夏休みもそろそろ終わりですね。

部活後、キョロキョロと周りを伺った後に赤也が頭を抱える。
「全く宿題終わってねぇっすうううう！！」
今、確実に怒られるメンツがいないことを確認したね君。 現在部室には三強以外が揃っている。
「まじかよ…お前何やってたんだよ…」
「俺も終わってねーや。でもやるぜぃ、ジャッカルが」
「俺かよ。今年こそは絶対手伝ってやらねーからな」
「駄目ですよ切原君、宿題は計画的にしないと…仁王君は如何です」
「ピヨッ」
柳生の軽いお叱りが飛ぶが、誰もダメージを受けない。すっかり夏休み終わりの学生スイッチが入った赤也がバタバタし出す。
「だって今年多くなかったっすか！見てねぇから知らねぇけど！」
「見てもいないの！？」
それはやばいぞ。皆でこそこそ集まる。
「で、どんくらい終わってねぇんだ？」
ジャッカルが怖ごわと聞く。その目線が赤也からブン太、仁王、私に移る。ん？なんで私？
「…初日にテキスト数ページやった記憶しかないっすね…」
「お前！」
「似たようなもん…」
「…プリ」
「それやばいだろお前ら！」
「…中川さんは？」
「あの、なんで私は終わってないメンツに入ってるの…終わってるよ…」
「「「えっ」」」
えっ、じゃねーよ。
「先輩の裏切り者おおおお！なんのための馬鹿っすか！」
「そうじゃ、何こんな時だけ真面目に終わらせとるんじゃ」
「お前生意気なんだよぃ！」
「ちょっと幸村呼んでくるね」
「「「ごめんなさい！！」」」


「にしても中川終わってたのか。お前ぜってーギリギリでテンパるタイプだと思ってた」
「お前ら私のことなんだと思ってるの？夏休みの宿題なんて開始一週間でバババーっと終わらせるもんでしょ」
まぁ日記とかは残ってるけど。夏の思い出（笑）
「それはそれで駄目だよ！」
「えっ！？」
「…日々勉強なんですよ中川さん」
「す、すみません」
「えー、なんだよナカ。お前じゃあ夏の合宿の時とかも終わってた訳かよぃ？ほんとやなやつだな」
「そこまで言われる筋合いはないですぅ」
「じゃあ先輩、俺の宿題やってくださいよ」
「手伝ってじゃなくやれって言われたの初めてだよ。自分でやりなさい」
駄目な後輩を諭す私。
「まぁまだ一週間あるから、なんとかあるんじゃねぇか？あー、俺も読者感想文やんなきゃな」
「…そうですね。皆さん読者感想文の方は？」
「やってないっすよ」
「やってねぇよ」
「本すら読んどらん」
「自信を持って言うな」
もちろん私は読者感想文もう書きました。
そこで足音が外から聞こえ、皆一瞬固まった後に散る。入ってくる三人。雑談しつつ帰り支度を整える。
「ところで皆、宿題の方はどう？」
「手をつけていないなんて馬鹿者はおらんだろうな」
「…まぁまぁかな」
「も、問題ないっすよーあと少しっすー」
「ピヨ」
無言の私、柳生、ジャッカル。皆、薄々勘づいてるだろうが、このタイミングでこの話題が出たってことは、もう、逃げられない。
「…ブン太、数学のテキストについてた小テスト、どうだった？」
「えっ！？お、俺まだそれやってねぇんだよぃ。あの、最後にとっとこうと思って」
…馬鹿。ジャッカルが額を押さえる。ふぅん、と呟く幸村。
「そんなもの、ないけどね」
「ああああああ！！ごめん！ごめんなさいいいいい！！」
「…仁王」
「申し訳ありませんでした」
「…赤也」
「すすすすすみませんっしたああああ！！」
「…ナカ？」
「！？終わってるよ！！」
「あ、ごめん」
どうして私はこんなに馬鹿にされているの？悲しい。
「中川は早めに終らせ過ぎて頭に入ってないタイプだろう」
「…あ、なるほど」
一理あるかもしれない。だから休み明けのテストいつも悪いのか。ぽんっと手を叩く。
「馬鹿者」
「えっ？私？」
「…入れた方がいいのか？」
「辞めてくださいお願いします」
真田に全力でお願いする。一緒にされたくないでござる。

「…勉強会しようか」
一気に青ざめる３人。絶対こわい。絶対勉強会という名の拷問だ。もちろん反論を言える者がいるわけもなく、夏休み最後の部活もない優雅な筈のお休みの日は勉強会となった。

とは言っても私はその日、家族でちょっと用事がある。


という訳で現在、午後3時前。家族との用事は思ったより早く終わった。顔は出すと、言ったような言ってなかったような…。どうするかな。
皆学校で地獄の勉強会に参加しているはずだ。もっとも、地獄なのは３人だけだろうが。

ちょっとどんくらい苦しんでいるのか興味がある。こわいもの見たさ。幸村を覗く時、幸村もまたこちらを覗いているのだ。それ怖すぎるな。
そんなことを考えながらコンビニに入る。
臨時収入があって懐が温かい私は、差し入れでも買っていってやることにした。

「こんにち…」
「やぁナカ、早かったね」
扉閉めて帰ろうかと思った。何この負のオーラ。３人がやばい。赤也なんかもう目死んでる。ていうか暑！この部屋暑！クーラーつけてないの！？あ、幸村クーラー苦手なんだっけ。そんな幸村は汗一つかいていない。優雅。
「……ナカ」
そんな目で助けを求められても困るよ。
「…お、おう。えーっと、差し入れでもと思って、アイス買ってきたんだけど…」
余計なことしましたかね幸村さん。
「まじで！？」
「……ぶちょー…」
赤也が捨てられそうな子猫みたいな顔をすると、真田と顔を見合わせた幸村が、ひとつため息をついた。
「ちょっと休憩にしようか」
「はいっ！はいっす！」
「…もうあかんところじゃった」
ぐだる仁王。ブン太が袋を覗く。
「ハーゲンダッツねぇのー？」
「私は跡部じゃないんだよ」
買えるかあんな高いの。スーパーカップでも食ってろ。
「…なんだこれ初めて見た」
やわもちに注目するジャッカル。上にお餅がのっていて美味いのだ。
「それ美味しいよー。お餅もちゃんとお餅だし、普通のやつは食ったことあるけど、抹茶味って初めて見たから買ってきちゃった。」
「へぇ、じゃあ俺普通のやつ食お。いただきます」
「あいよ」
とかやってたら、それぞれとって残りは4つ。三強と私。残っているアイス。
雪見だいふく、やわもち（抹茶）、ピノ。……ガリガリ君期間限定冷やし中華味。
やばい。これはやばい。興味本位で買ってくるんじゃなかった。
「こ、このガリガリ君とかどうかな！？ほら！真田！」
必死に指さす。
「もらうぞ中川」
「ああ、頂こう」
「あえ？う、うん」
私の意見を無視して、真田と柳がやわもちとピノをとっていった。やばい。やばい。
「幸村！」
「俺雪見だいふくって好きなんだよね、ありがと」
「うっ、ううん！気にしないで！」
ああああああああ！諦めて残ったガリガリ君を手に取る。ぐぬぬ。
「冷やし中華味とか美味そうじゃん」
顔にまずそう、と書かれているブン太がにやける。腹立つ。
「別に最初からこれ食べようと思ってたしーまじ嬉しいわー」
「物凄い棒読みっすね」
「赤也、口の周りにチョコがついてるぞ」
「あれ？」
ジャイアントコーンってそうなるよね。うまいけど。袋から出したガリガリ君を眺める。うーん、冷やし中華味か。
いただきまーす。
「…」
「…どうよ」
「…」
「…せんぱーい？」
「…」
「…中川？」
「なんだろう、口の中がすげぇカオス…」
甘いのに、甘くない。しつこくないのに、しつこい。うまいとは言えないが、まずいと言いきれない。いや、でも、もしかして。
「…意外といける…？」
「まじで！？」
驚愕の顔で手を伸ばしてきたブン太にガリガリ君をパスする。一口齧るとブン太は首を傾げた。
「…なんだ、これ…」
「ちょ！俺にもくださいっす！」
赤也も同じように一口齧ると、んん？と意味不明な感想を漏らす。つまるところそういう味なのだ。でも、なんか、クセになりそう。
「冷やし中華…？」
「…あまいのかあまくないのか分からんのう…」
結局周り回って半分になって返ってきたガリガリ君を齧る。
「…あれ？でもやっぱりまずい…？」
「あ、スーパーカップ食い直してわかったわ。それまずい」
「ミカン棒うまいぜよー」
「やわもちうめー。溶けてくるとまたうまいな。それとはちげーわ」
「やだ。キレそう」
「何をやっとるんだお前らは…」
付属のスプーンがやけに小さく見える真田にツッコミを入れられる。お前カップのアイス似合わねぇな。ていうかアイス似合わねぇな。
結局早々にガリガリ君冷やし中華味を片付けて、オレンジジュースで口を整える。
２度と買うものか。私もそう思ったはずだし、皆も２度と食わなくていいと思ったはずだった。

その夏、学校付近のコンビニはガリガリ君冷やし中華味が何度か品切れになった。

なんだろうね。この魔力。