これ以上彼を苦しめないで・・・ 




「技術開発局で、ある謎の反応が発見された」

「史上最年少で隊長になった男の子がいるって、僕のお父さんが言ってたんだけど・・・」

「反応が・・・反応が流魂街全域に!!」


「乱菊さん、冬獅郎、これ」

「「ん?」」


地獄蝶は、そのまま冬獅郎の指に止まる。


『これから緊急隊首会を始めます。尚日番谷隊長には地獄蝶を通して出席してもらいます』


その伝令は緊急隊首会の報告だった。


「緊急だと・・・?何かあったのか?」

「私はとくに聞いてませんけど・・・」


二人が話している間に、隊長たちが集まったのか、隊首会が始まった。


「それではこれより、隊首会を始める」


一番隊隊長及び総隊長山本元柳斎重國の声で隊首会が始まった。


「日番谷隊長聞こえておるか?」

『はい』


元柳斎の確認に、日番谷が答える。


「ではさっそく本題に入ろう。実は技術開発局である謎の反応が発見された」



「謎の、とは?」


質問をしたのは、十三番隊隊長・浮竹十四郎。


「それはワタシから話すヨ」


浮竹の質問に答えたのは十二番隊隊長・涅マユリ。


「謎のというのは、反応したのにその場所には何も無いということなのだヨ」

「その反応してる奴がとっとと逃げちまったんじゃねぇのか?」


十一番隊隊長更木剣八が呆れて言う。


「それはないネ。その反応は一日一回しか動かないのだからネ」

「そもそも生き物なのか?」

「さあネ。魂魄の反応でもない。死神の反応でもない。虚の反応でもない。もちろん人間の反応でもない・・・」

「だが動くのか・・・」


浮竹は困ったように頭を掻いた。


「その物体がどこに向かっているのかわからないか?」

「それもわからないネ。動いた場所は様々・・・。動くのも一瞬」

「今はどこに居るんだ?」

「ワタシが最後に見たのは、北流魂街の草鹿だヨ」


今までの会話を聞いていた日番谷は、


(なにが目的で・・・?)




「ともかく、これが謎の理由である」


元柳斎の声でその場が静まり返る。


「技術開発局で確認できない反応。これは尸魂界初の事態である。もし何かあれば早急に報告せよ。王印強奪の件で、まだ尸魂界は万全ではない。これ以上被害を出してはならん!」

『・・・』





『王印強奪事件』。


そう言われて思いつくのは、あいつの顔。


『なぁ・・・俺が・・・もし・・・』


(草冠・・・)


日番谷は拳を握り締める。







(冬獅郎・・・)


一護には隊首会の内容は聞こえない。でも日番谷の表情を見れば、日番谷が今なにを考えているかは分かる。


(頼むから、そんな顔しないでくれ・・・)


表情は軽くなったと言っても、万全ではない。傷つけられた心の傷は、まだ癒されてはいないのだ。心の傷は、深ければ深いほど治すのに時間がかかる。たまに辛そうな顔をする日番谷も、それは同じ。

だからそんなときは草冠のことを考えている。訊いても「なんでもない」と答えるだけで、何も話さない。




『何で仲間を頼よらねぇんだ!!』と自分が言って、これからは頼ってくれるのだと思っていた。でも、話してくれない。そうじゃない、話せないんだ。


(仕様がない)


そう自分に言い聞かせることで我慢してきた。でも、だからこそ、一層思う。


(お前のそんな辛そうな顔は見たくないから)



―――必ずお前を護る。







「ではこれで隊首会を終わりにする。解散!」


次々と隊長たちが帰っていく。日番谷も地獄蝶を戻そうとしたとき、


『日番谷隊長、ちょっと待ってくれんかの』

「は、はい」


元柳斎に呼び止められた。


『今回日番谷隊長は任務をしなくて良い』

「総隊長!?どういうことですか!?」

『ゆっくり体を休めろと言っておる』

「ですが!!」

『これは命令じゃ!!』


ハッキリと言われてしまったら、言い返せない。





「はい。わかりました・・・」


渋々日番谷が返事をする。


『傷が完璧に治るまでは、仕事も一切しなくて良い。ではゆっくり体を休めるのだぞ』


総隊長がそう言うと、地獄蝶はヒラヒラと飛んで行った。

「仕事を一切しなくて良い」ということは日番谷の体にとっては良いことかもしれない。だが・・・


「隊長。総隊長の言うとおりですよ。仕事仕事って・・・隊長は『休む』ということを覚えなくちゃ」

「・・・うるせぇ」


一護もそう思う。日番谷はいつも頑張りすぎなのだ。草冠の件の前は、自分の仕事の分といつも乱菊の残した書類をやっていて、あまり休んでいないという。たまに過労で倒れることもしばしば・・・ん?「乱菊の残した書類」?


「なぁ、でも冬獅郎が仕事ばっかりやってるのって、乱菊さんのサボった分があるからじゃねぇのか?」

「・・・」

「・・・」


二人とも黙り込む。

乱菊は逃げる体制をとっているが、もう遅い。


「どこ行くんだ・・・?」

「ひぇええええええええ;;;」


日番谷は後にゴゴゴゴゴゴというオーラが見えるほど怒っていた。


「『休むということを覚えろ』?誰がだよ?言ってみろ・・・」

「い、いえ、あ、あの、その・・・」


この様子を見て、


(俺が悪いのか?)


と思う一護だった。








西流魂街白道門前。


「ねぇ!兕丹坊さん!」

「ん?なんだ?」


そこで兕丹坊と西流魂街に居る子供たちが話をしていた。


「瀞霊廷はどんなところなの?」

「死神が住んでるところだべ」


子供たちが質問をし、兕丹坊が答える。


「死神さんって何をしているの?」

「死神は、虚って化け物を倒したり、魂魄を助けたりするんだべ」

「「「へ~え」」」


一人が言う。


「ヒーローみたいなんだね!」

「そうだべ」


周りの大人たちは和やかに見ている。


「「「かっこいい~!!」」」

「あの!!」

「ん?」


一人の男の子が大きな声を上げる。


「ここ潤林安出身で、史上最年少で隊長になった男の子がいるってぼくのお父さんが言ってたんだけど・・・」

「ああ、冬獅郎のことか?オラの友達だべ」

「「へ~え、すご~い!!」」


子供たちは歓声を上げる。ただ一人、質問をした男の子を除いて・・・





北流魂街七十九地区草鹿。

十三番隊がその謎の物体について調べていた。


「どうだ?」


浮竹がそこらに居た隊士に訊く。


「はっ!特に以上はありません!」

「そうか・・・」


あの隊首会の後、十三番隊は草鹿に直行していた。それからずっと「謎の物体」を調べているのだが、なかなか見つからない。


「もう、移動してしまって居るのでしょうか?」


ルキアが浮竹に訊く。


「いや、涅の報告では一日一回しか動かないという。それは無いと思うんだが・・・」

「そうですか・・・」


二人はどうしようかと考えていると、


「浮竹隊長!」


一人の隊士が叫んだ。


「どうした!?」


浮竹が訊く。


「それが、今十二番隊から連絡がありまして、反応が・・・反応が、流魂街全域に!!」
それは、あまりにもありえない情報だった。







十二番隊技術開発局。


「どういうことだネ!?」


マユリが怒った口調で言う。


「それが、どんどん反応が増えて・・・反応が瀞霊廷に!!」


壷府リンが答える。

反応はついに流魂街全域を埋め尽くし、瀞霊廷に反応が現れた。







四番隊日番谷の病室。


「どういうことだ!?」


日番谷が驚愕して言う。


「隊長!」

「松本、十番隊に行って指揮をとれ!」

「はい!」


日番谷は今回任務をできない。乱菊が十番隊の指揮を執るしかなかった。


「その謎の物体か!?」


一護があわてて訊く。
日番谷はそれに答えず指を顎にあて考えていた。


(なぜ、姿が見えない!?)








そんな死神たちが慌てているなか、ある物体が一人の十一番隊の隊士の前で姿を現した。


「なんだてめぇ!?」


十一番隊の隊士は誰であろうと喧嘩ごしで相手をする。


「・・・お前などに用は無い」


そう言うと、その物体は隊士の横を通り過ぎる。


「てめぇ、そんな態度取ってっと―――っ!!」


いきなり隊士の体が真っ二つに切れた。


「うわぁぁああああ!!!!!!!!!! 」







闇が動き始めている・・・。








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イイネ!