちたんです。もう尸魂界に戻ることはできません」
淡々と無表情に言う。
「・・・お前ら、何で日番谷隊長を仲間にしようとしてんだ?」
今までとは違い、冷静に言う。
「・・・知ってますか?僕、日番谷隊長の十番隊に居たんですよ」
「何だと!?」
恋次が身を乗り出して驚愕する。
「憧れてました。まだあんなに幼いのに、指示することは正確で、隊長の言うとおりに行動すると、誰も怪我ひとつしないんですから。僕が一人で鍛錬していると、隊長がやって来て、「今は休憩時間だから、相手してやろうか?」と言ってくれた。隊長直々に相手してもらえるんですから、それはもううれしかった。僕は一生この人についていこうと思ったほどです」
悲しそうな表情で言う風浪仝。
「だったら何で・・・!」
「・・・見捨てられたんです」
「冬獅郎・・・」
日番谷の悲痛な叫びを聞いて、一護はたじろぐ。
日番谷の体はその瞬間に一護の左側に移動し、そのまま左腕を斬る。
「っ!!!」
「うわぁぁ!!!」
一護は後方へ下がる。
「く、黒崎・・・」
「冬獅郎・・・」
しばらく互いを見詰め合う。
そして一護は意を決したように、顔を引き締めた。
日番谷は本当に苦しそうだ。
「冬獅郎・・・お前は何に苦しんでんだ?」
「えっ?」
日番谷はきょとんとする。
一護は真っすぐに日番谷を見ている。
「冬獅郎。あの時も言ったよな?『仲間を頼れ』って。お前が草冠のことを考えて苦しそうな顔をしているとき、俺は言ってくれないお前に悲しいんだ。お願いだ、冬獅郎。言ってくれ、お前の苦しみの全てを」
日番谷は思い出す。あのとき、自分のために殴ってくれた一護の拳の痛さを。あのときかけてくれた言葉のうれしさを。
『草冠ぁぁあああ!!!!!!!!!!!!』
突風に耐え、光の渦に飛び込もうとする日番谷の前に、一護が立ちはだかった。
『一人で苦しんでんじゃねえよ!』
『どけ、黒崎!』
日番谷は、一護の腕をつかんで押しのけようとした。
しかし、それは払われ一護は日番谷の方を向く。
『一人で何もかも背負おうとすんじゃねえ!てめぇの苦しみも、その覚悟も、てめぇの仲間に受け止めさせろよ!』
日番谷は、ぐっと奥歯を噛みしめた。
『俺はもう、隊長じゃねぇ』
一護は左手でその頬を思い切り殴った。
『てめぇ一人で背負い込むことで、周りの奴がどんな思いすんのか・・・考えたことあんのかよ!』
『草冠、俺たち、すっと友達だ』
日番谷の氷輪丸は草冠の腹部を貫いている。
『なぁ・・・もし・・・俺が・・・』
そして草冠の体は霊子に分解され、空に消えていった。
王印は自動再生され、地面に落ちる。
それを一護が拾い上げる。
『こんな小さなもんが・・・』
一護はそれを持って日番谷のほうへ歩き出す。
『・・・礼を言う。黒崎』
背を向けたままで、日番谷が言った。
『あいつさ、後悔はしてねえんじゃねえかな。最後にお前と決着をつけられて』
一護の言葉に日番谷が振り向く。一護は日番谷に向けて王印を放った。日番谷はそれを受け止める。
『生きてりゃ、誰にだって納得のいかねえことがあるだろ。だけど、それに従うかどうかは、自分が決めることだ』
日番谷は手の中にある王印を見つめた。
『生き返ったあいつは、自分で決めてここへ来た。人に決められた勝負じゃなく、自分で決着をつけるためにな。だから,それでよかったんじゃねーか?ま、おかげでこっちはメチャクチャだったけどよ』
「黒崎・・・俺は、雛森や草冠のことは、全て自分のせいだと思ってる。だから、これからは誰も傷つけないようにしようと思ってた。だが、俺の弱みのせいで、皆を傷つけ・・・黒崎に怪我を・・・」
「冬獅郎・・・」
「なぁ・・・俺はどうすればいいんだ?どうすれば皆を傷つけずにすむんだ?」
日番谷は俯く。その肩は震えていた。
「黒崎・・・たよって・・・いいのか・・・?」
小さな声で言う。
「当たり前だろ」
一護が笑いながら言う。
「・・・」
「冬獅郎?」
「・・・い」
「えっ?」
「たすけてください」
そう言って日番谷は顔を上げる。その瞳から、涙が溢れ出していた。
「もうだれもきずつけたくない・・・たすけて・・・黒崎・・・」
「冬獅郎・・・っ!」
それはあまりにも痛々しくて、彼が今までどれだけ苦しんできたかがわかった。
それは彼が初めて見せる涙であって、
それは彼が始めて人を頼った証拠だった。
架け橋はそれを必ず助けると誓ったのだった。