Desperate Future 孤独の中で生きる二人
荒地に咲いた一輪の花
(「Desperate Future 孤独の中で生きる二人」の番外編)
「とーしろー?どこだー?」
十番隊舎の地下で、一護が日番谷を探している。
「とーしろー・・・お!?」
部屋の隅のほうに蹲っている日番谷を見つけた。
この地下は大して広くはない。ただ、彼の存在があまりにも小さかっただけで。
「こんな隅に居たのか。何してんだよ?」
「さっきからうるせぇな。一回呼べば十分聞こえる」
「だってお前が小さ・・・グハッ!!!」
「小さかった」と言おうとした一護の顔に、花瓶が見事に命中する。当たった花瓶は粉々に割れ、地面に落ちる。
それを投げたのは、もちろん日番谷。
その背後には黒いオーラが漂っている。
「何か言ったか?」
「イエ、ナニモイッテマセン」
一護は冷汗をダラダラと流しながら、棒読みで言う。
日番谷はそれを見て、振り返った顔をまた地面に戻す。
「で?さっきから何やってんだよ?」
「花が・・・」
「花?」
一護は日番谷の隣に回り、その手元を見てみる。
そこには、枯れきってしまった一輪の花が、花瓶に刺さっていた。
「あ~あ。こりゃもう駄目だな。見事に枯れてる」
「・・・」
「この花が、どうかしたのか?」
すると日番谷は、枯れた花を花瓶から抜き取り、立ち上がってゴミ箱へ向かう。
そしてそのままポイッと捨ててしまった。
「おいおい!そんなポイッて捨てちまっていいのかよ!?」
「いいんだ。ただの花だし」
「なんだよそれ!!お前その花に何かあるから、枯れちまったその花を見てたんじゃねぇのか!?」
「枯れた花はただのゴミだ」
「おい!!その台詞どっかで聞いた台詞に似てるぞ!!『紅の○』だろ!!『飛べない○はただの○』だろ!!お前ジ○リ見てんのか!?」
「うるせぇな。枯れちまったもんをどうしろっていうんだ?」
「いやだから、そんなに簡単にポイッとだな・・・!」
永遠に続きそうなこの会話に、日番谷はため息をつくと、ゴミ箱に捨てた花を見つめる。
「この花は、本当にただの花なんだ」
「じゃあ、なんで花なんかに興味なさそうなお前が、大事にそれをとってたんだよ?」
一護の言うとおり、日番谷はこれまで乱菊が持ってきた花や、やちるが持ってきた花を「勝手に俺の机に飾るな」と文句を言っていたほどに、花にはまったく興味がなかった。
その日番谷が、これといって珍しいわけでもなく、どこにでも咲いてそうな花を花瓶に入れ、大事にしてきた理由がわからない。
一護のその質問に、日番谷は軽くため息をついて、語り始める。
「あの花は、俺に『奴らを殺す』という覚悟をつくってくれたんだ」
それは、日番谷以外の死神が全員消えてから、一年たったある日のことだった。
「クソッ・・・!」
日番谷は見つからないような、岩陰に隠れている。その周辺には、偽者の死神「クローン」が十体近く居た。そのころの日番谷は「クローン」というものを知らない。
そのため、なぜ味方の自分を攻撃してくるのがわからなかった。
見た目は同じ仲間達を攻撃するなど、日番谷には不可能だった。
そうして「クローン」は、日番谷の逃げ場を完全に消しさるほど増えていき、いつもの瀞霊廷の様にまでなってしまっていた。日番谷は、肉体的にも精神的にも疲れきっていた。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・!」
それでも立ち上がり、動かない両足を無理やり動かし、必死に逃げた。
最初のころは、仲間である死神たちに何故攻撃されているのかわからず、必死に訴え続けた。
だがそれは「クローン」で、日番谷は無意味なことを悟ると、そのときからひたすら逃げるようになっていた。
「うわっ!!」
途中、足が縺れてしまい派手に転ぶ。その後ろから、日番谷の逃げる微かな足音に気がつき、追って来ていた「クローン」が近づいてきている。
日番谷はもう、立つことすら出来ない。
「クローン」の手が日番谷に触れようとしたとき、ピタリとその手が止まった。
日番谷が不思議に思って「クローン」の顔を見てみると、その瞳は閉じていた。
どうやら夜になると動きを止めるということを、日番谷はこのとき知ったのだった。
日番谷はうつ伏せのままで、力を抜く。
「ははっ・・・!ツイてるんだか、ツイてないんだか・・・」
そういいながら自嘲気味に笑う。
そんな日番谷の視界に、この荒れた地には似合わない、白い一輪の花が入ってきた。
その花は、どこにでも咲いているような花で、とくに珍しいわけでもない。ただ、日番谷にとっては、絶望的な闇に一筋の光が差し込んだような、そんな印象を与えた。
日番谷はそのまま匍匐前進でその花のところにまで行く。
近づけば近づくほど、その花の放つ光は強くなる。
日番谷はその花の下までたどり着くと、花弁の表面を優しくなでる。
「よく今まで耐えてきたな・・・。こんなところに咲いていれば、必ず誰かに踏まれてもおかしくないのに・・・たださえ、水もないこの状況で・・・」
そう。この場所は雨も降らない、川もない、水が一切ないところだった。
そのおかげで、緑は枯れていき、水も乾燥し、この世界から「自然」というものは消え去っていたのだ。
日番谷も緑が無くなってから、水をほとんど補給していないし、ましてや花や緑など見たことも無かった。
しかしこの花は、水がなくても、周りで戦いが起きていようとも、枯れることなく、折れることなく、堂々と天に向かって花を咲かせ、優雅に咲き誇っていた。
だが、この戦いが終わることのない以上、この花はいつか「クローン」や、逃げることに必死になっている自分に踏まれてしまうかもしれない。
「それだけはさせない」
日番谷はそう言うと、土と一緒にその花を抜き取る。
そして、落ちたら割れるガラスのように、そっと大事に、抱え込むように持ち上げると、日番谷自身も、今までの傷が無かったかのように立ち上がり、十番隊舎の地下へと向かう。
そこにある「非常用の水」を何の飾りも無い花瓶に注ぎ、その中に大事に持ってきたその花の根についている土を払うと、そのまま花瓶に入れる。
日番谷はしばらくそれを見ていた。
その花は、荒地に咲いていたときの輝きを、より一層強く放ち、日番谷の閉ざした心までをも照らし始めた。
「そうだ。わかってたんだ・・・あいつらは、あいつらじゃないことを・・・殺さなければいけない敵だと言うことも・・・」
―――わかってた・・・
「ただ俺は、仲間の姿をしたあいつらを殺すのに躊躇っていただけなんだ・・・それを、この花に気づかされた・・・」
―――逃げてはいけないということを。
一護は日番谷の話を聞いて、思った。
自分の決意は、日番谷のよりも程遠いということを。
日番谷は話し終えると、ゴミ箱に捨てたその花を取り出し、見つめる。
「やっぱり・・・世話になったからな・・・」
日番谷はそういいながら、外へとつながる窓に近づく。
「ありがとな・・・」
そう言いながら窓を開けた瞬間―――
地上へと繋がる穴を通り、枯れたその花は再び輝きを放ちながら、風に乗って天へと消えていった。
二人は、それをしばらく見つめていた。
<END>
(「Desperate Future 孤独の中で生きる二人」の番外編)
「とーしろー?どこだー?」
十番隊舎の地下で、一護が日番谷を探している。
「とーしろー・・・お!?」
部屋の隅のほうに蹲っている日番谷を見つけた。
この地下は大して広くはない。ただ、彼の存在があまりにも小さかっただけで。
「こんな隅に居たのか。何してんだよ?」
「さっきからうるせぇな。一回呼べば十分聞こえる」
「だってお前が小さ・・・グハッ!!!」
「小さかった」と言おうとした一護の顔に、花瓶が見事に命中する。当たった花瓶は粉々に割れ、地面に落ちる。
それを投げたのは、もちろん日番谷。
その背後には黒いオーラが漂っている。
「何か言ったか?」
「イエ、ナニモイッテマセン」
一護は冷汗をダラダラと流しながら、棒読みで言う。
日番谷はそれを見て、振り返った顔をまた地面に戻す。
「で?さっきから何やってんだよ?」
「花が・・・」
「花?」
一護は日番谷の隣に回り、その手元を見てみる。
そこには、枯れきってしまった一輪の花が、花瓶に刺さっていた。
「あ~あ。こりゃもう駄目だな。見事に枯れてる」
「・・・」
「この花が、どうかしたのか?」
すると日番谷は、枯れた花を花瓶から抜き取り、立ち上がってゴミ箱へ向かう。
そしてそのままポイッと捨ててしまった。
「おいおい!そんなポイッて捨てちまっていいのかよ!?」
「いいんだ。ただの花だし」
「なんだよそれ!!お前その花に何かあるから、枯れちまったその花を見てたんじゃねぇのか!?」
「枯れた花はただのゴミだ」
「おい!!その台詞どっかで聞いた台詞に似てるぞ!!『紅の○』だろ!!『飛べない○はただの○』だろ!!お前ジ○リ見てんのか!?」
「うるせぇな。枯れちまったもんをどうしろっていうんだ?」
「いやだから、そんなに簡単にポイッとだな・・・!」
永遠に続きそうなこの会話に、日番谷はため息をつくと、ゴミ箱に捨てた花を見つめる。
「この花は、本当にただの花なんだ」
「じゃあ、なんで花なんかに興味なさそうなお前が、大事にそれをとってたんだよ?」
一護の言うとおり、日番谷はこれまで乱菊が持ってきた花や、やちるが持ってきた花を「勝手に俺の机に飾るな」と文句を言っていたほどに、花にはまったく興味がなかった。
その日番谷が、これといって珍しいわけでもなく、どこにでも咲いてそうな花を花瓶に入れ、大事にしてきた理由がわからない。
一護のその質問に、日番谷は軽くため息をついて、語り始める。
「あの花は、俺に『奴らを殺す』という覚悟をつくってくれたんだ」
それは、日番谷以外の死神が全員消えてから、一年たったある日のことだった。
「クソッ・・・!」
日番谷は見つからないような、岩陰に隠れている。その周辺には、偽者の死神「クローン」が十体近く居た。そのころの日番谷は「クローン」というものを知らない。
そのため、なぜ味方の自分を攻撃してくるのがわからなかった。
見た目は同じ仲間達を攻撃するなど、日番谷には不可能だった。
そうして「クローン」は、日番谷の逃げ場を完全に消しさるほど増えていき、いつもの瀞霊廷の様にまでなってしまっていた。日番谷は、肉体的にも精神的にも疲れきっていた。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・!」
それでも立ち上がり、動かない両足を無理やり動かし、必死に逃げた。
最初のころは、仲間である死神たちに何故攻撃されているのかわからず、必死に訴え続けた。
だがそれは「クローン」で、日番谷は無意味なことを悟ると、そのときからひたすら逃げるようになっていた。
「うわっ!!」
途中、足が縺れてしまい派手に転ぶ。その後ろから、日番谷の逃げる微かな足音に気がつき、追って来ていた「クローン」が近づいてきている。
日番谷はもう、立つことすら出来ない。
「クローン」の手が日番谷に触れようとしたとき、ピタリとその手が止まった。
日番谷が不思議に思って「クローン」の顔を見てみると、その瞳は閉じていた。
どうやら夜になると動きを止めるということを、日番谷はこのとき知ったのだった。
日番谷はうつ伏せのままで、力を抜く。
「ははっ・・・!ツイてるんだか、ツイてないんだか・・・」
そういいながら自嘲気味に笑う。
そんな日番谷の視界に、この荒れた地には似合わない、白い一輪の花が入ってきた。
その花は、どこにでも咲いているような花で、とくに珍しいわけでもない。ただ、日番谷にとっては、絶望的な闇に一筋の光が差し込んだような、そんな印象を与えた。
日番谷はそのまま匍匐前進でその花のところにまで行く。
近づけば近づくほど、その花の放つ光は強くなる。
日番谷はその花の下までたどり着くと、花弁の表面を優しくなでる。
「よく今まで耐えてきたな・・・。こんなところに咲いていれば、必ず誰かに踏まれてもおかしくないのに・・・たださえ、水もないこの状況で・・・」
そう。この場所は雨も降らない、川もない、水が一切ないところだった。
そのおかげで、緑は枯れていき、水も乾燥し、この世界から「自然」というものは消え去っていたのだ。
日番谷も緑が無くなってから、水をほとんど補給していないし、ましてや花や緑など見たことも無かった。
しかしこの花は、水がなくても、周りで戦いが起きていようとも、枯れることなく、折れることなく、堂々と天に向かって花を咲かせ、優雅に咲き誇っていた。
だが、この戦いが終わることのない以上、この花はいつか「クローン」や、逃げることに必死になっている自分に踏まれてしまうかもしれない。
「それだけはさせない」
日番谷はそう言うと、土と一緒にその花を抜き取る。
そして、落ちたら割れるガラスのように、そっと大事に、抱え込むように持ち上げると、日番谷自身も、今までの傷が無かったかのように立ち上がり、十番隊舎の地下へと向かう。
そこにある「非常用の水」を何の飾りも無い花瓶に注ぎ、その中に大事に持ってきたその花の根についている土を払うと、そのまま花瓶に入れる。
日番谷はしばらくそれを見ていた。
その花は、荒地に咲いていたときの輝きを、より一層強く放ち、日番谷の閉ざした心までをも照らし始めた。
「そうだ。わかってたんだ・・・あいつらは、あいつらじゃないことを・・・殺さなければいけない敵だと言うことも・・・」
―――わかってた・・・
「ただ俺は、仲間の姿をしたあいつらを殺すのに躊躇っていただけなんだ・・・それを、この花に気づかされた・・・」
―――逃げてはいけないということを。
一護は日番谷の話を聞いて、思った。
自分の決意は、日番谷のよりも程遠いということを。
日番谷は話し終えると、ゴミ箱に捨てたその花を取り出し、見つめる。
「やっぱり・・・世話になったからな・・・」
日番谷はそういいながら、外へとつながる窓に近づく。
「ありがとな・・・」
そう言いながら窓を開けた瞬間―――
地上へと繋がる穴を通り、枯れたその花は再び輝きを放ちながら、風に乗って天へと消えていった。
二人は、それをしばらく見つめていた。
<END>