Desperate Future 孤独の中で生きる二人
「なっ・・・!!」
そこは、確かに尸魂界なのだ。
「ど、どういうことだよ・・・っ!!」
けど、違うのは・・・
「誰も居ねぇ・・・っ!!」
魂魄が一人も居ない。もちろん死神も。
「それに、ここ、本当に尸魂界なのか!?」
建物がほとんど無い。無いに等しい。
一護は驚愕しながらまっすぐ歩く。
そこは絶滅した、絶望的な世界だった。
きれいな川が、きれいな空が、きれいな建物が、すべて無い。
あるのは激しく戦ったあと、岩や砂だらけ。
「っ!!?」
特に瀞霊廷が一番酷かった。
ルキアを処刑しようとした、双殛の丘が跡形も無かった。
「なんでっ・・・こんなっ・・・!!」
誰も居ないこの世界で呆然とつぶやいた一護の声は、虚しく空へと消えていった。
ずっと立ち止まっているわけにもいかず、一護はしばらくそこらを彷徨う。
荒れたその大地は、一護自身に不安と孤独を与え続けた。その重さに負けないように、一護は注意深く苦手な霊圧感知をしながら、目を凝らし、誰か居ないか探し続けた。
すると、見知った霊圧を感じ、一護はバッと前方を見る。
「っ・・・!!」
そこに居たのは、一護が良く知る人物、護廷十三隊十番隊隊長・日番谷冬獅郎だった。
しかし今着ているのは羽織ではなく、草冠の件のときに着ていたマントに似ているものだった。そのマントや死魄装は血だらけで、日番谷の斬魄刀、氷輪丸にも血がべっとりとついていた。
日番谷は一護を見ると苦しそうに顔を歪め、そのまま氷輪丸を構えて一護に突進してきた。
一護はいきなりのことで反応が少し遅れ、斬月を構えるまではできたものの、そのままズサササッ―――と後方まで押されてしまう。
「と、冬獅郎!!なにを・・・!」
「っ!!」
一護が声をかけた瞬間、日番谷が目を見開き攻撃していた力を緩める。
「冬獅郎?」
日番谷の攻撃が完全に無くなったことを確認し、一護が声をかける。日番谷はまだ目を見開いて固まっている。
「冬獅「お前・・・!」
一護の言葉を遮って日番谷がようやく言葉を発する。しかし、あまりの驚きで声が震えていた。
「お前・・・黒崎か・・・?」
「当たり前だろ!冬獅郎どうしちまったんだよ!いきなり攻撃してくるし・・・」
「だってお前・・・死んだはずじゃ・・・っ!?」
「はぁ!!?」
何を言うのかと思えば自分は死んでいる!?こんな事言われて黙っている一護ではない。
「勝手に人を殺すなよ!っつか、お前何があったんだ?いきなり斬りかかって来るし、服装もぼろぼろで血まみれじゃねえか・・・」
「それは・・・。それより少しいいか?」
そう言いながら近づいてくる。
「人の質問に答えろよ!っておい!!何してんだ!!」
一護に近づいて死魄装に手をかける日番谷。
「何って、許可は取っただろ」
「詳しくは言ってね「無い」
日番谷は一護の言葉を遮って、更に一護の死魄装をはだけさせる。
まるで何かを探すように。
「お、おい!!やめろって!!くすぐった「無い・・・か」
またもや一護の言葉を遮って、一護の死魄装を丁寧に戻しながら言う。
「傷痕が無いんだ・・・まさか・・・」
日番谷は「無いって、何がだよ?」と訊いた一護の質問に答えてから、その顔をじっと見る。
その視線に耐えられず一護はたじろぐ。
「な、なんだよ・・・」
「お前・・・―――っ!!?」
突然日番谷はハッとして辺りを見回す。
「どうしたんだ?」
「来る・・・!」
日番谷がそう言うのと同時に、恋次が二人の前に現れた。
感情が無いかのように無表情な。
「恋次!?」
一護が恋次に近寄ろうとする、が。
「行くな!!」
「うわぁっ!!!」
日番谷に死魄装を後ろから引っ張られ、そのまま日番谷の後ろにまで飛ばされる。
いきなりのことで一護は尻餅をついてしまい、そのまま日番谷に怒鳴る。
「冬獅郎!!何すんだよ!!」
「下がってろ!!」
そう言うと日番谷は、血のついた氷輪丸を構え、そのまま恋次に向かっていく。恋次も手に持っている刀を構え、日番谷に向かっていく。
一護は信じられない気持ちで日番谷に怒鳴る。
「冬獅郎!!何を・・・!!」
一護の言葉に耳も貸さず、日番谷はただ、目の前の獲物を逃がさないかのような鋭い眼で、恋次と戦り合っている。
恋次は、いつものような、何か強いものを感じさせるものがない。いつもの日番谷なら余裕で勝てる程度の強さだ。だが、日番谷もずいぶん休み無しで戦ってきたのだろう。足元がふらついている。この戦い、長引けば日番谷が負けるのは目に見えている。だが、相手は恋次だ。何故恋次と日番谷が戦っているのかはわからないが、一護はどちらに手を貸していいのかわからない。
日番谷も恋次も仲間だと思っている。だが仮に、先程からおかしなことを言っている日番谷が敵だとして、一護が恋次に手を貸したとしても足手まといになるだけだろう。
それに、日番谷のあの眼は、恋次を見るあの眼は、確かに「殺す」という意思が宿っているが、その中に「辛い」というのが見て取れる。日番谷は好きであんなことをしているのではないことは確信していた。日番谷が正しいのか、恋次が正しいのか一護が葛藤している間に、二人の決着は付きそうになっていた。
恋次が突きを出し、日番谷はそれを避ける。日番谷の上向きになった氷輪丸は、恋次の隙、つまり脇の下を狙って振り翳す。氷輪丸は見事恋次の右腕を真っ二つに切り落とした。傷口からは大量の血が噴出す。
日番谷はそのまま恋次の首筋を狙う。だが恋次もそんな傷を負っても、痛がった風にせず、日番谷の氷輪丸を弾き飛ばし、カウンターのように、今度は日番谷の首筋を狙う。日番谷は飛ばされた氷輪丸を拾おうともせず、掌を恋次に向ける。
「破道の三十一、赤火砲!」
日番谷の掌から出たそれは、恋次の頭を消し去る。隊長格の鬼道は、詠唱破棄でもここまで差が違う。首がなくなった恋次の体は、数歩歩いたところで突然止まり、そのまま地面に倒れた。日番谷はそれを数秒見た後、ふらついた体で遠く飛ばされた氷輪丸を拾いに向かう。
「と・・・冬獅郎・・・?」
一護は立ち上がりながら、おそるおそる日番谷に聞く。日番谷は一護の呼びかけには答えず、拾った氷輪丸を手にし、そのまま何も言わず一護に歩み寄ってくる。一護は日番谷の様子に、無意識に身構える。日番谷はそんな一護を見据えて少し苦笑いを浮かべて、
「何をそんなに身構えているんだ?」
「え?」
そう言う日番谷の目は、さっきのような鋭い目ではなく、いつもの日番谷の目をしていた。
「悪かったな。いきなりあんなもの見せて、警戒しないやつはいないだろう。いきなりだったものでな。説明できなかった」
「あ、ああ・・・」
あまりに、恋次に見せていた目と、今自分に見せている目が違うもので、一護は呆然と頷く。
「ここじゃ危ない。ついて来い。説明はそれからする」
そう言うと、ふらついた体のまま、踵を返して歩き出す。その先は、瀞霊廷のあった場所。
「ま、待てよ!」
一護もそれに続いて歩き出した。