His memory disappeared into the clouds





浦原商店。

一護が「浦原さーん!」と呼びかけながら商店の戸を開けると、掃除をしていた紬屋雨と、花刈ジン太が居た。

「いたい、いたいよ!ジン太くん!」
「うるせぇ!ウルルが勝負に負けたのに掃除しないからだろ!」
「あたしは負けてないよ!負けたのはジン太くんだもん!」
「うるせーよ!負けたほうが勝ちなんだよ!」

と、いつものケンカをしていた。

「貴様も相変わらずだな」

ルキアが呆れて言う。
その言葉に敏感に反応したジン太は、ウルルの前髪を引っ張りながら問う。

「なんか用か?」
「浦原にな」

そう言ったルキアに、いつの間にか抜け出していたウルルが「呼んできます」と言って浦原を呼びに行ったが、

「ハイハイ♪なんか用ッスか?こんな大勢でアタシに?」

扇子を口元に当てながら浦原が来た。
ルキアは、相変わらずの軽い態度に少し苛つきながらも、用件を言う。

「尸魂界に行きたいのだが、井上が居るのでな。貴様の穿界門を使いたいのだ」
「わっかりました!すぐに用意するんで、お茶でも飲んで、待っててください」

そう言って、地下勉強部屋へと向かっていった。





ウルルが運んだお茶を飲んでいると、浦原が部屋に入ってきた。

「準備できました。どうぞ、日番谷隊長以外は地下勉強部屋へ行ってください」

浦原の言葉に皆が疑問に思った。

「なんで冬獅郎だけ残るんだよ?」

一護が真っ先に疑問を口にする。
浦原は一護を振り返り、真剣な顔で言う。

「少し、日番谷隊長の記憶について探らさしてもらいます。記憶を失っているんでしょう?」

言ってもいないのに、日番谷が記憶を失ったことを当てたこの人は、すごいと皆が思った。

「わかった。じゃあ、先に行ってるからな、冬獅郎」
「あ、あぁ・・・」

日番谷は戸惑いながら、部屋を出て行く一護達を見送った。
浦原と二人きりになった日番谷は、どうしていいのかわからず、ただ黙っている。
すると、浦原が口を開いた。

「そう、緊張しないでください♪大丈夫ッスよん☆痛いことするわけじゃないッスから」
「は、はぁ・・・」

(なんだ?痛いことって)と思った日番谷だった。

「じゃあさっそくなんですが。自分のことは覚えてるんですか?」

いきなり真剣に聞いてきた浦原にすこし驚きながらも、日番谷も真剣になって答える。

「はい。といっても、今まで自分が何をしてきたのかは・・・」
「そうッスか・・・。てことは、自分が死神だったことも?」
「はい。黒崎に聞いて驚きました」

浦原は「う~ん」と言って腕を組む。

「自分のことは覚えていて、死神のことを忘れているなんて、おかしいッスねぇ」
「何がですか?」

日番谷は浦原の言いたいことがわからず、聞き返す。
浦原は、お茶を一口のんでコトンと卓袱台に置くと、日番谷を見つめる。

「本来『記憶喪失』とは、何か事故で頭を打って失ったとき、自分のことすらも忘れます。しかし、例外というのもあって、ある特定の人物だけを忘れるということもあるんです。だが、話を聞いている限りでは、貴方のソレはなにか『記憶喪失』とは別物な気がする・・・」
「・・・どういうことですか?」

日番谷はさらに問う。

「つまり、貴方達が追っている人物は、貴方の記憶を・・・貴方の記憶の中にある『何か』だけが欲しかったんじゃないでしょうか?ですから、貴方は自分のことは覚えている・・・」
「俺の・・・過去・・・?」
「そうです。貴方の過去が、全ての鍵だ」

日番谷は少し俯く。

―――一体、自分の過去に何があったんだ?

「まぁ、そういうわけですから☆あんまり、思いつめないほうがいいッスよん♪」
「あ・・・はい・・・」

日番谷は先程の軽い感じの浦原の様子に、顔を上げる。

「とにかく、元に戻るといいッスねぇ。記憶」
「・・・」

それに日番谷は答えず、俯いた。

「じゃあ、皆さんも待たせてることですし・・・行きますか♪」
「はい」

浦原が立ち上がったあと、日番谷も立ち上がった。







地下勉強部屋。
一護達は中々来ない日番谷達を心配していた。

「遅いね・・・冬獅郎くん」
「まさか、浦原さんになにかされてるんじゃ・・・!」

心配する織姫に、恋次。
黙ったまま待つ、ルキア、乱菊、一護。

そんな中、二人の姿がようやく見えた。

「お待たせしました!皆さん☆」
「おせーよ、浦原さん!」

日番谷と並んで歩いてくる浦原に、一護は文句を言う。

「いやースイマセン!ちょっと話が長くなっちゃったもんッスから」
「悪い」
「冬獅郎は悪くねぇって!」

浦原はいいとして、日番谷まで謝るものだから、一護はすぐにそう言った。
そんな一護に浦原は傷ついた振りをする。

「酷いッスねぇ、黒崎さん。日番谷隊長は謝らせないで、アタシにだけ謝らせるなんて!」
「アンタの話が長ぇからだろ!」

いくら傷ついた振りをしていても笑っている浦原に、一護は苛立ち始めた。
だが、いつまでもうるさい二人にもっと苛ついているルキアが、

「くだらんこと話してないで、さっさと穿界門を開けろ!!!」

と怒鳴ったため、浦原が「朽木サンまで冷たいッスねぇ」と言いながら、しぶしぶ穿界門を開けた。

「な・・・なんだこれは・・・!?」

いきなり現れた穿界門に驚いた日番谷が言う。
一護はそれに気づき、日番谷に訊いた。

「冬獅郎。お前まさか、尸魂界のことも覚えてねぇのか・・・!?」
「ソウル・ソサエティ・・・?」

聞いたのことのない名前に、日番谷は首をかしげる。
一護が驚いて固まっていると、穿界門を開け終わった浦原が、二人に近づいてきた。

「おそらく、尸魂界に居たときの事は覚えているでしょう。ですがそれも、来たばかりの記憶でしょうが」
「どういうことだよ?」

一護はわけがわからず、訊く。

「これは、アタシの予想なんですが、日番谷隊長の記憶・・・流魂街に居た頃から、死神の現在までの記憶が抜き取られているんでしょう」
「それって、ほぼ全部じゃねぇか」
「いえ。日番谷隊長自身、何か覚えているんじゃないですか?途切れ途切れに」

そう言われた日番谷は、戸惑いながらコクンと頷く。

「俺が持っているこの刀・・・氷輪丸だっていうこと、お前らのことは覚えてないが、死神だったということも覚えている」

日番谷の告白に、それを聞いていた皆が驚く。

「風景なら、もう少しで思い出せそうなんだ。先程黒崎達が言っていた『尸魂界』だって、聞いて初めて思い出してきたところだ。ただ・・・出会った人々のことは思い出せない」
「つまり、黒崎サン達の追っている人物は、日番谷隊長の知り合い・・・つまり、『人』の記憶を奪って行ったんです」

日番谷と浦原の話に、ますますあの男の行動に疑問を持った。

『人の記憶を消す』

それに何の意味があるのか?
あの男たちの目的は何なのか?
記憶で何をするつもりなのか?
記憶を奪う相手が何故日番谷なのか?

まだ何も、わからなかった。

「まぁ、ここで考えていても仕方のないことですので」

浦原はそう言うと、穿界門の方へ向かった。

「そうだぞ一護。一先ず尸魂界に行かねば」
「時間だってそんなねぇんだぞ」
「はやく行きましょ!」
「そうだよ、黒崎君」

皆が穿界門へ向かっていく中、日番谷は一護を振り返る。

「黒崎・・・―――行くぞ」

そう言う日番谷の姿が、いつもの日番谷の様に見えた。

命令口調で、
いつも眉間にしわ寄せて、
名前で呼ぶとすぐに訂正してくる、
―――日番谷冬獅郎に。

「黒崎?」

日番谷は呼んでも動かない一護を心配して声をかける。

「ぇ、ああ!!」

それで我に返った一護は、慌てて皆の下に駆け寄った。
一護が来ると同時に、浦原は地面に手をつく。

「では皆さん。いきますよ」

それに、一護達は頷いた。

途端に穿界門の入り口が光りだす。
それと同時に皆一斉に駆け込んだ。




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イイネ!