これ以上彼を苦しめないで・・・ 






「一護、しっかりしろ!!一護!!」

「では、儀式の準備を・・・」

「さよならだ、日番谷冬獅郎」



.


「助けようと思わないほうがいいよ。死ぬから」
完全に気を失なった一護にそう言い残した後、草水は日番谷を連れて怤璽火と共にスッと消えた。

「一護!!」
その5分後にルキアが一護に駆け寄り、その体を揺さぶる。
「一護、しっかりしろ!!一護!!」
「・・・う、うぅ」
そのとき一護のうめき声が聞こえる。
「一護!?」
「う・・・る、ルキア・・・?」
一護の眼が薄く開かれる。
「一護、大丈夫か!?」
「あぁ・・・。っ!!冬獅郎は!!?」
いきなり起き上がる一護。そのせいで傷口が開く。
「うっ!!・・・うぅ・・・!」
「動くな!!傷口を余計に開くつもりか!!今私が治療してやる。応急処置だがな。無いよりましだろう」
そういうと、一護の傷口に手のひらをかざす。
「すまねぇ・・・」
「いや、これくらいなんとも無い。それよりも日番谷隊長は?」





ルキアが一護の傷の治療をしながら訊く。
「・・・あいつらに、連れて行かれた」
「そうか・・・」
ルキアは俯く。その様子を見た一護は、
「・・・けど、冬獅郎の心は取り戻した」
「本当か!?」
ルキアは頭を上げる。一護の「ああ」という言葉を聞いて、
「良かった・・・っ!」
ルキアは本当に安堵しているようだ。だが内心一護は不安だった。日番谷が心を取り戻したということは、敵に抵抗を見せるはず。何かされなければいいのだが。
「一護?」
急に黙った一護を心配して、ルキアが声をかける。
「ん?」
「どうしたのだ?急に黙って・・・」
「いや・・・なんでもねぇ」
「・・・そうか」
ルキアは怪訝そうな顔をしていたが、諦めたのか治療に専念した。
(冬獅郎・・・お前は絶対護るからな・・・!)
一護は心にそう誓うのだった。



.



異世界、无(む)双旱(ぞうかん)。

ここには、心の傷の深い者、憎悪で生きている者、恨みの感情しかない者など、さまざまな者が居る世界。

そこに気絶している日番谷を囲んで討論している者たちが居た。


「どうする?」


「そりゃこのままじゃまずいだろ」


「でも理性が戻ってしまっては・・・」


「くそっ!完璧に操ったと思ったのに!」


「仕方がない。器だけでも・・・」


「しかしそれでは精神のほうが・・・!」


「仕方がないだろう。このままでは我々がっ!」


「それにもともと、崩すために俺たちは居るんだ。今更精神がどうのこうの言おうが関係ねぇよ」


「そうだな・・・」


「では儀式の準備を・・・」


その言葉を最後に、そこに居た者たちが消えた。日番谷と共に。


.




四番隊救護詰所。
一護は重傷を負ったので、四番隊に来ていた。
「っくそ!こんな所居る場合じゃねぇのに・・・!」
「仕方なかろう。そのまま行っても、敵に殺されるだけだ」
悪態を吐く一護にルキアがたしなめる。
「けど、このままじゃ冬獅郎が・・・!」
「だから、そのままでは・・・ん?地獄蝶?」
そのとき一護の病室に、ヒラヒラと地獄蝶が来た。そしてそのままルキアの指に止まる。
『朽木ルキア、そこに黒崎一護はいるか?』
「そ、総隊長殿!」
聞こえてきたその声は、元柳斎のものだった。
「はい、居ます」
『黒崎一護聞こえているか?』
「あぁ」
元柳斎は確認を取ると、目的を話す。
『行方不明の日番谷隊長のことだが、その居場所がわかった』
「本当か!?」
『あぁ、しかし我々護廷十三隊総動員出撃はできん』





その言葉を聞いても、一護とルキアは何も言わなかった。元柳斎が日番谷を見捨てたわけではないということが、わかっているから。
『そこで、以前の日番谷先遣隊のように出撃者を決めた。出撃者は、黒崎一護、朽木ルキア、朽木白哉、更木剣八、阿散井恋次』
「なっ!!」
「総隊長殿!恋次・・・阿散井副隊長は・・・!」
一護とルキアが恋次の名前を聞いて身を乗り出す。
そのとき一護の病室の扉が勢いよく開く。
「俺がどうしたって?」
「れ」
「恋次!!」
入ってきたのは紛れもなく、六番隊副隊長阿散井恋次だった。
「ずいぶん心配してくれたようだが、あんな傷でやられるほど俺は弱かねぇよ!」
「な、なにを!だれが貴様の心配をするか!たわけ!!」
「な、なんだと!!」
ルキアと恋次が言い合いを始める。この様子を見れば本当に大丈夫そうだ。
『そういうことじゃ。・・・黒崎一護』


「あ?」
突然一護を呼ぶ。
『これ以上隊長を減らすわけにはいかん!行ってくれるな?』
元柳斎が珍しく、命令口調で言わず訊く。
「当たり前だろ!行くなって言われても俺は行くぜ!!」
『そうか。傷のほうは早急に治せ』
一護の答えを聞いて満足したように言う。
『準備ができたらすぐ出撃だ。良いな?』
「ああ!!」
一護は力強く頷いた。
すると、地獄蝶はヒラヒラと飛んでいった。
一護は一息つくとまだ言い合いをしている二人を見る。
「おい、いつまでやってんだ!!準備するぞ!!」



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无双旱、儀式の広場。
そこには拘束具のついた椅子に座らされている日番谷と、それを囲むように円状に正座をする術者の者たちが居た。術者の者たちは胸の前で両手の平を合わせ、詠唱を唱えている。日番谷は未だ気絶したままだ。
「どうだ?調子は」
そこに丯闇が来る。
「はっ!第参詠唱まで入りました!」
近くに居た監視者が言う。
「そうか・・・」
そう言うと丯闇は日番谷の方を向きそのまま進む。
「丯闇殿!?」
近くに居る術者達が驚いて丯闇を見る。
丯闇はそのまま日番谷に歩み寄ると、その頬に右手を添える。
「起きろ」
それだけ言うと丯闇は手を放す。
すると日番谷は操られたかのように目を開ける。
「う・・・ここ・・・は・・・?」
日番谷は辺りを見回し、視界に丯闇の姿が入ると一気に目が覚める。
「お前・・・!」
「ようやく起きたか・・・」





驚く日番谷を無視し、勝手に話を進める。
「お前、本当に俺たちの仲間になる気は無いのだな?」
「あぁ、当たり前だろ」
何を今更?という風に日番谷が言う。
「・・・わかった」
それだけ言うと、丯闇は日番谷に背を向けて歩き出す。
「お、おい!?」
予想外の行動に日番谷は驚く。
そんな日番谷の様子に丯闇は顔だけ振り向き言った。
「さようならだ。日番谷冬獅郎」
「えっ・・・?」
すると、術者の手から出た黒い光が日番谷に向かって進む。
「っ!!」
日番谷は逃げようとしても、手足が拘束されているため抵抗できない。
「楽になれ。心の傷の深い者・・・」
そう丯闇が言い終わると同時に日番谷の目は焦点があっていなかった。
(なんだ?何が起きたんだ?)
日番谷は何が起きたかわからない状況にある。
丯闇は日番谷の拘束具を外す。しかし日番谷は逃げようとしない。否逃げられない。



体が動かないのだ。
「あの死神・・・黒崎一護といったか。あやつは残酷なことをする。お前はあのまま自分が何をしているかわからないまま、身を任せていればよかったのだ。しかしあの男がお前の理性を戻してしまった。一度狂わせた精神を、また狂わせることは我々にはできん。だからお前は精神はそのまま、肉体だけは我々の手中にあるという最悪の事態になってしまったのだ。お前は覚えていないかもしれないが、お前はこの世界に一度来ている。そんなお前をこの世界は永遠に束縛する。当たり前のことだ。わかったか?お前は二度と尸魂界には帰れない」
丯闇に冷たい視線で見つめられながら言われ、日番谷は絶望を感じた。動かないこの体でどうやって逃げればいいのだ?反論もできない。あのとき一護に言われた。

『なんで仲間を頼らねぇんだ!!』

仲間に、頼る・・・
今までの日番谷はそんなことしなかった。考えもしなかった。
「仲間に頼る」だなんて。日番谷はいつも独りだった。そんな状況今まで一度も無かったから。でも今は、そう言ってくれる「仲間」が居る。
今この状況で頼っていいのだろうか?もしいいのなら、願わせてくれ。

―――タスケテクダサイ

動けない日番谷が願うただ一つのことだった。



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イイネ!