…


ル「クソッ」


片手を顔に当て、呆然とするルーファウスの頭には、報告書の内容がチラつく。


ル「なぜ…何故、彼女でなくてはならないッ」


最初は、ただの興味から始まったが、次第に惹かれていった。

先日やっと食事の誘いを受けてくれて、少しは距離を詰められたと思えたばかりなのに、目の前に突きつけられた現実にルーファウスの心は打ちのめされた気分だった。


ル「どうして…彼女なんだ」


目頭が熱くなる、

こんな感覚は、母の葬式以来だなと、グッと堪えて静かに息を吐いた。


ル「＊＊…」



…






「ママ、どうしたの？」

M「＊＊、今からママと隠れんぼしましょう」

「かくれんぼ？するっ」



ーーーあぁ、これは夢だ。



M「じゃ、ママがオニをやるから、先に隠れなさい」

「うん！」



ーーー隠れちゃダメ、ママと一緒に居なくちゃ。



M「探しに行くまで絶対に出てきちゃダメよ」

「はーい」



ーーー無邪気な私。


数え終わってもママが探しにこないことも知らずに、小さな私は二階のベッドの下に隠れてた。

一階で物音がしてたのは、ママが私を探してくれていると信じて疑わなかった。


「ママ、まだかな…」


どれぐらい経ったのか、外が暗くなってきても家の明かりが点かなくて、怖くて。

でもお腹が空いて我慢できなくなって、だから勇気を出して、小さな私は、ベッドの下から出て一階に下りた。


「ママー、どこにいるの？」


キッチン、ダイニングを見て回ってリビングのドアを開けた時、窓から差し込む月明かりで２人の影が浮かび上がって、


「パパっ、ママ！」


駆け出そうとして、気付いた。



ーーー２人は、もう










…



ハッ、

目を覚まして飛び起きた。


「……夢？

（暫く見ることはなかったのに、どうして）」


すっかりソファで眠ってしまっていたらしいことに気付く。


「お酒、飲んだからかな…きっと」


ソファから立ち上がると大きく背伸びをする。


「お風呂、入ろっと」


軽くシャワーを浴びて、今度こそベットにダイブする。

別のことを考えようとすると、どうしても今日のルーファウスの姿が思い浮かんでしまう。


「うぅ、気になっちゃってるじゃん…」


週明けに、また彼に会う時、どんな風に接すればいいのか悩んでしまう。

いつも通りに出来るか、どうか。


「あーもうっ、寝よ！」


思考を放棄して、布団に潜り込むと目を閉じた。



…


「ふぁー」


出社して、デスクで大きな欠伸をかます。

結局、日曜日も思い出しては我に返るというループでハシャギすぎてしまい、よく眠れなかったのだ。


今は昼の休憩の後、時計の針は午後２時を過ぎたばかり。

時間ばかり気にしていてはマズイと、仕事に集中するために気持ちを切り替える。


定時には上がれるようにしたかった。



『あれ？』


隣のデスクの同僚が、時計を見てからフロアを見回した。


「どうかした？」

『いや、ほら。定時の前には来てる人が今日は見当たらないからさ』


確かに、いつもなら定時の10分前には来ていたルーファウスの姿が、今日は無い。


「きっと忙しいんだよ」


口では、そう言ったものの、内心ガッカリしてしまう自分がいた。


（飽きられてしまったんだろうか）


『そんなこと言ってー、寂しいって正直に言いなよ』

「えー、冗談言わないでよ」


結局、定時を過ぎても姿を現すことはなく、仕事も終わってしまった。

周りは平常を保っているが、遠巻きにヒソヒソと噂されている。

きっと、
《ついに見放された》
とか言っているんだろう。


「…お先に失礼します」


＊＊は一人、EＶに乗り込む。

現実なんて、こんなもんだ。
短くて、儚い、掴もうとすると消えてしまう。


「はぁ…」


＊＊の口からは自然に溜め息が溢れていた。



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