Desperate Future 孤独の中で生きる二人
人気の無い瀞霊廷の端。
日番谷は狭い路地のような場所で一人佇んでいた。
「・・・いい加減、出て来いよ」
そう言うと後ろの死角から出てきたのは―――
「やっぱりバレてたか。うまく隠れてたつもりだったんだけどね」
一護を殺した。そして、ルキアを殺そうとした。
日番谷の氷輪丸を狙っている―――
「・・・何の用だ?」
「酷いなぁ。言ったでしょ?君のその刀が欲しいって」
日番谷はゆっくりと振り返る。
そこには、とてもこの騒動を起こしている首謀者とは思えないほど、無垢な子供のようにニッコリと笑っている―――
「・・・」
黙っている日番谷をジィ・・・と見つめた子供は、何か考え出したかのように「あ!」と叫ぶと、
「そういえば、まだ自己紹介してなかったね!僕の名前は紅月零(ベニヅキ レイ)。斬魄刀の名前は蒲黄花(ガマキバナ)。将来の夢は、その氷輪丸を手にすることです!よろしくおねがいします!」
子供―――零はそう言って頭を下げた。
「・・・いい加減その演技を止めたらどうだ?何のためにやっているかは知らないが」
そう日番谷が言うと、零は下げていた頭を上げる。その眼は、今まで見たことも無いほど鋭い眼光を放っていた。
「そうだな。正直言って疲れるんだよこの演技。こうすれば敵は油断してくれるかな、と思ってたけど・・・どうやらお前は違ったみたいだ」
雲がより一層厚くなっていく。
それに比例するように辺りは暗くなっていった。
そんな中、子供の眼光とその眼の紅だけは、鈍く光っていた。
「・・・もう一度聞く。何しに来た?」
「僕がお前を尾行してるって気付いてたんだろ?それをわざわざこんなところで待ってたなんて・・・お前のほうが僕に用があるんじゃないのか?」
零がそう言うと日番谷は一度目を伏せ、ゆっくりと開けてから口を開いた。
「お前の、本当の目的はなんだ?」
―――それは、この事件の本当の引き金となる言葉。
「本当の、目的・・・?」
「ああ・・・」
日番谷は静かに、鋭く零を見据えている。
零は、日番谷の言ったことがわけがわからないというように、
「僕の話を聞いてなかったのか?僕の狙いは、君の氷輪丸だって・・・」
「何故、氷輪丸を狙う?」
零の言葉を遮って言う。
「理由?そんなの簡単な理由だ」
零は、一度目を伏せ、ゆっくりと瞼を持ち上げた。
「―――僕の小さい頃からの夢なんだよ。君の氷輪丸の解放状態を見ることが」
「―――?」
充血したような瞳の色を見せながら、零は口角を上げる。
「そう。僕の目的はたったそれだけ。それだけのことなんだよ。だからさ―――」
耳元を風が切る音が聞こえると、背後に零が現れた。
「―――その刀を解放してくれないか?」
「・・・!」
零の言葉に、日番谷はかすかに目を見開く。
「それさえしてくれれば、この騒動も全て終わらしてやるよ。もちろん、操られている哀れな死神共も解放してやる」
「・・・」
「君にとって、こんなにもいい条件なんてないだろ?さぁ、その力を見せてくれよ」
零は、ニヤリと笑いながら日番谷に手を差し出す。
日番谷は無言で、氷輪丸を抜刀した。
それを見て零は更に笑みを濃くする。
日番谷はゆっくりと腕を持ち上げる。
「!」
日番谷が刀を構えた場所は、零の首筋だった。
「ふざけるな。黒崎を殺したテメェの言うことなんか、聞くわけねえだろ」
「・・・」
「俺はテメェを絶対にゆるさねぇ。テメェなんかにあいつらを開放してもらわなくても、俺がテメェを殺してあいつらを助け出す」
日番谷は、氷輪丸の刃を零の首筋に近付ける。
「そんなテメェのくだらねぇ目的に、死神を巻き込むんじゃねぇ」
「くだらない・・・?」
零の声のトーンが低くなる。
「誰の所為で僕がこんなにも苦労する羽目になったと思ってるんだよ」
「なんだと・・・?」
「お前の所為で、普通に見れたはずの氷輪丸が、見れなくなったんだぞ・・・!」
「何言って・・・―――!!」
そう言いかけた時には、自分の氷輪丸を構えているほうの手首は抑えられ、首筋には零の斬魄刀が添えられていた。
「・・・!」
「そう。全ては君の所為なんだよ。あいつが死んだのも。橙頭の彼が死んだのも」
「あいつ・・・?」
「僕は何も悪くない」
そう言って零は日番谷の腕と、添えていた刀を外して、解放した。
「やっぱり、鬼ごっこは止められないね」
そう、他人を騙すために使っていた子供口調に戻った零は、瞬歩で近くの塀の上に移動する。
「君には、最高の屈辱と恐怖を味あわせてやるよ」
そう言い残して、零は消えた―――。
***
瀞霊廷・白道門付近。
恋次と雛森は、「用事がある」と言って姿を消した日番谷の行方を捜していた。
「日番谷君・・・どこに行ったんだろう・・・」
雛森は心配そうにそう呟く。
それを横目で複雑な表情で見ていた恋次は、「そうだな・・・」と同じく呟いた。
ある程度は隅々まで探した二人だったが、一向に見つからず、途方に暮れていた。
これから、死神、魂魄、全ての運命を変える出来事が起こることも知らずに―――。
「雛森!!」
「恋次!!」
不意に声をかけられ、二人は足を止め振り返る。
「ルキア!!」
「乱菊さん!!」
駆け寄ってきた乱菊とルキアに、二人は安堵の息をつく。
「まだ無事だったんだな!」
「たわけ!そう簡単にはやられたりはせん!それより・・・」
「日番谷君・・・」
「隊長、まだ見つかってないのね」
「はい・・・」
乱菊とルキアも、姿を消した日番谷の行方を捜していたのだった。
お互い、安否と日番谷がまだ見つかっていないという確認をしたあと、どうしようかという沈黙が流れる。
それを破ったのは雛森だった。
「たぶん、日番谷君は黒崎君の死に責任を感じてると思います」
「ええ、そうね・・・」
「もしかしたら、自分ひとりでなんとかしようとか思ってるかも・・・」
雛森の仮説に、三人は頷く。
「隊長なら、有り得るわ」
「どうしよう・・・」
俯く雛森の肩に恋次は手を置く。
「日番谷隊長は大丈夫だ」
「そうですよ、雛森副隊長。日番谷隊長は大丈夫です。直に探しに行きましょう」
恋次、ルキアの言葉に、雛森は若干涙を浮かべたまま、
「うん・・・!」
と頷いた。
***
その頃日番谷は、立ち止まったまま瀞霊廷の空を見上げていた。
(黒崎・・・)
既に輪廻の軌道に乗ったのだろうか。
また、新しい『人間』として、生まれ変わる。
自分達の記憶は全て失われ、また、新しい人生が始まる。
今度は、『自分達』に関わりを持つことなく『人間』として育ってほしい。
『死神』に関わるなんて、いいことはないはず。
そう、『自分』に関わったから、黒崎は死んだも同然。
それも、『氷輪丸の能力が見たい』というくだらない目的の所為で・・・。
―――また会えるなら、謝りたい。
そんな願い。叶うはずはないけれど。
その代わり、あいつを殺す。
それが、自分の使命。
ドォオオオオン!!!
そう日番谷が覚悟したのと同時に、瀞霊廷中心部から爆発音。
零の言っていた「日番谷への最高の屈辱と恐怖」を味あわせるための戦いが始まる。
日番谷は踵を返し、瞬歩で姿を消した。
***
瀞霊廷・ある建物の頂上。
零は、あちこちから煙の立ち上る瀞霊廷を見渡していた。
(あいつら、よく仕事をしているな・・・)
自分が放った『クローン』なのだから当たり前か、と自嘲気味に笑う。
それにしても、なんとも無様な死神共だ。
相手が自分達の仲間の姿をしているだけで、ここまで手が出せないものか。
(死神に、感情はいらない、と聞いたんだがな)
最近の死神には、まるで人間のように感情が出ているらしい。
『くろさきぃいいーーー!!!!!!!!!!!』
(氷のようだと言われていたあいつが、あそこまで取り乱すとはな)
そこで、ふと橙頭の男を思い出す。
(あいつ・・・)
死神代行で、あの藍染惣右介を倒した男。
藍染を倒したほどの男だと思ったから、不意をついて殺したが、あまりにも呆気なく死んだもんだから拍子抜けだ。
だが、
(あいつが、この尸魂界を変えたことに変わりはない、な・・・)
もしかしたら、あの男を殺したことは使えるかもしれない。
日番谷冬獅郎を、精神的にも、肉体的にも、追い詰めるために―――
***
(日番谷隊長・・・)
先程雛森に、「日番谷のことは大丈夫だ」と言ったが、正直不安であった。
一護の死を目の前で見、さらにこの騒動の敵の目的は氷輪丸であるという。
(思い詰めていらっしゃらないといいが・・・)
それは難しいと思いながらも、そう思わずにはいられなかった。
日番谷と別れる前の、あの日番谷の表情―――
「朽木?」
「え、あ、はい?」
不意に声をかけられ、肩をピクッと震わせ振り返る。
「どうしたの?ぼーっとしちゃって」
「あ、いえ。なんでもないです」
「そう。ならいいんだけど」
そう言って乱菊は、ルキアに背を向け他の二人に声をかける。
「とりあえず、十番隊舎に戻りましょ。隊長ももしかしたら戻ってるかもしれないし、ここでジッとしていてもしょうがないからね」
「そうッスね」
「わかりました」
恋次と雛森はそう返事をし、歩み寄ってくる。
ルキアは、どこからか昇っている煙を視界に入れながら、曇天の空を仰ぐ。
(何かが起こる、嫌な予感がする・・・)
そのルキアの予想は、惜しくも当たってしまうのであった。
***
朽木家の屋敷。
空が厚い雲で覆われ、日が射しこまないこの屋敷の庭は、いつもの輝きを失っており、屋敷全体が薄暗く感じる。
そんな庭を背後に座っていた白哉は、ふと背後に気配を感じ取り、振り返る。
「何か用か?」
「・・・」
日が差し込まず薄暗くなった庭の中に居ても、輝きを失わない銀髪を揺らしながら、日番谷は白哉に歩み寄った。
「少し、話がある」
「・・・」
白哉は、日番谷の真剣な表情のその奥に、何かを感じ取り、体を向け、
「聞こう」
と答えた。
***
十一番隊・隊舎前。
十番隊への道を急いでいた四人は、前方にいる二人の死神に気がつく。
「一角さん!弓親さん!」
恋次が呼びかけると、二人は同時に振りかえった。
「阿散井!それにどうしたんだお前ら?」
「何か慌てているようだけど?」
二人の問いに乱菊が答える。
「実は、隊長がいなくなっちゃって・・・ねぇ、あんたたち見てない?」
「日番谷隊長?さあな。俺たちは久しぶりの旅禍を相手にできるってんで、それどころじゃなかったからよ」
「それどころだあ?あんたたちあたしに殺されたいの!?」
一角の「それどころ」発言に怒った乱菊は、一角に掴みかかる。
「い、一角さん!」
「ていうか、なんで僕まで入ってるわけ!?僕関係ないじゃないか!怒るなら一角一人にしてくださいよ」
「弓親ぁあ!!てめえ裏切ったなぁあ!!」
「うっさい!ツルッパゲ!!」
「痛っ!!痛っ!!」
弓親に怒鳴った一角に煩いと言った乱菊は、何度もバシバシと一角の頭を叩きだす。
それに三人は必死に止めた。
「松本副隊長!お、落ち着いてください!」
「乱菊さん!と、とにかく日番谷隊長を探しに行きましょう!」
「阿散井君の言うとおりですよ!日番谷君を早く探しに行かないと・・・!」
三人の言葉にようやく落ち着いた乱菊は、もう一度バシッと一角の頭を叩くと、「さっさと行くわよ!」と言って走り出した。
そのあとにルキア、雛森が続く。
「痛ぇ~!!松本の野郎!!覚えてろよ!!」
「やめときなよ、一角。日番谷隊長が絡んだときのあの人に、一角が勝てるわけないじゃないか」
「本当、すんません!一角さん!弓親さん!」
乱菊のかわりにと頭を下げる恋次に、弓親は、
「僕は別に何もされてないからいいんだけどね。それより、早く追って行った方がいんじゃない?」
と指差したその方向には、三人の姿が遠ざかっている。
恋次は、頷いて一礼をすると、すぐに三人の後を追って行った。
「・・・もう、出てきても大丈夫ですよ」
四人の姿が見えなくなると、弓親は後ろの壁を振り返りそう言う。
「あの四人の前に、早く姿を現した方がいいんじゃないですか?随分心配しているようでしたけど」
目の前に居る人物―――日番谷にそう、問う。
「確かに、あいつらには心配をかけることにはなるが、仕方がないんだ・・・」
「でも、いいんスか?あいつら、あんたを見つけるまで探し続けると思いますけど」
起き上った一角は、頭を押さえながら問う。
日番谷は目を伏せ、もう一度「仕方がないんだ・・・」と小さく呟く。
「敵の狙いが俺なら、あいつらを巻き込むわけにはいかない。俺が一人で戦るしかないんだ」
「日番谷隊長!そのことについて俺たちは飲みこめないッスね!」
「・・・?」
一角の言葉に、日番谷は目を開けて「どういうことだ?」と表情で問う。
「俺達は旅禍と戦いたいんッスよ」
「日番谷隊長の条件を飲む代わり、僕たちが旅禍と闘います」
ニヤリと口角を上げた一角と弓親に、日番谷は目を見開く。
「しかし・・・!」
「大丈夫ッスよ!俺たちは一護みたいに柔じゃありません!」
一角のその言葉に、日番谷はハッとする。
いつもなら二人の「敵と戦いたい」発言に反対することはなかったが、今自分が反対した理由は一つ。
―――一護が死んだ時の光景がフラッシュバックしたから。
それはもう自分の精神的外傷(トラウマ)となってしまっていたことに気付く。
「戦って死ねるなら、僕達にとって本能ですから」
「行かせてくれますよね?日番谷隊長!」
もう誰にも死んでほしくない。
そんなこと無理な話しだってことはわかってる。しかし・・・
日番谷はゆっくりと首を縦に振った。
「「死なない」っていう条件でな」
日番谷の言葉に二人は、
「わかりました!」
「では、行ってきます」
そう言うと瞬歩で姿を消した。
いつまでも闘い好きで変わらない二人に、日番谷は自然と笑みがこぼれる。
(俺も、やらなきゃな・・・)
そう思いながら、先程の白哉との会話を思い出す。
畳の上に正座した日番谷と白哉。
あれから日番谷は口を開くことなく黙っている。
白哉も、日番谷が話しだすまで黙っていた。
何かを考えるように目を伏せていた日番谷は、考えが決まったかのようにゆっくりと目を開ける。
「俺は、これから奴を倒しに行こうと思う」
「・・・」
白哉は日番谷の話を黙って聞く。
「皆には・・・朽木ルキア、阿散井恋次、松本乱菊、雛森桃・・・この四人には、特に迷惑をかけたくねえんだ」
「何故?」
「心配かけるってこともわかってる。だが、これは俺の問題だ。もう、大切な人を、巻き込みたくねえんだよ」
そう言いながら日番谷は固く拳を握る。
白哉は日番谷の言葉に眉を顰めた。
「解せぬな。そう思うなら、何故兄はやつらの近くで旅禍からやつらを護ろうとしない?」
「だから・・・話に来たんだ」
「?」
日番谷は真っ直ぐに白哉を見つめる。
「あいつらを・・・皆を、護ってほしいんだ」
「・・・!」
日番谷の言葉に白哉は静かに目を見開く。
「もうすでに、あいつらを、皆を巻き込んでいることはわかってる・・・!だが、俺の周りに居たらもっと危ないんだ。だから、「俺のことは気にするな」とあいつらに伝えてほしいことと、あいつらのことを護ってほしいことを頼みたいんだ・・・」
「・・・」
白哉は頭を下げる日番谷をジッと見つめる。
そして静かにため息を吐くと、
「わかった」
と頷き立ち上がる。
日番谷は頭を下げたままハッと目を見開き、バッと頭を上げた。
「兄は、黒崎一護は自分の所為で死んだと思っているが、それは違う」
「・・・!?」
不意に言った白哉の言葉に、日番谷は驚いた。
そんな日番谷に構わず白哉は続ける。
「そして、この騒動、敵の目的が氷輪丸だとしても、それも兄の所為ではない」
白哉は日番谷に背を向け、輝きを失ったままでいる庭を見つめた。
「全ては旅禍のくだらぬ考えの所為だ。兄が気に病むことはない」
「だが・・・」
「逆に、兄が一人になることが旅禍の目的だとしたら、それは更にやっかいになる」
「っ・・・!!」
白哉の仮説に、日番谷は思い当たることがあり何も言えなくなる。
「本来なら、兄を一人で行動させることは敵にとって有利になる。敵の目的が兄の氷輪丸ならな」
「・・・」
白哉の尤もな考えに日番谷は顔をしかめる。
それなら自分は、どうすればいいというのか。
何もできずに逃げるのは、絶対にしたくない。
「それでも兄が「どうしても行く」というのなら・・・―――戻って来い」
「―――!!」
白哉の言葉にハッとなった日番谷は、自分に向けられているその背中を見つめる。
「兄に死なれては、奴らが悲しむであろう?」
「・・・」
日番谷は苦しげに眉を寄せる。
白哉は、顔だけ振り返り、
「あ奴らのことは、任せておけ」
「ああ・・・」
日番谷は頷き、ゆっくりと立ち上がった。
庭の方まで歩み、白哉とすれ違った際、
「すまない・・・」
と呟き、瞬歩で姿を消した。
日番谷が姿を消して直、白哉は空を仰ぐ。
暑い雲に覆われた空は、雨が降るわけでもなく、嫌な風が吹いていた。
一角と弓親に、白哉と同じようなことを言ったことに、日番谷は苦笑いをする。
(結局、思っていることは皆同じということか・・・)
―――仲間に死んでほしくない。
ただ、それだけのこと。
日番谷は、鞘から氷輪丸を抜き、目の前に掲げて見つめた。
(覚悟はできた・・・。お前は絶対奴の思い通りにはさせない)
殺された黒崎のためにも・・・
日番谷は、目的の人物―――零を探し出すために、瞬歩で走り出した。
***
十番隊隊舎・執務室。
ガラッと大きな音を立てて中に入った四人は、見えた光景にため息をつく。
「やっぱり、いなかったッスね。日番谷隊長」
「どこに行っちゃったんだろう、日番谷君」
苦しげに眉を寄せて言う二人。
ルキアはそんな二人を見て、乱菊を振り返った。
「ここに居ないとなると、やはりまだ瀞霊廷のどこかに・・・?」
「そうね・・・。とにかく、もう一回探しに行きましょう」
乱菊の言葉に頷こうとした三人だが、
「待て」
声の聞こえたほうも向くと、
「兄様!」
「隊長!」
二人が驚くのと同時に、四人に背を向けた白哉は、
「来い」
と一言だけ言うと、歩き出した。
有無を言わせないその口調に、四人は顔を見合わせて、戸惑いがちに頷きあうと、もう遠くにある白哉の背中を追った。
「隊長。一体どうしたんスか?」
「兄様?」
二人が訊いても、白哉はそれに答えようとしない。
いくら訊いても無駄だと思った二人は、黙ってついていくことにした。
しばらくして、白哉が立ち止ったのは六番隊執務室前。
予想もしてなかったその場所に、四人は戸惑っていると、
「入れ」
と白哉が扉を開けた。
四人は躊躇いがちに入り、恋次が振り返って、
「一体何なんスか?」
と聞いたと同時に、ガラッと音を立てて扉が閉まった。
「なっ・・・!」
「兄様!?」
ルキアが扉に駆け寄って開けてみようとするが、全く動く気配がない。
「兄様!!どういうつもりですか!!」
ルキアがそう問うと、扉の向こうから一泊間を置いて白哉は答える。
「兄らは当分ここに居ろ」
白哉のその言葉に四人は驚く。
「どういうことッスか!?」
「兄様!私たちはやらなければならないことが・・・!」
「わかっている」
ルキアの言葉を遮り、白哉は静かに言った。
「日番谷を捜しているのであろう?」
「「「「!!?」」」」
白哉が知るはずもないことに、四人は更に驚いた。
「何故、そのことを・・・!」
「日番谷君に、会ったんですか・・・!?」
雛森は扉に近づき更に続ける。
「日番谷君に会ったんですね!教えてください!日番谷君はどこに居るんですか!?」
雛森のその問いに白哉は何も答えない。
「答えてください!!日番谷君はどこに・・・!」
「雛森、止めなさい」
乱菊は扉を叩き始めた雛森を制する。
「乱菊さん・・・」
「朽木隊長。日番谷隊長はどこに居るんですか?」
静かに問うた乱菊。しばらく待っていると白哉がゆっくりと口を開いた。
「さあな」
白哉の回答に、乱菊はゆっくりと俯く。
「だが、生きている」
その言葉にハッとなった乱菊は顔を上げた。
「もう一度言う。兄たちはここにいろ」
そう白哉が言うと、足音が聞こえた。
どうやら、もう行ってしまったらしい。
乱菊は扉の取っ手に手をかけ、開けようと試みるが、やはり扉は動かなかった。
「・・・結界ね」
窓を開けようとしていた恋次が「ダメだ」と言って手を離す。
「窓にも結界が張られてるッスよ」
「というより、この部屋全体に結界が貼られてるみたいね」
「はい。おそらく」
乱菊の言葉に頷いたルキアは、少しだけ俯き、
「何故、兄様はこのようなことをするのだろうか・・・?」
「おそらく、隊長よ」
「え・・・?」
自分の疑問に答えた乱菊のほうを振り返る。
「隊長が朽木隊長に頼んだのよ」
「何で、日番谷君はそんなことを・・・?」
雛森は日番谷が生きていたことに安心しながらも、首を傾げ眉をひそめた。
「遅かったわね・・・」
「え?それってどういう・・・」
「雛森!」
言葉を遮られ、名前を呼ばれた雛森は「は、はい!」と戸惑いながら返事をする。
「結界破りの鬼道は得意?」
「は、はい・・・まぁ、得意と言えば得意ですが・・・」
「一体どうするんですか?」と言いたげな雛森に「いいから!」と言ってその背中を押し、扉に近付ける。
「じゃあ、早速結界を破って」
「え!?」
驚いた雛森は振り返る。
そこには笑顔だが怒りのオーラを漂わせている乱菊の姿が。
「早く」
「はい・・・」
雛森は首を元に戻し、扉のほうに掌を向けた。
六番隊を無事に抜けた四人は、安堵の息をつく。
もしかしたら白哉に見つかるかもしれないと思ったからだ。
「流石ね!雛森」
「いいえ。でも、やっぱり隊長格の結界は解くのに時間がかかっちゃいましたけどね」
照れ笑いを浮かべた雛森はそう答える。
「それより松本副隊長」
ルキアが隣に並びながら走る。
「「遅かった」とは?」
「ああ。それね」
ルキアの問いに乱菊は苦笑しながら答える。
「あたしたちが隊長を見つける理由は、「一護の死に責任を感じているかもしれない隊長を止めること」でしょ?それが遅かったかもしれないってことよ」
「どういうことですか?」
雛森が驚きながらそう問う。
「朽木隊長は雛森の言ったとおり、隊長に頼まれてあたし達にあんなことをしたんだと思うわ。ということは、隊長は朽木隊長に「自分は敵を倒しに行くから、あいつらを護ってほしい」とでも頼んだんでしょうね」
「あの人なら、そうするわ」と付け足して、走るスピードを速くする。
それに三人も合わせて速くした。
「っつうことは・・・」
「ええ。隊長は絶対あの子供を追ってる」
首謀者の少年を―――。
「やはり、一護の死に責任を?」
ルキアの仮説に頷いた乱菊は「それしかないでしょうね」と言って、前を向く。
(隊長・・・。あなたと言う人は・・・)
―――どうして、仲間(あたし達)に頼ろうとしないんですか・・・?
心の中で呟いた乱菊の問いは、日番谷に届くことなく、心の中で虚しく響いただけだった。
***
一方、乱菊の思う通り、首謀者の少年―――零を追っていた日番谷は、とある気配に足を止める。
(この霊圧は・・・)
気配を消し、そっと角から窺う。
「・・・!」
まるで屍のように足を引きずりながら、ゆっくりとこちらへ向かってくる死神。
(あいつらは・・・報告にあった「操られた死神」か?)
日番谷は氷輪丸を握りしめ、しばらく様子をうかがう。
「操られた死神達」は、まるで感情がないかのように無表情で、ゆっくりとゆっくりと歩みを進めている。
(なんだアレは・・・?)
まるで本当に操り人形のようだ、と思った刹那、
「日番谷隊長?」
背後から声をかけられ、驚きバッと振り返る。
そこには、斬魄刀・侘助を構えた吉良の姿があった。
「吉良・・・!?」
「どうしたんですか?こんなところで?」
「お前は?」
逆に問い返すと、吉良は困ったような表情をすると、
「実は、襲われた隊士と檜佐木先輩を探しているんですが、なかなか見つからず・・・」
「襲われたって・・・檜佐木がやられたのか!?」
「はい。松本さんから聞きませんでしたか?」
吉良の問いに日番谷は首を横に振る。
そんな日番谷に「そうですか・・・」と吉良は呟くと、何かにハッと気づき、
「日番谷隊長!!」
と侘助を構えた。
「っ!?」
日番谷が目を見開いて後ろを振り返ると、始解した吉良と刃を交えた死神の姿があった。
「こいつら、本当に・・・!」
「ええ。操られているみたいですね」
日番谷はその場から一旦退くと、更に奥に死神が大勢いるのに気がついた。
「こんなに居るのか・・・!」
「日番谷隊長!ここは一旦退きましょう!」
吉良の提案に「ああ」と頷いた日番谷は、氷輪丸を構え、始解して「操られた死神」の足元を凍らせようとしたが、
『―――僕の小さい頃からの夢なんだよ。君の氷輪丸の解放状態を見ることが』
「っ―――!!」
零の言葉が頭に浮かびあがり、慌てて止めて辺りを見渡す。
しかし、「操られた死神」以外、霊圧は感じられなかった。
「日番谷隊長?」
吉良が振り返って不思議そうにこちらを見つめている。
日番谷は「何でもない」と答えると、吉良の後に続いた。
「大丈夫ですか?日番谷隊長」
「ああ。大丈夫だ」
吉良の問いに答えた日番谷はゆっくりと「操られた死神」がいた方角を見つめる。
「敵の姿を目撃すると、急に襲いかかってくるらしいな」
「ですね。だから、油断してしまう」
吉良は、侘助を始解状態から通常状態に戻した。
「それが、檜佐木のような隊長格が相手になると、大変になってくるな・・・」
「今のところは檜佐木先輩だけのようですが・・・檜佐木先輩がやられる程の相手ですからね・・・」
「それから、黒崎一護もな」
日番谷は苦しげに眉を寄せながら吉良の言葉に付けたした。
「どうやら相手は、不意をつくのが得意みたいですね」
「どういうことだ?」
吉良の言葉に日番谷は問う。
「隊長格(隊長クラス)の死神を倒せるなんて、余程のことです」
「ああ・・・そうだな・・・」
日番谷は吉良の言葉に頷き、ゆっくりと目を伏せた。
「日番谷隊長?」
「・・・そろそろ、行くか」
立ち上がった日番谷は、吉良を振り返り、
「お前は檜佐木を追うんだったな?」
「は、はい」
「そうか。・・・やられるなよ」
小さく呟いた日番谷の言葉を聞いた吉良は目を見開き、
「日番谷隊長?あなたは、何を・・・!?」
そう言いかけた時には、日番谷は既にその場から居なくなっていた。
ヒューーーーと耳から聞こえるのは風の音のみ。
まるで逃げてきたようだ。
そう思いながら日番谷は瞬歩で瀞霊廷を飛びまわっていた。
いくら探しても見つからない零に、日番谷は苛立ちを感じ始める。
自分が現れてほしくない時に、現れやがるくせに・・・!
日番谷はいつもより眉間に皺を寄せ、視線を十番隊に移すとあることに気付く。
(松本はいないのか・・・?)
慌ただしく隊舎の中を行き来する隊士達に、指揮がきちんと行きとどいていないことは明白だった。
(あいつは何やってやがる・・・!)
霊圧を探ると、走り続けている霊圧が四つ。
もちろんルキア、恋次、雛森、乱菊のものだった。
(ったく・・・!)
日番谷は軽く舌打ちをすると、十番隊舎に降り立った。
「日番谷隊長!?」
「日番谷隊長!」
日番谷が降り立ったんと同時に、近くに居た隊士と、それに気付きなんだと近寄ってきた隊士が日番谷に駆け寄る。
「松本はいないのか?」
日番谷が訊くと、傍にいた隊士が「はい」と頷いて、
「阿散井副隊長、雛森副隊長、朽木ルキア女史と共に執務室に入られた後、直に出て行かれました」
「そうか・・・」
やはりな、と思っていると隊士が「それと・・・」とつなげる。
「朽木白哉隊長がお出でになれて・・・」
「朽木が・・・?」
「はい。朽木隊長について行かれました」
隊士の言葉に、日番谷は安堵の息をつく。
(どうやら、やってくれたようだな・・・)
少し心配だった日番谷は、その事実に安心した。
これで、あいつらのことは大丈夫だろう、と。
「日番谷隊長?どうされました?」
隊士の呼びかけにハッとなった日番谷は、
「いや、何でもない」
そう返すと、周りの隊士を一瞥して、
「とりあえず今は、戦闘準備を整えておけ。無理な行動はするな」
「はっ!」
隊士が返事したのを聞き、日番谷は頷くと執務室へと歩き出した。
***
八番隊付近。
もう一度十番隊へ戻って、隊士達に話を聞こうということになった乱菊達四人は、走り続けていた。
「おや?どうしたんだい?君達」
と声をかけられ、足を止めて振り返る。
「京楽隊長!」
「珍しい組み合わせだねぇ。そんなに急いでどこ行くんだい?」
ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる京楽に、乱菊が説明する。
「うちの隊長がいなくなっちゃって・・・もう一度隊舎に戻って隊士達に話を聞こうかと思ってるんです」
「日番谷君が?そりゃ大変だねぇ」
「京楽隊長は見かけませんでしたか?」
恋次が問うと、京楽は「いいや」と首を横に振る。
「彼は見つけるのが大変だと思うよ。警戒心が人一番強いからねぇ」
「そうなんですよ。隊長、本当に見つからなくて」
「ったく、何やってんのかしらね!」と怒ったように言う乱菊に京楽は苦笑いをする。
「はは。まぁ、しょうがないとは思うけどねぇ」
京楽の言う「しょうがない」が一護の死について言ってることに直気付いた乱菊は、
「ま、そうなんですけど・・・」
と口を尖らせる。
「乱菊さん。早く日番谷君を探さなきゃ・・・」
雛森が遠慮がちにそう言うと、乱菊は「そうね」と答えて京楽を振り返る。
「隊長見かけたら、よろしくお願いします」
「ああ、それはいいんだけどねぇ・・・」
「何スか?」
何か言いたげな京楽に、恋次が訊く。
少し戸惑った後、京楽はゆっくりと口を開いた。
「彼を探すのは、やめといた方がいいと思うよ?」
「どういうことですか?」
京楽の言葉に、乱菊はわけがわからないと問い返す。
「いやね。彼を見つけたとしても、意味ないと思うからね」
「「意味ない」、とは?」
ルキアが直に訊くと、「たぶん・・・」と前置きしてから、
「彼は絶対に止まらないと思うからさ」
京楽の言葉に、四人は黙り込む。
それは、自分達も思っていたことだからだ。
沈黙が流れる。
その沈黙を破ったのは、乱菊だった。
「それでも、止めて見せます」
普段サボリ魔の乱菊とは思えないほど真剣な眼差しに、一瞬目を見開いた京楽は、直に優しげな瞳に戻り、
「そうかい。じゃあ、僕も手伝うよ」
京楽の言葉に四人は、
「本当ですか!?」
「うん。こんな本気の乱菊ちゃん見たら、こっちもやる気が出たよ」
「京楽隊長・・・!」と感激している乱菊に、京楽は手である形を作る。
「報酬は、これで」
京楽のその仕草が何か直にわかった乱菊は、
「もちろんです!」
と満面の笑みで返した。
騒動(これ)が終わったら、酒を飲もうと約束を交わした乱菊は「じゃ、よろしくお願いします!」と頭を下げると、三人に「行くわよ!」と言って走り出した。
「京楽隊長!ありがとうございます!」
「日番谷君のこと、よろしくお願いします!」
頭を下げて行ったルキアと雛森の後、恋次が、
「京楽隊長。俺も付き合っていいッスか?」
二人の約束に。
恋次の言うことがわかった京楽は、笑顔で、
「ああ、わかったよ」
と頷いた。
それに頷き返した恋次は、三人の後を追って行った。
その四人の背中を見つめながら、
「必死だねぇ」
彼のことになると。
京楽はフッと笑うと、
(七尾ちゃんに手伝ってもらおうかなぁ)
とか思いながら踵を返して、四人が駆けて行った方とは逆方向に歩き出した。