tearless BABY
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「おばちゃん!コイツ借りてっていーか?」
「はいはい、いーよぉ」
「よよよ、良くないですって加代子さん!」
家まで送ってくれた翌日、夕方にお店にやってきたドラケンくんは制服のままの私を拉致した。
「私、アルバイトなんだよ……働かないとお給料出ないんだよ……」
「分かった分かった」
「絶対分かってないでしょ!?」
ひょいと持ち上げられてエンジンがかかったままのバイクに乗せられる。
「昨日も思ったけど、ノーヘル!無免許!!」
「大丈夫だって」
「根拠!!!」
「舌噛むなよー」
「ひぃぃッ」
昨夜とは打って変わってハイスピードでバイクは走り出す。振り落とされないように目の前の身体にしがみ付くと、笑っているのかくつくつと振動が伝わってきた。
「どこ、ここ」
「武蔵神社。オレらの集会所」
石段の前にはずらりと並ぶ大きなバイク。
ドラケンくんも同じようにバイクを停めて降ろしてくれた。
「マイキーにお前のこと話したら会いたいっていうからよ」
「マイキー……?」
「俺らの総長」
行くぞーと間延びした掛け声を一つ残して石段を登り始める。薄暗い道に一人残されるのも嫌だし、仕方なく彼の後を追った。
「連れて来たぞー」
「おー 葵ちゃん、昨日ぶり」
「三ツ谷くん、こんばんは」
「コンビニの制服じゃん」
「だってドラケンくんが……」
むすっとしてドラケンくんをふりかえると、知らんぷりされた。
「ケンちん、その子が 葵?」
「おー、マイキー」
「あ、こんばんは」
「こんばんは」
マイキー、総長だというからどんな怖い人かと思えば、ドラケンくんや三ツ谷くんよりも小さくて顔つきも幼い男の子だった。
マイキーくんはまっすぐ私に近づいて、ぐ、と顔を寄せる。
「ふーん……」
「近いです!」
「あはは、ごめんごめん」
両手で肩を押して距離をとると、ニカっと笑われた。
「コンビニのおっちゃん達からお前のこと聞いて、気になってたんだー。よろしくな」
ぽんぽんと頭を軽く叩かれる。
どうやら、チーム総出で店長たちと仲良しみたいだ。
「おーし、集会始めっぞ!!全員集合!!!!」
ドラケンくんの大声で、境内のあちこちに散っていた特攻服の人たちが集まってくる。
私は三ツ谷くんに手招きされて彼の側にしゃがみ込んだ。
境内の空気がぴりりと引き締まる。
「え…… 葵さん?」
不意に後ろから名前を呼ばれた。
「……誰?」
「あ、いや、え!?」
「おい、タケミっちうるせーぞ」
「いやでも……え!?」
タケミっち……。その名前には聞き覚えがあった。
キャバクラにいたときに一度だけお店に来て……あれ……?
パチン、と頭の中のピースがはまる。
しゃがんでいた足に力を込めて、彼に詰め寄った。
「私のこと、知ってるの?ねぇ、武道さん!?」
「おい、 葵!?」
マイキーが、ドラケンくんが、三ツ谷が、その場にいるみんなが私たちに注目する。
そんなことはお構いなく、武道さんの胸倉をつかんだ。
「帰りたいの。蘭ちゃんのとこに帰りたいの。方法知ってるんでしょ?ねえ!?」
帰りたい。絶対に口に出しちゃいけないと我慢していた言葉が溢れだす。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「 葵!」
ドラケンくんの手でぐい、と肩を引かれて後ずさる。
「タケミっち、コイツと知り合いなのか?」
「いや、あの……」
「私の名前呼んだでしょ。知ってるよね?」
「っ……ちょっと、 葵さんと二人で話させてくれませんか」
「……お久しぶり、です。 葵さん」
「これ、どういうこと」
皆が集まっている場所から少し離れた木陰で、武道さんと顔を合わせる。
「あなた、花垣武道さんでしょう。一度、警察の人と一緒に飲みに来た」
「……はい」
「私のこと、知ってるのよね」
「はい……」
沈黙が流れる。
聞きたいことがいくつもあるのに、ぐるぐると回るばかりで口から出てこない。
先に口を開いたのは武道さんだった。
「 葵さん、今から俺の知ってること全部話します。だから、アンタが知ってることも話してくれませんか」
そう言って、返事もしないうちに武道さんは話し始めた。とても信じがたいことを。
タイムリープし続けていること。過去と未来を行き来して、未来を変えていること。
「……だから、俺はヒナを、みんなを……マイキー君を救うためにここにいます」
理解はできなかった。
絶対に夢か妄想かと笑い飛ばしていたはずだ。
「……えっと、信じられないっス、よね、ハハ……」
「もし、それが嘘なら、私がここにいる理由も説明がつかない」
でも、今は私も同じくらい可笑しな状況にある。
信じるなというのが無理なくらい。
「ベランダから落ちたの。気付いたらここにいて、帰れないから拾ってもらったコンビニで働いてる。私の事情はそれだけ」
彼と比べたら単純な、とても短い話。それでも武道くんは、こくりと一つ頷いてくれた。
「未来の君について教えてもらえますか?」
「未来って、」
「あのお店、梵天と関わってるって聞いてます。オレは梵天について知りたいんだ」
梵天……黒服さんたちが話しているのは何度も聞いた。ニュースでも時々取り上げられていたし、全く知らない名前じゃない。
「蘭ちゃん……私、灰谷蘭と一緒に暮らしてた。家に遊びに来る人が、蘭ちゃんは梵天の幹部だって言ってた」
「灰谷蘭!?ってあの六本木の!?」
「え、うん。家は六本木だったけど」
武道さんの顔がみるみる真っ青になる。
「じゃ、じゃあ君も梵天のメンバー……?」
「ううん、私はただ蘭ちゃんに借金肩代わりしてもらった代わりにお世話係してただけ」
「そっかぁ」
ほぉっ、と大きなため息を吐いて武道さんはふにゃふにゃと力を抜いた。
「あ、ごめん。オレ、君の力にはなれないかも……大体、オレと違って、 葵さんはそのままの見た目で過去に来てるみたいだし」
「……じゃあ、やっぱり戻れないの?」
武道さんが唇を引き結ぶ。
「そっか」
その様子に諦めがついた。
「じゃあコート買おう」
「はい?」
「コート。もし買った後でもとに戻っちゃったらもったいないなって思ってたの。でも戻れないならいいや。買う」
スマホ……じゃなくて携帯も買おう。店長にお給料前借りさせてもらって、契約もお願いしよう。家電だけって不便だったんだよね。
「ね、武道さん。友達になってよ。私、今ドラケンくんと三ツ谷くんしかお友達いないの。だから」
「それは別に、良いけど」
「じゃあ、作戦会議しよ!武道さん、タイムリープのこと内緒にしてるんでしょ?どうやって誤魔化すかの作戦会議」
手近な枯れ枝を掴んで地面に線を書く。
これでもかってくらい俯いてガリガリ地面を引っ掻く。そうでもしないと、悲しくなってきそうだったから。
「はいはい、いーよぉ」
「よよよ、良くないですって加代子さん!」
家まで送ってくれた翌日、夕方にお店にやってきたドラケンくんは制服のままの私を拉致した。
「私、アルバイトなんだよ……働かないとお給料出ないんだよ……」
「分かった分かった」
「絶対分かってないでしょ!?」
ひょいと持ち上げられてエンジンがかかったままのバイクに乗せられる。
「昨日も思ったけど、ノーヘル!無免許!!」
「大丈夫だって」
「根拠!!!」
「舌噛むなよー」
「ひぃぃッ」
昨夜とは打って変わってハイスピードでバイクは走り出す。振り落とされないように目の前の身体にしがみ付くと、笑っているのかくつくつと振動が伝わってきた。
「どこ、ここ」
「武蔵神社。オレらの集会所」
石段の前にはずらりと並ぶ大きなバイク。
ドラケンくんも同じようにバイクを停めて降ろしてくれた。
「マイキーにお前のこと話したら会いたいっていうからよ」
「マイキー……?」
「俺らの総長」
行くぞーと間延びした掛け声を一つ残して石段を登り始める。薄暗い道に一人残されるのも嫌だし、仕方なく彼の後を追った。
「連れて来たぞー」
「おー 葵ちゃん、昨日ぶり」
「三ツ谷くん、こんばんは」
「コンビニの制服じゃん」
「だってドラケンくんが……」
むすっとしてドラケンくんをふりかえると、知らんぷりされた。
「ケンちん、その子が 葵?」
「おー、マイキー」
「あ、こんばんは」
「こんばんは」
マイキー、総長だというからどんな怖い人かと思えば、ドラケンくんや三ツ谷くんよりも小さくて顔つきも幼い男の子だった。
マイキーくんはまっすぐ私に近づいて、ぐ、と顔を寄せる。
「ふーん……」
「近いです!」
「あはは、ごめんごめん」
両手で肩を押して距離をとると、ニカっと笑われた。
「コンビニのおっちゃん達からお前のこと聞いて、気になってたんだー。よろしくな」
ぽんぽんと頭を軽く叩かれる。
どうやら、チーム総出で店長たちと仲良しみたいだ。
「おーし、集会始めっぞ!!全員集合!!!!」
ドラケンくんの大声で、境内のあちこちに散っていた特攻服の人たちが集まってくる。
私は三ツ谷くんに手招きされて彼の側にしゃがみ込んだ。
境内の空気がぴりりと引き締まる。
「え…… 葵さん?」
不意に後ろから名前を呼ばれた。
「……誰?」
「あ、いや、え!?」
「おい、タケミっちうるせーぞ」
「いやでも……え!?」
タケミっち……。その名前には聞き覚えがあった。
キャバクラにいたときに一度だけお店に来て……あれ……?
パチン、と頭の中のピースがはまる。
しゃがんでいた足に力を込めて、彼に詰め寄った。
「私のこと、知ってるの?ねぇ、武道さん!?」
「おい、 葵!?」
マイキーが、ドラケンくんが、三ツ谷が、その場にいるみんなが私たちに注目する。
そんなことはお構いなく、武道さんの胸倉をつかんだ。
「帰りたいの。蘭ちゃんのとこに帰りたいの。方法知ってるんでしょ?ねえ!?」
帰りたい。絶対に口に出しちゃいけないと我慢していた言葉が溢れだす。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「 葵!」
ドラケンくんの手でぐい、と肩を引かれて後ずさる。
「タケミっち、コイツと知り合いなのか?」
「いや、あの……」
「私の名前呼んだでしょ。知ってるよね?」
「っ……ちょっと、 葵さんと二人で話させてくれませんか」
「……お久しぶり、です。 葵さん」
「これ、どういうこと」
皆が集まっている場所から少し離れた木陰で、武道さんと顔を合わせる。
「あなた、花垣武道さんでしょう。一度、警察の人と一緒に飲みに来た」
「……はい」
「私のこと、知ってるのよね」
「はい……」
沈黙が流れる。
聞きたいことがいくつもあるのに、ぐるぐると回るばかりで口から出てこない。
先に口を開いたのは武道さんだった。
「 葵さん、今から俺の知ってること全部話します。だから、アンタが知ってることも話してくれませんか」
そう言って、返事もしないうちに武道さんは話し始めた。とても信じがたいことを。
タイムリープし続けていること。過去と未来を行き来して、未来を変えていること。
「……だから、俺はヒナを、みんなを……マイキー君を救うためにここにいます」
理解はできなかった。
絶対に夢か妄想かと笑い飛ばしていたはずだ。
「……えっと、信じられないっス、よね、ハハ……」
「もし、それが嘘なら、私がここにいる理由も説明がつかない」
でも、今は私も同じくらい可笑しな状況にある。
信じるなというのが無理なくらい。
「ベランダから落ちたの。気付いたらここにいて、帰れないから拾ってもらったコンビニで働いてる。私の事情はそれだけ」
彼と比べたら単純な、とても短い話。それでも武道くんは、こくりと一つ頷いてくれた。
「未来の君について教えてもらえますか?」
「未来って、」
「あのお店、梵天と関わってるって聞いてます。オレは梵天について知りたいんだ」
梵天……黒服さんたちが話しているのは何度も聞いた。ニュースでも時々取り上げられていたし、全く知らない名前じゃない。
「蘭ちゃん……私、灰谷蘭と一緒に暮らしてた。家に遊びに来る人が、蘭ちゃんは梵天の幹部だって言ってた」
「灰谷蘭!?ってあの六本木の!?」
「え、うん。家は六本木だったけど」
武道さんの顔がみるみる真っ青になる。
「じゃ、じゃあ君も梵天のメンバー……?」
「ううん、私はただ蘭ちゃんに借金肩代わりしてもらった代わりにお世話係してただけ」
「そっかぁ」
ほぉっ、と大きなため息を吐いて武道さんはふにゃふにゃと力を抜いた。
「あ、ごめん。オレ、君の力にはなれないかも……大体、オレと違って、 葵さんはそのままの見た目で過去に来てるみたいだし」
「……じゃあ、やっぱり戻れないの?」
武道さんが唇を引き結ぶ。
「そっか」
その様子に諦めがついた。
「じゃあコート買おう」
「はい?」
「コート。もし買った後でもとに戻っちゃったらもったいないなって思ってたの。でも戻れないならいいや。買う」
スマホ……じゃなくて携帯も買おう。店長にお給料前借りさせてもらって、契約もお願いしよう。家電だけって不便だったんだよね。
「ね、武道さん。友達になってよ。私、今ドラケンくんと三ツ谷くんしかお友達いないの。だから」
「それは別に、良いけど」
「じゃあ、作戦会議しよ!武道さん、タイムリープのこと内緒にしてるんでしょ?どうやって誤魔化すかの作戦会議」
手近な枯れ枝を掴んで地面に線を書く。
これでもかってくらい俯いてガリガリ地面を引っ掻く。そうでもしないと、悲しくなってきそうだったから。