His memory disappeared into the clouds




その頃、ルキア、恋次、織姫、乱菊は、減らしても増え続ける黒雲に苦戦を強いられていた。

「どうすればよいのだ!」
「俺が知るかよ!」
「貴様に聞いておらん!」
「じゃあ誰に聞いたんだよ!」
「聞いておらん!」
「独り言か!怖ぇなおい!」
「黙れ!よくあるだろう!」
「なにベタな台詞言ってんだよ!」
「貴様だって先程言っておっただろう!」
「記憶にねぇな!」
「馬鹿犬が!」
「誰が馬鹿犬だ!」

などと、馬鹿げたケンカをしながら、恋次とルキアは戦っていた。
すると、急に恋次が真剣な顔になり、

「本当に、どうするんだよ」

とルキアに問う。
ルキアも真剣な表情になり、少し考えてから言った。

「一護に任せよう」

と。

―――あやつがあの男を倒すまで、我々はあやつの援護をしていよう。








「ついたぜ」
「ああ」

一護と日番谷は、懴罪宮の入り口に居る。
懴罪宮の一番上に居る男の霊圧を感じながら。

「行くぞ」

一護の言葉に、黙ってうなずく。
二人は懴罪宮の中に入っていった。

二人の歩く足音が響く。
男はそれに気づかないのか、二人に男の姿が見えた時点でも、振り向くことはなかった。

ついに、二人が男の背後に立ったとき、男は口を開く。

「ついにここまで来たか」

二人は何も言わない。

「今更止めようなどと考えんことだ。黒雲は既に、暴走している。私の力では抑えることは出来ないらしい」

男は自嘲気味に笑う。

「私に何の用だ?殺しに来たのか?ならばさっさと殺すがいい」

男は、二人に背を向けたまま。
一護は一歩踏み出した。

「なんで、尸魂界を滅ぼすのに、冬獅郎の記憶を使ったんだ?」

一護の問いに男は首だけ一護を振り返り、また元に戻す。

「そいつの過去は、最高に闇に染まっているからな」
「何!?」

一護と日番谷は目を見開く。

「それが、この黒雲を生み出すのに必要だった・・・それだけの話しだ。

男はそれだけ言って、黙る。
日番谷は未だに目を見開いていた。

そんな日番谷を横目でチラッと見た一護は、再び視線を男に戻す。

「アンタの妹は―――俺が殺した」

男の肩が一瞬ピクリと動いた。
再び男は顔だけ振り向く。

「・・・それがどうした」
「あの人、本当はアンタの実妹だったんだろ?」

男はゆっくりと一護を振り返る。
その顔は無表情だった。

「本当に暴走してるのかよ?暴走にしては雲の動きは穏やかじゃねぇか」
「・・・何が言いたい?」
「アンタ・・・妹が死んだから、自分達の計画をやめようとしてんじゃねぇのか?」

そう一護が言うと男は鼻でフッと笑った。

「私があんな者の為にずっと待ち望んでいた計画をやめるだと?馬鹿馬鹿しい」

男が話している間、一護は更に一歩進む。

「あの女が私の実妹だと?尸魂界で実妹と共に同じ場所に振り分けられるわけがないだろう?」

更にもう一歩。

「それ以前に、私に実妹など存在しない。もし居たとしても、生憎覚えてないんでね」

速度を速め、ズカズカと男に歩み寄る。

「第一、何故私にそのようなことを聞く?そのようなこと知ったところで貴様には「俺には何の利益にもならない、か!?」

一護は思い切り男の胸倉を掴む。
そのまま、頭突きをするくらいの勢いで男を自分の方へ引っ張り、ものすごい剣幕で睨みつける。

「あるさ!あんたらを見るたび感じてくんだよ!!義理じゃなくて、本当に血の繋がった兄妹だってことが!!」
「―――!!」
「だから俺は思ったんだ!あんたらの死んだ育て親も、本当の親で、あんたらは本当の家族だったんじゃないかって!!あんたの妹は、持ってた刀を「形見だ」って言ったとき、ものすごく悲しそうな顔をしてた!!」
「・・・」
「本当の親が死神の手によって死んじまったなら、本当の妹と死神に復讐するんじゃないかって!あんたらの目的は、死神への復讐なんだろ!!?」

そう一護が問うと、男は目を逸らす。

「なんで復讐なんて道に走った!?もっと他の方法があっただろ!?妹までその道に道連れにしやがって」
「・・・る」
「?」

途端に男からものすごい霊圧が一護に襲い掛かる。
一護はいきなりのことで避けることが出来ず、後方に吹き飛ばされてしまった。

「貴様に何がわかる!!!私の苦しみが!!妹の苦しみが!!父母の苦しみが!!!貴様に何がわかる!!妹は自ら進んで私の道について来てくれた!!だから私は、私たちの望みをかなえる!!!」

そう言うと男は壺を手にし、ありったけの霊力を注ぎ始めた。

「うっ・・・!!」

それと同時に、日番谷に激しい頭痛が襲う。
その痛みに、日番谷は膝を突いてしまう。

「と、冬獅郎!!」

一護は日番谷に駆け寄ろうとするが、男から出ている霊圧の重みで、体が思うように動かせない。

「うっ・・・あ・・・!!!」

日番谷の頭痛は徐々に痛みが増してくる。

「さぁ!生まれろ黒龍よ!この世を滅ぼせ!!私と妹のために!!」

そう男が言うと同時に、壺は黒く強く光り出し、その壺から出た光は空にある黒雲に射した。
その場所から、黒雲が次第に龍の形になっていった。

「ふはははは!!!これで望みは叶った!!!尸魂界はこれで消える!!!この世の全てが消えるのだ!!!ふははは・・・」

男はそう叫ぶと壺に霊力を与えすぎたために力を失い、ゆっくりと倒れていき、霊子の粒となって消えていった。

「冬獅郎!!」

男が消えると同時に男から発せられていた霊圧が消え、一護は一目散に日番谷のもとへと急いだ。
日番谷は頭を抑え、荒い呼吸を繰り返している。
一護はその背中に手を添えて、支えるように日番谷を抱いた。

「冬獅郎!しっかりしろ!」

これ以上負担をかけないよう、優しく、割れ物を扱うように、放さないように日番谷を抱いている腕に力を込める。

「・・・は・・・」

日番谷は荒い呼吸を繰り返しながら、何か言っている。
一護は日番谷の口元に耳を近づけ、必死に言葉を拾った。

「黒、崎・・・俺は・・・―――」







「な、なんだあれは!!」
「龍!?」

ルキア達が黒雲の被害を出さないよう、必死に戦っている中、黒い龍が瀞霊廷上空を飛んでいることに驚く。

「雲だけで大変だってのに、龍が出てきちまったぜ・・・!」
「さて、どうする?」

皆が冷や汗を掻きながらどうするか考えていると、

「いや~困ってるみたいだねぇ」
「俺たちの出番のようだな」

八と十三の文字。

「京楽隊長!!」
「浮竹隊長!!」

皆が驚いていると、二人の後ろに人影が居ることに気づく。

「準備は良いか?」
「総隊長!!」

一番隊隊長兼、護廷十三隊総隊長・山本元柳斎重國だった。
元柳斎は既に戦闘体勢に入っており、上半身は裸だった。
浮竹と京楽も既に視界済みである。

「あの龍は我々で何としても止めるのじゃ!行くぞ!」

「「はっ!!」」

元柳斎の掛け声で、皆一斉に駆け出した。







その頃、一護と日番谷は未だに懴罪宮に居た。
日番谷は荒い呼吸を繰り返しながら言う。

「黒、崎・・・俺は・・・」
「あぁ・・・」
「俺は・・・記憶を取り戻したい・・・!」
「・・・!」

日番谷のその言葉に、一護は驚く。
そんな一護に気づきもせず、日番谷は続ける。

「あの壺の中に・・・俺の記憶があったんだろ・・・?なんとなく感じたんだ・・・あれは俺の記憶だって・・・。いろんなやつが居た・・・いつもサボってばかりの部下に・・・闘いを好むうるさい奴・・・赤髪の馬鹿犬みたいな奴に・・・ちょっと強気で頼りになる女・・・マヌケだが笑っている姿が一番似合う女・・・あと―――」

そう言って一護を見る。

「眩しいくらいの髪に、ウザイくらいの心配性な奴・・・」
「―――!!」

一護の目が次第に開かれていく。
日番谷は視線を天井へ戻すと、目をゆっくりと閉じて言う。

「黒崎・・・頼む・・・」
「っ!!!」

一護は日番谷が何を言いたいのかわかった。
気を失った日番谷をそっと横たえさせると、霊圧を上げる。

「卍解!!」

一護の衣装が変わる。

「天鎖斬月!!」

一護は卍解し終わると、懴罪宮の窓から外へ飛び出した。



「一護!!」

黒龍と戦っていたルキアは、即座に一護を発見した。
一護は凄まじいスピードで黒龍に向かっていく。

「援護しに行くぜ」
「ああ!!」

そう言って、ルキアと恋次は一護の後を追う。

「ま、待ってよ!朽木さん!阿散井くん!」
「あんたらだけにかっこつけさせないわよ!」

続いて、織姫と乱菊がその後を追う。
浮竹、京楽、元柳斎はその場に残り、

「さて、我々は彼らの援護するとしようか」
「年をとったってことかねぇ。山爺?」
「黙れ!」

と、京楽は怒鳴られた。





黒龍は一護達に気づくと、口を大きく開けて、黒い光を出す。
一護たちはそれが何か瞬時に理解し、すばやく瞬歩でよける。
地上にその光が当たったとき、それはまるでレーザーのような破壊力を持っていた。
龍はそこらじゅうにその黒光を打ちまくり、瀞霊廷を破壊し続ける。
一護は素早く龍の背後に回り込む。

「月牙天衝!!」

斬月から出た黒い斬撃は、龍に当たったが、雲から出来ているとは信じられないほど固いらしく、弾かれてしまった。

「クソッ!どうすれば・・・!」

皆が悩んでいる間にも、龍は瀞霊廷を破壊し続けている。
その時、恋次が何かに気づいた。

「一護!!アレだ!!あの白い光を狙え!!」

恋次の言葉に、皆の視線が龍の胸部に集まる。
そこには、恋次の言ったとおり白い光がうっすらと輝いていた。

「アレは・・・!」
「まさか、隊長の記憶!?」

日番谷の頭から抜けた、白い光球を思い出す。
確かに、それによく似ていた。

一護は斬月を握りなおす。
そしてそのまま、黒龍に突進する。

「舞え、袖白雪!」
「咆えろ、蛇尾丸!」
「唸れ、灰猫!」

皆がそれぞれ黒龍の動きを止める。

一護はその一瞬の隙を逃がさず、その胸の白い光に向かって斬月を構え、

「月牙天衝ぉぉおおお!!!!」

その光に月牙が当たると、黒龍の素の黒雲がサァ・・・と消えていった。
一護も卍解を解くと、即座に落ちてきた光球を拾い、懴罪宮へ向かった。
皆はそれを穏やかな顔で見守っていた。







「冬獅郎」

自分を呼ぶ声がする。

「冬獅郎」

知ってるよ・・・この声・・・

「冬獅郎」

俺を必死で護ってくれた人の声・・・

「冬獅郎」

―――黒崎一護の声だ。






日番谷はゆっくりと瞼を開ける。
そこには笑っている一護の顔があった。
日番谷は一護の手を借りてゆっくりと起き上がる。

周りを見ると、ここは懴罪宮の最上部だった。

日番谷は一護を振り返る。
一護はゆっくりとうなずいた。

何も言わなくてもわかる。
日番谷もゆっくりとうなずいた。

その瞳は翡翠色だった。




あの後、一護が日番谷のもとに光球を持っていくと、何もしていないのに光球は日番谷の頭にスゥ・・・と入っていった。

一護はこれで大丈夫だと確信していた。
根拠はないが、自分の心がそう言っているから。
それを信じようと思う。

そしたらやっぱり、冬獅郎は冬獅郎に戻っていた。

自分でも驚くほどに喜んでいた。
声が出なかったんだ。
だから頷いた。
もう大丈夫だ、って。

冬獅郎もうなずき返してくれた。
たぶん、ありがとう、って。
言わなくてもわかる。

俺たちは―――繋がっているから。





『ありがとう。黒崎・・・』












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イイネ!