Desperate Future 孤独の中で生きる二人
長い、長い戦いが終わって数週間。
尸魂界も着々と元の姿に戻って行った。
しかし、受けた被害は壊滅と言っていいほどあまりにも酷く、死神とともに助けられた流魂街の住民が手伝っても、治るものではない。
もとの平和な姿に戻すためには、もっとたくさんの時が必要となるだろう。
そんな風景を見つめながら、日番谷は双殛の丘に来ていた。
黒崎一護が死んだ場所に。
「・・・はぁ・・・」
日番谷はここに来て直にため息を吐いた。
「やはり、お前の仕業か、黒崎・・・」
そう言って見たのは青い空。
不思議と、今、死んだはずの一護がそこに居る気がするのだ。
「あいつを連れてきたのは・・・」
そう言えば、苦笑いしている。
「また、お前に助けられちまったな・・・」
呆れたように、再びため息を吐く。
「まぁ、お前はそういう奴だからな」
諦めたように言えば、眉間に皺を寄せて、怒る。
日番谷は苦笑しながら、目を伏せて「まぁ・・・」と続ける。
「お前には謝罪もあり、感謝もあり、だな」
日番谷はそう言うと、目を開ける。
「すまなかった・・・。そして、ありがとう」
そう言うと、踵を返す。
すると聞こえてくる声。
「冬獅郎~!!」
「・・・黒崎」
駆け寄ってくる姿に微笑しながら、日番谷は「おう」と応えて歩み寄った。
サァ―――――
風が吹く。
それは、あの嫌な風ではなく、暖かな、心地よい風。
この風を、また、感じることが出来た。
銀と橙の髪が靡く。
それはまるで、あのときのように。
「冬獅郎!もう体は大丈夫なのかよ!?」
「ああ。もう大丈夫だ」
「無理してねえよな?」
「疑ってんのか?」
「お前、いっつも無理すんじゃねえか」
「それは昔の話だ」
「俺にとっちゃ、今も昔も変わんねえよ」
「何か言ったか?」
「いえ、ナニモイッテマセン」
そんなくだらない会話をしながら、二人は穿開門へ向かう。
とりあえず、穿開門だけは早急に直してくれ、と日番谷が頼み、ようやく治ったのだ。
そして一護は、帰ることになる。
「なぁ、本当に帰れるかな・・・?」
「心配すんな」
「けど、このまま未来の現世に行っちまうとか・・・」
「そしたらまた戻って来い。それか、浦原にでも聞いてくればいい」
「そ、そうか・・・」
あの戦闘の時の頼れる背中は何処へ行ったのか、一護はまた情けなくなっていた。
(また、脅そうか・・・)
そんなことを考えている日番谷に、一護は気付かなかった。
そして、不意に声をかけられる。
「一護!日番谷隊長!」
振り向くと、そこにはルキア、恋次、乱菊、雛森の姿があった。
「ルキア!」
「貴様に助けられてしまったのでな。しょうがないから見送りに来てやったぞ」
「なんだと、てめぇ・・・!」
「にしても、てめぇ。こんなに弱かったか?」
「うるせえ!!」
実は、この数週間の間、一回恋次と戦り合ったのだが、負けてしまったのである。
「こんな奴に助けられるとはな」
「てめえら・・・!!」
やっぱり変わらない。
このムカつく野郎ども。
「それにしてもまだ子供ね~、あんた」
「そりゃあ、五年前なら子供でしょ」
乱菊が面白そうに一護の頬をつつきながら言う。
そして一護はそれを振り払いながら言う。
「でも、日番谷君助けてくれたことは感謝してる。だって日番谷君、黒崎君が居ることあたしに言った時・・・」
雛森はがニッコリと笑いながら言いいかけると、
「雛森!それは言うな!!」
と日番谷が遮って叫んだ。
どうやら、自分でも心当たりがあるらしい。
そんな雑談をしていると、浮竹がやってきた。
「穿開門の準備が出来た。一護君、どうやって帰るかは知らないが、やってみてくれ」
「わかりました」
一護は頷くと、五人を振り返った。
「じゃあな!」
「ああ、しっかりやれよ一護」
「二度と来んなよ」
「またね~一護!」
「さよなら!」
ルキア、恋次、乱菊、雛森が順に言う。
日番谷は微笑しながら、
「またな、黒崎」
「おう!」
それに一護は応えて踵を返した。
穿開門から、真っ白い光が溢れ出ている。
扉が僅かに開いた時、日番谷は懐からある物を取り出した。
「黒崎!!」
「?」
一護は振り返って日番谷を見る。
すると、日番谷はある物を一護に投げた。
パシッ
一護はそれをとって、見てみると、
「これ・・・」
それは、あの日、十番隊舎の地下で日番谷が見せてくれた、翡翠色のビー玉。
一護は目を見開いて日番谷を見る。
日番谷は微笑しながら、
「それ、返す」
と一言言った。
『冬獅郎、それ、なんだ?』
『ん?これか?』
そして渡された翡翠色のビー玉。
『俺の大切な奴が無理やり渡してきてよ』
そういう日番谷の顔は、とても穏やかだった。
『へ~え』
そして、それを 返すということは・・・
「冬獅郎、それって・・・!」
刹那、開ききった穿開門から溢れだす光が、一護を包む。
光の中で、最後に見たのは、日番谷の笑みだった。
***
光が消え、途端に薄暗くなる。
そして、
「痛っ!!」
と尻もちをついた。
「大丈夫ですか?黒崎サン」
何が何だか分からなくなっている一護が、聞いたその声は・・・
「う、浦原さん!」
「ど、どうしたんスか?何かありました?」
え?と回りを見渡すと、そこは浦原商店の地下。
一護は呆然とそれを見ていると、浦原が、
「いや~よかったッスよ!いきなり光に包まれたかと思ったらすぐ帰ってこれて。やっぱりなんか故障してたんですかね」
「え!?じゃあ、俺は、穿開門に入って直出てきたのか!?」
「ええ。それが、何か?」
不思議そうに聞いてくる浦原に、一護は「いや・・・」と言って思う。
(帰ってこれた・・・!)
そして同時に思うこと。
「浦原さん!もう一回穿開門を開けてくれ!!」
「はい?しかし、また・・・」
「今度は絶対大丈夫だ!!」
何を根拠に・・・。
そう思う浦原だったが、仕方なく穿開門を開けることにした。
「気を付けてくださいよ。黒崎さん」
「おう!」
「では、行きます」
そう言って開けると同時に一護は走って行った。
今度は、白い光は現れなかった。
「一体、何があったんですかね・・・」
浦原は一人、呟いた。
それからはずっと走っていた。
確かめたいことがあったから。
もう、自分がどこを通っているのかもわからないくらい。
それでも確信できるのは。
元の姿の尸魂界。
つまり、ここは、自分が初めに行こうと思っていた、いつもの尸魂界。
だから、安心しながら走っていた。
そして、一人の霊圧を追っていた。
それはもちろん――日番谷冬獅郎。
一護は走りながら、未来の日番谷渡された翡翠色のビー玉を強く握りしめた。
そして見えてきたのは、赤髪の男と、黒髪の少女。
「ルキア!恋次!」
そう声をかけると二人は振り向く。
「一護、貴様何故ここに・・・」
「説明は後だ!それと、文句も後で言ってやるからな!!」
そう言いながら二人を通り過ぎた。
「なんだ?あいつ・・・」
恋次が呆れて呟く。
ルキアも首を傾げるばかりだった。
(お前らの所為で、いろいろ大変だったんだからな!)
そう思いながら、一護は十番隊に着いた。
「冬獅郎!!」
躊躇いなく、一護は執務室の扉を思い切り開けた。
そして中に居た二人は以外な人物に目を見開く。
「黒崎・・・!?」
「一護・・・あんたがここに来るなんて珍しいじゃない」
一護は日番谷を見つけると、安心したような表情になり、今までの勢いは何処に行ったのか、歩み寄ってきた。
「冬獅郎、これ、持っててくれねえか?」
「?」
いきなり現れたかと思ったら、いきなり何かを渡される。
日番谷は怪訝そうにしながら、受け取ったそれを見つめた。
「なんだこりゃ?」
「いいから!絶対に肌身離さず持ってろよ!!」
「なんで、俺が・・・!」
「わかったな!!!」
「・・・おう」
あまりの強引さに、日番谷は渋々頷いた。
それにようやく目的を達成したかのように表情になった一護は、さくさくと部屋を出て行った。
「なんだったんだ・・・?あいつは・・・」
「さぁ?」
これでいい。
問題はこれからだ。
絶対に、未来をあんな風にはさせはしない。
過去は変えられないが、未来は変えられる。
だから、この世界を壊させたりしない。
それを誓って、日番谷にあれを渡してきた。
―――絶対、未来を変えて見せるからな。冬獅郎―――
―――変えなかったら、ぶっ殺すからな。黒崎―――
それぞれ、未来の君へ、過去の君へ、誓いと願いを。
<END>